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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
31/39

第31話 追撃

「うぉおおおおおおおおおおおぉあああああああああぁ——————ッ!!」


 屈辱と怒りとそして耐え難い消失感に、獣の遠吠えのような慟哭があふれ出る。


「よくもっ、よくもっ、よくもよくもよくもぉおおっ!! おのれ、リリアムぅうっ、愚劣な恥知らずのおこがましき淫売風情がああっ! サイファさまの御心を誘惑したばかりか、このようなっ!! あれはっ、“知恵の実”は、私のだっ! 私がサイファ様と、結ばれるための、至福の果実なのだっ!! それなのにっ、奪いおったなあっ! 薄汚い手口でッ!!」


 もはや完全に理性を失っていた。


 結界が消失した教室で大気を震わせて轟く怒号が、校庭にも校舎中にも響き渡る。


「お、おい、何事だ?」


「誰だ、あんた! どこから入った!?」


 野次馬に集まった生徒たちを制して、何事かと駆けつけた教師二人が教室に飛び込んでくる。

 

 狂ったように泣きわめく見知らぬ女に驚きつつ、保護しようと近寄った。


「うわっ、け、怪我してるじゃないか!!」


「おい、誰か保健室にいって、坂井先生を呼んできてくれ。それと……」


 ケイにナイフで穿たれた傷に気がつき、生徒に校医を呼びに行かせようとする。


 その言葉も終わらぬうちに、教師二人の首筋を鋭い爪刃が貫いた。


「あがぁ……」


「うぐっ」


 二人のすべての錬気を、爪を通じて一瞬で吸い尽くす。


 驚愕の表情を浮かべて強張った教師の身体が、塵となって崩れた。


「きゃぁああああぁ——————ッ!」


 生徒たちが一斉に悲鳴を上げて逃げ出してゆく。


 それには目もくれず立ち上がるハストレアの、背中の深い傷がみるみる内にふさがった。

 

「許さないッ。返せっ、リリアムッ。私の知恵の実をっ!!」


 人の命を奪った事など、気に留めることすら無い。


 ただ傷を塞ぐ錬気を得るために、つまみ食いしただけ。


 もっと喰らい力を蓄えたいところだが、狩りをしている暇は無い。


 一刻も早く、愛するサイファの寵愛を受けるための至福の果実を取り返すため、“蒼風”ハストレアは恐るべき速度で天空へと飛び上がった。

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