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第五話 しがなくないテストプレイ③

こいつが? あの、アルティメットゲーマーだと。てっきり廃人のガチオタ野郎だと思ってた。

それが、まさかこんな美少女とか。どれだけ都合がいいんだ。

この世界はラノベかなんかかよ。

「一応は確認したいが、()()()()()()()()()()()|?」

「そ、そうだけど」

「なら、よかった」

なんだこいつ。それに、よかったってどういう・・・・・・

「では尚更だ九条類。ゲームが出来ないからといって怒るな」

「はぁ!?」

こいつ今、俺がゲーム出来ないから怒っていると、そういったのか!? そもそも別に怒っている訳じゃない。機嫌が悪いわけでもない。そりゃ端から見ればそう見えるのはしかたないかもだけど。

「わかる、痛いほどわかるとも。目の前にあるのはゲーマーなら一度は夢見たフルダイブのVRゲーム。それをプレイするチャンスが急に消え失せたとなれば、怒るのは仕方ない」

「いや、だから別に怒っている訳じゃな・・・・・・」

「だけどな、九条類。その怒りを周囲にばらまくようでは、プロゲーマー失格だぞ?」

「あの、だから人の話を・・・・・・」

「しかしだ九条類よ、案ずる必要はないぞ。なぜならな」

「人の話を聞けぇぇぇぇぇ!!」

自己中か!? 自己中なのかアルティメットゲーマー!? さっきからこっちの話なんて聞きやしない。

「私が貸してやるからな」

そう言ってアルティメットゲーマーこと巫式夜はオーダーテスターを指差した。

「・・・・・・どういう意味だ」

「どういう意味もない。わざわざこんな山奥まで来たんだからな、プレイせずに帰るのは勿体ないだろ。柊殿、よろしいか?」

「一応は、大丈夫です。本来オーダーテスターを貸し借りすることはいいことではありません。ですが使うアカウントさえ変えてしまえば・・・・・・」

「よし、それなら」

一体どこから出したのか、巫式夜はいつの間にか手にオーダーテスターを持っていてそれを俺に手渡してきた。

「・・・・・・ありがとう」

「別に、気にすることはない。これだけ遠出してきたのにせっかくのゲームが出来ず、更には()()()()()()()()()()()ことなんて君は嫌だろうと思ってな。なに、私なりの慈悲ってやつさ」

「バレてたのかよ・・・・・・」

この僅かな会話の中ですら、どうやら俺はこいつの手の平で踊らされていたらしい。ゲームでも負けまくって、挙げ句の果てには会話1つすら掌握された。

「マジで情けないなぁ・・・・・・俺」

「つべこべ言っている暇があるなら早く準備をするといい」

「はいはい、わかりましたよ。まったく・・・・・・」






「アカウントの切り替え、完了しました。九条さん、準備はよろしいですか?」

「はい、オッケーです」

「それでは、いきます。コネクト開始」

「・・・・・・!」

柊さんの声に合わせてオーダーテスターからは機械特有のモーター音が静かに聞こえ始めた。

それと同時に俺の意識もフルダイブのVRワールドに吸い込まれていく。

意識が別のものに移動するという不思議な感覚の中、俺は()()()を目撃する。

正確に言えばそれは見た、というより脳に写し出されたと言った方がいいだろう。

白い髪に、白い肌、まるで幽霊のような。朦朧とするなか一抹の恐怖を覚えた。

「・・・・・・条さんッ!」

声が聞こえる。この声は柊さん・・・・・・?

「九条さん! 応答してください!!」

「・・・・・・へ?」

本来であれば、今俺の目に映る景色は薄暗いテストルームのはずだ。

だけどそこにあったのは、

「よかった! やっと応答してくれましたね。大丈夫ですか九条さん?」

声の主である柊さんは俺が応答したことに安心したのかため息をついていた。

「柊さん、ここは・・・・・・?」

目の前に広がっていたのは、果てしない荒野だった。所々に見えるのはまるでファンタジー世界にいるような生物。

「・・・・・・あらためてようこそ九条さん。全ゲーマー達の理想郷(シャングリラ)Re-raise・force・onlineリレイズフォースオンライン、通称RFOへ」

「リレイズフォースオンライン・・・・・・!」

人類がかつて築いた数々の理想郷、だがそれは永い時の中失われてしまった。そして残された僅か7つの理想郷を力を得た人類が奪い合う。

「というのが、リレイズフォースオンラインの大まかな設定だ。理解はしたか? 九条類」

「か、巫さん。それ私の説明(セリフ)なんですけど・・・・・・」

「それとゲーム内のフィールドについてだが・・・・・・」

「いや、だから巫さん。それ私の仕事なんですけど。ってその手に持ってるのはゲームの参考資料! 一体どこから!?」

リアルの方ではなぜか巫式夜がゲームの資料を持っていて柊さんの代わりにこのゲームの説明をしようとしている。なにやってんだアルティメットゲーマー。

「で、では九条さん。改めて私から説明しますね」

突然として巫式夜の声が聞こえなくなった。何があったんだろうか。

「柊さん。アルティメットゲーマーの奴は?」

「業務の邪魔になるので退場してもらいました」

「あ、はい」

そこからは俗にいうチュートリアルが始まった。

まずこのゲームの基本ルール。ゲームにログインする際はまず、他のプレイヤー達が集うコミュニケーションエリアと、それぞれ一人一人のプレイヤーに与えられる個室のメインルームの2つから選択できる。

コミュニケーションエリアでは回復アイテム等や装備品の購入、他のプレイヤーとのコミュニケーションが行える。メインルームではそれを整理したりアイテムの合成やクエストの受注ができる。

ゲームシステムはMMOらしくオープンワールドで7つの理想郷もとい、7つのフィールドが存在している。それぞれにあの「七つの大罪」の罪の名前がつけられいて、今俺がチュートリアルの為に転送されたフィールドは「怠惰なる荒原」。元々は豊かな土地だったが理想郷に成り上がったことで人々はこの土地を耕すことをやめた。今は古代からの魔物が跋扈し、その魔物の素材で優秀な武器防具を作り出せる為数多の人間がこの地の支配を目論んでいる。という設定。

プレイヤーの見ためについて。アバターのメイキングは当然可能なのだがテストプレイの関係上今は現実の姿そのままになっている。

プレイヤーのステータスについて。従来のMMOは初期ステータスが固定されるのが当然だ。だけどオーダーテスターは、リレイズフォースオンラインは違う。現実世界のプレイヤー自身の身体能力等をアバターへ反映させる。攻撃に関係する筋力、移動能力や回避力に関する俊敏さ、現実の能力がそのみアドバンテージになるなんて今までのVRゲームではあり得ないことだ。

「以上がこのゲームのシステム概要ですが、どうでしょう九条さん。今からテスト用のモンスターを出しますが、戦ってみますか?」

「!! 是非お願いします」

そこからはとにかくテスト用のモンスターとの訓練が続いた。今のレベルで使える武器種を試しながら手探りで戦う。

臨場感溢れる仮想世界での戦いはこれまで体験したことのない楽しさがあり、同時に自分の体を動かしているリアルな感覚はまるで自分がファンタジー世界にいるようだった。







テストプレイから二時間が過ぎ、予定していたプレイ時間に到達したため俺はしかたなくログアウトした。

現実に戻ってくる体を襲う消失感に少し酔ってしまった

「大丈夫ですか? 九条さん」

「まあ、少しだけ気持ち悪いですけど、一応は大丈夫です」

「まさか訓練用のモンスター全部を二時間で倒しきってしまうなんてさすがです」

「アハハ・・・・・・」

気持ち悪さがぬぐえなかった俺は風にあたるため一度ビルから出た。一階までエレベーターで降りてきてふと入り口を見ると巫式夜が小さなアクビをしながらすぐ近くにある桜を見つめていた。

「なにしてるんだよ。アルティメットゲーマー・・・・・・」

「特になにかしているわけではないさ。ただ桜を見ていただけだ。花はいい、見ているだけで嫌なこと全部忘れられるからな」

「そ、そうか・・・・・・」

随分と詩人気質のようだ。

大体十分くらいだろうか。なぜか俺は巫式夜と桜を見ていた。

「あのさ、アルティメットゲーマー」

「その名前はやめてくれ。どうせなら式夜でいい」

「じゃあ、式夜。そのなんだ、ありがとうな」

「礼なんて必要ない。それよりどうだったフルダイブは?」

そんなもの、決まっている。

「マジ最高でした」

「そうだろうそうだろう。私も同じさ、あれこそ私が求めたゲームそのものだ」

伝説のアルティメットゲーマーにこんなこと言われたと開発陣の人達が知ったらさぞ喜ぶだろうな。

「なんていうかさ、俺お前のこと勘違いしてた」

「勘違いしていたとは、私の性別かな? 初めて私にあった人は皆口を揃えていうよ、女だったのかと」

確かにそれもあるけど。というかそれが一番の計算外だ。

「なんていうか、まさかここまでいいやつだとは思ってなくてさ。どうせ廃人ガチオタゲーマーでプレイスタイルと同じで一切容赦のない性格のやつだと今まで思ってた」

「む、ひどいくないかそれは。まあ、私的に君は予想通りの人間だったけどね」

「へ?」

「いや、なんでもない。そろそろ戻ろう。柊殿も待っているだろうからな」

「あぁ待って。その前にさ、はいこれ」

俺は式夜に借りたオーダーテスターと一枚のメモをを手渡した。

「このメモは?」

「俺の連絡先が書いてある。テストプレイの打ち合わせとかしたいときとか連絡くれ。その他俺で良ければなんでもやるからさ」

「随分と積極的なんだな君は」

「別に、勘違いするなよ。今までのお詫びの気持ちだと思ってくれればいい」

「フフッ、お言葉に甘えて連絡させてもらうよ。あとそれとだな・・・・・・」

「なんだよ?」

「出来ることならなんでもする。その発言。忘れないようにな?」

そう言った式夜はいたずらな笑みを浮かべていた。こいつがアルティメットゲーマーじゃなかったら一目惚れするレベルの可愛い笑顔。そして俺は、後悔することになる。

この笑顔に騙されたことを。自分の発言に対する軽はずみさを。







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