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咲くや恋花  作者: 桜 詩
Confessions
48/50

朝食は何派?

目覚ましの音がして、彩未はぼんやりと視線を巡らせた。


「はよ」

「おはよ」


目の前には、サラリとした黒い髪の男の人。

切れ長の一重の瞳と、目尻のホクロ。クールな面持ちに、少し厚めの唇が少し色っぽくて...。

こんな朝は、なんだか“幸せ”っていう言葉がしっくりとする。


「起きれる?」

「れる、たぶん」

久しぶりだったけど多分大丈夫なはずだ。

ごそごそと布団を胸元まで持ってきて、上体を起こした。

「平気?」

「どうかなぁ」


「洗ってあげようか?」

「んー、お願いしよっかな」


「えっ」

「えって。言い出したのそっち」

クスッと笑うと


「いや、そこまでのると思わなかったな」

そう、笑いながらもよいしょという感じでお姫さま抱っこをしてしまう。


「ちょっと!本気にしない」

「彩未はいっつもそうだからなぁ」


結局からかったのか、からかわれたのか、恥ずかしくもきっちりと洗われてしまい、朝から体力を消耗してしまう。


「ねぇ、洗濯物入れてくれちゃったの」

「裸で出る?」


「もぉ、下着とかあったのに」


「...今更じゃない?」

「そこは違うったら」


彩未は横を向いてぷいっとした。

なんだか、大人になったはずなのに...その事が恥ずかしくさせるなんて。

きっと高校時代なら、ここまで恥ずかしくなかったかも知れなくて


だから、話をふられて思わず答えた。

「彩未はご飯派?パン派?」

「ご飯」


「じゃよかった」


昨日コンビニで買ったらしい卵焼きと、それからお惣菜と、インスタントの味噌汁。そんなものが並んだ。

ご飯だけは炊飯器だ。


「なかなか効率的」

「一人だと余るから、この方が良くてさ」


ご飯を食べ終えると、洗うのは彩未がお礼がてらすることにして、翔太は部屋着であるTシャツとスウェットパンツからスポーツウェアに着替えている。


「え?出掛け先って...」

「んー、まぁ行けばわかる」


時刻は8時。

健全な、健全すぎる時間である。


「じゃあ行こっか」


翔太の車で出掛けた先は


「桜花小学校?」


「そ」


着いた先は彩未と翔太の母校の桜花小学校だった。

この光景は覚えがある。彩未の兄もここでサッカーをしていたからだ。桜花F.C.、保護者がコーチをボランティアでしているサッカーチームだ。


「おはよーございます」

グランドに入った翔太は、同じようにスポーツウェアを着ている男性に挨拶をした。

グランドには何人かのサッカー少年たちがいた。


「長瀬コーチおはよ」

同じくスポーツウェアの男性たちに声をかけられる。

「お、長瀬コーチは今日はカノジョ連れ」

そう、視線を向けられたから彩未もペコリと頭を下げる。

「おはようございます、長谷川です」


「コーチ、日曜にこんなところに来るからてっきりカノジョいないと思ってたけどいたんだ」

朗らかに笑われて、翔太は苦笑している。


「昼まで練習だから適当に待ってて」

「ん、わかった」


8時半から練習は開始で、翔太はこの日は4年生についてコーチをしていた。


楽しそうにサッカーをしているのを見て、ホッとするやら嬉しいやらで、知らず笑顔になっていたようだ。


「長瀬コーチの彼女さんなんでしょ?」


「あ、はい」

話しかけられたのは生徒のお母さんだと思われた。

「なかなかいいオトコなのに、カノジョいないのかななんて、噂してたから良かった~」

「あ、そうなんですか...」


「だって休日返上で、こんな子供に付き合っちゃってるから、ね?」

と別のお母さんに同意を求めていた。

「楽しんでるみたいですから、いいんだと思います」

彩未は微笑んだ。


「子供たちには、サッカー上手いお兄さんなんていい刺激になっていいんだけど」


グランドで、子供たちに混じって教えながらサッカーをしてる翔太はとても生き生きとしていて見飽きない。


「彼女さん名前は?」

にこにことお母さんたちに囲まれつつあって彩未は戸惑う。

「長谷川です」

「長谷川 何ちゃん?」

「彩未です」


「彩未ちゃんか~付き合って長いの?」

「えーっと、付き合ったのは最近なんですけど、実は昔も付き合ってました」

(最近も最近。昨日ですから)

「えー、なになに聞きたい!リアル恋ばな」

「た、大したことは無いですよ」


結局、勢いに押されてお母さんたちに根掘り葉掘り聞かれてしまい

「...つまりは、幼なじみで高校から付き合って別れちゃって、また再会して付き合ったの?」


「要約すればそうです」

「ええ~、なんかいいなぁ~青春~って感じ」


「コーチって惶成だったんだ」

「です」

「じゃあ彩未ちゃんはマネージャーとか?」

「違いますよ~私は吹奏楽でした」


そこまで話したとき、休憩になったらしく翔太が走ってきた。

「彩未、水筒とって」

「ん」

預かっていた荷物から水筒を出して渡す。

すでに夏が近づいているから、額には汗がキラキラとしている。

「タオルいる?」

「うん」

スポーツリュックからタオルを出して手渡すと、お母さんたちからの視線が凄い。遠慮してるのか少し距離は開けてくれているのに。

「...モテてるな」

「お母さんたちに?」

「に」

「なんか、いっぱい聞き出されちゃった」

「...まぁ...キャリアが違うからな仕方ないか」

タオルを受けとると

「ありがと」

と言うとそのまままたグランドに走って、休憩をいち速く終えた子供たちと一緒にリフティングしている。


「なんか、あまーい」

「いい!」

口々に言われて彩未は戸惑う。

「おばさんたちは応援しちゃう」

「おばさんじゃないですよ」


そんなこんなで、お母さんたちとサッカーを見ながら過ごせば2時間はあっという間だった。


「「「ありがとうございました!!」」」

子供たちの挨拶で終われば、お母さんたちの方へ走ってくる。


「コーチのカノジョなんでしょ?」

子供に言われて

「うん、そうだよ」


「コーチのカノジョ、おっぱい何カップ?」

「ゆうと、何聞いてる」


コツンと拳を落としたのはそのゆうとくんのお母さんだ。

「コーチとけっこんすんのー?」

「おねえさん、いくつ?」

わらわらと興味のあるらしい子供に質問攻めにされていると


「こら、おねえさんを困らせない!」


頼もしいお母さんたちが一人ずつ引き剥がしていく。


グランドの整備を終えた翔太が戻ってくると、

「コーチ~これからデートー?」

子供たちが翔太に絡んでいる。

「そうだな」


「えー俺もいっていいー?」

「あほぅ、練習か勉強してろ」


てきぱきと帰り支度をするとバッグを持てば


「「「コーチ、お疲れ様でした~行ってらっしゃい」」」

とお母さんたちに送り出された。


停めてあった車に乗り込んでから

「楽しそうだったね翔太」


「うん。俺もあそこでサッカー小僧にしてもらったから恩返しのつもり。あいつらが楽しんでくれたらいいなって思ってる」


「キラキラだった」

「そっか」

彩未の笑顔に照れたように笑うと、

「一回帰って着替えるから」


「じゃあ、昼ごはん作る」

「出来んの?」

「たぶん?」

彩未は、自信無げに返事をした。


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