Episode 18.学校探索・後編
「よし!」
駿はバッジをしっかりと握りしめて、木から飛び降りる。しっかりと足から着地し、衝撃を逃がす。
「ふう、意外と大丈夫なんだな。あそこから飛び降りても」
「駿くん、やったね!二つ目のバッジだよ!プレミアムメニューまであと五つだよ!」
「そうだな。よし、頑張ろう!」
駿はバッジをポケットにしまう。次はどこへ向かうか。隠しやすそうなのは、放送室辺りか。
「あ、駿さん。実は、隠してあるもの以外にもあるらしいですよ、バッジ。なにしろ、ミッションをクリアするものもあるとか」
「なるほど。闇雲に探すだけのゲームじゃないってことだな」
「そうですね。お互いに、頑張りましょう」
「ああ」
マークと千夏と別れたあと、二人は廊下を歩く。その際にはもちろん、周囲にバッジがないか確認しながらだ。
「エマ、次はどこに行こうか?」
「そうだねぇ、地下ホールなんてどうかな?」
「いいんじゃないかな?よし、行ってみるか」
地下への階段を下り、地下ホールへと向かう。地下ホールはやはり、開けた空間が広がっていて、中には何人か生徒が来ていた。そして、教師らしき人影もちらほらと見える。ここは、マークの言っていたミッションをクリアしなくてはならないエリアだろうか。
ホールの中の一人の教師に声をかけられる。
「ここは、ミッションエリアだ。この五枚のカードから一枚引いて、そこに書かれたお題をクリアしてもらおう」
どうやら、ミッションはカードを引いて決めるらしい。駿は一番左の一枚を引いた。そして、そこに書かれているお題を読む。
「『お互いのいいところを三つずつ言え』?」
「絆を深めるためのものだからな。………では、はじめてもらおうか」
駿はエマを見つめる。いいところを三つだ。出来れば変な誤解を招かないような答えを選びたい。
「一つ目、綺麗な目をしている。二つ目、ドラゴンと話せる。三つ目、可愛い!」
「そんな………、照れ臭いよぅ」
エマは頬をほんのりと赤くして、照れる。確かに、面と向かって相手に褒められるだなんて、照れてしまうに決まっている。しかも、エマは年頃の女の子だ。『可愛い』と言われたら素直に嬉しいのだろう。
しかし、会ってから一週間も経っていないのだ。そんな深く相手を知っている方がおかしい。駿は第一印象の『可愛い』と、『綺麗な目をしている』。それから、知っている数少ないことの一つである『ドラゴンと話せること』を答えた。
「……エマ、そっちが答えてくれなきゃ終わらないんだけど」
「あっ、ごめん……。えっと、一つ目は、優しいところ。二つ目は、運動神経がいいこと。それから、………綺麗な目をしているところ」
「よし、クリアだ。これがバッジだ。色は青か緑か好きな方を選んでくれ」
「青をお願いします」
二人は三色目のバッジである青色のバッジを手に入れた。その後、保健室で紫色のバッジを、実験室で、黄色のバッジを手に入れた。そして、六つ目を探しに向かう。
二人で話し合った結果、食堂を探してみることにした。食堂にはなぜか生徒が一人もいなかった。それでも、バッジを探して回る。
「ダメだ……。場所を変えよう」
「あのね、駿くん。ちょっと気になる話を聞いたんだけど」
「話?」
生徒はここにはいないものと思っていたが、どうやら、エマが探していた辺りには来ていたようだ。しかし、気になる話とは一体なんだろう。
「この学校には、決闘場があるって、知ってる?」
「え、そうなのか?知らなかったよ……」
「まあ、それは置いといて、どうやら、その決闘場で決闘をして他のグループに勝てれば、持ってない色をもらえるらしいよ!」
「えっ?じゃあ、超能力学科の方が明らかに有利なんじゃ………」
「いやぁ、他の科でしか受けられないのも同じようにあるハズだから、平気じゃないかなぁ」
たしかにそうだ。さすがに、一つの科だけを優遇するとは考えづらい。何はともあれ、決闘場へ向かうべきではある。それに、こちらにはエマがいる。相手がよほど強くなければ勝てるハズだ。
二人は地下へ下りていき、決闘場に到着する。その際に、エマは一枚だけバッジを拾っていた。つまり、ここで勝てれば、一気にプレミアムメニューゲットだ。気を引き閉める。
決闘場は、重い扉で閉ざされていた。そして、それを押し開けると、小さなホールのような場所に出た。その奥には、受付のような場所もあった。
二人は受付を済ませると、横の方にあった扉に通され、控え室のような場所に案内された。そこでしばらく待つ必要があるらしい。
「大丈夫かなぁ………」
「大丈夫だよ。お前は特待生だろ?自信を持て。それに、俺は『異世界からの旅人』だぞ?二人で協力すれば、間違いないさ」
「うん。頑張ろう!」
決闘は、二対二でリングを使うものだ。リングがあれば、怪我をしないで済むし、ライフ制のようなもので分かりやすい。そのため、一般的な決闘はリング制が主流らしい。
エマの心配そうな呟きも、自信に変わったはずだ。負けるハズがない。それに、駿だって、空手の有段者だし、体力には自信がある。それに、今は、刀だってある。
駿は刀を握りしめて、気合いを入れ直そうとしたが、刀は無かった。それに微かな腹立たしさを感じながらも、拳を握りしめた。
「よし、そろそろ出番だよ」
教師の一人が、駿たちを呼びに来た。二人はリングを受け取り、案内されるままに、決闘場のフィールドにたどり着いた。すごい歓声だ。暇な上級生が見に来ているのだろうか。
エマの方を見れば、深呼吸をして緊張をほぐそうとしている。しかし、駿は不思議と緊張しなかった。もとの世界で、空手の試験の緊張になれていった経験からだろうか。隣に確かな実力者がいるからであろうか。いや、それとも、自分の実力に一定の自信を持っているからだろうか。あるいは、そのすべてか。
「エマ、この勝負、絶対に勝つぞ!」
「うん!二回目の戦闘だけど頑張るよ!」
「えっ?ちょっと待って。二回目ってことは、一昨日のが初めて………」
「うん」
「あ、うん。頑張ろうな」
特待生という割には実践経験が無きに等しい。人のことを言えた口ではないが、それでも、空手に関してはしっかりと経験を積んでいる。
そんなうちに、向かい側の扉から、相手が歩いてくる。その男は白い髪を靡かせ、鋭く蒼い瞳を光らせていた。そして、発せられている凍りつくような殺気。間違いない。ダイア・カイザーだ。
そして、その隣にいるからだの大きな男は、昨日野球をしたときに巨大化した男だ。イマイチわかってはいないが、たしか、巨大化しても質量が変わらないらしい。
「君が相手か。駿。まあ、悔いのない勝負をしよう」
「ああ!」
「ふん、下らないな………」
駿はその発言に少し苛立ったが、それを包み隠し、平静を装った。実況の先生が高らかに叫ぶ。
「赤コーナー、祇方駿&エマ・メジストチーム対青コーナー、ダイア・カイザー&ピエール・アルバッハチームの決闘を始める!両者、決闘の儀を!」
ピエールが、深々と礼をした。駿たちもそれに応じ、礼をした。しかし、白夜の礼はとてつもなく浅く、誠意の欠片も感じることができなかった。
そして、四人がそれぞれリングを交差した。重ね合わせ、離したとき、リングについた石が緑色に光りだした。
「それでは、3、2、1、ready………fight!」
銅鑼の音が辺りに鳴り響く。駿は全身に電気を巡らせ、構える。小声で『電流式強化術』とだけ呟く。特に意味はないが、口に技の名前を出して言った方が力が入る。
「『巨化』!」
ピエールが巨大化した。もう、決闘場の半分を埋め尽くさんという勢いだ。駿は全力で駆け出し、ピエールの足に体当たりをした。ピエールはそのままバランスを崩し、倒れ、エマを下敷きにしそうになったが、エマはそれを平然と受け止めていた。
「あれ、普通に受け止められてる………?」
「重さが変わらないから、比重が軽くなってるだろ?それに、地べたに体の大半が着いている。そりゃあ、受け止められるよ」
「うーん、むずか………」
ピエールがそこまで言ったとき、ダイアの手から射出された氷がピエールのリングの石に衝突した。そして、それはすぐに光を失ってしまった。
「おっと!ダイア、ご乱心か!?味方を攻撃し、倒してしまいました!」
実況の声が反響する。ピエールはもとの大きさに戻り、白夜に詰め寄る。
「おい、君ねぇ、僕は仲間だぞ。何で攻撃するんだ!」
「仲間だと?バカにするな。邪魔な味方は敵よりも厄介だ。先に始末しておくに越したことはない。負け犬はおとなしく休んでいろ。そうすれば少しは駄犬から遠ざかるだろう」
「なんだって?!」
「邪魔だと言っているのがわからないのか。ならば、しつけが必要だな」
白夜が空に手をかざす。みるみるうちに冷気が集まり、細長い剣のような形になった。そして、それがピエールの太ももに突き刺さった。血が滲み出て、ピエールのズボンが赤黒くシミを作った。
「なに、するんだ………。ズボンが、汚れたぞ………」
「だからどうした。そんなもの、また買えばいいだけの話だ」
「なんだと!親が汗水垂らし、稼いでくれたお金で買ってもらったんだ!それを、お前はッ!」
ピエールが激昂した。駿は止めに入ろうかと、二人の間に割って入ろうとしたが、ピエールは巨大な氷の塊によって、壁にまで弾き飛ばされ、倒れた。
「ピエール!そうか、リングの効力が切れたから、ダイレクトにダメージが!」
「………エマ、ピエールを保健室に連れていってやってくれ。こいつは、俺が倒す。ピエールの思いを、踏みにじって、こんな目に遭わせたやつ………許すわけにはいかないんだ!」
ピエールと出会ってまだ2日。だが、あの言葉で、ピエールの思いは理解できた。両親のことをとても大切に思っていることが、伝わってきた。なのに、ダイアはそれを、『邪魔だ』なんて自分勝手な理由で踏みにじった。それは、許してはならないことだ。
駿は全身に電気をさらに強く供給する。体から蒼い光が前よりも強く放たれる。淡い光ではなく、はっきりとわかる光だ。
「………わかった。負けないでね!」
「任しておけ!………頼んだ」
エマが自分とピエールのリングを外しピエールを引きずりながら、決闘場をあとにした。引きずっているのはピエールが重たいからだ。まあ、仕方のないことだ。
「さて、始めようか………」
「ふん、愚かな男だ。なぜ、勝ち目のない戦いをそのような下らない感情で始めるのか、理解に苦しむ」
「生憎だが、俺の拳は………」
駿は一気に距離を詰め、拳を構えた。間違いない。『電流式強化術』は力をかければかけるほど強くなる。今までに感じたことのない力、そして、怒りの感情が、駿を今までになく強気にした。
「……理解できるほど、お利口じゃない!」
「ぐあっ!」
駿の正拳がダイアの鳩尾にのめり込む。そして、ダイアは壁まで弾き飛ばされた。不意打ちだった。かわせるはずがない。少なくとも、駿の技をイマイチ知らないダイアには。
ダイアはすぐに起き上がり空に手をかざす。辺りに冷気が立ち込める。駿の腕には鳥肌が立っていた。
「粋がるなよ、愚か者が………。『氷柱六牙』!」
空に浮かび上がった六つの氷の剣が駿を捉えた。そして、そのすべてが、駿に向かって射出される。その剣を見れば、獣の牙のごとく鋭かった。




