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咲くや恋花  作者: 桜 詩
Confessions
49/50

買い物はお好き?

翔太の、部屋に戻って彩未がキッチンで見つけたそうめんと、おにぎりとそれから野菜を適当に切って炒めた簡単なご飯を作った。


「へぇ~ほんと、それなりにやってるんだな。ちゃんとおいしい」

「そうめんなんて誰が湯がいても一緒でしょ。野菜炒めも」

なんだか、不思議だった。

こうして、二人で過ごしていると、ずっとこんな風に居たような気さえする。

「買い物行くんだけど、行く?」


「買い物?」

「取り置き頼んでて、前から今日に行くって伝えてたから」

「取り置き?」

「うん」


そう言われて出掛けた先は、街中の有名なアパレルショップで

「翔太~」


店員の女性が店に入ってすぐに早足で寄ってきた。おしゃれな30代くらいに見える華やかな女性だった。彼女は店員さんのバッジをつけている。

「いつもありがとね」

「いいよ」


「あれ、翔太のカノジョ?」

「うん」

「こんにちは!伯母の長瀬 瑠衣(るい)です。良かったら見ていってね」


「けっこう高いんだよ、ここの」


「分かってるわよ、だから“良かったら”って言ったでしょ」

「どれ?」

「これよ~、どう?」


瑠衣はどうやら翔太の服を一手に担っているらしく、ハンガーにかけた新作を見せている。

「じゃあ、それ買うから」

「大人買いだぁ~」


「...瑠衣さんはここの店長なんだ。昔から俺の服はほとんどここの」


売り上げはきっと瑠衣さんの成績になるのだろうから、そして昔からセンスのよい感じの服は、このお陰だったのかと彩未は思い至った。


「へぇ~そういうの、いいなぁ」

大きな紙袋を持って店を出れば、

彩未はそういうコーディネーターが身近にいるのが羨ましくてそう話しかけた。


「どっか行きたいところある?」

「ぶらぶらしたい」

「ぶらぶらね」

手を繋いで歩き出せば、彩未はそれだけで嬉しくて楽しい。

あちこち、目的もなくただそれだけ。

それだけの事が、彩未を楽しませそして心を満たして行く。


時は無情にも止まる事を知らない。

翔太の車で彩未のマンションまで帰れば、明日は仕事なのだから仕方ないけれど、別れは辛い。

「来週...また行ってもいい?」

「ん、もちろん」

別れ際の、触れるだけのキス。それは嬉しくてそして少し切なくて。そして、温もりが心地よかった。



*・*・*・*・



夕方に家に戻った彩未は、隣人の春花に捕まった。

「彩未!帰って来た!」


「あっ...和奏(わかな)英乃(はなの)まで」

そのまま隣室に連れ込まれると


「もしかして、今の今までショータと一緒だった?」

「...うん」


「よかったぁ~上手く行ったんだ?」

春花が声を上げた。


「顔が...ツヤツヤ。もしかして...もうシちゃったの?」

英乃がぽつりと言った


「えっ!!」

思わず顔を押さえた。

「隠さなくていいでしょ、もう立派な大人なんだし」

和奏がニヤリと笑って言った。


「でも、こんなことあるんだね。もう一回やり直せって事だよ」

「...だと、思いたいかな...」


「それにしても、私は少し彩未が羨ましいよ。こんなに長年想い続けていられるなんて」

和奏がそう漏らした。


「で、和奏たちはどうだったの?」

「ん~楽しかったよ?あのあともう一件飲みにいって、カラオケで朝まで騒いで...。適当にアドレス交換して、春花の家に来たら...。彩未、いないんだもん」

「昨日の朝まではいたよ?」


「わたしたち帰って来たの、8時半?だった?」

「その少し前に迎えにきたの」

「健全なのか不健全なのか、分からんね...」

英乃が言うと、

「不健全かなぁ?」

首を傾げた。

「だって、一昨日再会してすぐなんて」


「うーん。でもそのまま離れたくなかったんだから、仕方ないよね」


「わ、なんかノロケ?」

和奏が笑ってる。

「ずーっと、我慢してたよ。私...高校の時も大学の時も今は、我慢しなくていいって思ったら、自然にそう言ってしまった」


言ってしまった...。そんな余韻が部屋に響く。


「彩未ってさ...その、そういうこと、ショータには言っちゃうわけ?」

春花がそう聞いてきた。

「言うよ、言わなきゃ伝わらないでしょ」

ずっと励ましてくれた友人たちには、高校時代と違いもう隠す必要もない。


「向こうは?」

聞いたのは英乃だ。

「クールそうだけど、言ってくれたりするの?」

「照れながらも、言うよ」


「そ、そういうのって雰囲気だけだと思ってた。なんか彩未って改めて話聞くとスゴいな」


「何よ~」

彩未はクスクスと笑った。


「でも、本当に良かったね彩未」

「うん。ありがと」


春花とハグをして、彩未はこの数日の変わりようを改めて凄いななんて思ったのだ。





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