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第三十七話 しがない合宿⑦

「まったく・・・・・・兄さんも、式夜さんも、盗み聞きだなんてたちが悪い。どうせなら助けてくれてもよかったじゃないですか」

「まあ、いいじゃねえの。結果オーライだろ?」

「そういう問題ではありませんよ・・・・・・」

俺達が戻ってくる前には既に二人の仲はどうに話が進んでいたようで、特にフォローするでもなく戸に耳を当てていた。

で、盗み聞きがバレる頃にはお互いの誤解が解けていたので、下手に俺達がどうこうするよりも良かったのだと思えた。

「あのー、一つ聞いても構いませんか?」

「ん?」

意中の中心であったマリアさんが口を開いた。

「確か類さんって、千尋さん以外にもう一方と今日この場に来ると、式夜さんから聞いていたのですが、その方は?」

「あ・・・・・・」

完全に忘れていた。美咲のことである。

美咲親から電話がきていて、それがどうにも長い話だったようで「待たせるの悪いから先に行って。それと、私このあたりの地形が分からないから一応は後で迎えに来てね」と俺と千尋を先に行かせていた。

その言葉を聞いたのが、二時間ほど前である。

ポケットに入っているスマホを確認すると、着信数が100件を越えていた。全てが美咲のものだった。

「・・・・・・oh」

わざとらしく片手を額に当てて空をあおぐ。

横目で千尋の方を見ると千尋も俺とまったく同じことをしていた。

「どうしたんだルイくん、千尋、顔色が悪いぞ」

「式夜・・・・・・」

「式夜さん・・・・・・」

「なんだ?」

「骨は拾ってくれよ?」

「骨は拾ってくださいね?」

「何があった!?」

これから起こる事柄に俺も千尋もブルブル震えながら駅に向かった。式夜にはマリアさんを見ていてもらうために残ってもらった。

駅に着くと、待合場では目が一切笑っていない美咲がこちらを見ていた。

「・・・・・・随分と、遅いじゃあないかぁ? 二時間も待たされるとは・・・・・」

「あの、美咲、なんか口調がどこぞの爆弾魔で殺人鬼みたいな口調に・・・・・」

「そうかい? ならばそうだな・・・・・・私は今から、君達をなぶり殺そうか?」

「す、すんませんすんません!! 許してください! 別に忘れていたわけじゃないんです! ちょっと色々あっただけで別に忘れていたわけじゃないんです!」

「千尋ちゃんも同じ理由?」

「は、はいっ! 別に美咲さんのことを忘れていたわけじゃないんですよ?」

「君達にわかるかい? この海水浴シーズンでカップルが行き通る駅に、たった独りで放置された私の気持ちが? こんな赤っ恥をかくとはね・・・・・・」

「マジですいませんでしたっ!」

俺も千尋も土下座一貫である。ヤバイよ殺されるよ。爆弾に変えられるよ。

「まぁ、こうして迎えに来てくれたんだし、遅すぎるけど。いいよ、二人とも頭を上げて? もう怒ってないから」

「ほ、本当に?」

「ほ、本当ですか?」

「やっぱ二人の顔見たらムカついてきた。殴っていい?」

「「イヤァァァァァ」」

情けなく二人揃って甲高い悲鳴をあげた。

式夜ぁぁぁぁ! 骨は拾ってくれよぉぉぉぉ!

「ってそれこそ冗談だって。アイスクリーム奢ってくれたら許してあげるからさ。けど今度こういうことしたら許さないからね」

「ごめん・・・・・・美咲」

「ごめんなさい、美咲さん」

「いいって。ほら、早く行こ、どうせ他の人も待たせてるんでしょ?」

道中も謝りながら、俺たちは宿へともどった。美咲の手には駅のコンビニで買った少し高めのアイスクリームが、ついでにいうと千尋もだ。

「お帰りなさい二人とも。その方が類さんの?」

「お、戻ってきたなルイくん。その子か、君の友人は」

「そう、紹介するよ、友達の美咲・・・・・・美咲?」

美咲はポカーンと口をあけて佇んでしまった。いったいどうしたというのだろう。

「ルイ、ちょっといい? あ、千尋ちゃんアイスもってて」

美咲は俺の手を強引に引っ張り、宿の外へと連れ出した。

「どうしたんだよ美咲? もしかしてまだ怒ってるとか?」

「・・・・・・過ぎる」

「え?」

何か喋ったようだが聞き取れず、聞き返してしまう。

「可愛過ぎるでしょ!? なにあれ! 突然変異!? 人類の進化先? 何をどう遺伝子にチート使ったらあんな美人な子供が出来るのよ! 何よルイ、あんた何が別に普通の子よ! とんでもないくらいの美少女じゃない! あの車椅子の外国人の子とか抱き締めたくなった!」

「お、おう・・・・・・」

美咲の意味不明なキレ所に困惑を隠しきれなかった。にしても抱き締めたくなったてお前なぁ・・・・・・

「ハアハア・・・・・・ないからね、私」

「え?」

また聞き返してしまう。焦りすぎているのか呼吸が荒い。

「私っ! 負けないからっ!」

そう叫んで宿へと美咲は戻っていった。

ポツンと取り残された俺は耳障りなセミの鳴き声と心地のよい細波の音に呑まれるだけだった。




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