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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
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第17話 女の感覚

「ふう、美晴のヤツったら、如月くんが女の子になったら途端に目つきがスケベになってるんだから。最低!」


「う〜、オレもいままで男として暮らしてきたから、気持ちは分からないでもないんだけど、すっごく嫌だった」


 朔也が顔をしかめていうと、女子たちがうんうんと同意してうなずく。

「まあ、しばらく気持ち悪くて大変だろうけど、慣れると適当にスルー出来るようになるから」


 苦笑交じりに春菜がアドバイスしてくれる。

 

「そっか……。あの、ひょっとして、オレもいままでみんなのこと、その……、そういう目で見ちゃってたと思うんだけど。嫌じゃなかった?」


 いまだってつい彼女らの胸とかに視線が行きそうになる。

 

 長年男として育ってきた修正は、簡単に抜けるわけが無い。けれど、

 

「如月くんは、美晴とかみたいにあからさまにエッチな目で見ていた訳じゃ無いし。別に嫌な感じじゃなかったけど」


「うんうん、でも、どうせならエッチな目で見られたいなって思ってた娘が、約一名いたりして〜?」


 希理香がニヤニヤ笑いで佐奈子に流し目を送る。

 

「ふえっ? そんな、ち……、違います……」


 途端に顔を真っ赤に染めてあたふたとし始めるので、朔也の方まで気恥ずかしくなる。

 

「まあでも、女の子同士でも普通に胸とか生足とか目が行っちゃうしね。さすがに男どもみたいに、イヤらしい視線にはならないけれど。だからあんまり気にしなくて大丈夫よ」


「そうなんだ……」


 春菜の言葉に安堵する。

 

「ねえねえ、それよりどこにいこっか?」


「そうね、如月くん、女の子が着るものあんまり持ってないでしょ? それなら服見にいくとか」


「あは、それいいかも〜、私らで可愛いの選んであげちゃおっ! ね、佐奈子ちゃん♪」


「き……如月くんの……、女の子用の、服を……」


 脳内で自分が選んだ服を朔也が着ている姿を想像しているらしい。


 内気少女の赤面顔が、興奮し過ぎて失神寸前の様相となる。

 

「あ、それなんだけどごめん、実はこの後行くところがあって……」


 さっき教室で断ろうとしたのだが、桜井がしゃしゃり出てくるからタイミングを逃してしまった。


 途端に残念そうになる少女たちに、気まずく言葉を絞り出す。

 

「荷物とか全部男子寮の部屋に置いたままだから、早い内に取りに行かないとならないから、これからすぐに向かおうと思ってたんだ。ごめん」


「そっか〜、今日からケイちゃんちに住むんだもんね」


「それならあたしたちも引っ越し手伝おうか? 一人で荷物運ぶのも大変でしょ」


 面倒見の良い委員長が申し出る。

 

「ありがとう。でも荷物の量自体はそれほど無いんで、一人でも運べるくらいだから」


「それに、わたしも一緒に行くから、大丈夫」


 無表情な少女の突然の声に、朔也も含め一同がビクっとする。

 

「い、犬神さん」


「いたんだぁ、き、気がつかなかった」


 みんなと一緒に教室を出たときにもいたし、いままでもすぐ隣に立っていたのは認識していたはずだ。

 

 なのに何か他のことに気を取られると、彼女の存在が意識から消え失せてしまう。

 

(眷属と戦うための能力ってわかってても、なんか、ドキっとしちゃうよな)


 せめてクラスメイトといるときくらいは使わなくていいと思うのだけれど、もしかして自分で制御できない力なのだろうか?

 

 そんな事を思いながら彼女たちに詫びる。

 

「そ、そういうわけなんで、ほんとごめん。明日なら、一緒にどこか行けると思うから」


「そんないいってば別に。あたしらも突然誘ったんだし」


「じゃあ、明日は朔也くんのお洋服見に行こうね! どんなの似合うかな〜、楽しみ〜」


「う……、そ、それは……」


 女子の制服だって何だか女装しているみたいで落ち着かないのに、私服まで女ものなんか絶対に着たくない。

 

 サイズ自体は大幅に変わったわけじゃないのだから、いま持っているTシャツとかジーンズとかで十分だ。

 

 けれど希理香のはしゃぎっぷりは、そんな事を言って断れない雰囲気だ。

 

「ケイちゃんも明日一緒にいけるよね?」


 そのテンションに圧された訳ではないだろうけれど、誘われて無表情娘もこくりと頷く。


「やったー、一緒に朔也くんに似合う服、選んであげようよ〜」


「じゃあ、わたしは如月くんにピッタリの、セクシー下着を選んであげる」


「なっ!?」


「あはは〜、それいいかも〜。ケイちゃんって、こんな面白い娘だったんだぁ。もっと早く仲良しになればよかった〜」


 朔也が呆気に取られるなか、希理香はケイに抱きつくようにして楽しげに笑う。


「そうよね、本当は女の子って分かったんだし、下着も女物を揃えなくっちゃね」


 何だか春菜が頬を赤らめて朔也股間をちらちらと盗み見ているのは、スカートの下がどうなっているのか気になるからだろう。


 眷属に肉体を変えられ、構造も丸っきり女になってしまった朔也だが、そんな事が通常の状況であり得るはずが無い。


 なので外観の特徴が男性的なため男として育てられてきたのだが、検査で実は女性だということが判明した、いわゆる仮性半陰陽的な感じでみんなには説明してあった。


細かく追及されると誤魔化しきれなくなるのだろうけれど、眷属が襲来した時、生徒に避難行動をさせた忍の精神操作能力が、みんなに余計な詮索をさせないようにしているのだ。


「き……如月くん……に、お、おんなのこ……の、下着……」


 佐奈子は佐奈子で、また何か色々と妄想が脳裏に浮かんでいるらしくて、のぼせすぎていまにも倒れような様子だ。


「因みにいま如月くんにはわたしのパンツを貸してあげている。水色と白の縞々のやつ」


 その彼女たちへ追い打ちを掛けるように、ケイが爆弾発言を投下した。


「ちょっ! い、犬神っ!!」


「ええっ!?」


「おお〜〜!! し、しまパン!」


「ふぇえええぇっ!?」


 思いがけないケイの言葉に、春菜は面食らい、希理香は感嘆の声を上げ、そして二人よりも大きな声で、内気な少女が衝撃に身を強張らせる。


 元から穿いていたトランクスだと、どうしてもスカートからはみ出てしまうため、やむを得ずだった。


 男性器の消え失せたデリケートな股間に優しくフィットする穿き心地の良さに却って戸惑いを覚えながらも、着けざるを得なかった小さな布地。


しかも同じクラスの女の子の下着を、昨日まで男だったというのに穿いている事実を再確認させられる。


「わたしとしては、黒のレースの透け透けのがあってると思ったし、事実お似合いだったのだけど……もが……」


「と、とにかく、また明日ってことで! 今日は色々とありがとうなっ!! じゃっ」


 放っておけばケイはこのまま色々と暴露し続けそうだ。慌てて口を塞ぐ。


 朔也は慌ただしく彼女たちに感謝を伝えると、ケイの襟首を掴むようにして大急ぎでその場から逃げ出した。

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