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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
32/39

第32話 再びアパートへ

 ドガァアアンッ!! ベギッ! バキバキバキッ!!


「おわぁああっ!」


 音の速度を超える凄まじい加速に耐えきれず、気を失っていたらしい。


 急激な落下感と衝撃に目を覚ます。


「こ、ここは……」


 全身を激しく叩き付けられた痛みに呻きながら身を起こすと、そこは見覚えのある部屋だった。


「ちょっとっ! あんたの言うとおり来たけれど、なによここっ!! こんな所で眷属を迎え撃てると思ってるの?」


 六畳一間の畳の上で仁王立ちしながら、金髪碧眼の拳銃使いが憤っている。


 傍らでぐったりとうずくまるケイへと、深手を負った身体を気遣うこと無く怒号を浴びせていた。


「それくらいで勘弁してやってくれないかなあ。傷がかなり酷いようだ。それに眷属との戦いで危うくなったら、ここに戻るように言ったのはボクだから」


 この部屋で待機していたらしい。苦笑交じりに弁明しながら、忍が妹を抱き支える。


「それにしても天井ぶち破って飛び込んで来るとは思わなかったよ。緊急事態だし玄関からとは言わないけれど、せめて窓から入る程度にしようよ」


「ふん!」


 龍姫が不機嫌そうな顔でそっぽを向く、


 ここはケイが住む、レトロ感漂うアパートの部屋だった。

 

 その瀕死の少女の具合を真剣な顔付きで見ながら口調だけは軽い忍の言葉に天井を見上げると、大穴が空いている。


「なんだなんだ、すごいおとしたぞっ! けいと、だいじょうぶかー?」


「かー」


 けたたましい物音に、隣室の幼い兄妹が驚いて様子を見に来る。しかし、


「何っ?」


「ひいっ!!」


「ひゃあっ!」


 反射的に振り返った龍姫の鋭い目つきに睨まれて、怯え声を上げて逃げていった。


「あ……」


 怖がらせるつもりでは無かったらしい、龍姫の顔がしまったといった表情になる。


「しかし龍姫がいてくれて助かったよ。朔也くんもケイもこうして救い出してきてくれるなんて。ボクだけだったら、手も足も出なかったからね」


 ケイの手当をしながら忍が感謝の言葉を告げる。


「ふ、ふん! あたしは眷属を討滅にいっただけよ!! でも厄介な結界は張られてるし、こいつらがうろちょろしてて邪魔で、不利な状況だったから。こいつら連れ帰ったのは、戦う場所を変えるためのついでよ! ついで!!」


 隣の兄妹に気を取られていて不意打ちのようになった言葉に、顔を赤く染めて狼狽えながら答える。


「それより何よ、この狭っ苦しい小汚い部屋! 物置にしたって、もう少しマシな所使いなさいよ!!」


 照れ隠し紛れに罵倒が激しさを増すが、朔也も忍も苦笑を浮かべ反論出来ない。


「あ〜、えーと、ここはその、ケイが住んでいる住んでいる部屋なんだ」


「うそっ!?」


 朔也は初めてケイに、ここへ連れて来られたときのことを思い出していた。


 恐らくその時の自分の顔は、いま龍姫が浮かべているのと同じ表情になっていたに違いない。


「なんでこんな部屋っ!? あんたきちんとこの子にお金あげてるの? まさか仕事の報酬、ほとんどあんたがピンハネしてるんじゃないでしょうねっ!」


「ま、まさか! きっちり半分ケイに渡してるってば。それに住むところだって、以前からボクの所に戻るようにいってるんだけど、何故だかこの部屋が気に入ってて移ろうとしないんだ」


 仕事というのは眷属とか人外の者を倒すことなのだろうか?


 そういった依頼がどこからくるのだろうか?


 ただ日常と余りにもかけ離れた状況だというのに、生活感を匂わせる話にちょっと混乱してしまう。


「半分半分? 直接戦うのはアビスウォーカーであんたは安全な所から式神操って、結界張り巡らせるくらいしかしくせに。どう考えたってこの娘が九であんたが一の分け前でしょ!? やっぱりピンハネじゃない!!」


「そ、それはいくらなんでも。仕事取ってくるのはボクなんだし、現場に式神を送ることでボクは後方で自由に動くことができるんだから。それに結界ってかなり錬気力使うんだよ。だからいくら何でも、配分一割っていうのは……」


「うっさいわね〜、分かってるってばそんなこと。冗談だってば、冗談っ。いちいち真に受けないでよ!」


 ケイの傷口を小型の結界で覆い、治療の式術なのだろうか呪文の詠唱と共に護符を貼る。


 手を休めることなく素早く処置しながら、忍は龍姫の半ば言いがかりのような言葉にどこか楽しげにも見える苦笑で狼狽えていた。


「そういえば、あんたってばいったいどこに住んでるのよ? いつも聞いたってはぐらかすし、後を付ければ式神とか結界で撒かれちゃうし。知られたくないってことは、かなりいかがわしい所なのかしら? でも今日こそは教えて貰うんだから。白状なさいっ!!」


 拳銃使いの小柄な身体が忍へと詰め寄る。


 その両手には当然、巨大な錬気銃護砲童子が、いつでもぶっ放せるとばかりに握られて、銃口を彼の胸元に突き付けていた。


「あはは、それはまあ、また今度落ち着いたらってことで。いまはほら、こういう大変な状況だし……」


「しのぶ〜〜〜ッ!!」


 忍が苦笑を張り付かせたまま、はぐらかそうとする。


 誤魔化されまいと龍姫が睨み付けたその刹那、


「ああッ!!」


 空の彼方から何か威圧的なものが、ここ目掛けて急速に近づいてくる気配を感じた。

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