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Another World ─もう一つの世界─  作者: なつくさ
Chapter.1 もうひとつの世界へ
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Episode 8.三人

 結局、イシュはゲルナス家に居候することを許可された。ミーティアに確認を取ったところ、快く受け入れたそうだ。アランに関しても、問題ないだろう。

 今は、千夏が厨房で昼食を作っている。たしか、オムライスを作るとか言っていた。駿は待っている間、暇なのでイシュに色々と聞いてみることにした。


「そういえば、俺を襲ってきたやつは、能力者としてはどれくらい強いんだ?」

「うーん。能力者ランクはB+程度だっけな。まあ、普通には強いんじゃないかな」

「そうか。………ちなみに、イシュのランクはどんくらいなんだ?」

「ボクはA-だよ。結構強いでしょ?」


 白い歯を見せ、イシュは笑った。駿は正直驚いた。こんなにも小柄な、目の前であどけない笑みを浮かべている少女が、さっきの悪党よりも強いと思えない。人を見た目で判断するべきではないが、少なくとも駿には不思議に思えた。


「今、『そうは見えないけど』とか、思ったでしょ?」

「何でわかったんだ?!」

「よく言われるからね。しっかし、心外だなぁ。身体能力には自信があるんだけどねぇ」

「そういえば、イシュの能力ってどんなものなんだ?」


 イシュは、「そうだなぁ」とうつ向いて考えてから、部屋に飾ってある花瓶を見つめる。


「まあ、分かりやすく説明すると………」


 花瓶の中にある水が細く渦を巻いて天井へと向かっていく。しかし、天井へとぶつかる直前で、もとの場所に戻った。


「こんな感じに水を操ることができるんだ」

「なるほど」

「でも、実際に使うときは水が近くにないことが多いからさ。基本的には自分で作らないとね」


 そう言ってイシュは手の中に水を球体のように浮かせる。種も仕掛けもない。マジックではなく正真正銘の超能力だ。


「だから、あんまり長く使えないんだよねぇ。ほら、脱水症状になっちゃうからさ」

「それなら、スポドリでも常備しとけばいいんじゃないか?」

「うーん。たまにやるけど、中々敵の前で水分補給している暇があるときの方が少ないからね。どうしようもないよ」


 こんなにもデメリットが多いと言うことは、ランクからしたら、イシュの能力はとんでもない規模のものなのかもしれない。 そういえば、ランクと言ってもイシュが言っていたのは『能力者ランク』だ。だが、駿がもらった診断書に書いてあったのは『能力自体のランク』だ。この二つは何が違うのだろうか。


「なあイシュ。能力者ランクと能力のランクってどんな違いがあるんだ?」

「簡単に言えば能力者ランクは総合的な戦闘力で、能力ランクはその能力だけで見たランクだね。ちなみに、ボクの能力ランクは『水流操作(ハイドロ・コントローラ)』がB+、『純水生成(ハイドロ・クリエイション)』がC+だよ。ボクの能力はこの二つだ。まあ、平均よりは高いよ」

「ちなみに、能力が多い方がランクは高くなるのか?」

「うーん。モノによるんじゃないかな?基本的に増えれば増えるほど能力の制御が難しくなるし」

「そっか………。そういえば、ジャンナさんのことを『お姉ちゃん』って呼んでたけど、姉妹なの?」


 駿はそう聞いてから、我ながらおかしな質問をしてしまったな。と、思う。普通に考えて、姉妹か、従姉妹であるというのは明らかにわかる話だ。わざわざ聞くようなことでもない。

 しかし、イシュは無邪気な笑みを浮かべて見せた。本当に、元気で茶目っ気がある。周りに大人が多かったから、同年代と話してテンションが上がっているだけなのだろうか。


「本当の姉妹じゃないよ?でも、ボクにとっては大切で、大好きなお姉ちゃんなんだ。それじゃ、ダメかな?」

「いや、むしろいいと思うよ。本当の姉妹みたいにお互いを大好きってことだろ?素敵なことだよ、それ」

「ははは、ありがと」


 イシュはあどけなく笑う。駿も釣られて笑みが溢れる。そういえば、妹の結愛はどうしているだろうか。いなくなった駿を心配したりしているのだろうか。そもそも、この世界ともとの世界で時間の進み方が違ったりするのだろうか。どちらにせよ、確かめる術は今のところない。


「出来たわ。イシュ、運ぶのを手伝ってくれないかしら?」

「おっけー。わかった」

「千夏、俺もてつだ………」

「あんたは怪我してんだから、手を使えないでしょ?」


 駿はどこか悲しい気持ちを胸に、ダイニングの席につく。ところで、今の駿は腕が使えない。つまり、自分で食事すらできないと言うことだ。となると、千夏に食べさせてもらうしかないのだろうか。なんだか悪い気がする。

 食事が運ばれてくる。千夏のオムライスを食べるのは久しぶりだ。千夏の得意料理の一つで、ふわふわの卵と、絶妙な味付けのチキンライスがマッチして絶品だ。

 三人が、食卓に着いたところで、イシュが一口頬張る。すると、少し驚いたように千夏を見てから、夢中でオムライスを掻き込んでいた。


「気に入ってくれたみたいね」

「うん。美味しいよ。千夏は料理が上手なんだね」

「ま、まあ、大したこと、ないわ………」


 そうは言うが、照れているのがまるわかりだ。千夏の機嫌が良さそうな内に、食べさせてもらうよう頼もう。駿はそう思った。


「なあ、千夏……、ちょっと食べさせてくんないか?ほら、俺、手が使えないからさ。頼む」

「………仕方ないわね。ほら、口開けて」

「違うよ千夏、『あーん』でしょ?」


 イシュが千夏をからかう。すると、千夏は顔を赤くして、


「はぁ!?しないわよ、そんな恥ずかしいこと!恋人じゃあるまいし……」


 すぐに反論した。しかし、千夏は感情がすぐに顔に出るタイプだ。怒っているのがよくわかる。

 イシュはチラッとこちらを見る。偶然にも目が合った。


「駿くんはどうなの?」

「なにが?」

「『あーん』をやってほしいのかどうかだよ。実際どうなのさ?」

「いや、そういうのは恋人同士でやるような……」

「そーゆーことじゃなくてさ、単にやってほしいか、やってほしくないかを聞いているんだよ」


 正直なことを言えば、やってほしい。駿だって男だ。女の子にそういうことをしてほしいとは思う。でも、恋人でもない相手にそんなことをしてもらうなんて図々しいにも程がある。

 多分、これは『やってほしくない』と答えた方が良さそうだ。イシュはなぜだか知らないが、千夏に『あーん』をやらせたいらしい。でも、千夏にそんなことをさせるのは悪い。


「答えはNOだ」

「えー、ほんとに?正直、やってほしいんでしょ?」

「いや、そんなことは、ないぞ」

「…………あ、あーん」


 千夏が一口オムライスを掬い上げ、駿の前まで持っていく。駿は突然の出来事に困惑した。それに、千夏は少しムっとした表情をしている。見たところ、間違いなく無理している。


「どうせ、変に気を使ってんでしょ?いいわよ、ちょっとくらい。別に知らない人にやるわけでもないし」

「………いや、無理すんなよ」

「うっさいわね。あんたは雛鳥みたいに口を開けてりゃいいのよ。どうせ、自分の力で食べれないくせに」

「………ありがとう、千夏」


 駿は大きく口を開ける。その中へ、オムライスが運ばれる。感想は、一言で言うのなら『旨い』としか言えない。相変わらず千夏は料理上手だ。他の家事も大抵こなせるし、あとは片付けさえ出来れば家事は完璧なのだが。


「旨いな。相変わらず」

「ふん。褒めたってなんも出ないわよ」

「ひゅー、イチャイチャしちゃって、もう!妬けちゃうなぁ、あははは!」


 イシュが、すかさずからかってくる。変な誤解を招いてしまっているのか、もしくは、単なる冗談なのか。変な誤解をしているのなら、千夏に迷惑だ。

 当の千夏はと言うと、顔を真っ赤にして口をパクパクと開けたり閉めたりしていた。反論の言葉を探しているのだろう。だが、なぜこんなにも顔を赤くしているのだろう。熱でも出したのだろうか。


「イシュ、からかわないでくれ。千夏が困るだろ?」

「ぷっ、キミはすごく愉快だね」

「はっ?千夏が困ることが愉快なのか?」

「ははは、違うよ。キミが愉快だってことだよ。駿くん」

「なんだって?!」


 正直、褒められた気がしない。絶対にからかわれている。直感でしかないが、どこが愉快なのか聞いたところで答えてくれないだろう。駿は深くは聞かないことにする。直感は信じる方なのだ。

 イシュに時折からかわれながらも、駿は千夏に食べさせてもらい、昼食を終えることができた。ちなみに、千夏はそれにいちいち反論していた。先程のような『イチャイチャしちゃって』のような内容だったが、あからさまに否定されると、どこか悲しかった。


◆◆◆


「イシュ、仲良くやってるかな?」

「きっと平気さ。話した感じだが、彼らは善人だ」

「そうね。あと、駿君って、なんか昔のアレクに似てるかもね」


 アレキサンドリアとジャンナは、イシュの入学手続きを終わらせて、警団本部への帰路を歩いていた。金髪の青年──キメデス・ロポアと、情報担当であるレオパトラは先に帰らせた。

 ジャンナは駿を昔のアレキサンドリアに似ていると言っていた。しかし、アレキサンドリアにはそうは思えなかった。


「そうは思えないね。私には」

「そう?結構似てると思うけど。目を見れば分かるわ。すごく、真っ直ぐで、お人好し。あ、あとは鈍感なところとかね」

「その節は、悪かったね………」


 アレキサンドリアは学生時代、好意を寄せていたらしいジャンナの気持ちに全く気づかなかった。キメデスにそれを言われても信じられなかった。告白されて初めて気づいたほどだ。

 一応、アレキサンドリアとジャンナは恋人同士だ。しかし、仕事柄、中々二人の時間を取れないため、ジャンナの機嫌を損ねてしまうときがある。


「………まさかとは思うけど、妙な正義感まで似ていたりしないかい?もしそうなら、大変だ。無茶をしてしまうだろう」

「多分、そうなんじゃないかしら。ミーティアから聞いた話じゃ、千夏を守ろうとして、能力が目覚めたらしいしね」

「丸っきり同じじゃないか………」

「だから、あの子は苦労するでしょうね。あなたみたいに何度も何度もいろんな事に巻き込まれて」


 アレキサンドリアにはわかった。ジャンナの言う『あの子』は千夏のことだ。自分が、アレキサンドリアを何度も心配して不安になったから、千夏も同じように何度も不安を味わうことになると思ったのだろう。


「でも、彼らは無くてはならない存在だ。いずれ来る最終決戦においてカギを握る」

「………ええ、わかってるわ。でも、彼らはまだ学生よ。荷が重すぎるんじゃないかしら」

「でも、変えようのないことだよ。運命は残酷だ」


 どうあがこうと、最終決戦はやって来る。そのとき、彼らの力が必要になる。それは確かなことだ。だから、意地でも守らなくてはならない。失ってはならない。


「変えようもないこと………ね。本当に、そうかしら?」

「えっ、何が言いたいんだい?」

「もしかしたら、彼らの力を借りなくても、上手くいくかもしれないじゃない」

「それは無理な話だよ、ジャンナ。上手くいくはずがないんだ」


 『異世界からの旅人』は強力な『力』を持つことが多い。そんな彼らの能力無しでは最終決戦において勝利を手にすることなど不可能だ。最終決戦は『彼』の話が正しければ約半年後。それまでに彼らの能力を引き出さなければならない。


「………本気なのね。やっぱり」

「ああ」


 アレキサンドリアは、目を合わせずに、はっきりとそう言った。

《プロフィール》

【名前】 イシュ・アテナ

【性別】 女性

【年齢】 15歳

【身長】 147㎝

【体重】 49㎏

【好きなもの】 ジョーク

【嫌いなもの】 幽霊等、怖いもの

【性格】 陽気で、意外と素直

【備考】 私営警団・光の騎士団の団員。駿達の護衛を任されている

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