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第2話【理想と現実のはざまで】Aパート

それから次の日になって…狩猟民族の衣装を着たまま草むらにうつ伏せて倒れていたポチの鼻が、いつの間にか何かがげたニオイや生臭なまぐさいにおいで充満じゅうまんしていた…

(何だろう?すごくくさいけど…)

それに鼻の感覚がいつもと違っている…。

そしてポチは

「そうだ!確か昨日…」

父親を殺した美青年にコボルトにされてしまった事を思い出し…

両手を地面についてうつ伏せていた状態から起き上がって

(あれ?目が悪くなったのかな…)

視界をはじめ…様々な感覚がいつもと違っている事に気づく…

そんな状態の中…ポチは、血の臭いをにじませる父の死体らしきものを見つけて…

両手を地面について、うつ伏せになっているその死体につぶやく…

「ぼく…コボルトになっちゃったよ。父さん…」

立ち上がって見る視点が低くなっている事から…どうやら身長もちぢまってしまったらしい…

(これからどうすれば良いのかな…。)

…と途方にくれるポチの前にやがて…

「おい!陰口かげぐち

コボルトだ!コボルトがいるぜ!」

足に黒い革製の靴をはいた二人の男が近づいて来る

陰口と呼ばれた男の方は、少し長い髪を金髪に染めた二十歳くらいの男で…

背中の方に黒いすみのようなもので東洋の龍がえがかれた黄色いシャツを着ていた…

そしてもう一人の肩まで届くくらいの茶髪をした軽口という男の方は…

胸のところに墨のようなものでとらが描かれた白いシャツを着ていて…

陰口という隣の男と同じくらいの歳に見える。

そしてその軽口という男の方が

「ねぇ君!村がだいぶ火災の被害にあったようだけど…何かあったのか?」

…と聞いてきたが…ポチには彼が何を話しているのか分からず

「***!*******************…*******?」

…というふうにしか聞きこえなかったので…

それが相手に伝わったのか…軽口が

「もしかして…言葉が通じてないのか?」

…と気づいて、そしてそれまで様子を軽口の隣から見ていた陰口が

「コボルトじゃなくても違う国のヤツにジパングの言葉が通じるわけないだろう…」

…とジパングの言葉で言ってからポチの方を見て、

今度はポチ達が使う言葉で…

「オレ達は、ジパングから来たジパング人だ」

そう言うと…ポチが、

「ジパング人!」

…と興味深げに金髪に髪を染めた陰口の方を見上げてきたので…陰口は、

「通じたようだな…」

ニヤリと笑ったあと…ポチに

「村の家がたくさん焼けているようだけど…

一体何があったんだ?」

村に何があったのか?と聞いてきたので…ポチは、

「実は…」

…と村に悪魔にとり憑かれた青年がやって来た事や…その青年に父親が殺されてしまった事などを話し

「だからこれから父さんにもらった航海券でジパングに行きたかったんだけど…」

そう言ってからポチは、背中に墨で龍が描かれた黄色いシャツを着た陰口に

「あのう…ジパングって、どういうところなんですか?」

ジパングの事についてたずねると…

背の高さが百七十センチくらいの陰口は、

ニヤッ…と一瞬笑ってから…真顔で

「素晴らしい場所だよ。

君みたいな亜人種も平等に暮らせるまさに理想郷さ…」

そう言うので…ポチは、

「本当ですか!」

嬉しそうな顔で聞いてくるので、陰口は、

「本当だとも…

だからオレも早く帰りたいんだが…実は航海券は一枚しかないんだ…。

だから君の家にある航海券の一つをもらったらちょうど良いんだけどな…」

そう話し…それを聞いたポチが

「そんなのお安いご用ですよ!

待っててください!!今もってくるから!」

そう言って、家の方に向かって走ると…

それを見届けた革製のブーツを履いた陰口は、

一瞬、ニヤリと笑ってから真顔で

「ありがとう…じゃあ頼むよ!」

…と少し大きな声で遠ざかるポチの背中を見送るので…彼の隣にいる軽口が、

「なぁ陰口…

さっきまでコボルトのガキとなに話してたんだ?」

…と陰口に聞くと…陰口は、

「なぁに

あのガキがジパングの事を聞きたいっていうから…

お前みたいな犬っころでも平等に暮らせる国だと答えてやったのさ…

そうしたらあのガキ喜んで券をとりに家に戻りやがった♪」

おかげで券一枚の旅費がもうかったぜ…と笑みを浮かべるので…

長めの髪を茶色く染めた軽口が

「バカ!お前ジパングは、昔から…って!

その前にカネはどうすんだよ!

カネがなきゃあのコボルトのガキ

ジパングで生活できないしここにも戻れねーぞ!」

そう陰口に言うと…陰口が、

「うるせえな!そんな事俺が知るか!

だまされた方が悪いんだよ!」

そう叫んだせいで軽口は

「うわっ逆ギレかよ!」

あきれて…それ以上追求するのを止めたので…陰口は、今度は楽しそうな顔で

「ハッハッハ!おもしれーよな!

何も知らねーガキや年寄りを騙すのは!」

そう言って、またハッハッハ!と高笑いをあげるのだった…。

一方そんな事とは、知らずにポチは自分の家に向かって走っていたが…

人間だった頃とは身体の使い勝手が違うせいか…

走る途中でドスンと前の方に何度も倒れてしまう…

(でも…何だか身体が軽いや…)

そのうちポチは身体にれれば慣れるほど…フワリとした感覚が自分の中で広がっている事に気づき…

そうやって自分の身体と悪戦苦闘しているうちに…やがて…自分の家らしきものが映りはじめたので…さらに家の間近まで近づいてから立ち止まる…

「ここ…だよね…」

もちろん人間の時とは見えている光景が違うために

確証かくしょうはないが…

(でも…ここが自分の家だって感じがする…)

それが本当かどうか…その家の中に入ってから…自分の鼻を使って確認すると

「クンクン…うん。このにおいだ…」

確かにそこは、ポチとマテが住んでいた家だったと確信するのだった。

そして・・・

(コボルトになったせいかな?

なんだか家の中がすごく懐かしい気がする…)

そんな事を感じながらポチは、テーブルの方に進んでいき

「う〜んと…シャシンとコーカイケンは?

あった!あった!」

椅子に座ってから数枚の写真と二枚の航海券をその手に取ると…

少しのあいだ父親との思い出にひたってみる…

「父さん…」

つい昨日の事なのに今思うと…ずいぶん昔の事ように感じられた…。

両手にとった写真に映る若い頃の父親の顔をポチは、思い出の中の父の姿とかさねて

「父さん…ぼくジパングに行くよ…。」

行けば何かが変わるかも知れない…

何も知らない子供にとって見知らぬ国は、まるでおとぎ話に出てくるような魅力的な世界に感じられた…

「だから一緒に行こう…父さん…」

ポチは右手に取った一枚の写真に映る父親にそう語りかけると…

ガタッと…椅子から立ち上がり…その写真と2枚の航海券を右手に持って…

扉の向こうにある外の世界へと一歩足を踏み出す…

そしてポチは、それから少し歩いたあと…立ち止まり空を見上げた

「やっぱり空が白く見えるなあ…」

ポチがコボルトになってから両目が大きくなったものの…実は、その視界は退化していた…。

世界がセピア色にしか映らないし…その上その目から映る映像も人間だった頃と比べると…ボンヤリとしか映らない…

(でも耳や鼻は、前より良くなってるから…ジパングの人と話が出来たわけだけど…)

ポチの現在の視界を人に例えて説明すれば…

近眼の人が白黒の映像でしか映らない視界で見ているようなものだった…。

そんな色の無い空を見上げながら…ポチは、かつて父が話した言葉を思い出す

「人は死ねば空に帰る…

だけどなポチ…人は、空に帰っても空に浮かぶ白い雲や風となって、大好きな人達を見守っているんだ」

それは、ポチがいつも見る空の色とは違っていた…

「父さん…見えてる?

ぼくは、ここにいるよ」

それから陰口達に航海券を一枚手渡し…港へ向かうポチの心は、人の時に見た時と変わらないあの青空の色をしていた…

《つづく…》



コボルトになったあとのポチは、自分の目で見る映像が…すべて白黒テレビに映るような景色になっています。

姿や毛色は柴犬をイメージしてもらえれば…それと身長は1メートルくらいです。


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