第二十六話 しがなくない訪問者⑥
電車を乗り継いでバスに乗っていつものように山道登ってメシアに着く。最初に来たときは満開だった桜の木も今では全ての花が落ち、綺麗な緑の葉桜になっていた。
受け付け口ではもう既に顔パスで通れるため特に何かするわけでもなくテストルームに向かう。
「・・・・・・ログインしろ?」
テストプレイ中に使用しているベッドには俺のオーダーテスターと、小さな紙切れ。ログインしろと一言だけ綴られている。
「随分と偉そうに・・・・・・まあいいや」
いつも通り頭にオーダーテスターを被ってそのままベッドに横になる。
「コネクト、開始」
俺の声に合わせて起動するオーダーテスター。最初の頃はフルダイブに慣れてなくて度々酔っていたが今はもうそんなことはない。
ログインすると本来であればメインルームに飛ばされるのだが何故か今日は違っていた。
周囲に広がるおびただしく数の採掘後。戦闘フィールド「強欲の洞窟」に俺は直接ログインさせられた。
「やっと来た。待たせないでよ」
「!! ・・・・・・マリア・・・・・・さん?」
もはやトラウマになりつつある金髪のアバター。
マリア・メシアのもう一つの姿「マリー」はどこか異彩な雰囲気を醸し出していた。
「こらこら、バーチャルでリアルな話は禁止ですって。この世界での私はマリー、そう呼んでくれれば」
「えぇっと、じゃあマリー」
「何でしょうか?」
「俺をここに来させたのは君?」
「もちろん、私。メールをしたのも私だよ。ただし現実の方の紙は柊さんに用意してもらったけど」
「わかった。じゃあ今日招待した理由は?」
「貴方と、ゆっくりお話がしたくて」
何処と無く声が浮わついて全ての言葉が嘘に聞こえそうな喋り方から一転してマリーの口調は急に引き締まった。
「貴方という、一人の男性と私はゆっくりじっくり語り合いたいと思い今日はお呼びしました」
「・・・・・・何について?」
マリーは少し微笑み、
「勿論、この世界について」
「別に話すことなんてない」
「あれ? 随分と威勢がいいね、負けたくせに」
「あ?」
流石に今のはカチンと来た。
「敗者は勝者に従う。当然じゃない?」
「言ってくれるじゃねえか・・・・・・」
「前置きはここまでにして、行こうか。着いてきて」
言われるがまま俺はマリーに着いていく。
「どこに行くんだよ」
「別に大した所じゃないよ。あえて言うとすれば・・・・・・貴方とお話ができる場所かな」
かれこれ十数分歩き、たどり着いたのは強欲の洞窟最奥付近の辺。
「これは・・・・・・!」
そこには幻想的な景色が広がっていた。なんと表していいかわからないけど、リレイズフォースオンラインの世界を始めてみたときに感じたものと同じだ。
「すごいでしょ? 私のお気に入りなんだここ」
「あぁ、すごいよ」
作られたものだと心の何処かで理解しているはずなのに素直に感心してしまう。
「それじゃ・・・・・・話し合おうか」
「え?」
瞬間、マリーは背中に背負っていた槍を抜き取り戦う構えに入った。
「まてまて!? どうした急に!!」
「どうしたもなにもないでしょ? この世界での語り合いといったら殺し合いなんだから・・・・・・さ!」
全く見えない槍の一線を手探りで短剣で弾く。
「くっそなんの冗談だよ!」
隙を見せない為に低く腰を落とし、胸元で逆手に短剣を構える。
「だからさ、冗談でも何でもないってば。ほら早く攻撃してきなよ、このままだとまた負けちゃうよ?」
「・・・・・・別に負けても構わない」
「ほへ?」
「千尋も、式夜も、みんなで負けた相手だ。ここで別に俺がまた負けた所でそれは俺の再敗であっても俺達の再敗じゃないからな」
普段の俺からは絶対にあり得ない台詞に俺自身も驚いていた。
同じゲームをプレイして、同じように冒険して、今までは永遠のライバルだと思っていたやつも、めっちゃ仲が悪かった妹とも、俺は既にチームなんだ。この未知の世界を冒険するチームなんだ。だから、
「負けたって一切構わない」
「・・・・・・なんだつまらない。だって君最初に戦ったときは本気じゃなかったでしょ?」
「・・・・・・どういう意味だ」
「まあ、私が本気を出させる前には叩きのめし終わってたからかもだけどさ、君言ってたじゃないか「こんなのありか」って。わざわざそう言うってことは何か、隠してるんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「図星か、ならそれを見せてよ。もしそれで私に勝てたらさ、ちゃんと現実に戻ってあげるから」
「!! その言葉に偽りは?」
「ないとも。しっかりこの世界から出てあげる」
「わかった、それなら戦ってもいい」
「そうこなくっちゃ!」
真っ直ぐに再びマリーを見据える。負けたときとは違い、闘志の宿る目で。




