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第二十四話 しがなくない訪問者④

改稿で追加した用語が登場します。改稿済みの3話から5話を読むとわかると思うのでよろしくお願いします。

「どういうことですか、娘さんを殺してくれって・・・・・・何かの冗談ですよね?」

「本気だとも」

「はぁ!?」

思わず声を荒げてしまう。

「当然現実での話ではない。君たちにはどうか仮想世界の、マリアのアバターを殺してほしいんだ」

「つまりゲームに勝てばいいということですか?」

「ただ勝つのではない。マリアが一生立ち直れない程容赦なく叩き潰してほしい。具体的には二度と仮想世界にログインしたくないと、トラウマを植え付けるくらいに」

「なぜそれを私たち日本のテストプレイヤーに頼む? リレイズフォースオンラインの本場であるアメリカにはそれこそアバターのレベルだけなら私より上のものざらにいるだろう」

式夜の問いかけにジョニーさんは小さく呟いた。

「・・・・・・少し昔話をしようか、オーダーテスターの誕生秘話というやつを」

「オーダーテスターの?」

「あぁ、そうだ。まず根本から伝えるとなれば私の会社メシアは元々はゲームメーカーではなかった」

「え」

「メシアは元は体の不自由な人々に快適な生活を送ってもらうための道具、車椅子の製作やバリアフリーの設置を行う会社だった、それは私の祖父の代から続いていた偉大なことでね、ノブレス・オブリージュ、富ある者は弱きを救えというのが二代目の社長である父の口癖だったよ。けれど、私の代に変わってから我が社の福祉事業は衰退してしまった。いや、私が衰退させてしまったんだ。結果としてメシアは福祉事業に終止符を打つことにしたのさ。笑ってくれてもいい、滑稽だろ?」

「いえ、そんなこと。でもどうしてなんですか? 親さんの代から続けてきたことなのに」

「私はどうしても実現したかったのさ、娘のマリアが普通に生きられる世界をね」

「普通に生きられる世界・・・・・・?」

「マリアは生まれつき下半身が動かせなくてね、いつも家に閉じ籠っていたんだ。まだ私が会社を継ぐ前はよく一緒に出掛けたりしていたがそうはいかなくなったんだ。そうしてマリアは誰とも、それこそ家族の私とすら何も話さなくなったんだ。けれどマリアがある日私に頼み事をしてきたんだ」

「それって?」

ジョニーさんは声を震わせながら必死な様子で喋っている。

目には少し涙を浮かべていてさっきまでの明るい印象は既に無くなっていた。

「自由に走り回れる世界が欲しいと、マリアは私に願ったんだ。走り回れる足ではなく、走り回れる世界が欲しいとね。マリアの病は生まれつきで治らないと、マリア自身がわかっていたんだ。他でもない娘の願いだ。私は考えたよ、必死に考えた。そしてこの結論に辿り着いた」

「フルダイブの仮想世界・・・・・・ですか?」

「そうだ。元々体が不自由な人が仮りそめでも構わないから普通の人と同じような生活が体験できるようにと、フルダイブという案は存在していた。だがそれを作り出すための費用が決定的に足りなかった。だから私は今までの福祉事業によって得た成果を娘の夢に捧げたんだ」

「・・・・・・」

余りにも唐突な話に一同声を失い、静観するしかなかった。

「多くの仲間を失った。多くの信頼を失った。それでも私はマリアの、たった一人の家族の為に全てを捨てた。苦労の末にオーダーテスターは完成した。その瞬間からメシアはゲームメーカーへと変化したんだ。マリアは喜んでくれたよ。形は違えど普通に歩くことができて、普通に走ることもできたんだから。それにオーダーテスターの発売を切っ掛けにマリアには沢山の友人ができた。希に家に帰れたときいつも嬉しそうに話してくれるよ。今日はギルドのメンバーと一緒にクエストをやったとか、色々なフィールドを冒険したとかね」

「・・・・・・わからないな。ここまでの話を聞く限りだとそのマリアという子は仮想世界を心行くまで楽しんでいる。ならばなぜだ。なぜ仮想世界に対するトラウマなんて与える必要がある」

「マリアは仮想世界から、リレイズフォースオンラインからログアウトしなくなった。つまりは現実世界に戻ってこなくなったんだ」

「!? そんなことって・・・・・・」

あり得ない。オーダーテスターには一日でプレイできる時間を設定できる機能がある。無制限であるはずはない。

「マリアのオーダーテスターは特別だ。普段から家にいるマリアの為にログインの時間制限をかけていない」

「なるほど。なんとなく、話が読めてきました。私達にそのマリアさんを殺せというのは仮想世界からマリアさんを連れ戻す、ということですね」

「そうだ。一度だけでいい、マリアがあの世界をこわいものだと感じてくれれば、きっとマリアは現実世界に戻ってきてくれるはずだ」

「事情はわかりましたけど、その・・・・・・俺たちにできる保証があるかないかといわれたら」

ない。そう答えようとした時だ。

「いいだろう、任された。プロゲーマーの名に、アルティメットゲーマーの名に賭けてマリアを連れ戻すとここに誓おう」

式夜は自信満々に豪語した。その力強い目には一人のプロゲーマーとしてのプライドが満ちているようだった。

「・・・・・・ありがとう。柊、マリアはまだなのか?」

「はい。まもなく到着すると連絡が入りました」

「そうか、それでは頼む、日本のゲーマー達よ。身勝手だとは理解しているがどうか、どうか私の娘を現実に解放してほしい。お願いだ・・・・・・!」

「!!・・・・・・分かりました、ジョニーさん。俺達に任せてください」

ジョニーさんの悲しげな表情をみて俺達はそのマリアという少女を殺すと、心に決めた。






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