第36話 護砲童子
ハストレアの跳躍を阻止したばかりか、しなやかな身体を大地へと縫い付ける。
足を強引に上げようとするが、超常の力が作用しびくともしない。
「くうっ!! おのれッ! くそっ、錬気で」
苦痛に呻きながら屈み込む。そのハストレアへと、
「ほんとそいつったら忌々しいでしょ。こそこそ忍び寄っては、ナイフでちまちまとせこい攻撃してくる。気配がまったくないもんだから、最大限に勘を働かせて動きを読まなくちゃいけない」
ありありとした殺意を込めた、溜息混じりの言葉を投げかける。
旋風の分身に錬気弾の連射を叩き込み打ち倒した小柄な少女が、金髪のツインテールをはためかせ地上に降り立った。
「そんな姑息な暗殺者なんかに殺されるなんて恥でしょうから、このあたしが、豪快に、鮮烈に、華々しく、ぶっ殺してあげるわっ!!」
巨大な拳銃の形状を取る鬼神、護砲童子。
阿と吽の二丁。
「この護砲はあたしのリミッター。あたしってば錬気の細かい出力制御が苦手だがら、いったんこのカートリッジに錬気を蓄積させて、一発一発の弾丸に分割して発射しているの。でないと、一発撃っただけで町一つ壊滅させちゃうから」
その銃把から弾倉が滑り落ちる。
「でもこの籠目の中なら、どれだけ全力で撃っても現実世界には何の被害も及ばさない。しかもあんたの忌々しい結界と違って、万物から錬気を吸収できる」
語る最中にも、大地や大気、ありとあらゆるものからあふれ出た微量な錬気が龍姫へと寄り集まってゆく。
そしてその膨大な量となった錬気は、弾倉を排出した鬼銃に直接充填されていった。
猛り狂うように唸りを上げ脈動を始めた鬼神の二丁拳銃を狙い定める。
「た、龍姫、お手柔らかに頼むよ。いくら絶対結界の籠目とは言え、あまり負荷がかかり過ぎると崩壊の危険が。それにこれだけの規模を展開し続けるとなると、維持するにもかなりの力が」
六芒星型の紋様を上空に描き、町ひとつの広大な範囲を次元の狭間に転写させた亜空間結界。
その式術を保持し続ける炎の狐が、泣き言めいた言葉を投げかけてくる。
「うるさい、馬鹿忍! 文句いってないであたしの全力、受け止めなさいってばっ!!」
彼の愚痴にますますいきり立ったように、膨大な錬気で鬼銃が膨れ上がる。
「くうっ!! くそおおっ!」
焦りと恐怖を顔に浮かべ、両足に深々と突き刺さったナイフを抜こうとハストレアが慌てふためく。しかし、
「あがあっ!!」
その両手も、気配無き少女の刃が大地に縫い止めた。
「い、犬神……」
眷属の動きを完全に封じると、ケイは朔也の元へと戻り気配を現した。
突如目の前に出現したように感じる彼女に驚きながらも、張り詰めていた糸が緩むように倒れ込んでくる華奢な身体を抱きとめる。
女体化少年の胎内に潜む知恵の実の力で治癒したとはいえ、体力までは完全に回復したわけではないらしく、身を委ねてくる。
「大急ぎでこの場から離れて。出来るだけ遠くに。暴力拳銃女の迷惑極まりない過剰攻撃に巻き込まれたら馬鹿みたいだから。あんなの力の無駄。愚か者がする攻撃」
「え……? あ、う、うんっ!!」
淡々とした口調の毒舌に面食らいながらも、ケイを抱きかかえ全力の跳躍で退避する。
「アビスウォーカー……、あんた、後でちょっと顔貸しなさいっ。それよりもいまは……ッ。これで終わりよ、黄昏の眷属っ。護砲童子フルバースト、存分に味わいなさいッ!!」
朔也とケイが安全圏内に達したのを見届け、もうすでにはち切れそうなほど膨張し、青筋を立てていきり立つ二丁拳銃の引き金を引く。
ただでさえ並の拳銃とは比べものにならない破壊力の錬気弾。
それさえも生易しく思えるほどの常識外れな銃撃が、細い腕に握られた左右の巨大な拳銃から爆射された。
反動で小柄な身体が、地面に溝を穿ちながら後退する。
それでも彼女自身はバランスを損ねることもなく、狙いを定め続ける。
「こんな馬鹿な。たかが人間風情の力で、これほどの錬気を」
もはや弾丸などではない。計り知れない量の錬気の奔流が荒れ狂いながら押し寄せる。
まさに人間離れしているとしか言いようのない、桁外れな破壊の殺到にもはや逃げることも諦め呆然とした。
「サイファさま、申し訳ございません。わたくしは……」
叶わぬ思いを抱く主へと言い残すように呟く。
その言葉も終わらぬうちに、何もかもを滅ぼし尽くす強大な錬気の怒濤に飲み込まれ、ハストレアは跡形も無く消し飛んだ。




