第四十話 しがない合宿⑩
式夜と千尋の事は全体的に美咲へ任して、俺はマリアさんと共に行動することにした。
俺自身の都合もあったけれど、美咲も美咲でまだ実質初対面な式夜とは積もる話もあるだろう。まあそれを言い出したら同じ立場であるマリアさんも該当するのだけれど、そこはご愛敬ということにしておこう。
女子部屋で待っていてもらってもいいですか? と一通のメールを出し、とりあえずの了承を得ることができた。
他三人が出海水浴場に向かったのをこっそりと確認し、俺は女子部屋へと向かった。
「マリアさん、今大丈夫ですか?」
「大丈夫も何もありませんよ。類さんが待っているようにと・・・・・・」
確かにその通りだ。けれど形だけでも礼儀は必要だろう。
「なんか、怒ってます?」
「別にそういうわけではありません。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「類さんの敬称が、治っていないなと・・・・・・」
どこか機嫌が悪いのは、そういうことか。けれども、やはり遠慮してしまうのは仕方がないことなのだと思う。
別にテストプレイのことで気まずいとか、そんな風には微塵も思っていない。
ただ、千尋とのことでどこか申し訳なさが残っているのは事実だった。
結果としては最高の形で終わりを迎えたものの、後腐れなしとまではないかなかった。
プロゲーマーとして、テストプレイヤーとして仕事先の関係者に迷惑をかけてしまったというのは、どうして尾を引くものがあった。だから今すぐにではなく、少しずつ距離を詰めようと思ってはいたが、今後のことも考えて、一気にその距離を淘汰してしまおうという考えに俺は至った。
そこで俺は、今回の海水浴の件が明確に決まり始めたあたりから、柊さんやジョニーさんに相談してある物を用意してもらった。
「それで一体どうしたのですか、類さん? わざわざこうして待たせたということは、それ相応の理由があるんですよね」
マリアさんの口調はどこか千尋と似てしまっていた。
だだ、マリアさんの場合は千尋のように敬語らしきもので罵詈雑言を混ぜながら喋っているわけではなく、礼儀正しいが染み込んだ喋り方のため、不思議と圧迫感は感じなかった。
「あぁ、そうだった。えーとっですね、マリアさん、いやマリー」
改まって、彼女のことをもう一つの名で呼んだ。
「は、はい、なんでしょう」
一呼吸おいて、俺は告げた。
「一緒に、ゲームしよう・・・・・・しましょう」
「・・・・・・へ?」
ポカンと口を開けながら、マリアさんは何を言われたかわからない様子だった。
「これ、ジョニーさんから預かってきました」
そう言って俺はマリアさんにある物を手渡した。
「なんで、オーダーテスターを?」
ジョニーさんから渡された、マリアさん専用のオーダーテスター。従来型とは目に見えて形状が違うそれは、普通のオーダーテスターを使っている俺からすればやはり新鮮味があった。
「それは、ダイブしてからのお楽しみというわけで」
その一言を最後に、俺とマリアさんはお互いの端末をオフラインモードのローカル通信で繋ぎ、いつものテストプレイと同じようにログインした。




