一部・五章、こんな時でも胸に目が行く
続き続き。
00県、狭階市の狭階駅前、今俺達はそこで立ち往生していた。
「……ふぅ~」
ボーっとしている(ように見える)みな姐の耳に息を吹きかけてみる。
ボスッ
肘鉄を鳩尾にいただきました。
「今度やったら…」
「もうしません。」
「よろしい」
短くため息をはいて駅前にいる化け物の方へ向き直るみな姐。
三十分以上、ずっと物陰に潜んで観察している。
化け物の見た目は人間、上半身は。
下半身は…なんだろう?クモ?サソリ?なかなかに豊満な体つきをしている。
つい、横にいるみな姐の胸元をみて比べてしまう。うん、ほどよい大きさと素晴らしい形をしている。
ゴスッ
「……」
「すみませんでした。」
頬にストレートいただきました。
さて、ふざけてないでもう少し観察(敵の)してみよう。
左手に何かもってる、鞄かな?ストラップやアクセサリーがいくつかついている。
よく学生がもってる紺で四角いやつだ。
背中には傘みたいなものが刺さってる。
誰かが闘ったあとだろうか。
目が真っ赤だ、血涙を流してるように見えなくもない。
鼻が無い(小さい?)、なんか間抜けで面白い。
耳がないな、突破口はあそこかな~。
ゲームなんかで音に気づかないから静かに後ろに回り込んで不意討ちかませばいけそうかなとか考えてたら、
目があった。
試しに手を振ってみる、満面の作り笑顔で。
「おーい♪」
「ぎああああぁぁぁぁ!」
化け物が雄叫びをあげる。
「うわああああぁぁぁ!」
横のみな姐も雄叫びをあげる。
「なにしてんのあんた!?なにしてんのあんたぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴だったみたい。
「挨拶しなきゃ失礼かなって。」
「それならはじめましてからの自己紹介でしょ‼」
そこなんだ。
「じゃあやり直」
「バカ、逃げるの‼」
手を引かれて走り始める。
あ、なんかデジャブ。
しかしみな姐、いつもしっかりしてる。
今も迷わず逃げる判断をした。
普通の女の子なら俺の行動を責めるか、恐怖で動けなくなるかのどちらかだ。
みな姐の自宅にはいくつか写真が飾ってあったが、いつも真ん中でまわりから笑顔を向けられている。
反対にみな姐自身は少し堅いというか、緊張しているみたいな顔をしている。
キリッとしているし、周りをよく見ているけれど、家でも小さな妹がいるし肩の力を抜くときはあるのだろうか。
ガッ
考えてたらつまづいた。
「ちゃんと走って‼」
「おっとっと?」
ノンフライで美味しい!じゃなかった、あぶねっ。
「早く!」
不安定な体勢で腕を強く引っ張られ、たたらを踏みみな姐にダイブしてしまった。
倒れる俺を反射的に受け止めようとこちらをむいたせいで、
胸に
胸部に
バストに
乳にダイブしてしまった。
みな姐は背中のバックパックに体が押し上げられて、俺の顔がみな姐の肋骨にぶつかる感覚があった。
…なんだろう、異性の胸に突っ込むというラッキーで定番なイベントなのにこの現実的な、痛みしか感じない状況は。
まあ、せっかくだから少し堪能しよう。
「早くどいて!」
「ん~あと五分~」
「やぅっ!?、もう、どいてっ」
「スーハースーハー」
「どいてってば!!」
「ねえさ~ん!!」
「今それどころじゃないでしょ!?」
途中、生娘みたいな声が聞こえたな。
…どきましょうか。後で怖いからではないよ。
紳士として当然の振る舞いだからだよ?
「痛て~ごめんごめん」
平静を装い残念スケベを堪能した額を擦りながら起き上がると、みな姐と目が合う。
声は出してないけど、口の形がぶっ飛ばすと言っている。
大変だリアルJKにぶっ飛ばされるなんて今後俺の人生であるかないかの体験だなんという俺得とか考えてるうちに、
「ゲルルルル」
獣みたいな声がすぐ後ろから聞こえた。
二人して振り返る。
さっきの痴女クモさんがいた。
なんだ痴女クモさんって。
自分に突っ込んでしまった。
「えみ…」
みな姐がぼそりと何か、名前?を呼んだ。
俺の名前はわれもの、変ではない、両親の許可を得て改名した世界一覚えやすい名前だ。
よってえみではない。
みな姐の母と妹もえみという名前ではない。
ということは…
「知り合い!?」
化け物とみな姐を交互にみて思わず突っ込む。
「そうですよ~」
「しゃべった!!」
化け物のほうから肯定の返事がきて思わず突っ込む。
あぁそうだ、挨拶をし直そう。
動揺しつつも、呼吸とやや猫背な姿勢を整える。
「どうも、初めまして、われものといいます。」
「初めまして、真辺えみ、アラクネです♪」
アラクネ、クモなんだ。
疑問が一つ解決した。
「こんなところで一人でなにしてたんですか?」
「ちょっと探し物をしてました~」
「ほうほう、何をお探しで?」
「鞄に入れておいた私の卵が無くなってて~、あ、無精卵なんで子供は生まれないんですけど~」
「食べれたりします?」
「わからないですね~人間の方には大味かな?」
「そうですか~」
しゃべり方が移った。
「どんな卵ですか~?」
「ダチョウのみたいな、大きめのやつです~」
「ちょっと待った!」
俺と真辺さんが話している間驚いたまま固まっていたみな姐が急に大声を出す。
「どしたの?みな姐」
「みな、みな姐って呼ばれてるの?」
「そうなんですよ、初めてあったときに」
「あんたは黙って」
鼻を爪をたててぎゅーとされた。
「えみ、私がわかるの?」
「え、うん、わかるよ?」
「…。」
「みな?どうしたの?」
頭を抑えて近くの半壊したベンチに座るみな姐。
「?」
「?」
疑問符を浮かべ顔を見合わせる俺と真辺さん。
続く続く。