第四話 しがなくないテストプレイ②
「それでは九条さん、テストプレイを開始しますのでオーダーテスターを装着して横になってください」
「わかりました」
言われた通り個別のテストルームに唯一置いてあるベッドの上に寝そべる。しかしいざこうやってみるとオーダーテスターのデザインは普通のVRゴーグルとそう大差はない。
「最初は少し酔うかもしれませんが次第に馴れてくるので安心してください。では九条さん心行くまでメシアのバーチャルワールドを楽しんできて・・・・・・あれ」
「どうかしたんですか?」
オーダーテスターのモニター部分には「ERROR」と赤い字で表示されていた。
「あの柊さん? これって・・・・・・」
「すいません、少し待っていてくださいね」
そういうと柊さんはテストルームから出ていった。
数分後・・・・・・
「大変申し訳ありません!!」
テストルームに戻ってきた柊さんは開口一番俺に謝り深く頭を下げた。なにかあったのだろうか。
「ひ、柊さん頭を上げてください。どうかしたんですか?」
「九条さんようのオーダーテスターに致命的な不具合が見つかりまして」
「致命的な不具合? それって」
「すいません・・・・・・」
柊さんは押し黙ってしまった。言うことすら憚れることなのだろうか
「じゃあテストプレイは」
「今日一日は中止になってしまいます」
「そんな・・・・・・!」
今日はフルダイブが出来ない。それが意味するのはアルティメットゲーマーと差がついしてしまうということだ。
発売日に予約しておいた新作のFPSや格ゲーを所用により買いそびれたとしよう。当然予定した日にちゃんと買ったプレイヤーとそれが過ぎてから買ったプレイヤーとでは数時間単位ではなく数日単位での差が生まれてしまう。
今の状況俺は完全に後者。しかも前者はアルティメットゲーマーともなればきっとこの差はそれこそ天と地程になりうる。
「本当に申し訳ありません。至急不具合の修正を・・・・・・」
「それってどれくらい掛かるんですか」
「未定ですが間違いなく一日はかかるかと」
一日、完全に終わった。それだけあればあの究極の遊戯者が仮想世界を網羅するには充分すぎるほどの時間だ。
「じゃあ今日は本当になにも出来ないんですか」
「ごめんなさい・・・・・・我々の落ち度です・・・・・・」
自覚できるくらい、俺の声には怒りが籠っていた。
柊さんを責めることなんて企業案件を受けさせてもらっている立場の俺には出来るわけがない。それでも、またこれで差が生まれてしまったと思うと、どうしても感情が露になってしまう。
「随分と情けないな。君は」
突如としてテストルームに響く女性の声。声のする方に視線をやるとそこには、
「それでプロゲーマーとは笑わせてくれる」
着物を着た黒髪の少女が一人入り口の扉にもたれ掛かっていた。
「誰だよあんた・・・・・・」
「待ってください九条さんその方は」
「生憎今俺は煽られてスルーできるほど余裕がなくてな、喧嘩を売ってくるなら買ってやるよ」
我ながら見ず知らずの女の人になにをいっているのか、情けない。
「それだから勝てない」
「なんだと・・・・・・!」
「感情の制御一つとして出来ない人間は常自分の全力を発揮出来ず無様に負ける。そう言っているんだよ」
「っつ! 何様だテメェ!!」
余りにも今の俺を的に得たその言葉が心に刺さる。そんなこと自分が一番分かっている。ここぞというばかりに冷静さを欠き、感情的に動く。だから俺は負ける。勝つことが出来ない。
「何様か、態々隠す必要もないので教えてやろう。私の名前は巫式夜、プロゲーマーさ。アルティメットゲーマー、と言えば分かるだろう?」
「!! お、お前が・・・・・・」
今俺の目の前で偉そうに説教してきた見た目中学生くらいの少女。紅色の着物を栄えさせる綺麗な黒髪、整った顔立ち。つまるところ、めちゃくちゃ美人。
瞬間、俺の中にあった憎たらしいアルティメットゲーマーの勝手なイメージが全部ぶっ壊れた。