第3話【小さな魔法使い】Aパート
―これまでのあらすじ―
白いジャージを着た
コボルトのポチは、
刑務所を出て・・・
ポチを刑務所から
出してくれた人の
ところへ
向かおうとした時に
なぜか?
その日にポチが、
刑務所を出る事を
知っていた・・・
元詐欺犯達に
襲われる。
そして、
元詐欺犯の仲間である
アマジという男に、
ポチが後頭部をバットで
叩かれて倒れた時、
とどめをさそうと
振り下ろされる
アマジのバットを・・・
突然現れた少女が
左手だけで持った
孫の手で
受け止めるのだった。
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アマジは、自分が
振りおろしたバットを…
左手だけで持った
孫の手で受け止めた
小さな少女を
睨みつけて
アマジ
「正義の味方だあ?
お嬢ちゃん、
良い子だから
そのまま帰んな。」
意外に良い人ぶりを
発揮し・・・
―――――――――――
それを見ていた
元詐欺犯が
「アマジ!」
…と叫んでも、
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薄い青色の
作業服らしきものを着た
アマジは、
「うるせーな!
この国は、子供の数が
少ないから…
手を出したら
重罪
だって、お前も
分かってるだろう!」
…と、
この国の事情を話し…
元詐欺犯を
「くっ・・・」
納得させると、
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自分のバットを孫の手で
受け止めている女の子に
アマジは…
「…と、いうわけだ。
さっさと帰んな」…と、
そう言って、
この場所から
帰らせようとする。
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しかし赤いクツをはいた
その小さな女の子が、
「はい。分かりました。
じゃあ、ポチを連れて、
このまま帰りますね。」
左手に握る孫の手に
力を
いれながら…そう話すと
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アマジは、
「コボルトを連れて
帰るだあ・・・このガキ
調子に
のりやがって!」
そう言って、
両手に持っていた
バットから・・・
左手を離して、
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左拳を
くりだそうとした時、
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キィン!!ビシィッ!!
という衝撃音と共に、
アマジの右手に
握られていたはずの
バットが…
アマジの右手を離れて、
空に舞い・・・
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それと同時にアマジの
右の手首に痛みがあった
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…それは、あまりにも
一瞬の事で、
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間近で
見ていたアマジには、
見えなかったが・・・
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少し離れた場所で
見ていた…元詐欺犯は、
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「連続攻撃だと!」
麦ワラ帽子をかぶった
少女が、一瞬のあいだに
左手に持った孫の手で
アマジのバットを素早く
振り払い
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そのあと、さらに、
刀を抜く前の
侍のように
腰の右側の方に
左手に持った孫の手を
もっていってから…
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居合い切りの
ように・・・
アマジの右手首に
一撃を
加える様子が
見えていたので、
驚いていた。
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しかし、その事に
気づかないアマジは、
自分がその少女の
倍以上の身長があるので
「ふん。だがな、
お嬢ちゃん…
ちっちぇー子供が、
孫の手一つで、
大の大人に
勝てる訳ねえだろ。」
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そう言って、
少女を
見下ろすと…
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少女は、頭にかぶった
麦ワラ帽子のツバを、
また右手の人差し指の
指先で、
クイッ…と、上げて
「そうですか?
だって、お兄さんは、
もおすでに、
フワリの魔法に
かかっているんですよ」
そう言って紅い目で
アマジを見上げると…
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アマジは、
「お兄さんなんて
ご機嫌とっても手加減は…
何!?」
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いつの間か自分の…前、
うしろ、右横、左横と、
四方向に…
同じ姿の少女が
立っている事に気づく…
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アマジ
「四人に増えただと?
残像か?
いや、違う。これは…」
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そう話す、
アマジの様子が
おかしい事に気づいた
元詐欺犯は、
「おい!どうした!
アマジ!!おい!」
何かを思い出すような
顔で遠くを見ている
アマジに
何度も声をかけて・・・
―――――――――――
そのあと、
黄緑色の服と同じ色の
スカートをはいた少女に
視線を移し…
元詐欺犯
「このガキ!アマジに
何をしやがった!」
…と叫ぶと、
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薄い桜色がかかった
白髪が肩までとどく
くらい長い
その麦ワラ帽子を
かぶった少女は、
「あの、お兄さんは、
魔幻想曲の世界の中で、
自分自身と
向き合っているのです。
そして、わるい人さん、
あなたも・・・。」
そう言って、
右の中指と親指で、
パチン!と、音をたてる
すると…元詐欺犯は、
「まさか、
指パッチン
とはな…。
確かに良い音
してると思うが・・・
それがどうかしたか?」
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左手に孫の手を持った
少女に尋ねると
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…その小さな少女から、
「まわりを見て、」
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そう言われたので、
元詐欺犯はまわりを見る
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すると・・・
「何?空中に光の文字が
浮かぶだと?」
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しかも、その光の
文字や、記号は、
立体魔法陣のように
円周に
元詐欺犯のまわりを
囲みこむが
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よく見るとそれは、
元詐欺犯
「楽譜?」
そう・・・元詐欺犯の
言うように、それは、
立体魔法陣型《りったい
まほうじんがた》の
楽譜だった・・・。
元詐欺犯がそれに気づくと…
麦ワラ帽子をかぶった
少女は、
「そうです。
これが、フワリの作った
魔幻想曲の三次元楽譜。
わるい人ひとさんは、今
フワリの作った
結界の中に
閉じ込められたのです」
つまり、
フワリの勝ちです…と、
詐欺犯に
勝利宣言《しょうり
せんげん》する。
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しかし、元詐欺犯は、
「まだだ!
お前をやっつければ、
この変な空間も!」
…と少女に向かって走り
右拳で殴りかかるが
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拳が
少女の顔に、
とどこうとした直前で
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少女
「無駄です・・・。」
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赤いくつを履いた
少女は、
残像を
残しながら…
まるでスケートのように
地の上をすべる事で
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まるでその少女自身も
残像であるかのように…
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右拳を放つ、
元詐欺犯の身体を
真正面からスス〜と、
すり抜け
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元詐欺犯の背後に立つと
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少女
「これは、[残像流歩]
魔法か武道を知らないと
フワリを
捕まえる事は、
出来ません・・・。」
そう言って…
さらに少女が
「そして、[雪幻夢想]」
再び
右の中指と親指を使って
パチン!という音を
出した時・・・
元詐欺犯の頭に
電気のようなものが走り
それと同時に、目の前が
一瞬
真っ暗になる…。
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そして・・・
再び開いた
元詐欺犯の目には…
「雪が・・・
降っている…。」
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そこに少女の姿は無く
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ザクッザクッ・・・と、
両足に履く靴で
踏みしめられるほど、
たくさんの雪が
降り積もっていた…。
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そして、元詐欺犯は、
いつの間にか自分の両手に灰色の毛糸で作られた
手袋が
はめられている事に気づき…
「くそっ、なんだ?
なぜか雪ダルマが
作りたくて作りたくて、
しょうがない・・・。」
欲望の
赴くままに
雪ダルマを作り始めるが
その時、元詐欺犯の耳に
(なんだ・・・小鳥の
さえずり声のような
綺麗な声で、
誰かの歌声が
聞こえてくる・・・
この声は・・・)
―――――――――――
【元曲=母さん、お肩を
叩きましょう】
…ゆ〜きだるまを
つくりましょう〜・・・
りんとんたん・・・
りんとんたん・・・
て〜ぶ〜く〜ろでつくり
ましょう〜・・・
りんとんたんとんりんとんたん・・・・・・・
―――――――――――
雪を、手袋はめた両手で
ころがしているうちに
元詐欺犯の頭の中に…
子供だったころの
純粋な
思い出が
蘇ってくる
―――――――――――
元詐欺犯
(あのころは・・・
こんな事も、楽しくて
仕方なかった…。
なのに、いつからだろう
いろんなものが、
つまらなくなってしまったのは…
いや・・・違う。
つまらなくなったのは、
オレ自身か・・・)
―――――――――――
りんとんたん〜と、
雪の世界に流れる少女の
歌声は…
元詐欺犯の
汚れきった
欲望を子供だったころの
純粋なものへと、
変化させていた・・・。
―――――――――――
子供だったころの
純粋な気持ちを
呼び起こす魔法・・・
それこそが
魔幻想曲の一曲
[雪幻夢想]なのである。
―――――――――――
そして、現実世界では…
麦ワラ帽子をかぶった
少女が、
魔法がかかっている
状態の
アマジと
元詐欺犯を見つめ…
「このお兄さん達が
幻想世界を見ている
時間は、
あと、九分くらいかな…
そのあいだに、なんとか
ポチをつれださないと」
そう言って、
うつ伏せに倒れている
ポチの方に
視線を移すと…
少女
「へみゅ〜・・・
おぶっていく
しかないよ〜。」
―――――――――――
さっそく実践だ…と、
いわんばかりに
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左手にもった孫の手を、
立ったまま
遠くを見ている
元詐欺犯達の近くに
置いてから…
そのあと・・・
うつ伏せになっていた
ポチを背負い
「にゅおぉー!
お…おもい・・・」…と
―――――――――――
自分の両肩の上に
ポチの両腕を乗せると、
背負ったポチの両足を
ズルズル・・と、
ひきづりながら
「うんしょ!うんしょ!」
…と、
自分の家まで歩くのだった…
【Bパートへ続く】
ここで、この世界の
特色などを一つ、
紹介します。
―――記憶の継承―――
この世界の魔法使いは、
魔法を使って、
自分の記憶の一部を
相手に
移植《うつす事》が
出来る。
その情報量などは、
波長が近いかどうか・・
など、
いろいろな条件などが
あるが、国によっては、
両親の記憶の一部を
写す事を
伝統としている事が
あるらしい・・・
ジパングでは、
一般的に
師匠が
弟子に
魔法や剣術と
いったものの知識を、
理解させるための
方法として、
使われている・・・。