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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
39/39

第39話 続く日々

 今頃になって、助かったんだという実感が湧き上がってきた。


 次の日になって学校の昼休み。

 教室の席で、昨日の出来事が脳裏を駆け巡り背中に汗が滲む。


 よく死なずに済んだと思う。


 自分一人だったら、あっという間にあの鋭い爪に身体を抉られていた。

 そしてこの身体の中に宿る、知恵の実と呼ばれるものを奪われ、跡形も無く切り刻まれていただろう。


(犬神ケイ)


 自分の身の危険も顧みず、深手を負ってまで守ってくれた。

 その寡黙な少女は、目を逸らせばそのまま、いることを忘れてしまいそうな希薄な存在感で、物静かに窓の外を眺めていた。


 彼女の視線の先、町一つを包み込む結界を構築した少年が、同じ生徒会の役員だろうか気の強そうな少女に襟首を掴まれて、小言を食らいながらどこかへ引っ張っていかれる。


「廃部が決まったのに部室塔から立ち退かない運動部を、強制退去させに行くところ。愚兄は生徒会長なのに弱虫のヘタレだから、恨みを買うのが怖くて後回しにしていた。けれど副生徒会長がこれ以上待てないって、愚兄を現場に連行」


「そ、そうなんだ……」


 処罰を下す側の筈の生徒会長が、まるで刑場に連れて行かれるかのような光景に思わず苦笑する。この兄妹とそしてもう一人。


(一条龍姫……)


 恐るべき威力の二丁拳銃を携える、気が強く毒舌な金髪碧眼の美少女。


 黄昏の眷属と呼ばれる人外の怪物を倒した、鬼繰師と呼ばれる超常の拳銃使い。


(あの後、ろくに話もしないで分かれちゃったけど……)


 また会うこともあるのだろうか?


 思い返すと酷いことしか言われていないのだが、何故だか妙に憎みきれない彼女に苦笑が浮かぶ。その最中、


「き、如月っ」


 いきなり声をかけられて振り返ると、


「ん? なんだ桜井か。なに?」


 クラスの悪友が妙に緊張した面持ちで立っていた。


 いままではことあるごとにつるんでいたヤツだが、性別が女になってから接する雰囲気が変わってしまい、ちょっと距離を置いてしまっていた。


 いまもお互い、何だかギクシャクした雰囲気になる。それでも平静を装って尋ねる。


「あ、いや、その、別に大した用じゃないんだけどさ。そ、その、ええと、きょ、今日の放課後、何か予定無ければ、お……俺と、」


 話す内にみるみる顔が赤味を帯びて汗だくになる。


 しどろもどろに声を震わせる様子が、ちょっと気持ち悪いなと思って、後退りかけていると。


「朔也く〜ん、お昼ご飯たべにいこっ!! ケイちゃんも、いっしょに〜♪」


「美晴ってば、なにそんな所につっ立ってんのよ。どいてっ、邪魔ッ!!」


 女体化してから仲良くなった女子が元気いっぱいにやってきた。


 憐れ桜井は、幼なじみである柊春菜に追い立てられて、スゴスゴと退散してゆく。


「あ、うん、今日はちょっと犬神も弁当作る余裕がなかったらしいから、学食に行きたいんだけど」


「おっけー、私、きつねうどん食べたい〜」


 陽気で華やかな坂本希理香が楽しげにはしゃぐ。その横で、


「あ、あの、お弁当、みんなの分も、私、作って……来ました」


 内気で照れ屋な沢井佐奈子が、おずおずと包みを差し出す。


「へえ〜、やるわねえ、佐奈子ったら。それじゃ、今日も天気が良いし今度は屋上にでもいきましょうか」


 仕切り上手の春菜に率いられて、教室を後にする。


 まだ身体には慣れないし、またいつ人に在らざる者たちが襲い来るか分からない。


 けれども、


 傍らには、以前より気配を露わにしたケイが、相変わらずの無表情で寄り添うように歩く。


(オレも、強くなるんだ。自分の身は自分自身で守れるくらいにはっ!)


 ささやかな、しかし険しい道が待ち構えていそうな決意を胸に、如月朔也は少女となった姿で一歩、足を踏み出した。


(第一部完)

この話は、この回でひとまず完結となります。

いままでご愛読いただき、ありがとうございました。


また機会がありましたら続きを書くかも知れませんので、その時はよろしくお願いいたします。

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