第四十一話 しがない合宿⑪
私がオンラインゲームを、それも次世代のオンラインゲームジャンルである「フルダイブVR」を始めるきっかけをくれたのは、優しい優しい父だった。
仕事の関係で会える日は限られていたけれど、それでも休みの日が訪れる度に、私は父と一緒に色々な場所に出掛けていた。
体が不自由な私を気遣いながらの観光に旅行、きっと大変だったはずだ。それでも私を甘えさせてくれる父のことを、私は世界で一番大切な人だと思っていた。
そんなある日のことだった。
久々に訪れた父の休み、いつものようにお出かけをした。出掛けた先は公園で、観光名所と呼べるほど大きな場所ではなかったが、それでも昔からよく私はその公園に行くのが好きだった。
自身より五歳か六歳ぐらいの少年だったろうか? 公園のベンチへ腰を下ろしていた私は、偶然目に止まったその少年を思わず目で追ってしまった。
自由に飛び回って、色とりどりに塗られた遊具ではしゃぐその姿をみて、私は一体何を思ったのだろうか。
今までも、見慣れていたはずだ。なのに何故だろう。
私は不意に呟いた、「羨ましい」と。
父はそれをしっかりと聞いていて、「マリアが自由自在に走れる世界」として、次世代型VRゲームマシンオーダーテスターの開発を成功させた。
初めて自分の足で大地に立ち、歩いて、走って、ジャンプして、楽しかった。
普通の人からすれば当たり前かもしれないけれど、生まれつき車椅子のわたしにとってそれは、例え作られた偽りだとしても、どうしようもないほど素晴らしい真実であり、これこそが自分にとっての現実世界 だと思えてしまった。。
類さん、式夜さん、千尋さん彼らに嘘の内容として話をした仮想世界への引きこもり、あれは強ち間違いでも嘘でもないのだ。
だいたい一週間ほどではあったせれど、私はその世界からどうしても出たくなくて、挙げ句の果てには引きこもってしまった。
最終的にはゲーム電源をおとし、更にはサーバーからアカウントの接続を切る、という形で事なきを得た。
結果としてはこの嘘から出た真の話が、彼らとの出会いをより強固にしてくれたのは事実なのだし、引きこもって良かったとすら思えた。
けれど、やはりそうは思えなくなってしまった。
私にとって唯一の年の近い少女、少女との冒険は仮想世界の楽しさを高めてくれた。
けれど、突如としてメインサーバーに出現した戦闘ギルド、NOblood。
彼らの手によって私の仮想世界での生活はめちゃくちゃにされた。少女との別れ、絆の剥奪。
私は当初最終手段でシステムスキルをもちいたが結局は歯が立たなかった。
その時のNObloodのメンバーが言った一言は今も私の記憶に染み付いている。
「弱いなら、とっととやめちまえよ」と。
屈辱的だった。 けれどシステムスキルをもちいても勝てない相手にどうやって勝つ? 絆の証を、星弓をどうやって取り戻すのか、その手段はたったひとつ。
他の国で、システムスキルを用いたはずな強い私なんか余裕で越えているプレイヤーを探すこと。
それだけだった。
そして、偶然にも、それもたった一、二回でそのプレイヤーは見つかった。それが類さん達だった。
私はこれで、ようやく胸を撫で下ろすことが出来た。
もう嘘をつかなくてもいいと、もう心配しなくていい、と。
そもそも今回の合宿だってそうだ、根底には星弓を取り返すためにチーム編成やパーティー編成のし直しをしつつ、おまけ程度に海水浴を、楽しめたらと。
考えが甘かった。
だってこんなの、私は知らない。
「そんな・・・・・・こんなのって・・・・・・」
私は言葉を失った。ただ唖然としていた。
アバターマリーの目の前にあるのは、オーダーテスター内では存在しない、白い砂と、青い海。
フィールドの名前は不明で、システム的に存在しない場所。
端的に言うならそこは海水浴場だった。




