第二十五話 しがなくない訪問者⑤
結果は余りにも無惨だった。
「ねぇ、もう終わりなの? つまんないな~、期待してたのにな~」
「こんなのってありかよ・・・・・!」
式夜も千尋も、そして俺もボロ雑巾のように地面に転がっていた。
目の前にいる小柄な金髪の女性アバターを見据える。
プレイヤーネーム「マリー」
レベル99+、すなわちカンスト済み。
「日本のプレイヤーが来るからとお父様から聞かされてたから楽しみにしていたけど、私どうやら思い込みが過ぎたみたいね」
マリーは不適な笑みで一歩ずつ近づいてくる。
「所詮はその程度、私の世界に土足で入り込んでくるからにはせめてもう少し強くないと。それじゃあ、また遊んでね~」
ザクリ、と体の中心に一本の槍が突き刺さった。
dead party Devastating
俺の死と同時にパーティーの全滅を知らせるメッセージウィンドウ。完敗だった。
「・・・・・・」
あれから一週間余りが経過していた。その間式夜や柊さん、ジョニーさんとは一切連絡を取り合っていない。
ジョニーさんの娘、マリア・メシア。仮想世界の眠り姫。
彼女のアバター「マリー」の強さは桁違いだった。
俺たちが戦闘フィールド「強欲の洞窟」へ転送された時には既に準備万端で、 まず弓矢の有効射程距離へ移動しようとした千尋が僅か数秒で強力な魔法スキルに焼かれ、それをどうにかしてカバーしようとした式夜が腹に風穴空けられて即死。残された俺は反撃する暇もなく叩きのめされた。二人に関しては一瞬で勝負を決めたというのに、なぜか俺はゆっくりといたぶられた。
武器を持てないように両腕を切り落とされ、移動できないように両足を切り落とされ。
その後はギリギリ死なないように蹴られまくって地面を転がされた。
そして玩具に飽きた子供のように最後は簡単には捨てられた。もとい殺された。
「うじうじしてても、しかたないよな」
何を思い立ったのか俺は式夜に一通のメールを送った。
『今何してる?』と。
いつもならものの数秒で返事がくるというのに、今日は来る気配がない。
「それなら次は・・・・・・」
部屋から出て隣の千尋の部屋をノックしようとする。が、瞬間的にその手が引っ込んだ。
「やっぱり、下手に行動しない方がいいよな」
翻り部屋に戻り、ベットに寝そべる。
「・・・・・・くっそ」
ドンッ、とベットを叩く。余りにも情けない今この現状に俺は苛立ちを募らせていた。
完敗、あそこまで差が出るなんて思いもしなかった。あの時点で俺達のレベルは70後半、それだというのに何一つ出来ずに終わった。
レベル上げや装備の向上に多種多様なスキルの獲得、やれることは今までのテストプレイや自宅で全部やってきた。
それだというのに・・・・・・!
ピロン。
ベットのすぐ横に置いてあるパソコンからメールの着信音がなった。
「・・・・・・誰だこれ」
『送り主 worldprinces 題名 なし』
こんな名前のやつ知らない。ゲームのフレンドにもいなかったはず。
そこにはたった一言綴られていた。
「メシアのテストルームで待つ、か」
メシアのことを知っている時点でこれは間違いなく俺の関係者だ。
けどこんな書き方で送ってくるような人なんていただろうか。
仕方なしに俺は重たい体を起こしてメシアに向かうことにした。
時刻は午後1時。5月中旬独特な日差しが全身に突き刺さるようだった。




