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未成年女探偵の一息な時間  作者: 中川夏希
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ファイル.2

朝起きて、支度をし家を出る。雲ひとつない晴天に恵まれて出勤。近くのコンビニエンストアで冷たいコーヒーを二つ。甘いお菓子を大量に買い、事務所に向かった。

事務所に着くと既に看板があり、営業中と書かれたの札もそこにはあった。

「おはようございます平山さん。これコーヒーとお菓子です。甘いものは頭を使うものかと思い……」

平山はまるで小さい子どもがおもちゃを買ってもらって喜ぶような笑顔で出迎えた。

「おはようございます! ありがとうございますーー! ちょうど甘いものが欲しくて」

「なにか事件ですか?」

「いえなにも……」

「……」沈黙。掃除をしようと用具を探そうとするが、見る限り綺麗になっていた。

「掃除とか私が来た時に終わらせてますよ。汚いのとかあんまり好きではないので」

「そうなんですか……じゃあ僕はなにを……?」

なにもすることがなくなった僕はソファに腰掛けた。彼女も向かいのソファに座る。

「では、ひとつ謎を解いてもらいますか」

「謎? なんの謎ですか?」

「父と母、そして女の子の三人家族がいたのですが、ある日その女の子の両親が突然いなくなってしまったのです。そして事件が起きました」

「その事件とは?」

聞こうとした時扉の開く音が聞こえた。

「ここって探偵事務所ですよね? 相談したいことがありまして……」

入ってきたのは、高校の制服を着た女の子だった。

「いらっしゃいませ。ようこそ探偵事務所ホームズへ。こちらへどうぞ」

僕は女の子を招き入れソファに座らせる。

「私が探偵の平山です。まずお名前聞いてもいいでしょうか?」

二人は握手を交わし話し始める。

「私は守谷鈴と言います。十七歳です」

僕は聞き耳をたてながらキッチンに向かい飲み物を出す準備をした。

「それで依頼とは?」

「はい。実は私の働いてるバイト先が変なんです」

「変? あ、横山さんこの子にもコーヒーを。それで変とは?」

僕は依頼者にコーヒーを出す。

「私が通うお店の人に紹介されて行った会社なんですが……それが仕事とは思えないほど楽と言いますか……アニメの鑑賞会をして、終わったらそのアニメについて感想文を作文用紙一枚分書けって内容でして……それで一日八千円っておかしくありませんか?お店の人に聞いても知らなくていいの一点張りで……」

「アニメが好きな人にとってはとても良い仕事ですね」

フォローするが、鈴ちゃんの顔は沈んでいた。

「アニメとか興味がなかったから最初は……って思ったんですけど今はちょっと好きになりました」

「んー……どういう仕事か私も見たくなりました。ワトソン君行きますよ。準備してください」

そう言うと彼女は準備をし、僕たちを慌てさせた。

「え? 今からですか? そんないきなり言っても……」と言ってみたが彼女は聞いていない。また引っ掻き回されるのか…と文句を言おうしたが、依頼者が近くにいたのでやめた。

後から僕と鈴ちゃんも彼女についていく。

バイト先の前までは来たがこれからどうするかは決めてなかったのか、彼女は立ちすくんでいた。

「なっ……なかなか良いところじゃないですか……」

いや、感想それだけかよ……

これも頭の中だけで言おう。そう思った。

質屋のお店と楽器屋の間にあるこの会社は知ってる限りでは一ヶ月前まで『テナント募集』と書かれた紙が貼ってあった場所だった。そこについ最近誰かが買いとり、今の会社を作ったのだろう。

「さて入りましょうか。ワトソン君」

彼女が颯爽と入っていく。

「あの……聞いてもいいですか?」

僕も入ろうとした時、鈴ちゃんが声をかけてきた。

「どうしてあの人横山さんのことワトソンって呼んでるんですか?」

「助手……だからじゃないですかね」

それ以上の言葉は見つからなかった。


「あの……ここでバイトしたいんですけど。まだ募集してますか?」と弱々しい声で入っていく彼女。その後ろに僕らはついていく。

「バイトかい?もちろんいいよ! ちょっと待っててね」

一人の若い店員が裏に入っていく。

「へぇ……中はオシャレになってるんですね」

「見るだけじゃダメだよワトソン君。ちゃんと観察するんだ。見るのと観察するのとはまるで違うのだから」辺りを見渡す僕を見て、彼女が呆れた顔で言う。

「それ、ホームズがワトソンに言ったセリフですね。この前アニメで見ましたよ」

鈴ちゃんが言った。なにも知らなかった僕は一人置き去りにされた気分だった。

「お待たせしました。あれ? 鈴ちゃんの友だちだったのか」

裏から店長が来た。

「お疲れ様です店長。この方たちがここで働きたいと言ったので連れてきました。えっと……」

「田中悦子です。私凄いアニメ好きなんですよ〜! なので働きたいです」

悦子と名乗った平山は偽名を名乗る。

「凄い中がおしゃれですね〜」平山改め悦子は突然店の中を褒め出した。そんな彼女を横目で見る僕。

「もちろん大歓迎さ。隣にいる君も働きたい人かな?」

「え?あ、はい。僕は横山智と申します」

自己紹介をすると悦子に左足を蹴られた。

「痛っ!」

「なに本名名乗ってんですか? 潜入なんですよ? ここでは偽名を言わないと……」

他の二人には聞こえないぐらいの小さな声で僕に耳打ちをした。

「すみません。こういうのには慣れてなくて……」

「では早速二人には仕事部屋を案内しますね。鈴ちゃん今日仕事出るかい?」

「え、あ……はい。それじゃ私も……」

鈴は奥の部屋に入っていく。そして店長に連れて行かれた僕らは一人しか入ることができないぐらいの小さな部屋に各自案内された。

「ここが今日君たちが使う部屋ね。仕事は簡単。このディスクに入っているアニメを観て、観終わったらこの紙に感想を書いてほしいんだ。終わったら呼んで」

説明をし終えた店長は立ち入り禁止と書かれた部屋に入っていった。

「おかしいっちゃおかしいよな……」

どこか不安を感じながらパソコンを立ち上げファイルを開く。複数のアニメ映像があり適当にそれをクリックした。

「お、これ昔観たことあるやつだ」

幸いにも小学生だった時にハマっていたアニメが開きそれを観ることにした。不思議な力を手にした少年は町の不可解な謎を解きながら自分の正体を知っていく。そんな内容だったよな……と思い出す。

「懐かしいなあ……毎週欠かさず観てたな」

昔のことを思い出しながらアニメを観ていると隣の部屋からノックが聞こえてきた。

「横山さん。どうですか?」

悦子……彼女だった。

「平山さん、僕が昔観ていたアニメがありました。いやあ懐かしいですね」

「そんなこと聞いてるわけじゃありません。何かわかりました?」

「あ……」

すっかり本来の目的を忘れていた。僕はこんな仕事でお金が貰えるのであれば別にいいのではないかと考えてしまっていたことを話そうとしたが、彼女のやる気を下げてしまうために口をこもらせた。

「とりあえず横山さんは感想を書き終えたら私にください」

「分かりました」

飛ばし飛ばしにアニメを観て、昔の記憶を頼りに感想文を書く。そしてそれを書き終え、彼女に渡した。

「ありがとうございます。あ、これ私の分も書いてといてください」

何も書いていない空白の紙を僕に渡し、彼女は店長の部屋に入っていった。

「仕事押し付けやがって……」

僕は、文句を言いながらも違うアニメ映像のファイルをクリックし観始めた。

しばらくすると彼女が帰ってきた。

「横山さんそれ書いたら帰りますよ。謎が分かりました」

「え? もつ分かったんですか?」

帰ってきてはそう言ってきた彼女。あの部屋で何が分かったのか。急いで書き終えた僕は店長の部屋に入る。

「失礼します」と一礼をし部屋に入るが、先ほど入った部屋よりも少し広いぐらいで変わった場所がない。

「ありがとう。はい、今日の君の給料。お疲れさん! 初回ということで多めに入れといたからね。それと言い忘れたんだが次もまたするときは、中にある電話機で私を呼んでくれないか。私がそっちに行くから」

「わかりました」

部屋を出ると彼女が待っていた。

「鈴ちゃんが帰ってきたら事務所に来てください。私は先に行っていますから」そう言い残し彼女は帰って行く。やがて鈴ちゃんが感想文を書き終えたのか、店長が部屋から出て来て鈴ちゃんのところに向かって行った。二人が何か話しているのを遠目で見ながら終わるのを待ちその話が終わったのか、帰る準備をしていた鈴ちゃんの側まで行く。

「お疲れ鈴ちゃん。平山さんは先に事務所に戻るって言って帰ったよ」

「そうなんですか。では私たちも」

「平山さん、謎が分かったらしい」と一言伝え、二人ま事務所に向かうことにした。

「待っていました。ワトソン君。鈴さん」

事務所に着き、中に入るとソファに座りコーヒーを飲んでいた彼女がこちらを見ずに言ってきた。

「謎が解けたって……」

「素晴らしい事件でした。シャーロキアンの私にしてはこれほど胸が踊るようなことはありません」

「シャーロキアン? ってシャーロックホームズが好きなファンのことですよね? どういうことでしょうか?」

鈴ちゃんが聞くと、彼女は笑いながら答えた。

「真相を語る前に、二人は『赤毛連盟』という話は知っていますか?」

「シャーロックホームズの事件の一つですよね? 確か仕事をしている間に犯人が近くの質屋まで地下道を作りその質屋を強盗しようとする話……」

「まあ簡単に言えばそんな話です。それと今回の事件、どこか似てるんですよ。ではワトソン君、あの店長の部屋に入った時なにを観察しました?」

「特になにも……ただ少し部屋が大きかったぐらいで……」

「足は?」

「……」

一言だけ言われ黙ってしまった。

「私が入った時、店長は驚いていました。あの部屋の奥にはもう一つ部屋があったのは気づいていましたよね?本当だったら終わったら作業をしていた部屋に設置してあった電話機で店長を呼び……というのがルールでした。私はすぐに気づきましたよ。あの電話機は店長に繋がるものだと。だけど私はそれを使わずいきなり入っていった。そしたら店長はそこにいなかったんです。どこにいったと思います?」

「まさか……」

「そうです。地下です」

彼女は床に指を指した。

「地下に道を掘りあるところまで繋げる予定でした。それはどこかと言いますと……」

「近くの質屋……」

そう僕は答えたが彼女は首を横に振る。

「逆隣の楽器屋さんです」

「なぜ楽器屋を狙うんですか?」

「あの楽器屋さん、以前訪れた時そこの主人に聞いたことあったんです。凄い高級なギターが置いてあると。聞けばそのギター、六千万円もするらしいですよ。見せてもらった時大切に保管されていました。多分そのギターが目的なんでしょう。それをどこかで聞いたあの店長ともう一人の店員は、隣の空き家を買い取って会社を建てた」

「ん? それなら僕たちがいない方が良かったんじゃないでしょうか?」

「なにもしてないより会社として経営してる方がカモフラージュにもなりますからね。もしかして鈴さん、あなたが通うお店とは隣の楽器屋さんじゃないでしょうか?」

「え、そうです。あそこの人に紹介してもらいました。なんでそれを?」

「手の指ですよ」と彼女が自分の左手を僕らに見せた。

「女の子にしては手の指がとても硬かったのと、あの楽器屋さんの前を通った時に鈴さんがチラッて見て会釈をしていたから知り合いかなと思いまして」

思い出すと確かに鈴ちゃんは隣にある楽器屋の人に頭を下げていた。そんなところまで見ていたのかこの人……。

「まあ雑談はこの辺として……ちょうどそれを聞いた常連である鈴さんは会社にバイトとして来た。主人はお客さんが入ってこない限りずっと自室にいる人なので常連客が来て長話されると計画が進みませんからね。計画がうまくいったと思ったのでしょう」

「そういえば……」と何かを思い出した鈴ちゃん。

「どこかで見たことあると思ったらあの男の店員さん、前に私が楽器屋さんに行った時いました」

「多分その時でしょうね聞いたのは。そして仕事を与えその間に二人はせっせと穴を掘った。明日までには開通することでしょう」

優雅にコーヒーを飲みながら話す彼女とは逆に焦り始める僕。

「なに呑気なこと言ってんですか! 早く知らせないと!」

電話をしようとした時、彼女が止めてきた。

「そう気を荒げないでくださいワトソン君。相手は強盗犯です。今動いて逃げられたら次は私たちに何をするか……特にあなたは本名を知られてます」

名前を言わなきゃよかったという後悔と、二三歳の大人が十九歳の子に言われてしまったというショックが僕の心に酷く打たれた。

「既に私が手を打っています。まあ私たちは黙って見守っておきましょう」

彼女がそう笑いながら言うと、一冊の本を読み始める。

「この結末と同じになることを願いましょう」

僕らに見せた表紙には『シャーロックホームズ〜赤毛連盟の謎〜』と書かれていた。

次の日の朝。僕は定時に出勤をすると、彼女はテレビをつけるよう僕に指示をし言われ通りにつけた。

『昨夜未明、二人の男性が窃盗容疑で逮捕されました。調べによりますと……』

流れていたのはニュースで昨日会ったあの店長と店員の写真が映っていた。

「六千万のギターと安いギターを入れ替えておきました。そのギターには発信機をつけ、居場所を把握させ、二人が偽物のギターを盗み遠くに逃げて安心したところを警察が捕まえてくれたと楽器屋さんの主人が話してました。やっぱりあの会社と楽器屋さんは繋がっていた。私の推理通りです。あの男の店員さん、たまたま観たアニメがシャーロックホームズらしく赤毛連盟の話の時に今回の犯行を思いついたようですよ」

ホームズを汚すようなことを……と少々怒り気味に言いながら彼女はパーティーの準備をしていた。

「学校が終わったら鈴さんここに来るので、来たらパーティーでもしましょうか」

「分かりました。では食材を買ってきますね」

財布をカバンから取り出し買ってくるものを聞く。彼女は最後にチョコレートもと注文し本を読み始めた。

「平山さん楽器やるんですね」

僕が聞くと彼女はこう答えた。

「探偵たるもの何事にも挑戦する事だよ。ワトソン君」

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