第十五話 しがなくない付き添い②
耳に煩く混ざったゲームの音が響く。それを不快と思うことはなく、むしろ心地がよいくらいだ。この色々なアーケードゲームの音ももゲーセンの楽しみのひとつとも言えるだろう。
並び始めること二時間。予定よりも一時間早くロケテスにありつけたので俺と美咲はお互い顔を合わせる状態で対面に座りゲームをプレイする。
ゲームのジャンルは格ゲーでまだテスト段階からなのかコマンドの読み込みとかにコンマ何秒かラグがある感じがした。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
上手い飯は人を静かにするというけれど、面白いゲームもまた人を静かにし、極限まで集中させる。
電子音が鳴り響く中まだ覚えたばかりのコマンドを対戦相手に、美咲に容赦なく叩き込む。
「・・・・・・ルイ、少し位は手加減を・・・・・・あ」
YOUlose!
敗北を告げるなんとも憎たらしい音。一切の反撃を許さずに俺は美咲に対して完封ともいえる勝利を納めた。
「やっぱり敵わないか・・・・・・」
ロケテスの後近くのコンビニで飲み物を買い、俺たちは電車に乗って帰路についた。
カフェオレ片手に美咲はため息をついた。
「本当にもう少し手加減してよルイ。私あの新作のアーケード仕入れる気失せるんだけど」
「まあ、仕方ないだろ」
いつ如何なるときでも相手がどんなやつだろうとも手加減なんてしない。
プロゲーマーとして、というよりもなんだろう。式夜に負けすぎたことが原因なのか、俺はいつからか勝ちに異常なほどまでこだわるようになった。
「前から無駄に気になっていたんだけどさ、ルイとかルイが執着してるプロゲーマー、なんだっけトリートメントゲーマーだっけ?」
「どんな間違い方だよ。アルティメットゲーマな」
「そうそう、それ。で、気になっていたのが」
「気になっていたのが?」
美咲の口からは予想していなかった言葉がでた。
「どうやってプロゲーマーになったの?」
「あぁ、なんだそんなことか」
確かに疑問に思われることだよなこれ。プロゲーマー、と一言で言ってもどういうものなのか、どうやってなるものか、意外と知られていないものだ。
「し・・・・・・じゃなくてアルティメットゲーマーがどうやってプロゲーマーになったかは知らないけど俺の場合はそうだな、なんていうか知らないうちになってた」
「どういうこと?」
「中学生の頃に参加したゲームの大会がさ偶然にもeスポーツ公式の大会だったんだよ。一応は優勝したからゲーマーとしての腕前は評価されてさ、その後はトントン拍子でeスポーツ連合からの講習を受けて、ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンスっていう十五才以下のゲーマーがとるライセンスをてにいれて、気づいたらなってた」
「なんかよくわかんない。ゲームの大会で優勝するだけじゃダメなの?」
「プロゲーマーって言われるからにはそれ相応のプロフェッショナルとしての自覚とかも必要になるだろうし、そういうのものを知るために講習を受けさせられたんだろ」
「ふーん・・・・・・」
「ちなみにライセンスの更新とかあってさ。二年に一度で、その度にeラーニングっていうのを受けなきゃいけないし、お金も払わなきゃいけないんだぜ?」
「・・・・・・・ねえ、ルイ。私もなれたりするかな」
「無理だろ」
「そんな簡単に否定する!?」
そりゃそうだ。美咲とはそこそこ長い付き合いだからもう分かっていることだけど、こいつはお世辞にもゲームが上手いとは言えない。いつだったかまだゲームを触ったことすらないような時には美咲にぼろ負けすることはあったけど。
実は下手と言うわけではなく、美咲はどんなゲームであろうと「確立した攻略法」がないとまともにプレイできない。つまりは攻略本がないとラスボスが倒せないし、攻略本がないとヒロインも落とせない。
「私だってやるときはやりますとも!」
「なら手始め俺に勝てるくらいにはなれよ。まずはそこからだろ?」
そもそも美咲はなぜプロゲーマーになりたいなんて思ったのか、理由を問おうとした時、
「あ、着いた。ほらルイ、降りよう」
電車の止まる音に遮られ聞くことができなかった。
「今日はありがとうね、また今度もよろしく」
駅のホームで俺と美咲は適当に駄弁っていた。
「気が向いたらじゃだめか?」
「ダメ」
「ですよねー」
それじゃあ、また明日! 制服のスカートを翻しながら美咲は帰っていった。
俺も特別駅に用事が残っていたりするわけでもないので帰ることに。その時だった。
「・・・・・・こんなところで何をしているのですか、類さん」
「へ?」
そこに居たのはサバゲー用のBDU(迷彩服)に身を包み、どこか疲れた声の千尋だった。