第六話 しがなくないデート①
どうしてこうなった。時刻は朝の八時で、日曜日。
オーダーテスターのテストプレイ初日が終わった次の日、あの後またバスに揺られて電車に揺られて疲労困憊で帰宅したら千尋から「どこをほっつき歩いていたんですか」と怒られたけど半分無視してそのまま爆睡。
日曜日となれば流石の千尋はまだ寝ているから小言を言われる心配もないので昼頃まで寝ようと思っていた矢先に、
「おはよう九条類! 目覚めは・・・・・・うん、良さそうだな!」
「これで良さそうに見えるならお前の眼球には極度のデバフにでもかかってんじゃね?」
昨日の着物とは違う春らしいワンピースに身を包んだ容姿端麗な美少女。
巫式夜。ネットで伝説のプロゲーマー「アルティメットゲーマー」その人だ。
「何しに来たんだよこんな朝から、ってかどうやって俺んち特定した?」
「こ、細かい事はいいじゃないか」
式夜はどことなく焦った様子で露骨に視線をずらす。後で問い詰める必要がありそうだ。
それにしても・・・・・・
「・・・・・・」
「ん? どうした九条類、そんなジロジロ見て」
「いや、なんていうか可愛いなと」
「へ!?」
あ、やべ。ついポロッと本音が。「昨日の着物は和服美人な雰囲気があって可愛いというよりは美しいと言った方が正しい。でも今日のワンピースは白を誇張した女性らしさがあり、大人らしい装いでもありながらそれを完全に着こなしていて可憐さが際立っている」
「そんなに誉めないでくれ・・・・・・恥ずかしいから・・・・・・」
顔を手で覆って式夜は俯いてしまった。よく見ると耳まで真っ赤になっていたが、まさか俺声に出ていたのか?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
どうしようこの空気。
「と、とりあえず上がれよ。お茶くらいだすからさ!」
「そ、そ、そうだな。うん、お言葉に甘えるとしよう」
もどかしいなんとも言えない雰囲気が耐えられず俺は式夜を家に招き入れた。
普通にリビングに連れていこうとしたが、もしそこで偶然にも起きてきた千尋に鉢合せしたら色々と面倒なので仕方なく自分の部屋に連れていく。
「で、本当になにしに来たんだ? テストプレイの打ち合わせとかならメールですればよくないか、その為に連絡先教えたんだし」
「ここが君の部屋か・・・・・・」
「いや人の話聞けよ」
式夜は落ち着かない様子で俺の部屋を見回していた。自分で言うのもあれだが俺は部屋が汚いのは許せない主義で、基本的にゲームの練習や対戦と睡眠にしか使わない自室も徹底的に掃除している。
だから別に見られた所で恥ずかしいとか微塵も思わないが、やはり異性にこうまじまじと見られているとなれば少しは緊張する。
「なんというか君らしい部屋だな!」
「どういう意味だよ。というかいいかげん要件教えてくれ、なんで今日俺んちに来て、更にはこんなメールまで送ったんだ?」
俺は巫式夜に向かって自分のスマホを突きつけた。そこには、
『私、式夜。今貴方の家の前にいるの』
おっかなビックリな怪文書が。
「なんだそんなことか、面白いだろ? 友達に教えてもらったんだ、朝一番でこういうメールを送ればどんなやつでも飛び起きると」
「教えたお前の友達ろくでも無さすぎだろ!? こんなの朝一番で来たら流石のメリーさん本人ですら驚いて腰抜かすよ!」
俺がこんな時間に飛び起きたのはそれが理由だった。寝ぼけ眼で着信音がなったスマホを見るとこんなメールが来ていたとなれば、それこそ起きないやつはいないだろう。
「まあそんなことよりな九条類。私が今日ここに来た理由と要件についてだが」
「ちょっとまて」
「うん?」
「その九条類ってわざわざフルネームで呼ばなくていいよ、めんどうだろ? どうせならルイでいいよ、俺のプレイヤーネームで今後ともこっちで呼ぶ方が多くなるだろうから」
「そうか、では改めてルイくん、今日君の家を色々使って特定して訪れたのは他でもない」
「おいこら」
やっぱり特定厨じゃないですかヤダー。
「私と・・・・・・デートしてくれっ!!」
「・・・・・・え?」
チョットナニイッテルカワカンナインデスガ。
「だからなルイくん! 私と・・・・・・」
「わ、私と?」
「デートしてくれ!!」
「あー、ごめん。やっぱもう一度」
「そんな!?」
伝説のプロゲーマーこと、アルティメットゲーマー。究極の遊戯者。そんなやつの正体がこんな美少女だったことですら未だに理解しきれていないのに。
そんな彼女が俺みたいなしがないプロゲーマーに頼んできたのは願ってもいないデートのお誘いだった。
「いいだろう別に! 減るものでもないじゃないか」
「どうしてか何一つ訳を聞いていないのにそう簡単にオッケーって言えるかよ! だいたいいきなりデートしてくれなんて言われても・・・・・・」
正直な所、こんな美少女が俺なんかにデートを申し込んできていること事態奇跡な訳だ。普通だったら遠慮なくオッケーする。だけど今俺の目の前にいるこいつはアルティメットゲーマーで、永遠のライバルだ。それをオッケーしたら、
「俺の沽券にかかわるだろうが!」
「君、それは地味にひどいぞ!? 流石の私でも傷つくだろ」
「それは、謝るけどさ・・・・・・悪いけど他をあたってくれ」
断ろうとした矢先に、式夜は手に持っていたポーチからスマホを取り出してとある音声を流し始めた。
『その他俺で良ければなんでもやるからさ』
「これ、間違いなく君の声だよな?」
「おまえそれは!?」
昨日のテストプレイの際に俺が式夜に対して言ったこと。
「詰まるところ、そういうことだ。ルイくん、これで君はもう断れないぞ?」
「いや、確かになんでもとは言ったけども!? 言葉の文ってやつだって!!」
「つべこべ言うな! 男には二言なんてないんだろ? なら早く決めるといい私とデートするかしないのか! それとも何か君は怖いのか、ビビってるのか? 情けないなプロゲーマーのくせにな!!」
「なにをぅ!? 上等だよコラ!デートしますよ! すればいいんでしょ!」
「うむ、それでいい!」
これじゃあどちらが男かわからなくなってくる。
「ならばルイくん、一つ聞きたいことがあるんだが」
「なんだよ、改まって」
「デートとは、どうすればいいのだろうか?」
「は?」
デートを誘ってきた張本人がまさかのデートがどういうものかを理解していないしがない事実に俺は立ち眩みがした。