最終話【ヘルメス学院】Aパート
夜。電気がついた
フワリの家の
一部屋で…
白いジャージを着た
ポチが
机の前の椅子に座って…
机の上でノートを開いて
一人、勉強していた…。
そんな中…
コンコン…と、
部屋のドアを叩く音がして・・・
ポチが動かしていた…
右手に持った鉛筆を止めて・・・
「はい。」
…と、答えると・・・
???
「入るわよ。」
ミルクティーを
入れた皿をのせた
お盆を
両手に持ったシルフィが
ガチャッと…部屋の中に
入ってくる…。
その時、
椅子に座ったまま
うしろを向いたポチが
「あれから・・・
毎晩ご苦労様だな…
自分達の仕事もあるのに
大丈夫なのか?」
…と、
シルフィに声をかけると
シルフィ
「大丈夫よ。
それに、あなたに学院の
転入試験をしろと…
言ったのは、あたしだし
そう言ったぶんの責任が
あるわ・・・。」
シルフィがそう言うので
ポチは・・・
「そうか・・・
じゃあ、オレが
質問ばかりして…
ずっと…ドアの前に、
立たせてるのも悪いから
早く、ここに来て
勉強を教えてくれ…。」
シルフィ
「うん。わかった…。」
シルフィと、
そんなやりとりを
しながらも…頭の中で
ポチ
(でも…少し
がんばりすぎな
気がするな…
無理して、風邪とか
ひかなきゃ、いいけど)
そう思いながら、
顔を机の方に戻し…
鉛筆を持った右手を
動かそうと…
机の上の方に意識を向けるが…
そんなポチの心配は…
数日後、現実のものとなる・・・
→夕方〜フワリの白い部屋・・・
電気がついた、
この部屋のベッドの上の
白い布団の中で…
???
「うっ…
こほっ、こほっ…」
シルフィが寝ていた…。
その枕の横では、
そこに椅子を持ってきた
ポチが…
持ってきた椅子に
座って…
「だから、無理するな
…と言ったのに・・・」
…と、ぼやいたあとで
一度、ハァー…と、
ため息を吐く・・・。
すると…シルフィは、
「ごめん。
長いあいだ、
フワリの身体を
借りてたものだから…
つい…体調の変化に
気づかなくて・・・」
そう言うので、ポチは、
「だから・・・
風邪で寝込んでも、
ずっと…自分の人格で
いる訳なんだな…。」
…と、病気になっても、
フワリの人格にならない
理由を知ると…
シルフィも当然でしょ
…と、ばかりに
「だって、あたしの
やった事が原因で、
こうなったんだもの…
だから、この風邪は、
責任をもって、
あたしが対処するわ。」
そう答えるので…
ポチは、
「まあ、そうしたいなら
すればいいさ…
オレも
シルフィの立場なら
同じ事を
考えただろうし…。」
そう言いながら、
頭の中で…
(たぶん、フワリも
そんなシルフィの考えを
理解しているから…
何も
言わないんだろうな…)
まだ、小さいのに…
他の人格の事を
よく理解してるな…と、
感心するのだった。
それから、ポチは、
シルフィが、ずっと…
布団の中に身体を
寝かせたまま
話しているので…
ポチ
(そろそろ部屋を
出ようかな・・・)
…と、考えていると、
そこに、シルフィが
「でも、情けないわ…」
呟くように
そう言っていたので、
気になって…
ポチ
「どうした?」
なるべく
優しい口調にして、
そう話すと・・・
それで気を許したのか…
シルフィが、
「明後日が
ポチの試験日なのに…」
…と、くやしそうに
話すので…
ポチは、そう話す
シルフィの顔を見て、
「泣いてんのか?お前」
つい…その事に口が
いってしまうと・・・
シルフィは、布団から、
バッ…と、上半身を
起こして…
ジワッと紫色の両目に
溜まった涙を…
着ている黄緑の
パジャマの左腕で、
ゴシゴシこすったあとで
シルフィ
「違うわ。
これは、水滴が目の方に
落ちてきたのよ。」
そうポチに話すが…
さすがに、これには、
ポチも…
「す…水滴って…」
(天井にも屋根裏にも
穴は、あいてないし…
第一、今日は、
雨が降ってないのに…)
すんなり納得して、
いいものか、どうか…
考えていたが…
その時・・・
ポチの考えてる事に
気づいて…
シルフィ
「な…何よ・・・」
頬を薄い紅色に染めるシルフィの
ある部分に目がいき
ポチ
「そういえば、今日は、
髪…伸ばしたままなんだな…。」
頭の左側の銀髪を
いつものように、
リボンで
結んでない事を
指摘すると…
シルフィ
「当たり前じゃない!
いくら今の姿が幻でも、
風邪をひいたら、
リボンは、取るわよ。」
まあ、正確には…
取った姿になったんだけどね…と
シルフィが話すので、
ポチは、
「そうか…」
…と、犬のような口で
バウバウッ…と笑って、
そんなポチを見て…
シルフィ
「こらー、笑うな!」
そう言ったあとで、
両手で持ち上げた布団で
恥ずかしそうに…
口元を隠す、シルフィに
椅子から立ち上がって、
ポチは…
「じゃあ、オレ…
お粥でも
作ってくるよ。」
そう言って
部屋のドアに向かって
歩くので…
ベッドから、上半身だけ
身体を起こしていた
シルフィも、
「ちょっ…ちょっと
待ってよ。
お粥くらい、
今のあたしでも…」
両手にもっていた
布団を取って、
ベッドから離れようと
するが…
立ち上がって、
数歩を歩いた時に
シルフィ
「きゃ!」
スッテーン…と、
またマンガで見るような
左足が膝から
曲がって…
背伸びするように
両手を伸ばした
見事なコケ方を
していた…。
一方
ドアを開けようと
していたポチは…
シルフィがコケた時の
音を聞いて
うしろを振り向くと
なんと、シルフィが
うつ伏せに
倒れていたので、
シルフィのところに
行って→
両手を使って
助け起こし…
シルフィの首のうしろと
両足の膝の裏の方に
両手をかけて抱えるが…
それから…ベッドの上に
シルフィの身体を乗せる
までのあいだに
シルフィが…
(む…胸がドキドキする
あー!もう!
静まれってば!)
頭の中で
そんな事を考えながら…
恥ずかしそうに
ポチの方を見るので
気になってポチが
シルフィの方に視線を
向けると…
シルフィは…サッと、
視線を合わせないように
顔を横に向け、
ポチが視線を
ベッドの方に戻すと、
またシルフィが
チラッと、ポチを
見ているようなので…
ポチがシルフィの方に
視線を向けると、
またサッと顔を横に向けるので
ポチ
(やれやれ・・・)
…と、ポチは、
シルフィをベッドの上に
寝かせるのだった。
そのあと…
布団をかぶった
シルフィは、
「でもポチは、
コボルトで…手足の爪が
犬の方に近いから・・・
料理とか…作りずらいん
じゃないの?」
そうポチに話すと…
ポチ
「いや…大丈夫だろ。
いつもシルフィが
作るのを見てるし…」
そうポチが言うのを聞いて…
シルフィは、
「なっ・・・」
恥ずかしそうに
頬を薄い紅色に染めて
それからポチに
シルフィ
「い…いいわ。
そこまで言うのなら…
大人しく待ってる…。」
…と、話すのだが・・・
ポチ
「分かった。
けど…どうしてこっちを
見ないんだ?」
シルフィ
「か…風邪がポチに、
うつると困るからよ。」
…と、シルフィは、
ポチの方へ背中を向けて
ポチが部屋を出るまで
なぜか?ずっと…
横向きに寝ていた…。
しかし…
ポチが部屋から出たあと
シルフィ
(な…なんだろ。
なんとなく…いや〜な
予感がするんだけど…)
そして、そのあと…
シルフィの不安は、
現実のものとなる・・・
それから…少し
時間が経つと→
お粥の入った
大きなお椀を、
乗せたお盆を…
ポチが両手に持って
部屋の中に入って来たので…
シルフィは、
ベッドから起きて→
それから…
ポチが正座している
テーブルの向かいの場所で正座をすると…
シルフィ
「いただきます。」
…と、自分の前に出されたお椀の中のお粥を
左手に持った
スプーンのようなもので
すくいとり・・・
それをパクッと、
口の中に入れた。
しかし・・・
それを口に入れた
途端
シルフィの体温が
一気に下降し…
シルフィ
(な…何これ・・・
なんで、こんなにお粥が
不味いの…。)
なんとか…その一口を
モグモグ…と食べ終わり
もう一口
食べる時に、
シルフィ
(分かってるの。ポチ…
料理が不味くて
許されるのは、
子供の時だけなのよ。)
そんな事を思いながらも
それから2度3度…
左手に持ったスプーンを
口に、はこんでいると…
正座から
あぐらに変えたポチは、
シルフィが
顔に何本も線がはいった
ような表情をしながら…
滝のようにダラダラ汗を
流している事に気づき…
ポチ
「どうした?もしかして
不味かったか?」
…と、声をかけてきたので・・・
シルフィは、一度
口に、はこぶ手を止めて
(ど…どうしよお〜
素直に不味いって言えば
いいかも知れないけど…
せっかく、あたしのために作ってくれたんだから…
それは、冷たいと思うし
う〜ん…ここはまず…)
シルフィ
「イマイチね・・・
これから、あたしが
あんたでも作れるような
料理を教えるから…
試験が終わったら、
一緒に作るわよ。」
そう言いながら頭の中で
シルフィ
(それで、いいわね。
フワリ・・・)
また、たまに
あんたの身体を借りるわよ…と、
フワリに呼びかけ
それにフワリが
(うん♪いいよ。
ポチも
「よろしく頼む」
…と言ってるようだし)
・・・と、答えたので、
シルフィ
(分かったわ…。)
・・・と、シルフィは、
また左手を使って…
お粥を全部、
食べきるのだった…。
しかし、そんな無理が
たたってか・・・
シルフィは、お粥を
食べ終わると…すぐに
テーブルを離れ
ポチに・・・
「もう、あたしの事は、
いいから・・・
あんたは、明後日の
試験の事を考えなさい」
そう言って→
ベッドの上で横になると
ポチも
「分かった。」
上に、お椀やスプーンを
乗せた、お盆を持って…
テーブルから立ち上がり
ドアの方まで行って→
部屋を出ようとするので
ドアノブが閉まる音が
聞こえたシルフィは、
その方向に背中を
向けたまま・・・
シルフィ
(これは、なんとしても
明日までに風邪を
治さないと
いけないわね。)
ダー…と、滝のような
涙を流すのだった…。
・・・そして→試験当日
フワリの家の前で…
茶色い制服を着たポチは
黒く大きなカバンを
右手に持って・・・
水色のワンピースのようなものを着たフワリに
見送られていた・・・。
フワリ
「いってらっしゃい」
そう言って、
左手を何度か横に振る
シルフィに
ポチ
「あっ…いや…ああ…
行ってくるよ。」
そう言って、
ポチは、背中を向ける…
ポチ
(ふぅ…やっぱり少し
緊張してるな…でも…)
空を見上げると…
白黒だったはずのポチの
視界に一瞬、
青い色がかかる・・・。
カバンを右手に持った
ポチが
うしろを振り向くと…
そこには・・・
背中のうしろの方で
両手を組んで、微笑む
フワリの姿があった…。
目を閉じて
ほがらかに微笑む
フワリを見て
ポチは、
(そう言えば・・・
ときどき、こんなふうに
景色の色が感じられる
事があった・・・
それは、まさか…)
そう…それは・・・
ポチが気づかないような
ささやかなものだが
確かにフワリの魔法だったのだ…
ポチ
(ありがとうな
フワリ・・・)
頭の中で、そう言って
ポチは、学院への道へと
身体を戻す・・・。
そして、ポチは、
学院へ向かう途中で
張りつめていた気持ちが
いつの間にか…少しだけ
和らいでいた事に気づくのだった・・・。
【Bパートへ続く・・・】
え〜と、今回は、
シルフィが身体を壊して
風邪をひいてしまう
話です。
なぜこんな話を
思いついたかと言うと
自分も風邪を
ひいたからです(笑)
お願いですから…
前回みたいに癒しの風で
治せばいいだろ…という
ツッコミは、無しに
してください(泣)
第一、部屋の中で使うと
ものが散らかるんですよ
あの魔法←《言い訳になってねー》