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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
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第11話 一条龍姫の憂鬱

「どうなされましたの? お顔が怖いですわ、一条さん」


「え? あ、い、いえ、何でもありませんわ」


 級友に訝しがられて龍姫はハッと我に返った。

 

 慌てて笑顔を取り繕うと、精一杯に猫を被った丁寧な口調で言葉を返す。

 

 お淑やかな良家の息女が通ういわゆるお嬢様学校。

 

 ざわめきの中にも気品が漂う昼休みの教室、校内のカフェテリアで昼食をご一緒にと誘われているところだった。

 

 ここで普段のような言葉遣いなどしたら、完璧なる生徒会長として全校生徒の尊敬を集める姉の面目を潰すこととなってしまう。

 

 それでもやはり昨晩の事を思い返すと、はらわたが煮えくりかえった。

 

(アビスウォーカーめっ、よくもあたしの仕事を邪魔してっ!)


 抑揚の無い声でぼそぼそと喋る人形みたいな無表情が人を小馬鹿にしている。

 

 初めて会った時から気にくわない女だったが、これではっきりと憎む理由が出来た。

 

(あいつもどういうつもりなのよ!?)


 いつもへらへらと軽薄な笑みを浮かべている少年の無駄な美貌が脳裏に浮かび、イライラと気が高ぶった。

 

 そもそも昨日の仕事は彼から手助けを求めてきたくせに。

 

(眷属を全て殲滅してくれなんて言ってたくせに何考えてるのよ。あれがとても危険な存在だって事は、誰よりも一番知っているくせに……)


 性別が変わる前から女みたいな顔していた少年。あの場にあいつがのこのこと紛れ込んで来さえしなければ、こんなにムシャクシャすることも無かっただろう。

 

 人に在らざる存在となった肉体は、人が消費する栄養素とは別に“錬気(れんき)”と呼ばれる力を消費する。


 やがて彼が飢えれば、その飢餓感を理性で押さえ込むことが出来なくなり、ヤツら……眷属と同じように人を喰らってその生命力から錬気を得ようとするようになるだろう。

 

(やはり、あいつはあたしが討滅しなければならないっ!!)


「あ、あの、一条さん、もしかしてお加減が悪いのでは? 保健室へ行かれた方がよろしいと思うのですが」


 これまでにも増して険しくしかめられる龍姫の表情に、クラスメイトたちが心配顔になった。

 

「お昼ご飯にはまたの機会にご一緒させていただきますから。いまはお身体を休めた方が」


「ええ……、では……。せっかくお誘いくださったのに、申し訳ございません。気分が優れませんので本日はこのまま早退させていただくことにします」


 ともすれば怒気が溢れそうになる気の強そうな美貌に、弱々しさを装った笑みを浮かべると金髪をツインテールに纏めた美少女は、心配そうな級友たちの眼差しに見送られながら昼休みの教室を後にした。

 

「待ってなさい、なり損ない眷属!! 今度こそ跡形もなく討滅してやる! それとアビスウォーカー、今度こそあんたには邪魔させないからっ!!」


 校外へと出て人の目が無くなると、龍姫はか弱そうに歩を進めていた小柄な肢体に闘気を漲らせて、人間の限界を遙かに超えた跳躍で天高く舞い上がった。

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