第1話【コボルトになった少年】Bパート
マテが外へ出ると…
一歩踏み出そうとする彼の目に
…
「こ…これは…」
。
炎上する村の家が何件も映る…
だが災厄は、それだけではなかった
。
「きゃあああー!」
、
「助けてくれええー!」
、
村の女性や男達が叫び声をあげながら逃げまわっている…
その中から村の民族衣装を着た褐色の肌の男が
…
「マテさん!」
…と叫びながらマテの方に近づいてくるのでマテが
「シュワシュワか!
一体どうした!何があった!?」
状況を把握しようとその男に聞いてみると…その男は
、
「男が…男が突然現れて村の人達を!」
その続きを言おうとした時突然!ボッと
、
「ギャアアアー!」
、
その村人の男の全身が炎に包まれる。
それを見て
「シュワシュワァー!」
、
マテが炎に身体を焼きつくされるその村人の名前を叫ぶと
…
???
「おやおや…元気の良い声が聞こえてくるねえ…」
。
どこかから誰かの声が聞こえてくる…
それを聞いたマテが、
(まさか?)
その声が聞こえる方向へ走ると…そこには肌を露出するような派手な服装をした美しい青年の姿があった
。
少し長いオレンジ色の髪に青い瞳をしたその青年は、一見女性と
みまごうばかりの美青年だが…
その青年には、どこか妖しげな雰囲気がただよっていた…。
18歳くらいに見えるその青年の姿にマテは
、
「貴様人間ではないな」
。
その姿の中に別の影を見ていた。
そして…マテのその言葉を聞いた美青年は、ニヤリと微笑みを浮かべながら
、
「ほう…よくわかったね。君の推察通り僕は、レッサーデーモンと呼ばれる悪魔の分身さ」
。
自らの正体を告げる。
そんな美青年の姿をした悪魔を前にマテは
、
「なぜ人間の姿をしている!?」
、
両手で握りしめた木の槍を構えるマテの問いに…美しい青年は
、
「僕達悪魔はこの世界では実体では存在できない者なんでね。
こうして波長の合う人間の身体を支配する事で、この地に存在できるようになっているのさ…」
。
いわばこの肉体に寄生してる訳だよ…と説明して、それを聞いたマテが
、
「では、その姿の本当の主は?」
…という問いに美しい青年は興味があるのかい?と微笑み
…
「金持ちの夫人と不倫していた貴族の息子さ…
夢の中で夫人の姿に化けたら、あっさりと堕ちてくれたよ。
道ならぬ恋の果てに悪魔にとり憑かれるなんて…不幸だよね。この人も…」
。
そう言ったあとで、ハハハハハ!と笑い声をあげるので…怒りに震えたマテが
「クズが…」
はき捨てるように言うその言葉など意に介さずに美青年は
、
「まあ僕は、こんなカスみたいな奴の身体より…君みたいな強そうな人の身体の方がほしかったんだけどね…」
。
残念そうに言うので、それで…
「だから、この村を襲ったのか!」
怒るマテの言葉に美しい青年は、
「そうじゃないよ。」
…と首を何回か横にふってから
、
「僕達は、波長の合う人間しか乗っとる事しかできない。
だから誰にでも自由にとり憑ける訳ではないんだよ。」
そう言うので…
「だったら、なぜ!」
こんな事をするんだ!と苛立つマテに美しい青年は
…
「気にいらないからかな?」
、
マテ
「なに!?」
、
美青年
「君達番犬族は、自分よりも相手を大事にする偽善者が多いし…
古くさい秩序や文化にどこまでも忠実なご都合主義の民族だ。
それって時代遅れなんだよね。」
…
冷たい目で見ながらマテ達の部族を非難し…さらに
、
「番犬族は三日の恩を忘れない?ヘドがでるよ。
人間は、もっと自由で欲望に忠実なはずだろ」
。
「貴様…」
。
怒りをグッとこらえるマテをさらに挑発するように美青年は
、
「このままどんどん人が欲望にのみこまれていけば、やがてかつての魔法文明のようにケムダー《貪欲なる者》に変わる者が出てくる…
だから僕は、現在の時代にそぐわない君達のような偽善者を殺しているのさ…」
。
そう言ったあとで高らかに笑う青年の姿に耐えられなくなったマテは、両手から右手に持ちかえた槍を
槍投げのように右肩の上までもっていき
、
「キサマアアアー!」
、
そのまま槍投げのフォームで青年に向かって、ブン!と投げる
。
そしてマテが投げた槍は、美青年を貫いたかに見えた…。
しかしそれは美青年の胸のところをスルリと通り抜け…
そのはるかうしろの大地に槍の先端が突き刺さる。
それを見て…
「こ…これは、一体?」
、
呆然とするマテの背後から…何者かがブスリとマテの心臓に剣を突き刺した…
。
そして・・・
。
「か…かはっ…」
。
心臓を貫かれたマテの左胸から赤い血が、ツゥー…と下の身体をつたって、地面の方へ流れ落ちる…
。
美しい青年
「さっきのは…ビジョン《幻影》っていう魔法なんだ。
へへっ…すごいでしょ」
。
うしろから剣を突き刺したオレンジ色の髪の青年の声が聞こえる中…
マテは薄れゆく意識の中で…
(ポチ…)
子供の名を呼びながら膝からくずれるようにドサッと前の方に倒れた
。
そしてココホレの家の中では…
「父さん?」
、
マテが最後に発した心の声は、テーブルの前で座って待つポチの方へ直感という形で届いていた…
。
それでポチはガタッと、いても立ってもいられず…席を立って、家の外へ飛び出すと…
。
ポチの目に…やがて燃える家…灰になった人々と…様々《さまざま》な災厄が映り始めた
。
その悲惨な光景は、子供の心には、耐えられず
…
「うあ…うあああん!」
、
思わず泣き出してしまったポチは
…
「父さん!父さあん!」
、
涙で濡れる目で父親の姿を求め、さまよいながらただ歩いていると…
やがてポチの目に…うつぶせて倒れているマテの姿が映りはじめる
。
「父さん?」
、
泣き叫ぶのを止めてマテに近づくポチに
…
「おや?まだ子供が残っていたんだ…」
。
刃が赤い血で濡れている剣を右手に持った美しい青年が声をかける
。
その少し長めのオレンジ色の髪の美青年に見られている事に気づいたポチは、
「あ…あう…」
その青年から放たれる邪悪な気配を感じとったせいか…
恐怖で声がでない…。
そんなポチをあざ笑うかのように美しい青年は
、
「フーン…君のお父さんなんだ☆この人」
。
血の海にうつ伏せて倒れているマテを見て
…
「どっしよかなー♪
このままあとを追わせて殺すのも良いけど…」
。
どうしてほしい?と…再び恐怖で身体が硬直しているポチの方に視線を戻し…
そしてそのあと美青年は
「そうだ☆」
何か思いついたように一歩も動けないポチをジッと見つめ…そして
…
ポチ
(あれ?)
それから少し時間が経つにつれ…いつの間にかポチの身体がザワザワと毛深くなり…鼻や口がだんだんとつきだしていく…
。
やがて…ポチの耳の位置が上の方にずれて…顎が人間ではないものの形へと変化していた…。
そんなポチの変化を美しい青年は、得意気な顔で見下ろして
…
「君は、これからコボルトとして生きていくんだ。
ああ♪そうそう…
おとぎ話じゃなくて現実だから…元に戻る方法なんてないよ」
。
どうしても元に戻りたければ死ぬしかないね♪…と高らかに笑う。
するとポチは、
「あ…う…」
悪夢としか言いようのない変化に耐えられず…
父親と同じように膝からくずれおちてドサッ…と前の方に倒れた
。
うつ伏せに倒れたポチを見て、オシャレなブーツをはいた美しい青年は
、
「君はこれからその姿のせいで…もがき苦しみ絶望の中で生きていくんだよ」
。
再び目覚めた時が本当の地獄の始まりだよ☆と言い残し…その場所を去っていくのだった…
。
《第2話へ続く…》
悪魔の呪われた力によってコボルトになったポチは、希望を求めてジパングへ旅立つ…
しかしそこで待っていたのは、過酷な現実だった
。
次回第2話〜理想と現実のはざまで〜
。
悪意のある嘘は人を滅ぼす…