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第四十二話 しがない合宿⑫

 「類さん、これは一体・・・・・・?」

 目の前に広がる砂浜に、大海原。リレイズフォースオンラインにはこんなフィールドはないはずだ。

 「おっと、その名前はダメでしょマリーさん?」

 「あ、す、すいません。私としたことが・・・・・・ってそうじゃなくてですね! なんでリレイズフォースオンラインにこんな娯楽施設のような場所が? 私何も知らされてません!」

 「説明すると長くなるんですけど、ほら、暴食の海域っていう戦闘フィールドあるじゃないですか」

 「ありますけど・・・・・・それとこれとはまったく話が関係ないような気がします」

 そもそも暴食の海域は、フィールドに散りばめられた遊覧船や海賊船、それらの上を渡り歩きながらの戦闘がメインであり、砂浜は存在していない。

 だから、ここが暴食の海域であることは絶対にあり得ない。

 「話はここからです。今回の海水浴、もとい合宿のために、仲間であるマリーさんが俺達と同じか、それ以上に楽しんでもらうためにはどうすればいいか、俺は考えました。その結論として、俺達は色々な人に協力してもらいながらこの無銘の海水浴場を作り上げました」

 「なんでそこまでするんですか? 私はあなた達を騙していたというのに・・・・・・」

 仲間であると認めてくれたのはすごく嬉しかった。でも、ここまでしてもらうほどに私は類さんたちになにもしてあげれていない。

 「今も言ったじゃないですか、俺達は仲間だって、チームだって、そうじゃないですか? マリーさん、いや、マリー」

 「めずらしく、兄さんの言う通りですよ」

 「でも私はルイくんのそういうところが好きだぞ」

 「「え?」」

 私と同じタイミングで驚き、後ろを向く類さん。そこには一通りの装備品を揃えた式夜さんと千尋さんがいた。

 「お前ら、なんで? 海水浴に言ったんじゃないのかよ」

 「ええ、行きましたよ。でもね」

 「皆がいないと、楽しくないだろう?」

 「二人とも・・・・・・!!」

 余りの嬉しさに感動し、声が上ずった。

 「おいおい、私は仲間外れ?」

 聞きなれない声の後に現れたのは、

 「流石にそれはないでしょ? ルイ」

 「・・・・・・え?」

 赤色の髪の毛に、金色の目、更には過剰すぎるほどの幼い声に、身長。

 「えぇっと、マジで誰? NPC? 知ってるか式夜」

 「いや、全くだ。千尋は?」

 「私も知りませんけど、ねぇ君、どこから来たの?」

 「え、わからないの? 私だよ、美咲。名前はハイド。よろしくね」

 「はぁぁぁぁ!?」

 一番最初に声を上げたのは類さんだった。式夜さんも千尋さんも驚きを隠せておらず、口元を押さえていた。

 けれど、私は特に驚くこともなく、さも当然のように言った。

 「キャラメイクですよね、ハイドさん」

 「その通り。いやー、本当にフルダイブってすごいね歩いている感覚とかもリアルだしね」

 「いやまあ、それはわかるんだけどさ、俺が驚いたのはそういうのじゃなくてさ、なんで美咲、フルダイブ出来てるんだ?」

 言われみればその通りだ。何故美咲さんがオーダーテスターを持っているのだろうか。

 「フフフ、よくぞ聞いてくれました。実は我が家のゲームショップ「オタサーの姫」で、日本では初めて先行ロケテスをやることになったのです!」

 「なぁ!? マジでか、初耳だぞ!」

 あぁ、そういうことだったのか。美咲さんにオーダーテスターを説明した際に「うちの店をご贔屓に」的なことを言っていたのは、こういうわけだったからか。

 「それでね、実は今日のことも、全部知ってたんだ。初日の実家からの電話もそのことでさ」

 「そういうことだったのか」

 納得のいった様子で類さんは手をポンッと叩いた。

 「で、実は皆に社長さんから預けられたものがあってね、はいどうぞ」

 そう言った美咲さん改めハイドさんは何かのアイテムを出現させた。

 「・・・・・・なんだこれ?」

 「使えばわかるとも、それと、各自一個ずつね」

 「?」

 アイテムを具現化させた、次の瞬間だった。

 「・・・・・・は?」

 つまるところ、全員水着になっていた。

 類さんは普通の海水パンツで、他のメンバーはそれぞれビキニや、恐らくはスクール水着というものになっていた。

 「やっぱり海で遊ぶんだし、必要かなって」

 「・・・・・・あの、美咲さん少しいいですか」

 顔を真っ赤にした千尋さんが声を震えさせた。

 「どうしたの? 千尋ちゃん」

 「なんで水着の種類も、色も、現実と同じなんですか?」

 「それはね・・・・・・企業秘密だよ」

 「そんなっ!? って兄さんこっち見ないでください!」

 「な、見てねぇよ!」

 「これは実に面白いことになってきたな」

 楽しそうな雰囲気に、私はポカンと口を開けるしかなかった。

 「たっくもう・・・・・・まあいいや。どうせならさ泳ぐとしよう。ほら、マリー」

 「え、でも!」

 類さんは私に向かって手をさしのべた。私は、この手を握ってもいいのたろうか。

 「なに気にしてんだよ。行くぞ」

 強引に引っ張られながらも、そこに嫌だという感情は一切なく、むしろ心地よさすら感じられた。

 「ここからだろ? 俺達はさ」

 「・・・・・・・はいっ!」

 そうして、私の取り巻きを被っていた雲は夏の日に照らされて消えていった。

 海水浴という名目の合宿は、最良の形で終わりを迎えるのであった。

 それと、同時に、根底の問題がもう目の前に迫ってきていることに、今の私は気づくことが出来なかったのである。

 

 

 

 

 

 

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