一部・三章、ヒロイン確保
続き続き。
俺ことわれもの、バイトはしているが仕事以外ではろくに外に出ず、独り暮らしのアパート(今は半壊状態)でゴロゴロしながらネトゲしたり、マンガよんだり、たまに友人まるの影響で軽い筋トレをしたりしながらなんか面白いこと起きないかなとダラダラ生きていた、どこにでもいる普通の現代っ子である。
先週までは。
今、俺は
「うおおおぉぉぉぉ!」
自転車に乗り雄叫びをあげながら、無人になったスーパーから食糧を頂戴した帰りに
「ぬあああぁぁぁぁ!」
うっかりゾンビ犬に見つかり、全力で振り切っているところだ。
映画などでゾンビ犬などをみるとだいたいドーベルマンなんかが多いけど、ここ日本ではトイプードルや柴犬、ゴールデンレトリバーなどバラエティーにとんだ腐れ畜生たちに追い掛けられている。
こんなときに頼りになる青い猫型ロボットや颯爽登場する銀河美少年はいないのかね、俺がピンチですよー?助け放題ですよー?恩売り放題ですよー?
「うりぃぃぃぃぃぃ!!」
吸血鬼みたいな奇声を挙げながら全力疾走するも、死んだ事で体のリミッターが外れているらしく限界突破している腐れわんこ達を振りきることが出来ない。
これは人生終了のお知らせか?長いこと俺のご愛顧をいただきましたが一身上の都合により人生を終了する運びとなりました。
ご贔屓頂いた俺には恐縮ですが今後ますますの活躍と検討をお祈り申し上げますか?
…あれ、この文法でいくとまだ俺頑張れるのでは?
そうだまず落ち着け俺よ。
馬鹿にされても腐らず頑張ってきたのは俺の誇りだ。
いつだって俺はのらりくらりと適当にをモットーにいきてきたじゃないか。
生きずらい世の中を上手にストレスを逃がしながら生き抜いてきたんだ。
元犬達に追い掛けられているからなんだ、面接官の圧力に比べればこんなの…
そう考えて後ろを振り返った瞬間、
「グワオッ‼」
あ、目の前に牙が。
さよなら俺。
いつからか後悔も飲み込めるようになった、怠け者の一生が今終わる。
と、思ったのだけど。
「ギャン‼」
眼前に迫っていた元人類の友、いまや俺の敵が真横に吹き飛ばされた。
「なんだ?」
思わず疑問符が口からもれた。だが俺と同じ状況になったらみんな言うと思う。
だって女の子が綺麗な跳び蹴りを目の前でかましているのだから。
スタイリッシュに着地する女の子と、変な体勢で地面に叩きつけられ動かなくなった元犬。(ゴールデンレトリバー)
それを確認もせず、その娘は背負っているバックパックから何かを取り出して残りの元犬達に向け投げつけた。
それが地面にぶつかり割れると同時に火柱があがる。
みる限りでは海外の暴動をニュースなんかで伝えている時に暴徒が持ってたりするお手軽武器、火炎ビンだ。
それを続けて二個、三個と投げる。
火が広がっている所に今度は水風船を投げた。
なぜ水風船?と思ったら、火の勢いが増した。どうやら水じゃなく、油か何かを入れてあるようだ。
火を怖がり、元犬達が距離をとっている。
「今だ、行こう‼」
そう言うと女の子は俺の手をとり走り出した。
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「ここまでくれば」
元犬から逃げてきた場所は、砂場と小さな滑り台しかない寂しい公園だ。
結構な距離を走った為、繋いでいる手からも女の子の息があがっているのがわかる。
と、こちらを振り返り、
「大丈夫?怪我は?」
と聞いてきた。
そこで俺は手を上に挙げ、女の子の頭に
ゴスッ
「~~~っ痛ったぁ~!」
拳を叩き込んだ。
「な、何をするの!?」
「うるさい不審者、火炎ビンなんて危険なもの持ち歩いてなにしてるんだ」
涙目で抗議してくる女の子…いや、不審者に至極真っ当な意見を言い返す。
不審者を逃がさないように手は繋ぎっぱなしだ。
急に引っ張られて走ってきた為自転車と拝借してきた食べ物は置いてきてしまった。
絶対に逃がさない、そして許さない。
「不審者!?私あなたを助けたんだけど‼」
「そんな言い分が通る訳ないだろう、君は学生か?なんで昼間からうろうろしているんだ、学校と住所、身分証を見せなさい。」
「持ってないよそんなもの!」
「どこの学校かは口頭で伝えられるだろう。言えないなら一緒に来てもらうよ。」
「待って、界歪高校だよ!あと世の中がこんなことになってるのに学校なんかいかないから!!」
手をひねったり引っ張ったりして俺の拘束から抜け出そうとする不審者。
逃がさないが。
「あんな事して火事になったらどうするんだ!放火は凶悪な犯罪だぞ!」
今誰かがちゃんと叱らないと、この不審者は駄目になってしまう。心を鬼にして説教しなければ。
「そんな事しないし、そんな事考えた事 もないから!あれはゾンビ犬を追い払おうとしただけだから!!離して‼」
暴れるな、たちが悪いぞこの不審者。
「追い払うだけで君はあんなもの使うのか!?どこで手に入れた!」
「あれは家にあるものでつくったの!どうして助けたのにこんな扱いされてるの!?」
「家で!?家族は容認してるのか!?」
「してるよ、生き残る為だもん!」
なるほど、欲しい情報は手に入れた。
もちろん助けてもらった事はわかっているし、警察の聞き方みたいにしていたのも、相手を怒らせて考える隙の無い状態にし、正確に情報を引き出すためだ。
聞き込み終了。
「ご協力、感謝します。」
「………はい?」
急に態度が変わった俺を不信そうにみる不審者……じゃない、女の子。
どうしたんだろうと思ったが、あぁ考えていることは言葉にしなきゃ伝わらないのを忘れていた。
ぼっちの宿命である。
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「そうゆう事で、まあ助けてくれてありがとう。」
「あぁ、うん。」
化け物になったとはいえペットを蹴飛ばす頭のおかしい人を警戒してあんなお巡りさんみたいな質問をした、と解りやすく説明したのになんともいえぬ顔をされているのが今。
「ひとつ聞いていい?」
「うん、どうぞ。」
「…なんで手を離してくれないの?」
説明中、俺は手を離さなかった。
何度か引き抜かれそうにはなったが握力はなぜか昔から強い。
手を離さないのは久しぶりに人に会ってずっと一人で寂しかった気持ちが無意識にこの行動をとった、と自分の中では答えが出ているが、年下の女の子に本音をそのままぶちまけるのはなんだか気恥ずかしいな。
友人代表まるはお前大丈夫そうだから仕事場の人達の様子見てくる、と言って一週間前に何処かへ行った。
手を離さない理由か、そうだな~適当に。
「お姉さん、美味しそうな手をしてますね!」
ゴッ!
見事な左ストレートをいただきました。
「ほんとに離してくれる?」
あ、ゴミをみるような目になってる。
なんだかゾクゾクする(一様言っておくと、Mもいけるというだけで、Mではない)。
「冗談だよ~」
鼻血を垂らしながら、そんな軽口をいってみる。
「私、もう戻りたいのでほんとに離して下さい。」
そういってゴミ(俺)を一睨みすると、バックパックからナイフを取り出して、って!
「うおぅっ!」
俺の手に突き立ててきた。
びっくりして思わず手を離した。
離しちゃった。
逃げられちゃうかな、と思ったら、
「さっき、私の頭殴ったよね?」
と、ナイフを構えた。
俺の記憶では、顔パンもらってまだ鼻血が出てるんだけど。
「ごめんなさい久しぶりに人に会ったので嬉しくてつい変な行動をとりました。」
なんだか目が据わっていたので身の危険を感じ直角に体を曲げて早口に謝罪した。
仕事のミスでよく頭を下げていたのがこんなところで役に立った。
今、下を向いている訳だから女の子は見えない訳で、頭に鉄拳制裁や踵落とし、ナイフで必殺の一撃とかを覚悟していたのだけど。
「……ずっと一人なの?」
さっきとは変わり、そんな優しい声をかけられた。
「うん、まぁ」
少なくともこの一週間は一人だ。
犬以外にも、近所の中島さん(まだ人間)や大量のカラス、家賃を払えと言いながら追いかけてくる人じゃなくなった大屋さんなどなど、様々なものと追いかけっこを楽しんでいる。
そんなわけない、いつもギリギリだけど。
俺の前でナイフを構えたままなにか考え込む女の子。
そういえば名前聞いてないな。
と、おもったら、
「私は、愛沢」
愛沢さんか。
「苗字?名前?」
「…苗字だよ」
「名前は?」
「みな」
「苗字?名前?」
「名前だよ!」
「ミドルネームは?」
「ないよ!あぁもうっ!」
そう言うと、今度は愛沢さんから手をとって、
「一緒に行こう。」
「え?」
「間違えた、一緒に来なさい。」
今時の女の子の、意思の強い目でみられた。
なるほど、この娘が俺のヒロインか。
続く続く。