表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
33/39

第33話 大籠目

「来たわね!! って、なによあんた、あたしよりも早く気配に気付いたってわけ?」


 朔也に遅れて、龍姫と忍も敵の接近を感知した。


「知恵の実を宿しているからか、それとも変転した身体がやつらの王妃のものだからか?」


 朔也の思いがけない能力に驚いている間にも猛り狂う気配は勢いを増して、龍姫が穿った天井の穴から、部屋へと飛び込んできた。


 衝撃を受け止めきれずボロアパートが一気に崩れる。


「くっ!!」


 その中から、護砲童子を構えつつ龍姫が飛び退き、このあたりで最も高い家屋の屋根に着地した。


「うわあっ!」


 崩れる部屋に慌てふためく朔也を、


「おっと」


 即座に四匹の炎狐へと姿を変えた忍が、負傷して動けぬケイ共々朔也の襟首を咥えて、近隣の屋根へと退避する。


「ア、アパートが……。みんなまで一緒に」


 元から辛うじて建っているような老朽建築だったが、眷属襲来の衝撃で完全に崩壊してしまった。


 隣室の子供たちや、他の部屋にも居住者がいたというのに、すべてを巻き込んで瓦礫と化した無残な光景に、朔也は言葉を失った。しかし、


「ああ、そうか、まだ説明してなかったっけ。実はあのアパートの住人はすべてボクが作り出した式神、つまり錬気で本物そっくりに動く人形みたいなもので、実際に生きている人間じゃないんだ」


「だから、心配しなくても大丈夫さ。因みにボクのこの炎狐の姿も式神で、ボクは離れた所から遠隔操作しているんだよ」


「式神? っていうことは、人間じゃない!?」


 子供たちにしても、隣のおばさんにしても、表情や仕草など、実際の人間としか思えなかった。


 それが忍の作り物だと言われてもすぐには信じられない。

 

 朔也が呆然とする最中、


「見つけたぞっ! もっと遠くへ逃げたかと思ったけれど、まだこんな所でもたもたしてたとはな。錬気が切れたか? それとも観念して知恵の実を差し出す気になったのか?」


 残骸の中に仁王立ちし、もはや人とはかけ離れた表情へ美貌を歪めてハストレアがほくそ笑む。


 獣のように裂けた口からだらだらとヨダレを垂らし、両手の指から長く鋭い爪を生やして朔也を睨め付けてくる。


 その圧迫感に息を飲むなか、


「冗談でしょ、お前なんかに何一つくれてやるつもりはないわ」


 龍姫が高飛車な冷笑で見下ろしながら眷属を挑発する。


「ふん、貴様の銃が私には通用しないのは、存分に思い知っただろう? 今度は容赦なく、一片の肉片も残らぬくらいズタズタに切り裂いてやる!」


「ハッ、あの程度で勝ったつもり? お前こそその薄汚い身体跡形も無く吹っ飛ばしてやるから、覚悟しなさいっ!!」


 一触即発の睨み合いに火花が散る。


「朔也くん、二人のとばっちりを食らわないように、距離を取って身を守ってくれ。それとケイを頼む!」


「う、うわ」


 炎を纏う狐の姿となった忍に渡され、包帯姿で眠り続けるケイの身体を慌てて抱き締める。


 とてもあれほどの戦いぶりを発揮するとは思えないほど華奢でいて、出るところは出て括れるところ括れている身体の柔らかさに慌てふためく。


「ボクは龍姫が力の限りを尽くして戦える場所を作るから!」


 そう告げるなり三匹の炎狐がそれぞれ三方向へと空中を走り去っていった。


 残ったもう一匹は上空高くへ真っ直ぐと駆け上ってゆく。


「神糸を紡ぎて編み成さん。絶え無き交差を連ね成さん。急々如律令、我が身より出でし式傀儡よ、現世より離する綴籠にて封ぜし界隈を戦場とせよ!」


 妙なる詠唱が炎狐たちから一斉に紡ぎ出された。途端、


 重い響きと共に町中のポスターや看板、標識、壁の落書きにいたるまで、あらゆる文字という文字が生物の様に蠢き、綴りを変え始めた。


 いくつもの文字列が一つの方向へと這い進み、合流して大きな流れへとまとまりゆく。


「う、うわあ」


 巨大な生物が脈動するような荘厳な光景に、畏怖にも似た感嘆の声がこぼれる。


 朔也の目の前で文字の奔流は巨大な魔法陣を成し、町全体を取り巻いた。


「式術結界ッ、大籠目ッ!!」 


 そして三方向へと飛び分かれた炎狐が、目映い輝きと共に正三角形の陣を作り上げ、薄皮を剥ぐように上下に分かれた。

 

 その一片が緩やかに四十五度の位置まで回転し、不動の一片と重なり空中に巨大な六芒星型の紋様を形作る。


 途端、身体が一瞬にして別の空間へ転移させられたような、奇妙な浮遊感に見舞われた。


「結界か、これは? この大きさは!!」


 閉塞的な感覚に、ハストレアが呟く。


「平行する世界と世界の狭間に疑似空間を構築する籠目結界。この中ではどれほど派手に暴れても外の世界に影響が出ることは無いのだけど、即席に張ったものだと範囲も強度にも限界があるし構築していられる時間も短い」


 炎狐姿の忍が得意げに解説を始める。


「だからいざというときのために、あらかじめ町全体を覆い尽くす巨大な籠目の術式を仕掛けておいたのさ。この中でなら、龍姫も力を思う存分に発揮できる」


「はあ? だからなに? あの小娘の力なら十分に計らせてもらったわ。噂に名高いガンスレイヤーがどんなものかと思ったけれど、アビスウォーカーと同じとんだこけおどし」


 忍の言葉にも余裕の態度でハストレアが嘲笑う。


 その刹那、眷属を見下ろす龍姫の指が、護砲童子の引き金を引いた。


「ふんっ!!」


 高速で飛来する錬気の弾丸にハストレアも飛び退こうとした。だが、


「なにっ!?」


 瓦礫の下から這い出た無数の手が、彼女の足を絡め取る。


 崩れたアパートの下敷きになった、住人の姿をした忍の式神たちだった。


「姑息な真似をっ!!」


 しかし余裕の態度でハストレアは爪刃を振るい、錬気弾を弾き返そうとする。


 ベギィインンッ!


 しかし強烈な錬気弾の一撃は爪刃をへし折り、眷属の肩口を穿った。


「ぐぁああっ!!」


 苦痛に呻き膝を着く。その身体へと、


「おねえさん……、あそぼおよ……」


「ぐふふ、いいおんな、だあ……」


 子供や労務社風の男や老夫婦など、アパート住民の姿をした式神が瓦礫の下から這い出し、まるでゾンビの様にしがみついてくる。


「くそっ、放せっ!」


 すぐに爪刃を再生し、次々と掴み掛かってくる手を切り払うが、式神たちは痛みを感じぬらしく平然とした様子で何度でも迫り来る。


「おんぶして〜、おねえちゃん」


「あがぁあっ!!」


 背中に飛びついてきた女の子に、すごい握力で肩の傷口を抉られたまらず悲鳴を上げた。


「このっ!!」


 すぐさまその式神を串刺しにして払い退け立ち上がろうとした刹那、立て続けに錬気弾の連射が襲いかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ