一部・九章、今はそれどころではない
続き続き~。
「そのガキぶっ殺してやる!」
鉄パイプを握りしめ、謎の男が怒鳴り散らす。
今にもロリに飛びかかろうとしている。
このお店の人?
興奮してる。
ロリを見て興奮してる。
変態…な訳ないか。
「待てや‼」
待たない。
変態でもNOT変態でも、攻撃性が強いのなら相手するのは危険だ。
ロリは驚いて涙目になり、俺と謎の男を交互に見る。
少し強めにロリの手を引いて、店の出口に向かう。
「待てっつってるだろ‼」
直ぐ側にある商品棚を叩いて威嚇する男。
待たない。
「聞いてんのかよこらぁっ‼」
聞いてる。
ただ、話し合う気の無い人間の言う事なんて相手にしてられない。
とりあえず外には出た。
が、
「待て、止まれ‼」
追いかけて出てきた。
当然か、どうする?いや逃げるか。
…と思ったらロリが怖いのかその場にへたりこんでしまった。
脇の下に手を滑りこませ抱えて逃げようとしたが、なぜか持ち上がらない。
うむむ、仕方ないな。
「すみません、金物屋の方ですか?」
振り向いて声をかける。
は?みたいな顔で固まる男。
「いやぁ、申し訳ありません、てっきり誰もいないと思ってお店の物を無断に拝借してしまいまして」
やはり男からは反応がない。
横にいるロリが違う違う!みたいな顔をしてるけどかわいいのでほっとく。
というか返事をしたのに無反応ってなんだ失礼な男だな。
「ちゃんと金額はお支払いしますので、申し訳ありませんでした」
そのまま頭を下げ、相手の言葉を待つ。
十秒ほど経って、男がこちらに走ってくるな~と思ったら、
「死ね‼」
鉄パイプで殴りかかってきた!
まぁ予想してたから避けたけど。
ついでに足を引っ掻けて転がす。
怒ってるみたいだからこの手の事に耐性があり平常心の俺とは相性が悪いな。
というか、みな姐も初対面の時に火炎瓶を使ったり、この男もいきなり殴りかかってきたり、この国の倫理観はどうなってしまったんだ。
そりゃあロリも怖がって一人ではいられないわ。
起き上がろうとした男の足を引っ張り、ひも靴を履いていたので足を縛り、
「離せや‼」
と、振り回してきた鉄パイプを槍で合気道の要領で絡めとって放る(まるに教わった)。
…うまく出来た~良かった~!
手を押さえつけ壁に後ろ手に叩きつけ、事情を聞く。
「すみません、なにかお店の貴重品をこわしてしまいましたか?」
「…。」
ロリはぺたんと座ってたと思ってたら、いつのまに近くに来ていた。
さっきまで座ってた所には氷が張っている。
「痛てぇな、離せよ!」
男が怒声を荒らげる。
離してみる。
振り向くなり殴りかかってきた。
カウンターで顎パンを叩き込む。
足を膝裏に引っ掻けて相手の首回りを掴んで下に引っ張る。
「ぶへっ!」
初めてやったが綺麗に転がった。
起き上がらないように頭に乗る。
ありがとうまる、武道を少しでも教わっといて良かった。
さっさとこの場を立ち去りたい、視界の端に人ではないのがチラチラうろついてる。
この男が騒ぐから寄ってきたっぽい。
暗いからよくわからないけど。
ロリがライトをもってるけど、これ以上怖がらせたらまずいので黙っとこう。
男から話を聞こうと思ったが、良く考えたら俺はロリとの意思伝達とみな姐を探す事が目的で、話を聞く義務は無い。
関わった以上はこの娘の面倒はみる。
身内に送り届けるなり、他に面倒を見れそうな人を探すなり。
この子が人ではないのは推察つくけど、こんな時だから自分の目的を優先するべきだ。
…まぁさっき放っておけなくてロリを連れてるわけだけど。
とにかく、みな姐優先。
すがってくる子供と、殴りかかってくる男なんて、どちらを優先するか考えるまでも無い。
この男は放置。
「ぐるるるる…」
視界の端でうろついていた何かがこちらにくる。
薄暗い中でもシルエットで、大型犬だとわかる。
…なんか背中に人が生えてるけど。
地面に転がる男は縛られた足をどうにかしようとしているが、無理だろ、固~くむすんだから。
「お前ちょっと待ってろよ、今すぐぶっ飛ばしてやるからな」
ロリを睨みながらそんな事を言う男。
「てめぇもだ!化けものの味方するイカレ野郎が!」
…さすがに一言くらい言いたい。
だが後ろにはもう犬型人間(?)が来ている。
ロリの手を引いて、俺は早足に立ち去る。
「待てよ!」
待たない。
「そのガキは化けもんだぞ!!」
…わかっとるわい。
「俺は見たんだ!!」
知ったことか。
ロリが不安そうに俺を見上げてる。
俺は満面の作り笑顔を返す。
……一様安心させようとしたんだよ?
泣きそうな顔してるけど安心させようと思ったんだよ怖がらせたいんじゃないよ信じて!
「そのガキが人を凍らせ…」
バキバキ‼
グシャ‼
言葉の途中で何かが力任せに潰されるような音がした。
「…は?」
間のぬけた男の声と、バシャバシャという水の散らばるような音がしたが、ロリを抱っこして早足にそのまま立ち去る。
「な…に…?」
戸惑う男の声。
なにが起きるか容易に創造出来るが、考えないようにし足早に立ち去る。
「あれ?…腕は…?俺の腕……痛い?
痛い痛い…痛い!?
痛え!痛え!!なんだよ!?痛え!ああああ痛い!痛い!
何だよ!?何だよ!?ああああ痛い痛い痛い!!
辞めろ!痛い痛い!辞めてくれ!離せ!辞めてくれ!!
嫌だああああぁぁぁぁぁぁ!!」
後ろから何かが散らかる音がしたが、俺には関係ない。
消去法で自分とロリを優先しただけ。
世界が壊れる前から誰でもやってた二者択一。
感情を圧し殺し、この場から逃げるという目的の為に自己を正当化して俺はみな姐を探すと言う言い訳に逃げる。
後で気づいたが、あの男は俺の学生時代の友人だった。
続く続く~。