第4話【舞姫】Aパート
外出する前…
電気がついた
フワリの白い部屋の中
―――――――――――
ほんのり桜色に
染まった肩にとどく
ぐらいの白い髪をした
少女フワリは、
「これを、
フワリのお友達に
渡してほしいの…」
そう言って、
左手に持った
扇子を
ポチの右手に手渡すと、
ポチは、
右側の
ポケットに、
その扇子をしまい
―――――――――――
ポチ
「なあ、これって
何かに
必要なものなのか?」
…と、話すと、
フワリは顎に
右手の人差し指をそえて
考え込み
フワリ
「うーん。
必要なのかな?
どうなのかな?うん♪
必要だよ。きっと♪」
そう言って、
ポチ
「はあ…」
ポチを
混乱させるのだった…
―――――――――――
そして…それから…夜、
公園らしき場所に
外出したポチの前には…
―――――――――――
公園らしきところの中に
立っていた、
百八十センチ近い身長を
したポチは、
夜空に輝く
月の光の下で、
紫色の目で
ポチを見つめる、少女に
ポチ
「き・・君は、一体…」
と言いながら、頭の中で
(二重人格?
いや・・・それでは、
姿形が
違う事の説明がつかない
・・・だとしたら・・・
これは・・一体・・・)
なんなんだろう・・・と
考えていると・・・
肩までとどくぐらいの
青く輝く黒髪をした、
鈴鹿と
呼ばれたその少女は、
「まぁ、待て・・・
まずは、そのジャージの
右のポケットから
はみ出ている
赤色の扇子を
妾に渡して
欲しいのじゃが…。」
そう話しかけて来たので
白いジャージを
着たポチは
「あ・・ああ・・・
そうだったな・・。」
鈴鹿という黒髪の少女に
近づいて・・・・・・
右のポケットから右手で
取り出した扇子を…
もみあげという
耳の前の髪が…肩まで
とどくくらい長い・・・
その少女の左手に
手渡したあと
また、うしろに下がって
1メートルくらい
距離をとると、鈴鹿は、
「かたじけない・・。」
フワリとは、違った
落ちついた声で、
ポチに、お礼を
言ったあと、
鈴鹿御前
「聞きたい事は、
わかっておる・・・。
妾とフワリの
関係についてであろう」
そう言って、
それに対して、ポチが…
コクリと首を
縦に振って
頷くと、
鈴鹿は、
「では、話すとしよう」
…と、
長い話を始めた…。
鈴鹿御前
「ポチ殿は、
最後の竜という話を
存知て
おるか?」
ポチ
「ああ・・・知ってる。
メテオによって大災害を
受けた時に…生き残った
唯一の竜で、確か、
そのあと、人間の
先祖に魔法を
伝えたと
いわれてるんだよな…」
ちょっと自身なさげに
答えるポチに、鈴鹿は、
「そうじゃ。しかし…
その話には、
異説もあるのを、
ご存知か?」
そう答え、ポチが
「ほう・・・どんな?」
そう聞くと、
鈴鹿御前
「あの時、最後の竜は、
肉体が滅んで
しまった・・・と、
申す話じゃ…」
それは、驚くべき話
だったが・・・
ポチにしてみれば
(まあ・・歴史は、
事実では、ないし・・・
証拠が
あれば・・・
ほかの仮説を
たてるのもあり得える。
それより…
気になるのは・・・)
そう考えたポチが、
「その仮説が、
君とフワリと、なんの
関係があるんだ?」
その事を聞くと・・・
鈴鹿は、
「最後の竜には、
肉体が滅びても
記憶を残す
すべがあったのじゃ。
それは、かつて竜達が
宇宙から来た者達と、質の良い
カーバンクル《竜の脳の中にある紅玉の事》を
集めて作った
ドラゴンオーブと申すものでな…
そこに、
自身の記憶を
残したのじゃ」
そこまで聞いて、
ポチは、ある事に
気がつき…
ポチ
「ちょっ…ちょっと待て
それじゃ、最後の竜って
・・・まさか!」
鈴鹿御前
「そう…今、そなたの
考えておる通り
ドラゴンオーブ
そのものが最後の竜と
呼ばれておったのじゃ」
その話にポチは、
驚いたが、
今は、それより・・・
ポチ
「それで、その
ドラゴンオーブとやらが
どうやって、君達と
関係してくるんだ?」
気になっている事を
聞くと、鈴鹿は
「かつて世界がケムダーの脅威に
さらされた時、
ある天才がドラゴンオーブの力を使って
フェニックスシステムと
いうものを作った・・。
それは、ドラゴンオーブの力を宿した
フェニックスシステムに
九人の人間の魂を
移植させて、
例え何度
その人間達が滅んでも…
その魂に、
適合
する肉体があれば…
ほぼ同じ記憶と強さを
宿す事ができる
ようにしたのじゃ…。
そして、永遠に近い時を生きる事が
出来たその九人は、
やがて…
ケムダーをしのぐ、
力を得て、ケムダー達を
滅ぼす事が
できたのじゃ。」
鈴鹿の話を
そこまで聞いたポチは、
(ちょっと待て!
それじゃあ、
まるでオレの村を
焼きはらった、
あの悪魔と同じ
じゃないか!)
昔の事を思いだしていると…
鈴鹿から
「??どうなされた?」
…と、
聞かれたので、ポチは、
「いや…なんでもない。
それで、まさかフワリが
そのバンパイアみたいな
存在だって、言うんじゃ
ないだろうな?」
まさか…と思いながらも
その事を聞いてみると…
やはり、鈴鹿は、
一瞬目を閉じてから、
首を一度だけ横に
振って・・・
そのあと、
ポチを見ながら
鈴鹿御前
「さあの・・・
少なくとも妾は、
そのころの記憶が
ないから、わからぬが…
妾達のもっとも
古い記憶をもつ者が、
ミューズクレイオと
呼ばれる永遠の記憶を
持つ存在だと、
当時の人々に
告げられておるし…
それに・・・」
鈴鹿が途中で、
止めた言葉をポチが
「それに?」・・・と、
繰り返すと…
鈴鹿御前
「それに、それから、
約四千年のあいだ・・・
千年ごとに
生まれ変わっている
という記憶が妾達の中に
確かにあるのじゃ。」
そう言われて、ポチは、
「ちょ…ちょっと待て!
つまり、フワリの中には
君のほかに、あと三人の
前世の人格があるのか?」
そう言うと、鈴鹿は、
「その通りじゃ。」
やはり、そう答え、
そのあと、さらに・・・
「そして、
5人の妾達は、
ずっと誰かを
捜しておった」
そう言うので、ポチは、
「それがオレだって
いうのか?・・・って!
ちょっと待て!?
じゃあ何か?
前世のオレも
コボルトって事か!」
その事に気づいて、
ショックを受けていると…
それを見た鈴鹿は、
一瞬口元を右手で
触れて、クスッと笑って、
「そのようじゃの…。
そなたは、ずっとフワリが想像しておった
通りの者だったので…
妾も驚いたぞ
しかし・・・
そなたに対しての
記憶は、
どうやら妾達の
前の方の記憶に
関わりが
あるようじゃ・・・。」
そう言うので、ポチは、
「四千年以上も前の記憶
なんて想像もつかないな。それより、やっぱりほかの前世の人にも意識が
代わると君みたいに
姿形が
変わるのか?」
…と、話すと・・・
鈴鹿御前
「うむ。
そうじゃな・・・
しかし、そなたが
思っている事とは、
たぶん、違うと思うぞ」
左手に持った
赤い扇子を
そこでバッと広げて
それで口元を
隠しながら
鈴鹿は、
「ポチ殿が、
たぶん今、
思っている事は、
妾が術で
幻覚の
類を
見せているからでは、
ないか?…と、思って
おるのだろうが…」
…と、そう話し…
そこで、
ポチ
「違うのか?」
…と、話すポチに…
鈴鹿は、口元から
離しつつ広げた扇子を
閉じると、
ポチに、
鈴鹿御前
「見ておれば分かる」
そう言って、スウッ…と
目を閉じて、
また目を
開くと・・・
なんと!そこで紅い目を
持つフワリの姿になって
いるでは、ないか!
鈴鹿御前
「このように妾も
他の人格も
他の人の目に入る光を
利用し・・・別の姿に
見せる事ができるのじゃが問題なのは、
人格の方で、妾は、
月の光の力を
借りないと、
出現する事が出来ぬし…
他の人格にも、
条件が
そろわなければ、
出現しないレアな者もおる…
しかし…変じゃの?」
ポチ
「変?」
ポチがそう言うと、
フワリの姿をした
鈴鹿は、
「フワリには、
無条件に出現できる
二つの人格が、
あるはずじゃが…ぬっ!
そうか!
そういう事か!」
そこまで言っおいて、
フワリの姿をした鈴鹿は
話を中断
してしまったので…
気になったポチは
「???そういう事?」
…ってなんだ?と、
聞くと…
フワリの姿をした鈴鹿は
口元に
閉じた扇子の先をつけて
紅い目を細めながら
「一人は、猫みたいに
素直じゃない奴じゃし…
もう一人は、
唯一の
男子の
人格であるので・・・
昔話
などが得意な妾に
任せた方が
良いと考えたのじゃ…。
頭の中は、そなたの事で
いっぱいじゃからの。
あの雪うさぎは… 」
そこまで、言うと・・・
人格が変わったのか?
突然
口元から離した
左手と、右手を、
ガッツポーズのように
握りしめて、
「ちょっと!
鈴鹿ちゃん!!」
頬を
うすい紅色に染めながら
違う声で少し高い声を
あげるので・・・
その時、確かに
フワリだった・・・
フワリの姿をした鈴鹿は
再び左手に持った
扇子の先を口元に
近づけて・・・
「そう、照れるな
真に
可愛いのう、
雪うさぎは・・・」
そう言って、口元から
扇子を離してから、
スウッー…と目を閉じて
元の黒髪の姿に戻ると…
目を閉じたまま、ポチに
「他にも、光を
利用して、こんな事が
できるのじゃ。」
そう言って、
姿を消したり
そして、また視界に
現れたと思えば、
肩までとどくぐらいの
長さだった黒髪を
背中まで
伸ばしてみたり
…と、ポチを驚かせたが
むしろ本当に驚いたのは
そのあとの事で…
髪を伸ばしたままで
目を開いた鈴鹿は、
バッと広げた
左手の扇子を
また口元に近づけ
「それで、そなたが
一番聞きたがっていた
生活費を
どのような方法で、
稼いでいるか…
についてじゃが・・・
それは…妾達
ミューズの存在
そのものに
関わる事
なのじゃ…。」
そう言って、開いていた
紫色の両目を、また、
スウッと、
閉じると・・・
鈴鹿の身体のまわりに…
月の光にも似た
3センチから
5センチくらいの
青白い光が、ボッボッと
千にもとどきそうな数で
たくさん
浮かび上がってくる…
ポチ
「こ・・これは・・・」
驚くポチに、
紫色の両目を
開いた鈴鹿は…
「ある方法を
用いて・・・
これらの救われない
迷える魂を
正しき方向へ
導く・・・
それが妾達、ミューズが
存在するもう一つの
理由であり・・
フワリの仕事にも
関わる事
なのじゃ…。」
―――――――――――
透き通った
綺麗な声で
そう告げるのだった…。
【Bパートへ続く…】
電気がついた
白いフワリの部屋の中
―――――――――――
少し前…そこでポチが
テーブルの前で
正座しながら・・・
テーブルの上に置かれた
お皿を両手にとって、
その中にはいった
ミルクを犬のように
ペロペロと舌で
すくって飲んでいた…。
―――――――――――
その様子をテーブルの
向かいで正座しながら
見ていたフワリが、
左手で口に近づけた、
ミルクの入った
マグカップをテーブルに
コトンと置いて
フワリ
「やっぱり、
その飲み方が
落ち着くの?」
…と、
尋ねると、
ポチは、
一回両手に持った皿を
テーブルに置いて
―――――――――――
「ああ・・・
コボルトだからな。
なんていうか…身体の
構造が
人の時とは、違うんだ」
そう答えたあと
また、両手にもった皿を
顔の前まで持ってきて、
犬のようにペロペロと
舌で皿の中のミルクを
すくうので、
―――――――――――
フワリが
顎の方に…
右手の人差し指の指先を
つけて
「じゃあ…フワリには、
ポチみたいな
飲み方は
出来ないの?」
―――――――――――
…と、話すと…ポチは、
「出来たとしても・・・
お願いですから、
それは、止めて
ください。」
オレと同じ飲み方は、
駄目です…と、
丁寧語で
頼むのだった。
――――fin―――――