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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
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第34話 全力の戦い

「うぉあああ————ッ!」


 すぐさま足にしがみつく式神を切り払い、旋風を身体に纏わせ間一髪で飛び退く。


 寸前までハストレアがいた場所に凄まじい威力の錬気弾が一斉に命中し、炸裂した。


「うわあぁッ!!」


 危機を感じ、ケイを抱きかかえて飛び退いた背中を壮絶な爆風が殴りつける。


(く、くそ。錬気で、身体を支えるようにしないと)


 バランスを崩しかけながらも、重傷を負った少女だけは落とすまいと、朔也は身体の中を循環する強大な力を意識し、操ろうと思念を向けてみる。


(うおっ! か、身体が急に軽くッ。空中で、姿勢を変えられるっ)


 まるで高いところから飛び降りた猫のように、アクロバティックな身のこなしで身体を捻り、ほとんど衝撃もなくケイを抱いたまま地上に着地する。


(オレの思い通りに、力を操れる!)


 子供の頃、初めて自転車に乗れたときのような、何となくコツを掴んだみたいな、しかしまだ恐る恐るの危うさではあるが、錬気の使い方が分かった気がする。


 そのまま錬気を込めた間髪入れぬ跳躍で、猛攻を繰り広げようとしている龍姫から出来るだけ距離を取った。


「お、おのれっ、調子に乗るなああっ!!」


 その朔也の動向を気にかける余裕もなく、ハストレアは肩に穿たれた傷の痛みに顔をしかめながら、全身を取り巻く旋風の勢いを強めて宙へと舞い上がった。


「別に。調子になんか乗ってないわ。ちょっとウォーミングアップしただけ。むしろそっちの方でしょ、調子に乗ってるのは」


 アパートの近隣一帯を吹っ飛ばしてクレーターへと変えた銃口を、ハストレアに定めながら龍姫が挑発的な口調で返す。


「さっきの戦いであたしのこと大したことないって思ったんでしょ? でもおあいにく様。あんな狭い所で、しかもやたら頑丈な結界に封じられてるのに全力なんか出してたら、あの足手纏いどもまで巻き沿いにしちゃってたわ」


「まあ、あんな連中がどうなろうとあたしは構わないんだけど、色々と後が面倒くさいんで。だから力を抑えて戦ってあげてたのよ」


 眷属が張った結界内の不利な空間では、あれが精一杯だった。


 けれども忍が構築した強大な籠目結界の中で、十分に錬気の力を発揮する龍姫の破壊力が先ほどとは比べものにならないほど強大なのは事実だった。


「でもここなら。これだけの広さがあって、元の世界に一切影響を与えない結界のなかだったら、本気で相手してあげられるわ」


「ほざけ!! そんなハッタリが私に通用すると思ったか! 全力を出していないのは私も同じだ。しかしもう容赦はしないぞ!!」


「ハッ! そっちこそ大したハッタリだわね。いいわ、来なさい。その全力とやらを、見せて貰おうかしら」


 小馬鹿にした表情でハストレアを嘲笑う。


 しかし言葉も終わり切らぬうちに、旋風を纏う眷属は一瞬にして龍姫の目前に迫っていた。


「——くっ!!」


 突風によろける小柄な身体を串刺しにしようと、鋭い爪が突き出される。


 しかし僅かに体を躱し軽く一歩バックステップして攻撃を避けると、龍姫は銃を握ったままの手の甲で、空を切ったハストレアの手首を弾き上げた。


「おわあっ!?」


 途端に旋風の勢いが乱れ、両脚を上にして眷属本人の身体を跳ね上げる。


「拳銃使いのあたし相手なら接近すれば楽勝って思ったんでしょうけど、お生憎様」


 一条流退魔柔拳法。

 相手の錬気が強ければ強いほど、気脈の流れを狂わせて暴走を引き起こす、人外の者との戦いを重ねて技術を向上させてきた格闘術。


 そのまま制御を失った自分の旋風に押されて、ハストレアは背中から地面へと叩き付けられた。


「ぐ、ううっ、なんだとっ!?」


 自分の身に何が起こったのか分からず無防備を晒すその姿へと、銃口を狙い定め発砲する。至近距離での一撃を、


「つぇえええいいっ!!」


 ギリギリでハストレアは錬気の制御を取り返し飛び退いた。


「く……、姑息な技を。しかしならば、もう二度とお前に触れなどしない」


 旋風が頭まですっぽりとハストレアを覆い尽くし、空へと舞い上がらせる。


「死ねっ!」


 一気に加速し、しかも変則的な軌道を描いて龍姫へと襲いかかった。


「安心なさい、もう二度と触らせる気なんかないから。その前に、撃ち落とすッ!!」


 銀の鱗粉を舞い散らす黒揚羽の羽根が龍姫の背に生じ、眷属に負けぬ速度で飛翔した。


 あっという間に天高く舞い上がり、


「もらったっ!」


 上空から眼下の敵目掛けて連射する。


「遅いッ!!」


 しかし弾丸が届くよりも速くハストレアは龍姫の背後を取り、高速で旋回する突風から指の数だけ鋭い刃を突き出して突進してきた。


「どっちが!」


 優雅に羽ばたく蝶の羽根の印象とは段違いの速度で身を翻す。突っ込んでくるハストレアを避けようともせず、龍姫は正面から錬気弾を続けざまに叩き込んだ。


 烈風が弾丸の軌道を狂わせる。狙いを大きく逸れて着弾する大地で地響き立てて爆音が轟き、建物を吹っ飛ばし大穴を穿つ。


 突進を喰らわせ全身をズタズタに切り裂こうと迫るハストレアに、龍姫は錬気を暴走させる裏拳の軽い一撃を喰らわせた。


 その途端、渦巻く旋風にすっぽりと覆われたままの姿が大きく拉げ、あらぬ方向へもんどり打って吹っ飛ぶ。


「はっ! たわいないっ!!」


「ふん、この程度ッ!」


 追撃しつつ龍姫が銃弾を放ったその時には、既にハストレアもバランスを取り戻し、襲いかかってきた。

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