一部・四章、一回頑張ってみるか
続き続き。
愛沢みな。
出会ってから五日がたった、壊れた世界の我がヒロイン様だ。
黒髪を後ろに縛って左肩から前に垂らしている。
切れ長だが、たまに驚くとぱっちりと開く目がなんだか可愛いらしい。
ショートパンツにスニーカーを好んで着ている事が多く、さばさばしている彼女の性格を表すかのようだ。
渋○鈴とか七咲○とか蒼星○みたいな。
キリッとした雰囲気がある。
十八歳で高校生だったが、異世界系が襲来した際、友人の静止を振り切って自宅へ帰り、家族を守るためにすでにアンデッドがうようよしていた街を切り抜けてきた機転と胆力を併せ持つ。
身長は俺が一七六だから十三~四センチくらい低いだろうか。
年下だけどみな姐と呼んでいる。
「膝枕で」
「却下」
現在、死ぬ前にやっておきたい事を聞かれた為、考えて妥協した結果、
「じゃあ壁ドン」
「却下」
さっきから却下されまくりである。
ちなみに俺が膝枕する方で、壁ドンされる方だ。
「全部却下されちゃった」
「……(ため息)。」
なぜ死ぬ前にやっておきたいことを聞かれているか?
簡単だ、シャワー(水)を浴びてたらみな姐が入ってきたのである。
せっかく覗かれたので、フルオープンでいたらお前の罪を数える事になった。
さっきから一度も目を合わせてくれないのと、顔が赤いことから印象につよく残ったみたい。
「あぁ、もういいよ。」
力の無い笑みを浮かべながらそういってくるみな姐。
「壁ドンやってくれるの!?」
「本気で言ってる?」
「冗談です」
そろそろからかうのをやめないといい加減怒られてしまうかな。
現在の状況。
みな姐の家で耐久中。
みな姐の母親と妹(八歳)はいるが父親は連絡が取れず、今どうしているかはわからないらしい。
少し金銭に余裕のある家らしく、モデルハウスのような大きな窓(今はテーブルなどのバリケードでふさがっている)、対面キッチンIH付き、玄関に座椅子、屋根にソーラーパネルなどがあり、安アパートで幼少を過ごして、安アパートで独り暮らしをしている俺は温かい床に嫉妬し歯ぎしりを我慢するので精一杯だった。
が、みな姐の妹に、
「お兄さん、どうしたの?なんで泣いてるの?どこか痛い?」
と心配され頭を撫でられて嫉妬に呑まれそうになった心をリアルエンジェルに慰められ、俺はこの子のパパにならなくちゃいけないんだななるほどだとするとみな姐を嫁にして妹ちゃんは娘であれお母様はどうしたらあぁそうだ不倫相手ってことでいいか一瞬なんとゆう俺得と考え言いそうになったが(言ったが)、なんとか我慢し(言ったけどね)、疑問符を浮かべる愛沢母子の視線を華麗にスルーし(詰問されたが)、父親が帰ってくるまで護衛兼荷物持ちで少しの間お世話になる事になった(土下座して頼んだ)。
「まあ、力仕事をしてくれるのは助かるけどね」
「でしょ?」
「そうやってすぐに調子にのるから毎回毎回追いかけまわされるんだよ?」
「それに関しては俺から溢れるカリスマ性が」
「反省しなさい」
「すみませんありがとうございます。」
言おうとした事を途中で遮られて、ジロリと睨まれる俺。
ハスハス。
みな姐は慎重派みたいで、忍び足で進み、風向きや日の向きなんかも気にしながらルートを開拓しつつ進んでいくタイプのようだ。
対して俺は作戦を立て自らの手でぶち壊して敵に見つかるパターンがおおい。
短い期間で俺の性格は理解したらしく、あまり怒ったり罵声を浴びせなくなってきてしまった。残念残念。
あ、あと妹に接触禁止とされた。
電気はソーラーパネルでなんとかなるとして食糧は調達しなければならず、しっかりしているものの、高校生の女の子で体力的に多くは運べないみな姐に荷物持ちとしてついていく形でなんとか役にたっている。
「仲がいいわね」
みな母さんが楽しそうに横から口を挟んでくる。
「やめてママ、このアホ本気にしそうだから」
みな姐、それはちがう。
こんなときだから肩の力入りっぱなしなのをなんとかほぐそうとしてるんだけど。
そして人に気を使うと俺にもストレスがたまるから適度に欲を発散して溜め込まないように気をつけてるだけで。
社会人の鉄則であるガス抜きだ。
慢心、ダメ、絶対。
+ - + - + - + - + - + - +
「この辺のお店も食べ物が無くなってきたね」
みな姐からの有難いお説教を遺憾の意で受け止めた後、近所のコンビニ後やスーパー後は食糧が残っていないから、今後を考え少しでも多く食糧を確保するのを優先し、危ないけど一体で警官隊を全滅させた化け物がいるらしい(まるが出発前言ってた)駅前の方へ行く?と試しに提案をしてみよう。
「みな姐、駅前の」
「却下」
「まだ言い切ってないのに」
駅前だけで反応した。
「駅前は一度行ったけど、勝てる気がしないし、逃げ切れる気もしないのが居たから嫌」
なんと、一度行ったらしい。
「なんかすごいのがいるらしいけどどんなの?」
「……。」
あ、黙った。
みな姐は口を真一文に結び俯いている。
みな姐と会ってからこんな顔は初めて見た。
しまった、その駅前でなにかあったのか。
「駅前以外ならどこか心当たりある?」
やや強引に話題と行き先を変える提案をしてみる。
すると、みな姐は少し驚いたような呆れたような顔をして、俺をみる。
あ~気を使ったのがばれたな、少し露骨だったか。
思いやりみたいなのを普通にできるようになりたい。
なりたいだけじゃ、出来ないけど。
人に気を使って常にキョロキョロ(キョロ充だっけ?)してる奴をネットなんかで馬鹿にしていたりするけど(実際馬鹿もいるけど)、円満でなくとも誰だって人に気を使う事は出来る。
ただ、周りに気を使いすぎて自分がパンクしないようにはしないといけないよね。
会ってまだそんなにたってないけど、みな姐はガス抜きが下手っぽいから少し心配。
「聞いてる?」
「え?」
「またボーっとしてたの?」
いけない、独白してたら話しかけられているのに気付かなかった。
「や~ごめ。」
自分の感覚ではごまかし笑いの、人からはニヤけて気色悪いと言われたどうも使い勝手のわるい顔でごまかす。
「行ってみようかって言ったの。」
「ん?何処へ?」
「駅の方へ」
「お、良いの?」
「…うん、大丈夫だから、一緒に来て。」
行こうじゃなくて、来て。
「他の場所とかに行くのでもええよ?」
「大丈夫だから、…本当は少し嫌だけど。」
この場合、少しじゃないな。
「確かめたい事もあるし」
そっか。
少なくともみな姐は、俺をアホとは呼ぶが考えや性格は否定してこない。
俺は世界がおかしくなる以前に、ちょっと周りから悪い意味で浮いていた。
そんな俺からすれば、馬鹿にされない、ハブられないというだけで恩をかんじる。
まると別々になり、こんなふうになった世界での再会は望み薄で、実は結構寂しかった俺に手を延ばしてくれた。
口に出さないけど、受けた思いに答えるため、あくまで勝手に一方的に、一回頑張ってみようかな。
「オッケー、行こ行こ!」
俺は気楽に簡単な返事を返した。
まだまだ友人とは言えないけれど、頑張って笑顔を返してくれた彼女に向けて。
「あ、その前に」
「ん?」
「それは置いていって」
「……」
妹ちゃんが、会っちゃだめならせめてとくれたおもちゃの魔法少女のステッキを置いていけと言われた。
♪♪♪♪♪
「……」
「……」
マジカルステッキのボタンを押してポップな音を鳴らす。
「置いていけ」
「はい。」
半眼で平坦な声で言われたので、歳上の余裕で受け入れた。
けしてビビったのではない。
けしてビビったのではない。
続く続く。