第三十五話 しがない合宿⑤
別に怒っているわけではない。
ただ、自分のふがいなさに少しの憤りを感じはしていた。
兄さんの影響でここ最近はいろいろなゲームをやる機会が増えた。
プロゲーマーである兄さんに、まぐれがあったとはいえゲームで勝つことも度々あった。
だからなのだろう。マリアさんの話を聞いたとき、今の私なら兄さんと式夜さんに少しでも追い付けているのだと、余りにも浅はかすぎる考えを抱いてしまった。
けれど現実は残酷で。追い付く追い付かない以前に、なにもできなかった。
マリアさんが私達を試すためにシステムの一部を書き換えた、俗に言うチートというもののせいで負けた、それは仕方がない。
だって相手はチーターだった。だから勝てるわけがなかった。
私が弱いのではない、チートのせいだと。
そう、だから兄さんたちだって勝てるわけがないのだと、そう思っていたのに。
兄さんは、勝ってしまった。式夜さんの手を借りるでもなく、その身1つで。
やっと、また近くに感じることができたのに、兄さんはまた遠くに行ってしまった。
どんどん強くなっていって、プロゲーマーとしてどんどん人気になっていって、そしていずれは私なんて見向きもしなくなる。
そう思ってしまったが、最後。気づいたらことの発端であるマリアさんを勝手に敵視していた。
あったこともないのに、まだリレイズフォースオンラインの中で一言二言言葉を交わしただけだと言うのに。
我ながらなんて、情けない。
今回の海水浴の話が出た時、本当は断ろうとした。
けれどどうせなら、記念にと。
マリアさんのことは勝手に私が思っているだけで、マリアさんに非は・・・・・・なくはない、チートのことだけれど。
そういうの忘れて自分なりに海水浴を楽しめればと、そう願っていたら・・・・・・
「・・・・・・」
「日本の夏ってこんなに暑いんですね、千尋さん?」
「は、はいっ! そ、そうですね、暑いと、思います・・・・・・」
「フフッ、変な千尋さん」
まさかの二人きりである。普通こういうどぎまぎした会話は男女間に発生するものであり、本来は私やマリアさんのような同性に発生しないのだ。
「大丈夫ですか? 水分補給とかした方が・・・・・・?」
「だ、大丈夫です。別に喉が渇いているわけではないので」
「そうですか・・・・・・」
「はい・・・・・・」
き、気不味い。とても気不味い。前の私との時兄さんはこんな気持ちだったのだろうか。
ちらり、とマリアさんの顔を見る。
「?」
柔らかげな表情でマリアさんもこちらの顔を見てきて、目があってしまう。今までの一方的な憤りのせいで思わず顔を背けてしまった。
「どうかなされましたか?」
「あ、いや、なんでも、ありません・・・・・・」
今のこの状況でまともに会話が設立していないのにこれ以上時間経過が進んだ先に待っているのは、沈黙。
「(お願い。兄さんっ・・・・・・! 式夜さん・・・・・・早く戻ってきて、このままじゃ場の空気がもたない・・・・・・!)」
私の儚い願いが届くはずもなく、私たちの泊まっている部屋のドアが開くことはなかった。




