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第三十九話 しがない合宿⑨

「ほんっっとうに何をしているんですか!」

式夜が立ち去って直ぐに、隣の部屋からは千尋の怒声が聞こえてきた。いやまあそりゃそうなるわな。

「朝からなにやってるんだか・・・・・・」

一種の賢者タイムに突入した俺は妙に冷静になり、隣の女子部屋を覗きに行った。

「おい、千尋。まだ朝だから静かにしろよ、うるさいぞ」

部屋にお邪魔すると、剣幕な千尋がこちらを睨みつけてきた。

「兄さんは、黙っていてください!!」

ほとぼりが冷めるには、まだ時間が掛かりそうだったので、俺はマリアさんと美咲の二人を連れて朝食を済ませることにした。

宿の食堂に向かうとき、ひとつ思い出したことを車イスを押しながらマリアさんに訪ねることに。

「あの、マリアさん。一ついいですか?」

「はい。なんですか類さん」

「実は一つ聞きたいことがあって。前マリアさんと戦ったときに、俺が、正確に言えば俺のアバターが起こしたあのよくわからないスキル、あれって一体なんなんですか?」

いつ頃からスキルウィンドウにあるかすら定かではない瞬間移動のようなスキル。確か千尋との勝負があった頃、それの前者後者程度には存在していた気がする〈データー013〉。

投擲スキルを用いることによって、その投擲された武器に対して瞬間移動が出来るというもの。その気になれば相手の背後を確定で奪えてしまうことと、スキルの名前が妙におかしいところも合わせて、バグかなにかと思っていた。

「・・・・・・教えません」

「え」

予想外の回答に俺は思わずたじろいでしまった。

「類さん、一番最初リアルで会話したときは、そんな風に丁寧に喋ってなかったじゃないですか。もう少し砕けて会話してほしいです」

「でも、それだと・・・・・・」

一応の収束を見せたとはいえ、俺はまだマリアさんに対して、千尋のことで自分なりに申し訳ないと思っているわけで、そんなマリアさんに対して、砕けて会話をするというのは難しいところがある。

「なになに、一体なんの話なの?」

状況をまちがいなく把握していない(俺のせいだけど)美咲が話に割り込んできた。

「いえ、おきになさらずに。類くん、ことを知りたいのでしたら前みたいに振る舞ってくださいね」

「は、はぁ・・・・・・」

乙女心とはまた違うであろう何かに阻まれて、真相を聞き出すことは出来なかった。






朝食を済ませ、部屋に戻ると丁度お説教を終えた千尋たちとすれ違った。相変わらず千尋の表情はどこかばつの悪そうだったし、式夜に関してはお説教をくらってしょんぼりとしていた。

「(さて、これからどうしよう・・・・・・)」

どうしようもなにも、海水浴をしに行くしかないのだと、他のメンバーから怒られそうだ。

確かに俺も最初はそのつもりだった。けれども、マリアさんのあの様子を見るに、今はマリアさんとしっかりとまた話をした方がいい気がする。

その手段、無いわけではないのだがこれをしてしまうとまちがいなく顰蹙を買いそうだ。

けれども、話し合いをするにしろしないにしろ、()()()()()()()()()()()()()だからやる順番が多少変わるだけだ。

「よし・・・・・・やっぱりこれしかないな」

直ぐ様隣の女子部屋に向かい、マリアさんと美咲を呼び出す。

「どうしたの? まだ海水浴場行くまでは時間あるよ?」

「そのことなんだけどさ、俺、海水浴は行かないことにした」

「・・・・・・今なんて?」

「だから、海水浴には参加しないってこと」

「ハァ!? ルイ一体なにを言って・・・・・・」

「悪い、けれど別にまったく行かないって訳じゃないからさ。あとで遅れてでもいいならぜひ参加させてほしい」

「別に構わないけど・・・・・・でもなんで?」

美咲の疑問ももっともだ。いきなり不参加宣言されたのでは驚くのも無理はない。

「今から言うことは、無関係である美咲にしか言えないこと。だからさ、どうかこのことは他の二人には言わないでほしい」

「なんかその言い回し腹立つけど、まあいいわ。それに他の二人って・・・・・・マリアさんは?」

美咲の後ろでマリアさんは文庫本を読みふけっていてこちらの話を聞いている様子はなかった。

無視をされているのではないかとすら思えてしまう。

「このことは、マリアさんに関係あることだからさ」

「?」

俺は美咲にこれからの全容を話した。

「・・・・・・なるほどね。それは確かに千尋ちゃんと、式夜さんには教えると後がめんどくさいもんね。わかった、あの二人には適当に理由つけておくから、ルイはルイで頑張ってね」

「ありがとう、そう言ってくれるとすごく助かる」

「いいわよ別に。けど、遅れてでもいいから、後でちゃんと来なさいよ」

「もちろん。ちゃんと行くさ」

「ならいいわ。ほら、話は私からマリアさんに言っておくから。それにもう着替えるから早く出てって」

「あぁ、ごめん」

女子部屋を後にし、自室に戻った俺がまず最初にしたことは、カバンから本来であれば今日の夜に使うはずの、オーダーテスターだった。

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