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Another World ─もう一つの世界─  作者: なつくさ
Chapter2.学院生活、始まる
18/34

Episode 17.学校探索・前編

「………めだ…………めろ……!」

「駿!おい!大丈夫か!」


 トムに肩を揺すられ、駿は目を覚ます。何か悪い夢を見ていたが、あまり内容が思い出せない。ただ、とても恐ろしいものであったことしかわからなかった。

 トムがすぐに、どんな夢だったのかと聞いてきたが、答えることはできなかった。駿は壁に掛けてある時計を見る。時刻は七時を示していた。いつもなら、ランニングに出掛けている時間だ。

 駿は荷物の中から、ミーティアからもらったジャージを引っ張り出す。


「トム、ちょっとランニングに行かないか?」

「おう。いいぜ」


 トムは快諾した。駿は胸を撫で下ろす。前にランニング中にひどい目にあったので、あまり一人になりたくないという気持ちがあったからだ。

 二人は着替えてから、朝の町を軽く二十分ほど走り、学院に戻った。汗はそれなりにかいたが、軽くタオルで拭いておけば平気だろう。今度はタオルを引っ張り出して、体を拭いた。

 そのあと、食堂で朝食を摂る。今日はハムサンドのセットにした。ハムサンドにコーヒー、オムレツが付いたセットだ。

 席を探しているときに、千夏が手招きをしていたのを見つけ、その席に座った。


「イシュ、またラズリがいないけど?」

「あ、たしか、用事があるので先に食べててって話で………」

「腹が減ってたからその言葉に甘えさせてもらうことにした」

「うん」


 駿が少しからかうように言ったが、イシュは特にこれといったリアクションを見せない。少し残念だが、あまり気にしても仕方ないだろう。

 しかし、昨日の夕飯も似たようなことがあった。よほど忙しいのだろうか。それは本人に聞いてみなければわからない。


「そういえば、エマもいないわ」

「あっ、たしかに。でも、そのうち来るんじゃない?」


 結局、エマもラズリも来なかった。マークが少し遅れて来たが、それぐらいだ。そして、全員で教室へ向かい、扉を開ける。それぞれ席につく。ギリギリのタイミングでラズリが駆け込んできた。もうすぐホームルームが始まる。


「みなさん、おはようございます」

「今日は、学院を見て回るレクリエーションを行いますので、九時までにトイレなどを済ませておいてください。それから………」


 ミーティアが続けようとしたところを、ドアを勢い良く開ける、大きな音が響く。その扉の先には息を切らしたエマが立っていた。


「あの、寝坊しました………」

「そんな気はしたよ」


 ミーティアは小さなため息をついた。でも、ほっとはしている。風邪などを引かれても心配だし、特になにもなくてよかった。

 エマは自分の席に着く。それを確認すると、ミーティアが話を続ける。


「それから、明日は簡単に明後日のことを確認します。そのあとは自由時間です。今日も、レクリエーションが終われば自由時間です。今のうちに明後日の準備を進めておいてください。それでは」


 ミーティアは一旦教室から出ていく。しばらくの沈黙のあと、生徒たちはそれぞれ雑談を始めた。ただ、良く見れば、ダイア・カイザーだけが、外をつまらなそうに眺めていた。


「どうしたの?」

「千夏か。いや、あのダイアってやつ、なんか妙だと思わないか?」

「え?見たところ単なるボッチとしか思えないわ。どうかしたの?」

「いや、違う。誰も寄せ付けないし、誰に寄ろうともしない………。それに、昨日俺に向けた敵意のある視線………、何かあるんじゃないか」


 駿の言葉に千夏は考えすぎだ。と、笑う。しかし、駿にはどうもこの男が怪しくてならなかった。あそこまで敵意を剥き出しにされたのは他にはカモミールくらいなものだ。何か、理由があるはずだ。

 少し考え、駿は決めた。接触を試みよう。もしかしたら、何かわかるかもしれない。そんな安直な気持ちが駿を突き動かした。


「なあ、ダイア。………外に何かいるのか?さっきからずっと眺めてたけど」

「………貴様には関係のないことだ。消えろ。目障りだ」

「そんな言い方はないだろ。嫌なことでもあったのか?」

「そうだな。言うならば、貴様が目の前にいるということだ」


 駿はその言葉を聞いたときに背筋が凍りつくのを感じた。いや、正確には言葉じゃない。駿は本能的にその眼を恐れたのだ。なぜだか知らないが、憎悪を向けられている。それも、大きなものだ。そう、もう一歩踏み出せば、命すら危ない。


「………悪かったな」

「駿………、大丈夫?」

「ああ、平気さ。ありがとう」

「あまり気にする必要はないわ。何よ、あの態度。一匹狼を気取るならもう少し穏やかでいてほしいものだわ」


 千夏が毒づく。それがダイアの耳に入ったのかどうかは定かではない。ただ、態度は一切変わっていない。ただ、空を眺めているだけだ。

 何が彼をここまで閉鎖的にしたのだろう。何がそこまで敵意を抱かせたのだろう。特に、駿に対して敵意を向ける。となると、昔、駿がなにかをしたのかもしれない。つまり、自分たちと同じ『異世界からの旅人』かもしれない。


「駿?」

「あ、悪い。ボーッとしてたよ」

「全く………」


 千夏は呆れたようにため息を漏らす。言うべきだろうか。駿が今考えていたことを。駿は首を振る。少なくとも今はダメだ。本人がいる。せめて、本人がいないところだ。駿が考えていると、トムやマーク、ダイアを除く多くの男子生徒が駿の回りに群がっていた。


「ちょっといいか。駿、聞こうと思ってはいたんだが………。その、千夏ちゃんとはどんな関係なんだ?」

「どんなって………、幼馴染みだけど………」

「恋人ではないのか?」

「まあな。なんというか、腐れ縁だな」


 鼻息が少し荒い男たちから眼をそらせば、千夏も女子生徒に囲まれていた。暇すぎて、おかしくなったのだろうか。それとも、これがこの世界の『常識』なのだろうか。そうではないと信じたい。


「駿くんとはどんな関係?付き合ってるの?」

「はぁっ?!違う違う!ただの幼馴染みよ!」

「ほんとにぃ?」


 なぜか妙な誤解を招いているようだ。しかし、あそこまで露骨に否定されると少し傷つく。油断していると、今度は比較的大柄な大人が渋い声で、


「駿、君から見て、千夏ちゃんはどう見えるんだ」

「どうって………、そりゃあ、まあ、可愛いとは思うけど………」

「「「「「「けど?」」」」」」

「ちょっと暴力的かな。いや、根っこは優しいいいやつなんだけどさ………」

「「「「「「のろけてんじゃねえ!」」」」」」

「ええっ!?違うぞ!そんなつもりじゃ………」


 さらに誤解が深まったと思われる。もうダメだ。と、諦めると、少しして、ミーティアが戻ってきた。生徒たちはみな席に着いた。駿と千夏も解放され、自分の席に座った。


「九時になりましたので、レクリエーションを行いたいと思います。学校の敷地内に様々な色のバッジを配置してあります。そのバッジを七色集めればクリア。一日限りの食堂のプレミアムメニューの食券をプレゼントします。あ、今回は二人一組で回ってもらいます。制限時間は三時間です。では、頑張ってください」


 ミーティアは説明をして、去っていった。さて、誰と回ろう。駿は考えた。千夏と回るのもいいが、せっかくなので、新たな友人と回りたい。


「駿くん、一緒に回らない?」


 ぼんやりとしていた駿にエマが話しかける。ちょうどよかった。誘ってもらえたことだし、エマと回ることにしよう。


「わかった。よろしく頼むよ」

「うん。頑張ろう!プレミアムメニューのために!」

「あ、ああ」


 二人は廊下に出る。まずは、図書室に向かうことにした。なんと、この学校の図書館は別館にあり、かなりの広さだ。だとしたら三色くらい落ちててもおかしくはない。

 図書室に着くなり、床を探してみるが、なかなか見当たらない。


「駿くん駿くん!あったよ!本の隙間に!」

「………図書室では静かにな」


 エマが持っているのは間違いなく、赤色のバッジだった。しかし、本の間とは盲点だった。てっきり床に落ちているとばかり思っていた。

 となると、他の場所でも分かりづらい所にあると考えるのが自然だ。どうやら、このレクリエーションを甘く見ていたようだ。


「よし、他の本の間も………」

「うーん、ここには赤色しかないんじゃないかなぁ」

「えっ?なんで」

「だって、学校内を回るんでしょ?あたしなら同じところに色んな色を置いたりしないよぅ」


 なるほど。確かにその通りだ。同じところで何色も集まってしまっては、つまらない。

 次にありそうな場所を考える。物を隠しやすい部屋と考えるのが自然だ。体育館のマットの隙間とかはどうだろう。


「次はどこいこうか?」

「そうだねぇ、中庭なんてどう?」

「俺は体育館だと思うんだけどなぁ」

「うーん、じゃあ、駿くんを信じようかな?」


 エマがにこりと微笑んだ。駿はそれに少し照れながらも、エマの後ろを歩いた。体育館は、1階にある。階段を登り、廊下を少し歩き、到着した。体育館には既に何人かの生徒たちがいた。そのなかには、イシュ&ラズリ組もいた。駿は少し話を聞いてみることにした。


「よう、見つかったか?」

「いやぁ、なかなか見つからなくてさぁ。ここにはないんじゃないんかな?」

「そっか。でも、まあ、少し調べてみるよ」


 駿は予想していたマットの間を調べてみる。しかし、バッジらしきものは全く見当たらない。となると、倉庫だろうか。


「ねえ、駿くん。無さそうだよ。そろそろ移動しない?」

「それもそうだな。よし、次ぎはエマの言っていた中庭に行こう」

「うん」


 二人は移動して、中庭へ出る。中庭には、休憩をしているマークと、木に登っている千夏がいた。


「調子はどうだ?」

「調子、ですか。もう、疲れましたよ………」

「ちなみに、ここはバッジあったか?」

「いえ、今千夏さんが木の上を調べています」


 千夏が振り向き、何かを掲げた。それは、良く見れば、緑色のバッジだった。しかし、千夏はバランスを崩し、木から落ちてしまった。

 下は柔らかくとも、打ち所が悪ければ危険だ。もしかしたら、千夏を助けることができるかもしれない。今の駿には『電流式強化術』がある。強化された肉体なら充分間に合うはずだ。


「『強化』!」


 駿は全身に力を巡らせ、地面を強く蹴った。スピードは充分。余裕で助けられる。そう思った矢先、意思に躓き、いくらかの距離を飛び、地面に転げた。

 転んだ駿の背中に千夏の全体重、重力で加速した分の圧力がのし掛かった。思わず呻き声をあげる。


「ごめん!………大丈夫?」

「う、ああ………」

「まあ、大丈夫なようですね。単に痛いだけなようです」


 マークが少しずれていた眼鏡を直してから言った。マークの分析で平気なら、特に異常も無いのだろう。駿は安心した。

 木の上に緑のバッジがあった。ということは他の木にもあるのかもしれない。駿はそう思い、ゆっくりと立ち上がり、電流を足に集中してみる。

 そして、一気に飛び上がる。目線が高くなり、目の前に太い木の枝を見つけ、それにしがみつき、上に登る。

 そこから手を伸ばし、枝と葉の隙間を探っていくと、駿の手にはバッジを握る確かな感覚があった。

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