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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
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第37話 激戦を終えて

 激戦が終わり、忍が町全体を包み込む巨大な籠目結界を解除したようだ。


 身体を取り巻く違和感が消え失せ、空気の流れが一変する。


 激戦に崩壊していた町並みが、何事も無かったように元通りの姿を保ち、人々が住まう気配で充ち満ちる。


 ただ結界を展開する前に眷属の襲来で破壊されたボロアパートだけが、残骸となって散らばっていた。


「ふう……」


 錬気の全力発砲は流石に消耗が激しかった。脚に力が入らず、へたり込んでしまう。


 護砲童子も余りの負荷に耐えかねて、姿を消してしまっている。


 溜息を吐きながら仰ぎ見ると、アビスウォーカーとあの眷属の身体になった女男が抱き合うようにしてこちらへ向かってくる。


「ふん。ひとまずの所は見逃しておいてあげるけど、何かあったらその時は問答無用で討滅してやるから」


 あの女眷属がしきりに奪おうとしていた、知恵の実とかいうもの。


 眷属どもにとって、非常に重要であるらしいその何かが、あの朔也とかいうヤツの中に収まっている。


(忍もアビスウォーカーも、どうやらそれ目当てであいつを保護しているみたいだし。色々と探ってみる必要があるわね)


 まともに聞いてもはぐらかされるだけだ。そのあたりは家に戻ってから手を打つとして、


「ちょっと、肩ぐらい貸しなさいよ」


 結界を構築する炎狐から人の姿に戻って傍らにやってきた忍に、命令口調で告げる。


「お疲れ様。あの眷属、ずいぶんと強敵だったけど、さすがは龍姫だね」


 どうせこれも式神の身代わり、とか思っているといつの間にか本人と入れ替わっていたりする。

 

 数年前、一条の名を捨てて家を出て行った義兄が、相変わらず胡散臭い笑みを浮かべている。その手が、


「ちょ、ちょっと!」


 龍姫の小柄な身体をお姫様抱っこに抱え上げた。


「肩貸すだけでいいんだってば!! お、降ろしなさいよ!」


 思いがけない行動に面食らった。思わず顔が赤く染まってしまう。


 逃れようと藻掻くが、長身の義兄は降ろしてくれようとしない。


「無理しちゃだめだってば。万物からの錬気を取り込んでいたとはいえ、あれだけの力を一挙に放出したんだから歩くのも大変だろう?」


「それに、こんな時くらい兄らしいことをさせて欲しいな。ボクは家を出た人間だけど、龍姫のことはいまでも妹だと思ってるんだから」


「………………う〜」


 色々言ってやりたいことはたくさんあるが、不機嫌そうに唸り顔を伏せる。


 何よりも真っ赤に火照った顔を、忍に見られたくない。


 気怠く消耗した身体を彼の腕に委ねて、龍姫は居心地が悪いような落ち着くような、相反する奇妙な気分を味わっていた。

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