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黄昏の眷属  作者: 倉井部ハルカ
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第10話 学園のひととき(2)

 朔也は教師が教室へやってくるまで、一度見失えばもう二度と目にすることが出来ない幻に魅入られたかのように、じっとその横顔を見詰め続けていた。


「ねえねえねえ、朔也くん、お昼ご飯いっしょに食べよっ!!」

「うおっ!」


 昼休みになるなり、弁当箱を抱えた希理香が突進してきて机の上にのし掛かりながら朔也を誘ってくる。

 あれから休み時間ごとに、春菜が食い止めてくれていたため彼女がやってくることは無かった。なので完全に油断していた。


「あ〜、ごめん、私も今日は如月くんとお昼一緒に食べたいなって思って。――ほら、希理香、如月くん困ってるってば」

「あは、ごめんね、またはしゃぎ過ぎちゃった〜」


 委員長に襟首を引っ張られて、また抱きついてきそうなお騒がせ少女が余り反省の態度が見えない調子で誤魔化し笑いする。


「どうせだからこの機会に色々お話しようかなって思ってさ。あ、でも、べ、別に変なこと聞くつもりはないから! あ、でも他の誰かと約束があるなら、またの機会にするけど」

 面倒見のいい春菜らしく、色々と気を遣ってくれているらしい。


「い、いや、別に先約とか無いし、全然構わないよ」

「きゃはっ、やったー!!」


 うなずくと希理香がまた飛びついてきそうな勢いではしゃぐ。


(これからは女子と一緒に行動することが多くなるんだろうし、こういうのもいいかも)


 それに正直言って今朝のこともあって、男子生徒とはあまり接触したくない。


(桜井と武市は、まさかあんなこと言ったりしないだろうけど。でも、なんか、この姿で話すの、ちょっと恥ずかしいし)


 どうしてもいままでと同じというわけには行かない。向こうもそうだろうけれど、自分も性別が変わったこの身体を意識してしまう。


「よかったね、佐奈子。如月くん、お昼一緒してくれるって」

「え? あ、そ、そんな、私は……。い、いえ、その、あの……」


 二人の影に隠れるように立っていた、大人しそうな顔立ちの少女を春菜がからかうように前へと押し出す。


「沢井さんも一緒なんだ。えと、ごめんね、オレ、いままで男だったのにこんな姿なっちゃって。気持ち悪いかもしれないけど……」


 春菜と希理香は受け入れてくれているみたいだけれど、いきなり女の姿になって現れた男子生徒なんて、普通の女子からみてどう思うのだろうかと心配になってしまう。


「そんなっ! 如月くん、女の子になってもとても可愛いっていうか、綺麗、ですっ!!」


 しかし栗色の髪を丁寧に編み纏めた内気そうな女生徒は、声を張り上げて朔也の自嘲を否定した。


「そ、そう? えっと、ありがとう」


 元から女顔な上に本当に女性となった容貌を褒められるのは複雑な気持ちだけれど、照れくさい気分になりながら礼をいう。


「あ……、わ、私……」


 佐奈子が我に返ったように赤面して狼狽えた。

 その様に、春菜と希理香の二人が二ヒヒと笑いながら顔を見合わせる。


(ん、なんだ?)


 気になる反応に首を傾げていると、春菜がふと思いついたように言う。


「ねえ、今日は天気いいし、折角だから外で食べない? 中庭とか」

「あは、いいわね〜、ピクニック気分♪」


 すぐに希理香が同意する。


「うん、構わないけれど」

「は、はい……」


 朔也も佐奈子も異議無くうなずいた。早速向かおうとする。


「あ、その前に、その、彼女も誘っていいかな?」


 そのみんなを呼び止め、朔也は隣席からこちらをじっと伺っている、存在感に乏しい少女を指さした。


「え……? あ、い、犬神……さん?」

「あ、うん、大歓迎♪」

「は、はい、私も……」


 いま初めて彼女がいることに気がついたかのように、三人とも慌ててうなずく。


「犬神も、別に構わないだろ? オレたちと昼飯食うの」


 無言でうなずくと、ケイは無駄の無い所作で席から立ち上がる。


「犬神さん、脚長くて痩せてるのに、胸おっきい。うらやまし〜」


 初めて意識して見詰めるケイのスタイルの良さに、希理香が感嘆の呟きを漏らす。

 他の二人も言葉を失い、見とれていた。これほどの美少女にいままでほとんど注意を払わなかったことに、戸惑いを覚えている。


「よろしく」


 その視線を相変わらずの無表情で受け止めながら、ケイは透き通った声で小さく呟いた。


「こ、こちらこそ〜。犬神さんの声って、いままできちんと聞いたことなかったけど、すっごい綺麗な声ね〜」

「そう?」


 どうも女の子大好きっぽい希理香が、持ち前の人懐っこさで話しかけるとケイは無表情なまま小首を傾げる。


「ふぁ〜、美し可愛い〜」


 途端に蕩けた表情となった。反射的に抱きつかなかったのは、さっき散々春菜に怒られたからだろう。


「そういえば犬神さんとはいままであまりお話ししたこと無かったし、良い機会だわね。でも、如月くんが犬神さんと仲良いだなんて知らなかったわ」


 友人が暴走を踏みとどまったことにホッとした様子で、委員長がケイに微笑みかける。けれどその裏で、朔也と彼女との関係に興味津々の様子だ。


「あ、う、うん、犬神にはちょっと、色々、その、助けてもらったから」


 まさか昨日の事を話すわけにはいかず、はぐらかすような口調になってしまう。


「愚兄に如月くんのサポートをするように言われたから。身体が変わって大変なので」


 ケイが助け船を出してくれる。


「そっか、犬神さん、生徒会長の妹さんだものね。でも如月くん、私たちもこれからは力になるから、何かあったら、ちょっと恥ずかしいこともあるかもしれないけど、相談してね」

「あ、ああ、ありがとう。その時は、頼むよ」

「っと、こんな所でおしゃべりしてたら昼休み終わっちゃうわね。行こっか」


 教室ではすでに弁当を広げて食べ始めている者や、連れ立って学食へと向かう者もいる。

 天気が良いので中庭も早く行かないと、良い場所が誰かに取られてしまうかもしれない。


「あ、じゃあ、みんな先に行ってて。オレは購買に寄ってくから」


 寮通いで弁当を作るなんて面倒くさく、昼食はいつも購買でパンを買うとか、学食で食べるとかして済ませている。今日もそうするつもりだったのだが、


「お弁当なら、如月くんの分も作ってあるから」

「へっ? オ、オレに?」


 ケイがランチクロスに包まれた弁当箱を手渡してくれる。彼女の手の中には同じ包みがもう一つ。驚く朔也に無言でこくりと頷いた。


「あ、ありがとう」


 受け取りながらしみじみとした声で礼をいう。女の子の手作り弁当なんて生まれて初めてなので、ちょっと感動した。


「はわ〜、なんかなんか、イイ雰囲気〜!!」


 その様を見ながら希理香がワクワク顔ではしゃぐ。


「あらら、これはちょっと意外なライバル出現ね〜。佐奈子ももっと積極的にならなくっちゃ」

「ひうっ!? そ、そん、な……、わ、私は……」


 そして春菜も意味深な笑みを浮かべて、何故か内気娘の脇腹を肘でつつきながら耳打ちする。佐奈子も佐奈子で、何かショックを受けたような表情になりながらも、委員長の言葉に動転しまくる。


「…………?」


 その様子に朔也はキョトンとした顔で首を傾げた。

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