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第三十八話 しがない合宿⑧

結局のところ、その日は観光名所を見に行ったりしてお土産を買ったり、それを色々と整理したりとで、泳ぎに行く時間はなかった。

ちなみに、俺がテストプレイヤーとしての全容を美咲に伝えた際は、また怒らせてしまったかと思ったが当の美咲はマリアさんに対して「日本で発売する際はぜひ我が店舗を何卒・・・・・・」とごまをすり始める始末である。

そして夜が明け、次の日。

今日は海水浴に行くと決め込んでいたので色々と準備をするために早起きしようとした。

が、目が覚めるとそこには、男女別に部屋を分け一人で眠っていた俺の布団の中には既に水着姿の式夜がいたのだった。

おもいっきり乗り掛かられていて、非常に顔が近い。そんでもって、なんか色々と、凄い。

「・・・・・・何やってんのお前?」

寝起きのせいか、変にリアクションするでもなく冷静になってしまってはいるが、この状況、明らかに異質だ。

普段の式夜はしっかりと着付けられた和装。と言ってもここ最近は季節に合わせて薄手の物に変わっていたとはいえ、式夜の日常的な装いは着物が大半だった。

もっとも、薄手になってからは、式夜の体のラインが出るようになったため変に目のやり所に困っていたというのは、ここ最近の至ってしがない俺の小さな悩みだったりする。

もう一言付け加えるのであれば前に式夜とのデートの際、洋服姿の式夜を見たことがある。式夜が洋服になったのはその時だけのため、こうして着物以外の式夜を見るのは随分と久しい。

それが何故水着なのかは、海水浴に来ているからだと一言で片付けられてしまうこの現状に、俺は目眩がした。

「いや、別に深い意味はないんだが・・・・・・」

「ないんだが、なんだよ」

「水着の年端も行かない異性にこうして這い寄られているというのになぜルイくんはノーリアクションなんだ?」

「んなこと聞いてんじゃねえよ・・・・・・日中か寝る前にこれやられたらあわてふためくだろうが、寝起きにやられても俺は別になんとも思わん」

正確に言えば、何も思っていない訳はない。そりゃそうだ、自分に対して明確な好意を寄せてきてくれている少女に、こうして水着で言い寄られているのは、男として悪い気はしない。しないのだが・・・・・・

「・・・・・・なんでお前スク水なんだよ」

「男子はこういうのが好きだとマリアさんと私の友人が・・・・・・」

「余程ろくでもないなその友人」

マリアさんも何をしているんだ。スク水が好きな男子って一部界隈の人間だけだろ。どうせならしっかりとしたビキニとか見たかったよ俺は。

ふと、思い出したことなのだが、式夜の会話内ではちょくちょくこの「私の友人」が登場する。もっぱら廃人ゲーマーである式夜に対して、こういったアドバイスをくれる友人とは随分と変わり者だと思ってはいたが、実際俺の数少ない友人である美咲も、随分と変わった所もあるため、一概に俺が決めつける理由はない。

「とりあえず、降りてくださいお願いします」

「うぐっ・・・・・・そう冷静に返されると、こちらとしては応ぜざるをえないな」

わかってくれればいい。わかってくれれば。

「そういえば他のみんなは?」

「まだ寝ている。私は今日のために早起きするのを計画していたからな」

「ふーん。そういうことか」

ゆっくりと布団からでた式夜を見る。

スク水、いや、別に、なんとも思わないわけじゃない。

ショボくれていた目がしっかりする頃には、カーテンから差し込む薄い日の光にが式夜のシルエットをハッキリとさせていた。

顔が熱くなる。明確に頬が上気しているのを実感する。

もしかして俺は、とんでもないチャンスを逃したのではないのだろうか、と。

「どうしたんだルイくん?」

「い、いや、なんでも、ないです」

途端に恥ずかしくなってきた。まともに式夜の顔が見られない。

「そうか、それなら私は部屋に戻るから、ルイくんも程々に準備を進めておくといい」

「わ、わかった」

「あぁ、それとだな」

式夜はニヤリと笑いながら呟く。

「冷静に振る舞っていても、そんなに顔を真っ赤にしては、説得力がないぞ、ルイくん」

「なっ!?」

「フフッ、冗談さ。それではまた後で」

また俺は、式夜の手の上で転がされていたのだと。

そう思うと、腹が立っていた自分はもう既におらず、そこにいたのは、そんな式夜が「可愛い」とすら思えてしまう、彼女に攻略されかけているしがなくて情けないプロゲーマーの姿だった。




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