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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
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第16話 変わる関係

 軽やかなチャイムの音色が六時間目の終わりを告げる。

 

 長い苦行から解放されたかのように、朔也は机に突っ伏して深い溜息をこぼした。

 

 女に代わってしまった身体での学園生活初日、しかも拳銃娘に命を狙われ、さらに眷属が襲って来たというハプニングで疲労困ぱいだ。

 

『一週間でこいつに錬気の操法を習得させなさい! 出来なければそのときこそ絶対にあたしがこの手で討滅するからっ!!』


 意地でも朔也を守ろうとするケイにそう告げて、一条龍姫は不機嫌そうに帰って行った。

 

『龍姫はあれでも君のことを心配してるんだよ』


 ガムドにやられたと思った忍は、戦闘が終結するなりあっさりと再生を果たした。

 炎狐から人間の姿に戻ると、強張った笑みで朔也をなだめる。

 

(適当なこと言いやがって。あれが心配してる奴の目か?)


 一条龍姫。

 殺意のこもった彼女の碧い瞳は、思い返しただけでも背筋が寒くなる。

 

(あの凄い力……、“錬気”を操る技術、ケイが教えてくれるらしいけど)


 隣席で下校の支度をしている物静かな少女は相変わらず存在感を希薄にして、無表情な美貌を目立たせることなくクラスに埋没させていた。

 

 人間の肉体に宿る生命力を練り上げ凝縮した力で、眷属と呼ばれる異形の者たちや、奴らと戦う退魔師たちは様々な超常の能力を発動させる。

 

 精神生命体である眷属とその肉体とをつなぎ合わせ、この世界に存在させ続けるためにも消費される力、錬気。

 

(オレに覚えられるのかな? いったいどんな練習するんだろ? 武術の修行とかみたいに厳しいのかな……)


 昔見たカンフー映画のムチャクチャな修行のシーンが脳裏をよぎる。


 不安を抱きながら下校の支度をしていると、今日半日で急激に親しくなった女子たちがやってきた。

 

「ねえねえ、朔也くん、放課後ってひま? よかったらどこか寄ってかない? 買い物とか、お茶とか。駅前のカフェ、ケーキが美味しいんだよ〜」


「違うでしょ! 下校途中の寄り道は禁止だって何度言ったらわかるのかしら?」


「真面目だなあ、春菜ちゃんは。そんなこといって、いままで何度もあたしに付き合ってくれたじゃない。あの店の苺タルト、大好きだよね〜?」


「わ、私は別に。き、希理香がどうしてもって、誘うから。何か重大な相談でもあるのかと思って」


 外見も性格もまるで共通点のない二人が、仲良く言葉を交わす。

 その微笑ましい様を眺めていると、

 

「なに、如月たち、帰りどこか寄ってくの? だったらゲーセン行こうぜ、ゲーセン!」


 近くを通りかかった男子生徒が会話に混ざり込んできた。

 

「美晴は別に誘ってないから! あっち行きなさいってば。それにあんた今週は掃除当番でしょ!? こんなところで油売ってないでさっさと始めなさいよ!」


「うるさいな、お前には聞いてないだろ。俺は男同士の友人として如月と話してるんだよ。俺たち親友だもん」


 こっちを見る目つきが何だか下心タップリで気持ち悪い。

 

「そうだったっけか?」


「おっ、おいっ!」


 とぼけると恨めしそうな目つきで朔也をにらむ。

 

「如月くんはもう可愛い女の子なんだから、これからはあたしら女子と仲良くするの。あんたたちがさつな男どもは、あっち行きなさいってばッ!!」


「本当は女だったってことが分かっても、如月の心は男だっ。今までどおり如月と男同士の付き合いをしてなにが悪いっ!?」


 どさくさに紛れて桜井が肩を組もうとしてくる。

 朔也は素早くその腕をよけた。

 

「い、いまのお前たちと付き合うのは、なんかやだ! 目がエロい。いまもオレの胸、ジッと見てたし!!」


「そ、そんな事は無いっ。お前の気のせいだっ!」


 慌てて目を逸らして誤魔化そうとするけれど、その行動が『見てました』と白状しているようなものだ。

 

「いまは性別が変わったばかりで、色々と過敏になってるだけだってば!! 前みたいに一緒にバカやってればすぐに慣れるって。だから、どこか遊びに行こうぜ! ゲーセンが嫌なら、そ、その……カラオケ……とかでもいいからさ」


 今度は肩を軽く叩こうとしてきた。その手もサッとよける。

 

「あんたたち、女の子を個室に連れ込んで何するつもりよ!? まったく下心見え見えなんだからっ!!」


「さっきから朔也くんにベタベタさわろうとしてるしっ。エッチ、やーらしいっ!」


 その様子を見かねた春菜と希理香が、朔也を庇って桜井の前に立ちはだかる。

 

「な……っ!? お、俺は別にそんなつもりは!!」


「だったら、紛らわしい真似しないでよっ!」


「女の子の身体に無断で触ったら痴漢なんだからっ!!」


「くっ」


 幼なじみの春菜だけだったらムキになって言い返す桜井だが、気の優しい希理香にまで痴漢呼ばわりされ、気圧される。

 

「そういうわけで、朔也くんは私たちと遊びにいくの〜♪」


「あんたはむさ苦しい男同志で、ゲームでもカラオケでも好きなだけやってなさい!」


「あ、おい、待て」


 二人は朔也の両脇からしっかりと腕を組むと、止めようとする桜井を嘲笑うように、はしゃぎ声を上げて教室から飛び出していった。

 

「はわわ……、ま、待って……」


 これまで言葉を挟むことも無く、ただおろおろと動転していた佐奈子が慌ててその後を追う。


 そして、その場にいながら誰もが存在を意識の外に置いてしまっていた影がもう一人……。

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