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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
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第6話 戸惑いの朔也

 まばらな都会の星が、夜空に弱々しい光を瞬かせる。

 

 細く欠けた下弦の月下、町は人工的な光の洪水と化す。

 

「どうしよう。こんな身体じゃ、寮に帰れない……」


 恐慌に陥りたどり着いたビルの屋上から地上へ戻ろうとして、朔也は凍り付いた。


 いまの彼は女性の身体。

 しかも隠しようがないほど、出るところは魅惑的に出っ張って括れるところは細く括れた、結構見事なプロポーションだ。

 

 いまの姿で欲望を持て余した健康的な男子の巣窟、男子寮に戻ればどうなるのか、考えたくもない状況が嫌でも脳裏に浮かぶ。

 

 途方に暮れて立ち尽くしていると、

 

「取りあえずぼくの家に泊まればいいさ」


 それならとばかりに忍が誘ってくれた。

 

「妹が出て行ってから一人暮らしで寂しくてね。部屋も空いているし無駄に広いから、なんなら当分の間住んでくれてもいいよ」


 しかしどうにもこの胡散臭さが漂う生徒会長を信用する気にはなれない。

 

 訝しむ顔で押し黙っていると、忍を押し退けるようにして無表情な少女が進み出てきた。

 

「な、なんだい? ケイ」


 この二人、兄妹だと言うがさっぱり似ていない。

 双方共にかなりの美形ではあるのだが、顔立ちが違いすぎる。

 

 ケイの表情に乏しい繊細な美貌は純度の高い冷水を思わせる。

 そんな妹の冷たい瞳に見つめられ、忍が気圧された。

 

「彼はいま女の子。それなのに、男一人暮らしの家に連れ込むなんて、何するつもりなの? このスケベ変態愚兄、救いようのない犯罪者」


 感情の一切入らない棒読み口調が、むしろザクザクと忍の心を切り刻む。


「つ、通報はやめてくれ、ケイ!! この前本当に警察呼んじゃうから、誤解解くの大変だったんだから!」


 本当に携帯で110番にかけようとする妹を、愚兄が必死に止める。

 

「ちょっと待ってってば、犬神。女の子って!! オレ、男だから!」


 そんな兄妹漫才を楽しむ余裕もなく、朔也は慌てふためいた。

 

 声を荒げるといちいち甲高いヒステリックな響きになってしまい、自分でもギョッとする。

 

 確かに身体は妙な事で変化してしまったけれど、意識は男のままなのだ。

 こればかりは何があろうと変わらない。変わるわけがない。

 

 なのに、よりにもよって彼女は朔也を女の子扱いしていた。

 

(でも、生徒会長は違うよな。オレのこと男だって思ってるから、泊めてくれるって言ったんだろうし。いくら身体が女になったって、本当は男だって知ってるんだから、そんな変なこと考えるわけないし)


「会長はオレのこと、男だって思ってくれてますよね?」


「え? あ、ああ、うん……。もちろん」


 しかし、正面から見詰めると慌てて目をそらしやがったこの野郎。

 

「………………おい」


 なんだその、ばれちゃって残念みたいな表情はっ。

 

 咎めるようなジト目で睨み付けると、忍は上擦った声でまくし立てた。

 

「い、いや、そんな、よこしまな考えはありませんよ? ボクは? い、いくら可愛いなとか思ったって、元々は男性である少女にイタズラしちゃおうだとか? じゃなくて、ええと? ほら? おっぱいが大きくても本当は男な娘の胸なんか揉むわけありませんよ? あははは? さっき初めてあったばかりだし身体が変化する前の姿なんかほとんど知らないから、元は男とか言われても全然まったく気にならないだなんて思っていませんよ?」


「………………ッ」


 後退りながら、撓わに膨らんでしまった胸を両腕で庇い、忍の視線から隠す。

 

 一瞬でも信用した自分がバカだった。

 

 どうしようかと再び途方に暮れていると、ケイが真剣な面持ちで見詰めてきた。

 

「わたしの家に泊まればいい。心は男のままでも、身体はいま女の子なのだから、大切にしなくてはだめ」


「う、うん……」


 女扱いされるのは変な気分だけど、忍に言われるのと違って、ケイに言われると何となく受け入れてしまう。

 

 流石に女の子の、しかも同級生の家に厄介になるのはマズいのではと思ったが、いまの身体ではその方が妥当なのだろう。

 

 それにこの申し出を断ったら、もう行く所がない。

 

 今夜一晩は彼女の家のどこか空いている場所にでも泊めて貰って、この先のことはそれから考えよう。

 意を決して頷くと、ケイの無表情が微かに和らいだ気がした。


「そう、よかった。じゃあ、行きましょう」


 手を繋いでくる。そのひやりとした冷たさに息を飲みながら、恐る恐る握り返す。

 

「えっ……、ケイの……あのアパートにかい……? そ、それは……」


 忍がなにか言いかけるが、妹のひと睨みで口をつぐんだ。

 

 ただ戸惑うばかりの朔也は、繋いだ手に導かれるままに彼女の後を付いていった。

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