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Another World ─もう一つの世界─  作者: なつくさ
Chapter.1 もうひとつの世界へ
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Episode.12 狙われた判別試験・後編

 千夏の短剣が男の鎌とぶつかり合う。千夏の短剣は、力の差に耐えきれず、彼女の手から放れ、空を舞った。


「………っ、まずい!」


 振り下ろされた鎌を千夏は間一髪でかわす。それは非常に危なっかしく、見ている方が恐ろしくなる。千夏は何度も襲ってくる鎌を避けながら、弾き飛ばされた短剣を回収する。

 しかし、千夏が短剣を拾ったその一瞬の隙を突き、鎌を振り下ろした。


「危ない!」

「うっ………」

「かわしたか。だが、次はそうはいかんぞ?」


 千夏は駿の叫びでなんとか致命傷は避けたものの、肩を切られてしまった。見たところ、傷はそこまで深くない。だが、次はないと見ても、いいだろう。

 イシュはAランクの能力者を相手にしている。トムとミシェルは一人の団員を相手にしている。そして、マークに鼓舞された新入生数名がもう一人を相手にしている。エマが戦意を失っている今、千夏を守れるのは、駿しかいない。


「駿さん。千夏さんを助けたいのなら、僕の言うことを聞いてください。まず………」


 ダメだ。そんなことを、聞いてるうちにも、千夏は、危険にさらされている。早く、早くしなくてはならない。

 そのとき、男が鎌を振り上げた。千夏を仕留めるつもりだ。

 体が、軽くなったような気がした。駿は気づけば、千夏の前に立ちふさがり、振り下ろされた鎌を掴んでいた。


「間に合った、な………」

「貴様、まだそれだけの力が残っていたのか。ひよっこ能力者の癖に」

「ひよっこにだって、守りたいものが、あるんだ………!これ以上千夏に手を出してみろ!絶対にてめえをぶっ倒してやる………!」

「一つ、死ぬ前に教訓を授けよう。無謀と勇気を履き違えた者は、紛れもない敗者だ。はじめから、貴様は負けていたのだ」


 駿が受け止めていない方の鎌が振り上げられる。そして、これが振り下ろされるのだろう。マトモに受ければお陀仏だ。駿は敵を睨み付ける。まだ、逆転のチャンスはあるはずだ。それを必死に探す。

 完璧なものなんてない。どこかに隙があるはずだ。そこさえ突けばいい。だが、見つけることができない。


「あたしの、友達を!いじめるなっ!」


 エマの体当たりで不意を突かれ、男はその場に倒れる。駿は思わず鎌を掴んでいた手を離す。


「………ごめんね、あたしが、弱虫だから、痛かったでしょ……?ごめんね、本当に」

「大丈夫よ。これくらい!シャキッとしなさい」

「俺も平気さ。ありがとう、お前が助けてくれなかったら終わってたよ」

「駿くん………、千夏ちゃん…………」


 エマが目に涙を浮かべる。そのとき、倒れていた男が立ち上がる。腕を見れば、もう普通の腕に戻っていた。

 能力の効果が切れたらしい。顔には怒りの表情が張り付いている。


「もういい!貴様らまとめて、始末してくれよう!『変化(トランス)』!」


 今度は腕が鋭利で巨大な剣に変化した。片方の腕だけが、変化し、もう片方の腕で支えなければ、バランスを保てないほどだ。


「させないよ!『超水流破(メイルシュトロム)』!」

「そんなもの!」


 激しく渦巻く水流が男に襲いかかる。男はそれを巨大な腕の剣で凪ぎ払った。しかし、その腕は、強力だが、隙が大きい。つまり、突くならここだ。

 だが、体から力が抜け、崩れ落ちる。そんな状態でも、なんとか戦況を視認する。いつの間にかトムが男の背後に回り込んでいた。


「脇腹が、がら空きだぜ?」

「しまっ………」


 トムの蹴りで男は壁に弾き飛ばされる。そして、イシュが水で作り上げた巨大な剣を、男に向けた。


「チェックメイトです。トムさんも、イシュさんもお見事でした。それに、エマさん、駿さん、千夏さんも」

「仲間は倒れましたよ。あとは、あなた方を、警察機関に突き出すだけです。一人、警察機関に助けを求めにいきました。そろそろ到着する頃でしょう」


 マークが淡々と語っていく。よく考えれば、他のテロリストはマークの作戦で、全員倒されたということだ。『万能分析(アナライザー)』恐るべしと言ったところか。

 それに、トムの能力だ。恐らく、身体強化に関するものだ。でなければ、あそこまで強力な蹴りが出せるわけがない。


「そうですね。あなたの敗因は、自分の能力を過信したこと。それから、駿さんや千夏さんとの戦いに気をとられていたからでしょう。残念ですが、あなたもこれでおしまいですよ」

「少しは、考えるな。だが、少しでもミスをすれば、あの男の命は無かったな」

「………そうかもしれません。ですが、あなたは、彼を殺せないかもしれません。あの人は恐ろしい。なぜ、あの状態で立ち上がれるのか、理解できませんよ」

「俺には、わからなくもねーけどな。男には譲れねえ意地ってもんがあるっつーことだろ」


 トムが駿の元へ向かってくる。エマはというと、壁に凭れかかって、息を整えている。千夏は、しきりに駿の肩を気にしている。自分だってやられているのに。

 トムの手が駿の手を掴む。鎌を素手で掴んだせいで、手には切り傷があったが、トムはそれを気にも留めていなかった。駿はなんとか立ち上がる。


「少し、無理が過ぎてんじゃねーか?」

「なに、このくらい平気だよ」

「ボロボロのやつが言っても説得力ねーよ」


 トムはあきれた様子だ。たしかに、こんなにボロボロになるまで戦う必要はなかったのかもしれない。だが、目の前で無二の友が命の危機に陥っていたのだ。助けるのは当然だ。

 それに、道場の師範は言っていた『力は守るためにある』と。それはいつからか駿の目標になっていた。

 駿が物思いに耽っていると、勢いよく壁が粉砕される。


「警察機関第五隊だ。『鴉の眼』、お前たちを逮捕する」

「ミシェル、いつのまに………」

「何事にも、保険と言うのは必要だ。そうだろう?」

「ああ。そうだな」


 ミシェルといる六人ほどの男女が警察組織の人間だろう。大体片付いたテロリスト達に次々と手錠をかけ、外に連れ出す。

 それをまじまじと見つめていると、見覚えのある人影がこちらへ向かってくる。あれはミーティアだ、恐らく、話を聞いて駆け付けてきたのだろう。


「駿さんに千夏さん、イシュさん!大丈夫………ではなさそうですね。二人は。道具一式を持ってきといてよかったですよ」

「え、まさか………」

「応急処置を施しておきます。まず、消毒からですね」


 ミーティアは救急箱から消毒液と綿を取り出す。その消毒液の臭いからしてもう、嫌だ。消毒と注射は大の苦手なのだ。


「い、いえ、俺は全然平気ですから」

「ダメです。傷から細菌が入って感染症にでもなったらどうするんですか?千夏さんもですよ。駿君の処置が終われば、あなたの処置も致します」

「はい」


 ピンセットに摘ままれ、液から出された綿は茶色っぽく染まっていた。たっぷりと液を吸っている。あんなものを傷口に当てられたらたまったもんじゃない。

 駿が逃げる方法を考えていると、トムとイシュが駿の体を押さえつけた。しかも、同時平行で服まで脱がされる。改めて見ると、ずいぶんと深くやられていた。なかなかにグロテスクな傷だった。


「意外と鍛えてるんだな」

「まあ、意外と着やせするタイプではあるみたいだね」

「あのさ、お前ら、事情聴取とかないのか?放してほしいんだけど……」

「事情聴取なら、マークが大体対応してくれるよ。あと、駿くんが、逃げないように、抑えてあげてるんだよ?放すわけないじゃん」

「その通りだ。観念するんだな」

「そんなぁ」


 傷口に綿が触れた。そのとき、強烈な痛みが駿を襲った。耐えきれず、思わず悲鳴をあげる。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「ほら、暴れないで!こら!」

「助けてくれぇ!千夏!」

「やれやれ、子供じゃないんだからおとなしくしてなさいよ………」


 しばらくして、ようやく処置が終わる。次は千夏の番だ。たしか、千夏も肩をやられていた。ということは


「こっち見ないでよ!」

「まさか、千夏が脱ぐのを見ようとなんてしてないぞ。な、トム?」

「おう!まさかそんなことはしねえわな」

「バレバレよ!いい、見たら二度と陽の目を見れないと思いなさい」

「わかったよ。はいはい」


 駿とトムは、千夏たちから少し距離を取った。じっと待ってても暇なので、駿は少しトムから話を聞くことにした。


「トム、お前の能力って一体どんなのなんだ?」

「『身体強化』、単純に身体能力を上昇させる能力さ。お前の能力は?駿」

「まあ、雷属性の能力と、『超回復体質』かな」

「ん、雷属性の能力?名前はないのか?」


 駿も言われてようやく気づいた。この能力には、名前がない。そもそも、雷属性自体が少ないのだから、能力の例も少ない。つまり、前例のない能力だから、名前を判定されない。ということだろう。


「無いなら、名前をつけておこうぜ。そっちのが便利だろ?」

「そうだな。何がいいかな………」

「電気だから、エレキ………。あっ、『送電能力(エレキネシス)』とか?」

「まあ、いいんじゃないか?」


 こうして、駿の能力の名前は『送電能力』に決まった。しかし、せっかく電気を扱えるのだ。なんかしら、『電流式強化術』以外の技を習得したい。


「もう、いいわよ」


 千夏の声が聞こえたので、二人は振り向く。千夏はすでにミーティアが持ってきていた替えの服に着替えていた。なんだか、少し残念な気がするが、問題なのはそこではない。

 駿は、着替えを受け取っていない。さすがに血だらけになり、ボロボロになった服を着るのはマズイだろう。そのため、駿は今、上半身裸だ。これでは、ただの露出狂だ。


「ところで、ミーティアさん、俺の着替えって………」

「あっ、すいません。忘れました」

「そんなぁ……」


 駿たちは、その後、判別試験をなんとか乗りきり、明日の入学式に向けて準備を始めたのだった。

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