Episode 5.共鳴
「何が、起きているんだ…………」
駿は呆然と青く輝く刀を見つめる。駿が握ったとき、『得体の知れない何か』が駿の体を流れ、刀は青く輝き始めた。つまり、『得体の知れない何か』に関係していると見ていい。
駿が考えていると、アランがこちらに振り向く。そして、駿の手のなかで輝く刀を見つめて、呟く。
「駿、お前………」
怒られる。そう思った。当然だ。せっかくの刀がなんかよくわからない光を放っているのだ。駿が変な細工をしたと誤解するのは当然と言える。
しかし、アランは笑顔になった。駿は目を丸くする。
「面白いじゃないか!どうやらその剣にはお前の力を引き出す力があるみたいだ。そいつはお前にやるよ」
「待ってください!鞘が無いじゃないですか。どこにしまえと」
「鞘ならその辺に落ちてると思うぞ」
落ちてるって、いくらなんでも雑すぎないだろうか。駿はため息混じりに落ちていた鞘を拾い上げる。そして、刀をそれにしまう。そういえば、こっちの世界では刀を持っていても大丈夫なんだろうか。
「ちょっと待ってください。駿は剣道の高い段を持っている訳じゃないのに、真剣なんて持っててもいいんですか?」
「………それは、そっちの世界の話だ。こっちじゃな、能力者の必需品だよ。それに、護身用に持ち歩く人もいる。この世界はそういう世界なんだ」
「でも、危ないんじゃ………」
「ああ。でもな、駿は能力者なんだよ。いずれにせよ、剣を持つことになる。千夏、お前の心配する気持ちもわかるけど、これは決まりだ。この世界に住む以上、適応してくれ」
駿は鞘にしまった刀を見る。たしかに、これは危険なものだ。だけど、きっと、能力者が内定しているんだ。だったら、早いか遅いかの違いだ。
千夏が言うことは、正しい。だけど、この世界では認められないこと。世界観の違い、それがこの先どう行く手を阻むのか、それを知る術がない以上、適応するしかない。この世界に、溶け込む他にない。
「千夏、アランさんの言う通りだ。いつか戻るとしても、俺たちはこの世界で過ごすんだ。だったら、この世界に適応しなくちゃならない」
「………そうね。私ったらなに焦ってるのかしら。ところで、その刀、名前ってあるんですか?」
「名前、特にないな。駿、お前が決めてくれ」
「えっ、そんなこと言われても………」
駿は名前を考える。青く輝くから、青竜刀。………はない。たしか、青竜刀は他にもよくある名前だ。もうちょっと違うものがいい。蒼十字とかどうだろう?いや、微妙だ。
輝くと言えば、星だ。星になんだ名前にしよう。星と言えば流れ星だ。なら、流星、青く光るから蒼流星とかどうだろう。他に特に思い付かないので、これにしよう。
「蒼流星でどうでしょうか?」
「語呂が悪いから流星だけで、いいんじゃない?」
「そうか?なら、流星にするか」
こうして、駿の刀の名前は『流星』に決まった。そして、駿は改めてアランの鍛冶場を見渡す。千夏が、炉を覗き込んでいた。そんなに近づけたら危ない。
「おい!千夏!ダメだ!近づきすぎてる」
「えっ?あ…………」
千夏は駿に言われてからすっとんきょうな声を上げる。気づかなかったらしい。普通、熱くてそこまで顔を近づけることなんてできないのが普通だ。熟練の職人である、アランは仕事柄出来るだろうが、千夏にできるはずがない。
「まさか、気づいてなかったのか?」
「ええ。どうしてかしら。そこまで熱いと感じなかったわ」
「なるほどな。千夏、その辺の武器を握ってみてくれないか?」
「そんな!出来ませんよ………」
「千夏、お前も能力者だ。恐らく炎属性の」
なるほど、炎属性だからあまり炎を熱く感じなかった………。そんなはずはない。千夏は昔、火傷をしたことがあったはずだ。炎を熱く感じないなんてことはなかったはずだ。
「待ってください。炎を熱く感じないから炎属性だなんて、さすがにおかしくないですか?」
「…………あのなぁ、能力者ってのは、その能力を扱いやすいように、体ができてるんだ。恐らくだが、お前たちも、転移によって、少し体が変質しているんだ」
「なるほど。でも、何で武器を握っただけで、能力者かどうかがわかるんですか?俺の時は、たまたま光っただけかもしれないじゃないですか」
「詳しく言うとな、武器は『共鳴』するんだ。能力者の魂と、武器の魂が『共鳴』したときに、武器は能力者の力を引き出せるんだ。その『共鳴』のとき、武器が光るんだ」
つまり、『共鳴』によって、能力者の力を引き出す。そのときに武器は光る。だから、能力者かどうかは一目瞭然ってことだ。駿は納得する。それに、千夏も能力者なら、同じクラスになれる確率は格段に上がる。やっぱり、顔の知れた相手がいた方が安心だ。
「…………わかりました。私、やってみます。でも、うまくできるかなんて分かりませんよ」
千夏は並んだ武器から手頃なものを順番に握っていく。しかし、なかなか武器は光らない。相性がいいものが無いのだろう。全ての武器を一通り握っても、一つたりとも『共鳴』しなかった。
「一つも、反応しませんでした。きっと、私は能力者ではありません」
「いや、一つ残ってるんだな」
アランが持ってきたのは二つの短剣だ。ほとんど同じ形だが、微妙に違っている。
千夏はそれらを強く握りしめる。すると、二つの短剣は橙色の光を放ち始めた。『共鳴』したらしい。つまり、千夏も能力者であったと言うことだ。
嬉しいような、嬉しくないような、複雑な気持ちだ。
「嘘だ…………、そんなことが、あるはずが………」
「ダメだ!千夏!」
千夏は短剣を地面に落とし、ふらふらと炉のところへと向かっていく。駿はそれを呼び止める。だが、千夏は足取りを変えることなく、手を炉に突っ込もうとする。駿はその手を急いで掴む。
「ダメだ。危なすぎる!」
「だって、信じられないもの。私は、普通の女の子よ?いきなり能力者だなんて言われても信じられるわけないじゃない!」
「でも、この世界の存在自体が、俺たちの知らないものだ。だったら、超能力の存在なんてちっさいもんだ」
「でも、超能力者なんて普通、いいモルモットじゃない!どうせその原理の研究のためとかで、いろんな実験をされるのよ!怖くないの?」
「怖くないさ。そんなこと、あるはずがないじゃないか。この世界では、能力者の権利はちゃんと、保証されてるはずだぜ?それに、万が一、そんなことになったら、俺がお前を守る」
駿は昔、決心した。大切なものは自分で守ると。もう何かを失うのは嫌だ。だから、絶対に守って見せると誓った。千夏だって、大切な幼馴染みだ。絶対に失いたくない。
「…………何よ、カッコつけちゃって。そんなに言うなら信じてあげるわ。何だかんだで、あんたには何回も助けられてるしね」
「ありがとう」
「ははっ、いちゃつきやがって!青春謳歌してやがるぜ!この野郎!」
アランは豪快に笑う。駿は思わず、千夏の手を離す。だが、千夏の手が炉の方へ向かっていくことはなかった。ただ、その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。きっと、駿の顔も同じような状態だ。頬が熱い。
「言っておきますけど、私と駿はただの幼馴染みですから!」
「そうですよ!誤解しないでください!」
「顔が真っ赤じゃねえか!ずいぶんと可愛らしいな、おい」
「「からかわないでください!」」
駿と千夏の声が重なる。それを聞いてか、アランは腹を抱えて笑い出した。完全に弄ばれてる。
「そろそろ、夜ご飯の時間ですよ」
ミーティアが声をかける。そういえば、もうそんなに時間が経っていたのか。駿は驚く。三人は手を洗ってから、食卓につく。
夕飯は、シチューとフランスパン、そして、サラダだ。「いただきます」と、言ってから、駿はシチューを一口啜る。
「美味しい………」
「ありがとうございます。気に入ってもらえたなら光栄です」
「ははは、俺の娘だからなぁ!最高だぜ」
「もう!」
駿は隣の千夏を見る。千夏は何やらボーッとしていた。もしかして、先程のことを考えていたのだろうか。どうやら食も進んでいないようだ。
「千夏、どうかしたのか?」
「何でもないわ。なんか、ちょっと敗北感を感じたというか………」
「そんなことか。たしかに、ミーティアさんの料理のが旨いかもしれないが、お前の料理だって充分旨いぞ」
「やっぱり、駿もそう思うのね。ちょっと悔しいわ」
駿は正直、ホッとした。もっと深刻な悩みではなく、ちょっと悔しかっただけでよかった。駿たちは、夕飯を終える。絶品だった。特にシチューはクリーミーで、具材の旨味もとけだし、柔らかい鶏肉もまた美味だった。
「お風呂は、お二人が先に入ってください。やはり、客人を優先すべきでしょう」
ミーティアが洗い物をしながら言った。駿はその様子を見ている千夏に聞く。
「一緒に入るか?」
「入るか!変態!」
「だよなぁ。ジョークだよ、ジョーク。お前が先に入ってもいいぞ。そういえば、着替えって………」
「ああ、それなら、いくつか買っておきましたので、それを脱衣徐に置いておきましたよ。サイズは大体で決めたので、間違ってたらごめんなさい」
ミーティアはやはりものすごく出来る人みたいだ。まさか、駿たちが鍛冶場にいる間に大抵の準備を終わらせるとは。
千夏は風呂場へ向かう。アランはまた鍛冶場へ向かっていく。駿は近くに置いてあった夕刊を手に取る。何か有益な情報があるかもしれない。
駿はもともとあまり新聞は読まないが、状況が状況なので、情報がほしい。
「えーっと、『異世界からの旅人、現る』か。もうニュースになってるんですね」
「それはそうですよ。この国にとってあなた方みたいな人は貴重な存在ですからね」
「なるほど」
駿はゆっくりと夕刊を呼んでいく。他にこれと言ったニュースはなかった。夕刊を読み終わったとき、ミーティアが思い出したように、呟く。
「そういえば、ボディソープがあと少ししかなかったような………。すいませんが、駿君。千夏さんに渡してきていただけませんか?私はちょっと作業が残っているので」
「えっ!?千夏に怒られますよ。そんなことしたら」
「大丈夫ですよ。ノックして、千夏さんがほんの少し開けたところで、見ないように細心の注意を払いながら渡すだけです。あ、ボディソープは、洗面台の下のところにありますよ」
駿は気が進まないが、ため息混じりに洗面台へ向かった。下を見るとたしかに、ボディソープの詰め替え用があった。駿はそれを片手に、脱衣所のカーテンを開ける。
「千夏、ボディソープが足りなく………」
その先には、一布纏わぬ千夏が立っていた。肌は日本人にしては白く、きれいだった。駿とて男だ。つい見とれてしまう。
そして、駿の脇腹に強烈な蹴りが入ったのは、二秒ほど経ってからだ。
「どこ見てんのよ!変態!」
「そ、その、なんとうか、事故だ。決してわざとじゃないんだ!分かってくれ!」
「うっさい!出てけ!」
駿は急いで逃げる。やらかしてしまった。そのあと、全員が風呂を済ませ、駿と千夏は部屋に案内された。と、言っても、駿が寝ていた部屋だが。どうやら、空き部屋がそこしかないらしく、二人はそこで寝ることになった。
「千夏、さっきは悪かったな。ごめん」
「もういいわよ。わざと覗きに来た訳じゃないんでしょ?」
「ああ」
「そっか………」
そう言う千夏の横顔は少し残念そうに見えた。気のせいだろう。
「そういや、ベッドは一つしかないんだよな」
「ええ、そうみたいね」
「一緒に寝るか?」
「はぁっ?!ダメダメ!ダメに決まってるじゃない!その、過ちが起きたら大変だし………」
なぜか勘違いされてるような気がする。とりあえず、気にしないておこう。しかし、やむを得ない。床で寝ることにしよう。幸い、枕は二つある。
「わかったわかった。俺は床で寝るよ。枕をくれ」
「はい、どうぞ」
「ん、サンキュー。そういえば、市場でおばさんに何て言われてたんだ?妙に顔が赤くなってたけど」
「言えるわけないじゃない!バカ駿!」
「バカだと?くそっ、否定できない………」
優等生の千夏から見れば、駿はバカなのは紛れもない事実だ。否定はできない。でも、言えないと言われると余計気になるが、たぶん答えてくれないので、引き下がる。
「電気消すぞ」
「ちょ、ちょっと待って、消さないで!」
「は?もう寝るんじゃないのか?俺は眠いぞ………」
駿は大きなあくびをする。千夏はまだ眠くないのだろうか。えんだけ色々あったら疲れると思うのだが。
「そ、その………、電気消すならそこにあるライトを付けておいてくれないかしら」
「ああ、これか。………付けたぞ。あ、もしかして、真っ暗なのが怖いのか?」
「う、うるさい!暗闇が怖くて何が悪いってのよ!」
「いや、別に悪いとは言ってないぞ」
駿は電気を消して、床に横たわる。枕もあるし、なんとか寝られるだろう。
「おやすみ。駿」
「ああ、おやすみ」
駿はライトの明かりを見る。そういえば、家族――と言っても、母は他界しているので、今は父と妹だけだが、彼らは駿を心配しているのだろうか。見つかるはずのない家族を探しているのだろうか。だとしたら、あまりに悲しいことだ。
本当によかったのだろうか。もし、あのとき、本を開かなければ、もし手に取らなければ、もし、千夏と一緒に図書館に行かなければ、彼らに心配をかけずに済んだのに。
そう思うと、せっかく手に入れたチカラさえ、憎しく思えてきた。考えるだけ無駄だ。もう寝よう。
駿は目蓋を閉じる。そして、すぐに夢へと誘われていった。
《プロフィール》
【名前】 南谷千夏
【性別】 女性
【年齢】 15歳
【身長】 160㎝
【体重】 51㎏
【特技】 料理
【好きなもの】 本、オレンジ
【嫌いなもの】 卑怯なこと、掃除
【性格】 素直ではないが、根っこは優しい
【備考】 主人公・駿の幼馴染み、優等生