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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
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第26話 ガンスレイヤー

「なにぃっ!?」


 朔也とケイを切り裂く寸前だった爪刃を引いて、ハストレアが慌てて飛び退く。

 

 間一髪避ける女眷属だが、僅かに掠めた肩口がその錬気の弾丸に抉られた。

 

「くぅうっ!」


 呻きながらもその傷口を押さえもせずに身構える。

 

 先ほどケイの術によって穴を穿たれた結界。

 

 ハストレアによってすぐに修復され更に強固となった箇所が、まるで薄紙のようにぶち破られていた。

 

 その裂け目から、疾風のように小柄な影が飛び込んできた。

 

 両側頭で縛り纏めたきらびやかな黄金の髪を翻し、女眷属と二人の間に割って入る。

 

「——ッ!!」


 叩き付けられる殺気に、ハストレアが必死の形相で飛び退り間合いを稼ぐ。

 

 その肢体へと二丁の大口径の銃口が狙い定められ、引き金が引かれた。

 

 再び雷鳴のような轟音が響き、莫大な錬気を凝縮した弾丸が同時に二発、女眷属目掛けて放たれる。

 

「おのれっ!!」


 一発は辛うじて躱した。

 

 しかし避け切れぬもう一発をハストレアは爪刃で受けて弾き飛ばそうとする。

 

 しかし、

 ギィイインッ!

 

 耳障りな金属音を響かせて、錬気の弾はその鋭く頑丈な爪を砕いた。

 

「があっ!」


 痛みに呻き、女眷属が乱入してきた小柄な姿を睨め付ける。

 

 その鋭い眼差しを見下すような表情で受け止め、黄金の髪をツインテールに纏めた碧眼の少女が、両手に携える二丁拳銃型の鬼神をハストレアへと再度狙い定めた。

 

「護砲童子の錬気弾を防ぐだなんてなかなかやるじゃない。流石はアビスウォーカーを苦戦させただけのことはあるわ」


 人の能力を超えた超常の敵に対して、上から目線の言葉遣いで高飛車に言い放つ。

 

「い、一条龍姫? 助けに来てくれたのか」


 確かそう名乗っていた。

 

 人外の存在へと身体を変えられた自分を消し去ろうとした少女。

 

「なり損ないの半眷属のくせにあたしを呼び捨て? いい度胸ね。それにあたしは黄昏の眷属の居場所が分かったから、退治しにきただけ。あんたを助ける義理なんて微塵も無いわ。それにしてもアビスウォーカー、」


 振り返りもせず、険のある口調で吐き捨てる。

 

 そして今度はケイに向かって、嘲り混じりの文句を投げつけた。

 

「言ったでしょ。気配を殺しての戦いが本分のあんたが、姿を晒して他者を護衛するなんて無理だって。結局この通りあたしの手を煩わせる」


 その言葉にもケイは情感が読めぬ眼差しで見詰め返す。

 

 だが龍姫の余りの言い様に、朔也の方がムカムカする。

 

「お、おいっ! そんな言い方ってないだろっ!? こんなになってまで犬神は俺の事を守ろうとしてくれてるのにっ!」


「へえ……、ずいぶん仲のおよろしいことで。それにしても無愛想女にそういう相手が出来るなんてね、驚きだわ」


「なっ!? ば、ばかっ。違う! 俺と犬神はそんなんじゃ」


 思いがけないからかいに動転した。思わず顔を赤らめ口走ると、

 

「違うの? わたしと仲良くするの、イヤ?」


 満身創痍の寡黙な少女が真剣な眼差しでジッと見詰めてくる。

 

「い、いや、仲良くするのが嫌とかそういうんじゃないからっ。だから、これはその……って、いまは、そんな事言ってる場合じゃないだろ」


 しどろもどろにはぐらかし、ケイから目を逸らして龍姫に向けると、ふん、と呆れたような眼差しで鼻を鳴らした。

 

「そんな様になっているっていうのに、ずいぶんと呑気なものね」


「まあ式神を自分の骸に擬装して、あたしたちの誘導役に残したのはあんたにしては気が利いていたけれど」


「でもどうせならこんなへっぽこ結界に阻まれる程度の粗末なものじゃなければもっとよかったのに。おかげでこの辺り散々探しまくっちゃったわ」


「結界の強さは予想外だった。それに封鎖力も強い。てこずった」


 龍姫の文句に、ケイは抑揚の無い声でそれだけ告げる。

 

「ふん……。とにかくいったんここから出るわよ。こんな中で足手纏いのあんたたちがいたんじゃ、思い切り戦えないから」


 ハストレアを目力で威嚇しながら龍姫は、凝縮した錬気を弾とする鬼銃を自分が飛び込んできた教室の窓に向けて一発発砲した。

 

 大気が震える轟音がまたしても響き渡る。

 

 眷属の頑強な爪刃を破砕する威力が、自動修復によって塞がってしまった結界を今度は内側から突き破らんとした。だが、

 

「なっ、なんですって!? あたしの護砲童子が効かないっ!!」


 凝縮された錬気の弾丸は空間を遮る壁面に易々と受け止められ、その内部へと飲み込まれた。

 

 しかもその錬気弾の力を我が物としたかのように、教室全体を覆う結界の壁が波打って更に強固さを増す。

 

「無駄よ。この包鎖結界は内部からの一切の錬気を遮断する仕組み。外からの攻撃で容易く打ち破れたからまた簡単に突破出来るって思ったんでしょうけれど」


 龍姫と睨み合いながら警戒の構えを取る女眷属が、してやったりとほくそ笑む。

 

「ちっ、厄介な小細工を……っ。でも、これならどうっ!? はあアッ!」


 舌打ちしながら二丁拳銃の少女は、左右両方の銃口から更に威力を増した錬気弾を続けざまに何発も叩き込む。

 

 ドゴゴゴガゴガゴガガガガァアアアアアンッ!!

 

「うわっ!」


 発砲で生じる強烈な衝撃波が続けざまに押し寄せた。

 

(どんな性能してるんだよ、あの銃っ)


 ケイを庇いながら、吹っ飛ばされないように身を低くする。

 

 威力からして反動も相当な物であるはずの巨銃を平然とぶっ放し続ける、小柄で華奢な美少女に朔也はいまさらながらの驚愕の眼差しを注ぐ。

 

 耳をつんざく爆音と、視界が歪むほどの錬気の集中砲火にいかに強固な結界であろうともひとたまりも無いだろう。

 

 龍姫の表情にも、勝利を確信した自信満々な笑みが浮かぶ。しかし、結果は同じだった。

 

「くっ!!」


 二丁併せて二十連射以上はしたはずだ。

 

 結界に封じられていない本来の教室の窓ならとっくに壁面ごと跡形も無くなり、その向こうの校庭にいくつもの特大クレーターを穿っているであろう常軌を逸した威力。

 

 なのに、教室の内側全体に満遍なく張り巡らせられた強固な結界の壁はまるっきりの無傷。

 

「だから言ったでしょ。この結界は内側からの攻撃を全て吸収し尽くして、自身をより強固にする糧にする特性を備えているって」


「足掻けば足掻くほど、この部屋はお前たちを閉じ込め続ける牢獄となるのよ。この中へ迂闊に飛び込んできた己の浅はかさを思い知りなさい、ガンスレイヤー!!」

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