第十九話 しがない兄妹喧嘩②
「勝敗はライフが先に無くなった方が負け。在り来たりなルールではありますがこれが一番シンプルでいいでしょう。類さん、千尋さん、お二人ともいいですね?」
既に意識はフルダイブ状態。俺も千尋も個室のメインルームで柊さんからの通信を聞いていた。
千尋はこのゲームのことはある程度は知っている。だけどまだプレイ経験はそこまでなはずだ。
反面、俺は式夜との対戦やクエストの攻略で熟知、とまでは行かないがこのゲームに対する慣れは多い。
正直、千尋が持つゲームに対するポテンシャルは謎だ。俺がゲームを買い漁るようになってからも千尋がゲームする姿を見たことは一度もない。
不安はある。けれど今は、
「やるしかないよな・・・・・・!」
装備を整え、戦闘エリアへの転送が始まった。
転送先の戦場は色欲の繁華街。個人的にこの戦闘エリアはそこまで好みじゃない。
他のフィールドと比較して建物が圧倒的に多くそれ故に、
バシュン! 転送完了直後な俺の目の前に一本の矢。
改めて苦手な理由を言うと色欲の繁華街は建物が多いから弓矢やボウガンなどの遠距離系の武器がかなり強い。
今俺の目の前に飛んできたのは威力重視の鉄の矢。
頭に当たれば即死。因みに俺の装備はぶん投げての中距離は可能とはいえそれも一度限りの短剣。
今この世界にいるのは俺と千尋のみ。つまりこの矢の犯人は千尋。
結論、俺圧倒的不利。
「うぉぉぉぉぉ!?」
堪らず初期転送位置であるビルの屋上から飛び降りる。
だが、
「逃がさない・・・・・・」
飛び降りている最中ですら矢は飛来し続ける。
「(あ、これ判断ミスったな・・・・・・)」
着地するまでにこれだけ射ちまくってくるとなれば着地した瞬間に狙われるのは必然。
だが、着地した瞬間に千尋が矢を射ってくることはなかった。
「今のうちに・・・・・・!」
すかさず周囲の建物に一階に滑り込む。
「(なんで射ってこなかった? 俺だったら着地の硬直の間に絶対射つ。きっと式夜だってそうする。でも千尋はなんで射たなかった?)」
思考がまとまる前にまた矢が飛んできた。
「!?」
とっさの判断でそれを回避。しかもこの矢さっきとは逆の方から飛来してきた。
これで分かるのは千尋がビル郡の屋上やらを利用して俺を射てる位置に移動したということ、それと同時に千尋がいる位置も特定ができたということだ。
「射角的には・・・・・・あのビルか!」
丁度真東のビルに矢を構える千尋が一瞬だけ見えた。直ぐに視界から消えたということはまた移動したのか。
このままじゃ埒外があかない。
一気に詰めて殺るか、もしくはもう一度射たれるまで待機するか、よし前者だ。
建物からでた瞬間だった。さっきの何十倍の量の矢が飛来してきた。まちがいなくスキルによる攻撃だ。
「やっべ!?」
回避が間に合わない、ならば・・・・・・!
腰からすかさず獲物を抜く。
「うぁぁぁぁぁ!!」
我武者羅に短剣を振り回す。だがさすがに全部弾けるわけもなく、身体中に突き刺さった矢が俺のライフを一気に削った。
「ぐっ・・・・・・これはマジで死ぬって!」
スキルの勢いが弱まった瞬間に後ろの建物に後退し、回復アイテムで治療。
このままじゃ本当にジリ貧。建物から出たら大量の矢の餌食。かといって出なかったら何も出来ない。
「考えろ俺、落ち着いて考えるんだ・・・・・・」
どうするこの絶望的な状況から、勝てる材料を導きだすんだ。
時間にして僅か数十秒。
「これに賭けるしか、ないよなぁ・・・・・・」
千尋に対してこの状況から唯一勝てる方法。千尋よりこのゲームをやってる俺だから出来る方法。ゲーマーとして、兄としてとっくに腹は括った。あとは実行に移すだけだ・・・・・・!