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一部・十七章、甘言

やっと続き~



俺の名はわれもの、変ではない。父母の許しを経て役場にも提出しきちんと受理された、正真正銘本名だ。

ゴマツブに聞かれたので念のため。


ある日の朝起きた時には既にどんぱち外から音がしていて、第三次大戦でもはじまったのか?コマンダーか?シュ○ちゃんか?と、疑問符を浮かべ整理する前に睡魔に負けて二度寝した。


夕方頃に起きると玄関を猛烈に叩かれ、うるさいやめろ騒がしいドア壊れる近所迷惑とか考えながら開けたら、

「われものいるか!?無事か!!」

と、心友まること丸井人善が血相を変え、部屋に飛び込んできた。

なんだどうした借りてた二万ならもうちょい待って今週中には返すからとか考えてたら、


襲われた。


襲われた。


大事なので二回。

まるにではない。

そちらの趣味は今のところ無い。

異形に襲われた。

なんとか乗りきったものの、まるの言い分とスマホの情報から人類は一日で崩壊したという事実を疑問もなく受け入れ、

「もう仕事行かなくていいんだ♪」

と、持ち前のポジティブさを発揮。

すんなり適応。


まるは俺の適応と前向きさが予想外だったらしく、普段からやる気を見せない俺がろくな抵抗もせずやられてんじゃないかと心配で駆けつけたらしい。

後から聞いたが、途中襲われたり一人で動けない人を助けていたとか。

さすが主人公気質。


もともと現代に嫌気がさしているタイプだった俺は、むしろ壊れた事で自由気ままに振る舞う事が出来るようになり満喫し始めた。


人じゃなくなった大家さんとの鬼ごっこ。

生き残る為に自分達の事しか考えなくなった常識人ゆえに愚かな近所の人達。

そんな良心との葛藤をする人を横目に無人のスーパーやコンビニから生活用品を拝借する俺。

さまざまな種類の、ゾンビみたいになった犬達。

犬以外にも大きすぎるカラスやモグラ、川を見れば釣竿を使って人を釣るエラの無い魚。人魚?

歩くと

ぎゃあ!とか、

やめて!とか、

いたい!とか言う道。ぬりかべならぬぬりみち?




正直、なんとも思わなかった。

頭の中で考えていた事が現実になっただけで、驚きも悦びもない。

しいて言うならあれをやれこれをやれ、あれはやるなこれはやるなと言われない分過ごしやすかったというだけ。




ただただ純粋に、自分の実力でのみ勝ち残る事が出来るわかりやすさ。

いつ死ぬかわからないスリル。

日常をこなしていく上で身に付いた常識を、生き残る為という大義名分でぶち破るという爽快感。

俺がずっと息苦しい思いをしていたのを、今度は世界が味わう。

だけど俺には、感慨も興奮もなかった。

俺にとってはそれだけ現実よりも空想が大事になっていた。



人生は死ぬまでの暇つぶし。

この絶望、壊れてしまった世界の中で死ぬ事が出来たら、安心に満たされるだろう。

これだけの状況で生き残る方が無理だ。これだけ生きるほうが難しくなれば、諦めて命を絶ったとしても自然だと思われ、無理に社会にしがみつく理由も捨てられる。



俺にとって二十年の人生は苦痛だ。

だけど腐る事はしなかった。状況に合わせ考えを都合良く歪曲し、ストレスを軽くすることで自分を守り、感情を無くさないように大事にしまっていた。

誰だってそうだろ?

世界は自分の都合で塗り替える。そうしないと凡人の俺は精神が持たない。

端的に言えば腹黒マイペースである。

生き抜く為の知恵であり、否定される覚えは無い。


そんな根っからの前向きな性格が災いしたのか、いよいよ追い詰められて呑気にさよなら世界と考えていたら。


俺のヒロイン様が現れた。






+ - + - + - + - + - + - +




ホットパンツから伸びるスラッとした足を強く印象に受け、つまり一目惚れして、俺のヒロインはこの娘しかいないと思った。


「ずっと一人なの?」

そう声をかけてくれた。

ずっと一人でいたかった。

ずっと一人で痛かった。

それが本音で建前。

自分でも壊れる前と後、どちらの性格が本質なのか忘れてどうでも良くなるくらいにこの居心地の良い世界にのめり込んでいた。


一目惚れはこの相手には勝てないと遺伝子レベルで察した時に、いますぐ子孫を残せと本能に言われて発生する。

吊り橋効果と同じものだ。

あちらは恐怖だけど。

いわば欲の塊。


俺は人間だ。

理性の生き物だ。

欲を我が物とし受け入れた上で、相手に対し誠実にぶつかる。

一目惚れという安易な結論ではなく、頭を使って彼女への自分の気持ちを確かめた。

それがヒロインへ向けるべき変態紳士道だ。

だから俺は、みな姐には誠実な変態でいることにした。


わかりやすく言うと気を引く為にわざと嫌がる事をした。

それで嫌われても良かった。

散々バカにされて生きてきて、人にうんざりして、それでも腐らず社会にしがみついてやってきたつもりだ。

だから嫌われるのにはなれてる。

ヒロイン様に本性をさらして、それで嫌われるのならさっさと消えよう♪


……だけどみな姐は俺を見限らなかった。

セクハラすれば怒るけど、しょうがないなぁこの人は、みたいな顔をする(こめかみはピクピク動いてるけど)。

バカな事を言うと叱られるけど、こんなときにアホな事言って、おかしいの、みたいにクスクスと笑う(若干ひきつった笑い)。

無鉄砲さを咎められるけど、それを責めずに一緒にいてくれる(睨まれはする)。

自分だって大変で、怖いはずなのに。

俺みたいなやつにすら気を回している。

いままでそんな相手はいなかった。

まるとは心友だが、あいつとはお互いに利害の一致から一緒にいるうちに仲良くなった。


みな姐は、きっと普段から人の心を優先し、周りの望む物を察してしまう性格なんだろう。そうだと気づいた。

では彼女の心を優先してくれるのは?気の休まる相手は誰かいるのか。

彼女の家には学校や家族の写真があったが、笑顔がぎこちない。

周りは笑っているのに、みな姐は気を張り続け、誰かが困っていないかを見ている。

そうゆう性分なんだろう。


だったら俺はみな姐にとって、雑に扱える飾り気や気遣いの無い簡単な相手になろう。

そう自分に決めた。

このままではパンクしてしまうから。

俺の様に、世界を恨むアホになってほしくはないから。

俺のヒロイン様は、優しさは残酷なんだと知らないまま生きて死んで欲しい。

そう願い、隣ではなく、離れた所から支えたいと思った。




ストーカー?いいえ知りませんね。





+ - + - + - + - + - + - +


さて、走馬灯はこれくらいにして、今の状況を確認しよう。




刺された。


刺された、以上。

事実確認終わり。


「……!……!!」

ロリが泣きながら祈るような格好をしている。


「私を見て!!眠っちゃダメよ!?意識を保って!!」

みな姐が見たことない顔で俺に何か言っているが、もう聞き取れない。


「あぁあああぁぁぁ!!!!」

えみ様が怒り狂い、俺を刺した相手に猛然と攻撃を仕掛けている。


刺された胸は穴が開いて出血が止まらないけど、もう痛みも感じなくなってる。

「死なないで!!」

みな姐、泣き始めちゃった。

以外に大事に思ってくれてたんだな。



えぇ~どうしてこうなったかというと。



+ - + - + - + - + - + - +



刺される丸一日前。


ゴマツブ達が散会しロリを探しに行ってもらった(不安は残る)。

手持無沙汰なので俺達はショッピングモールから移動。


「下手に動き回らない方がいいんじゃないの?」

「ヒマだし」

「ヒマだしって…」

「それに元々自分で見つけるつもりだし」

「それは、まぁ」

「なにより、ゴマツブをあまり頼りにしたくない」

「あぁ、うん」

みな姐もそう思ってたらしい。


やっぱ、大事な時は自分で動かなきゃね。

誰も頼りに出来ないから、自分から行動。いつのまにか身に付いた処世術。

人望が無いからじゃなく、人を信じれない性格だから。

……泣いてないよ?


「どうしたの急に泣いて」

「なんでもないよ…」

懐かしいトラウマに身を震わせていただけで。




「手懸りが無いから、とりあえず会った場所に戻ってみようと思って」

「そう、わかった」

もう突っ込む気力もないのかな?

意味のない問答をしたくないのかも。

「場所は?」

「あぁ、駅の向こうだよ」

「割りと遠いね」

「みな姐探してあちこち走ったからね」

「あぁ、やっぱり心配してたんだ?」

みな姐がからかうように言ってくる。

「うん」

素直に答える。

「…。」

「どしたの?」

「いや、急に素直になったなと。」

「二人きりだし、好きな人には本心をぶつけないとね」

「…。」

俯いて赤面するみな姐。お返しである。

「ねぇ、照れた?照れた?」

「さっさと行くよ!」

ぐいっと俺を押し退けて進む。





謎の無言の時間が過ぎる。





みな姐の三歩後ろを歩く俺。

相変わらずサラサラの髪をサイドテールにし、肩から前に垂らしてる。

バックパックには妹ちゃんからもらったらしいマスコットキーホルダーが二つ、ブラブラと揺れていた。

それだけみな姐が早く歩いてるってことだ。

「待ってみな姐~?」

「早くしなさい」

なんかご機嫌斜め?



+ - + - + - + - + - + - +



「…ねぇ?」

「なに?」

「本当にここ?」

「…の、はず…なんだけど。」

駅の反対側、さらに電車の通らなくなった線路を辿りロリと会った廃虚通りに着いた…んだけど。



何も無い。

いや、廃虚だからもともと何も無いんだけど。

そうじゃなく、建物も標識も道も無い。

ぽっかりとそこだけ何も無い。


「みな姐はどう見える?」

「…ブラックホール?」


暗い塊が脈打ちながらそこにどーん、と鎮座している。なんだこれは?


「…ゴマに似てない?」

と、みな姐。なるほど、確かに。

そしてみな姐もあれをゴマって呼ぶんだね。ちょっと感動。


随分とでかいし、中央に心臓が無い。

黒いじゃなく暗いのは共通。


急に話しかけられた。

話しかけられたと言うよりも、頭に直接言葉が灰ってくる。

さっきから見られてるような感覚がずっとしていたけど。

なんだか誘われるような、引き寄せられるような。


この中に入れば何も考えなくても、働かなくても努力しなくてもいい。

ずっと穏やかに夢のような世界で幸せになれる。

みんなが優しく、自分を必要としてくれるかけがえの無い場所になる。

お金は湯水の如く稼ぎ、友人は電話張に四桁は登録、奥さんが十人、国の重鎮からも一目を置かれ、あなたの一声で気に入らない国だって滅びる。

二次元のキャラクターや亡くなった人にも会える、顔や体を自由に変えられるし、宇宙でも深海でも一人で簡単に行ける。もちろん誰かをつれて行くことも出来る。気に入らないのなら世界を滅ぼして自分好みに作り直す事も自由自在。病気も怪我も寿命も無い、差別も飢餓も戦争も無い。

あなたは世界で最も尊い存在になり、何世代も何億人もあなたを尊敬し敬う。

永遠に語り継がれ、神よりもさらに上の

、崇拝の対象となる。

素敵でしょう?美しいでしょう?なりたいでしょう?

だから○○と…。





「ちょっと!」

誰かの声が聞こえると同時、ガシッと俺の手を掴まれた。

「???」

「なにしてるの?われもの!」

みな姐だ。

「うん?」

「腕!」

……あれ?いつの間に。

無意識にゴマに近づいていた。

頭の中に声がしたんだ。

なんだか随分とご都合な歌い文句だった。

それ以上に、あの声が何よりも心地よかった。

「われもの!腕、腕!!」

みな姐の言葉で一気に目の前の状況を把握する。

言われた通り自分の腕を確認。

ゴマに右腕の肘まで突っ込んでいた。



































まだまだ続く~

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