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Another World ─もう一つの世界─  作者: なつくさ
Chapter.1 もうひとつの世界へ
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Episode 11.狙われた判別試験・前編

 駿は目覚まし時計の鳴り響く音で目を覚ます。すぐに時計を止め、時間を見る。そして、驚愕した。七時半にセットしたつもりが、八時半にセットされていた。どうやら、間違えてしまったらしい。

 千夏とイシュはそんな駿の焦りも知らず、ぐっすりと眠っている。駿は、二人の体を揺する。


「おい、まずいぞ!遅刻するかもしれない!」

「う、うるさいわね………」

「って、お前!なんて格好で寝てんだ!」

「はぁっ?っ………!見んな、変態!」


 千夏はなぜか下着姿になっていた。見んなとは言うが、そんな格好をしている方もしている方だ。


「ふぁぁぁ。おはよう」

「おう。おはよ………。って、お前!なんで千夏のパジャマをお前が着ている!」

「ん?あっ、ほんとだ!あの、千夏。ごめんね、なんか」

「全く、寝相が悪さの域を越えてるわよ………」


 イシュは羽織っていた千夏のパジャマを脱ぎ、千夏に手渡す。しかし、こんな風に遊んでいる暇などない。急がなくてはならない。

 たしか、ミーティアは準備のため朝早くに出発している。アランも、今日は遠くの町に用事があるらしく出掛けている。もちろん、駿たちは鍵を渡されている。


「千夏!朝食はどうする?」

「待ってて!トーストだけ準備してくるわ!その間にあんたたちは着替えてなさい!」


 千夏は大急ぎで部屋を出ていく。駿もさすがにイシュと同じ部屋で着替えるのもどうかと思い、部屋から出る。もちろん、着替えを持ってだ。

 大急ぎで着替え、下の階へ素早く降りる。


「千夏!お前もさっさと着替えてこい!こっちは俺に任せろ!」

「そうね。頼んだわよ」


 入れ替わりで千夏が階段をかけ上がっていく。駿は、トースターを見る。焼ける前に、コーヒーを入れる。千夏は角砂糖一つ、イシュは二つだ。好みは覚えた。

 トースターから、トーストが勢いよく飛び出す。駿はそれを皿でキャッチし、食卓に並べる。コーヒーも添えてだ。

 千夏とイシュの二人が降りてくる。三人はパンを大急ぎで流し込む。時間がない。あと10分程度だ。三人は家を飛び出す。無論、鍵はしっかりと閉めて。


「判別試験の会場は、学校から少し離れたところだったな!」

「そうだったね!それがどうかしたのかい?」

「いや、単に、なんで学校でやんないのかな。って思っただけだ」


 走りながらそんなことを話した。何故だか嫌な予感がした。会場が学校じゃないと言うことにはなんかしら、理由があるはずだ。ただ、駿は、それがあまりいい理由ではないのではないか。と、疑っていた。

 しばらく走って、会場となっている場所につく。町の外れだ。人通りはほぼ皆無といってもいい。

 よく見れば、会場前に人影が三つあった。彼らも背格好からして判別試験を受けに来たはずだ。なのに、なぜ入らないのだろう。


「あの、なんで入らないんだ?」

「久しぶりだな。祇方駿」

「あぁっ!あんときの!」


 駿は思わず大きな声をあげてしまった。駿に応えたのは、銀髪の背が低い少女。こちらに来たばかりのときに公園で出会った少女だった。


「しーっ!静かにしてください」

「何が、あったの?」


 千夏が眼鏡をかけた金髪の少年に問いかける。


「実は、試験会場が占拠されたようなんです」

「えっ?」

「『鴉の眼』だ。あいつらに判別試験の会場を占拠された。俺たち遅刻組は、やり過ごすことができてるけどな」

「しかし、バレるのも時間の問題だ。選択権は汝にやろう。閉じ込められた同級生たちを助けるか、見捨てて、自分の安全を優先するか」


 銀髪が駿に訊ねる。そんな質問をされても、答えは決まっている。


「助けにいこう。うまくやれば、なんとかなるかもしれない」

「なるほど…………。いや、申し遅れたな。わらわはミシェル・エルモスだ」

「僕は、マーク・トパーズといいます」

「俺は、トム・メラルド。ミシェルの従兄だ」


 銀髪の少女がミシェルで、金髪眼鏡がマーク。そして、少し背の高い黒髪の少年がトムだ。駿たち三人も名を名乗る。


「俺は、祇方駿だ」

「私は南谷千夏よ」

「ボクはイシュ・アテナだよ」


 名前の確認を終えた所で、状況の整理に入る。まず、マークは『万能分析(アナライザー)』という超能力を使えるらしい。何しろ、さまざまな情報を一度に解析できるといったものだ。テストのときに是非ほしい。

 マークの分析によれば、敵にはBランク程度の能力者が二人、Cランクが一人、Aランクが一人いるらしい。

 つまり、全員戦えるとして、四対六。数の上では有利に思えるが、戦闘向きの能力が使えるのが、駿とイシュ、トムの三人。ミシェルは『念動力(サイコキネシス)』を使えるらしいが、あまり強くはないようだ。そして、今のところ無能力の千夏と、非戦闘能力のマークだ。

 つまり、実質三人で何とかしなくてはならない。そのためには作戦が必要不可欠だ。


「僕の導きだした作戦はこうです。まず、イシュさんには、Aランクを一人で相手にしてもらいます。そして、残りの三人を駿さん、トムさん、ミシェルさんで戦います。ただ、極力時間を稼いでください。僕と千夏さんで、新入生を鼓舞します。恐らく、能力を使える人もいるはずです。なので、その人の協力が得られるまで、時間を稼いでください」

「待って!私も戦うわ。煽動は一人で十分よ」

「あなたに何ができるというんですか!能力も、兆候あれど、そのものがない。身体能力も並。そんなあなたが、能力者を相手にどう………」

「マーク、千夏には、武器がある。最高の職人が作ったものだ。戦力には十分足りうるよ」

「仕方ありませんね………。では、突撃といきますか」


 皆が配置についた。カーテンがかかっているとはいえ、窓はある。まず、駿が注意を引き付け、他のメンバーで、回り込む。それが作戦だ。

 駿は扉を蹴破る。予想通り注意がこちらに向く。


「いやぁ、すいませんねー。遅刻してしまいました」

「そうか。そいつは、面白いな」


 駿の首筋にローブの男が取り出した、剣が触れる。駿は、後ろに回り込んだ千夏を確認すると、後ろに下がる。


「ていっ!」

「くっ………、貴様………」

「…………『電流式強化術』発動」


 千夏が男の股間を思いきり蹴り上げる。駿は男が怯んだ隙に能力を発動し、鋭い蹴りを放った。ローブの男は吹っ飛び、壁にもたれた。

 案外弱いものだ。不意打ちとはいえ、あっさりと勝つことができた。しかし、千夏の背後に黒ローブが迫ってきていた。


「危ない!」

「きゃぁ!」

「大丈夫か?」

「なんとかね。………わかったから、早くどきなさい!」


 なんとか千夏を押し倒すような形とはいえ、攻撃をかわすことができた。駿はすぐに立ち上がり、構えをとる。しかし、駿は黒ローブの足下を見て、頭に血が上った。

 駿の懐中時計が踏み潰されていた。恐らく、攻撃をかわした拍子に落ちてしまったのだろう。

 それをローブの者は蹴ってどかした。宝物をぞんざいに扱われて、怒らない人間など一握りだ。少なくとも、駿には怒りをこらえきれなかった。


「てめえ………、よくも!」

「甘い!『火炎弾(フレイム)』!」


 火の玉が駿の頬を掠める。炎が通りすがりに、チリチリと髪を焼く、しかし、それも気にならなかった。懐に潜り込み、鳩尾に正拳を叩き込む。

 その場で膝をついた黒ローブに蹴りを放とうとしたとき、駿は別の何かによって弾き飛ばされる。

 それは、何やら鞭のようなものだった。駿はそのまま地面に叩きつけられる。


「チッ、あと少しだったのに………!」

「くっ、離しなさいよ!」

「千夏!」

「さて、こいつが、どうなってもいいのかな?」


 駿が少し倒れている間に、千夏を人質に取られてしまった。これでは、戦えない。


「………条件はなんだ?」

「まず、両手を上げろ。そして、能力を解除しろ」

「ダメよ!そんなことしたら、あんたがやられるわ!」


 駿は要求された通り、両手を上げて、能力を解除する。千夏はダメだと言うが、従わなければ千夏がどうなるかわからない。最優先は仲間の命だ。


「エマ!あんた、特待生でしょ!いるんでしょ!?助けてよ!このままじゃ、駿も、私もやられちゃう!」

「できないよ………、人を攻撃するなんて………」

「うるさいぞ、貴様!」


 ローブの男が千夏の口を塞ぐ。男は1歩、また1歩と駿へと迫る。このままでは、確実に負ける。何か、状況を変える何かはないのか?駿は考えた。


「ぐっ………」

「早くしなさいよ!エマ!あんたしかいないのよ!こいつを……、早く!」

「嫌だ………!人を……攻撃だなんて」


 千夏が自分の口を押さえている手を噛む。そして、エマに呼び掛けるが、エマはそれを拒んだ。そして、男がまた1歩近づいてくる。


「早く!エマ!」

「……『鎌鼬(カマイタチ)』!」


 エマの手から放たれた空気の刃が、黒ローブの肩を掠めた。男のローブが赤黒く染まった。

 そのとき、千夏を押さえていた手が緩む。駿も電気を足に集中させる。逆転のチャンスは、今だ。

 千夏が男の手を振りほどく。その瞬間、駿は地面を蹴った。

 駿の全力の飛び膝蹴りが男の鳩尾へのめり込む。男は壁まで弾き飛ばされた。駿も、地面に膝をついた。


「はぁ、はぁ………」

「駿、大丈夫?」

「ああ、なんとかな。助かったよ、エマ」

「………うん」


 駿はふらつきながらも立ち上がる。これで終わったと思った。しかし、そんな考えは甘かった。


「くっ、女の攻撃で生まれた隙をついて、一撃をかましたか。効いたぞ、今のは。だが、お前たちももうおしまいだ。『変化(トランス)』!」

「あれは、鎌……?」

「なんて、ダサいんだ………!」

「今から、こいつで切られるのにずいぶんと呑気だな」


 男の手が鎌のように変形した。それは、まさにカマキリの前足だ。あんなもので切られたらひとたまりもない。

 駿はふらつく身体をなんとか奮い立たせる。そして、電気を流そうとする。しかし、ほとんど電気は巡らない。


「電池切れか………!くそっ………」

「………エマ、戦えるか?」

「うん。多分」

「よし、頼んだ。俺も回復し次第、援護するぞ!」


 エマが駿と千夏の前に立つ。その脚は心なしか震えているようにも見えた。大丈夫だろうか。


「面白い。お前から切り裂いてやろう。この私を怒らせたことを後悔するがいい」

「うぅ………。『鎌鼬』!」

「どうした?当たらんぞ」


 エマの手から放たれる『鎌鼬』が一発たりとも当たらない。それもそのはずだ、手が震えて、照準が定まっていない。

 やはり、エマは戦いには向いていない。能力が強くても、こんなにも、気弱で臆病で、優しい彼女には攻撃さえままならないと言うのか。


「落ち着くのよ!エマ!」

「『鎌鼬』!『鎌鼬』!『鎌鼬』!『鎌鼬』!」

「どうした?怯えているのか?」

「くそっ!早く回復してくれ………!俺の体!早く!」


 エマに男の鎌が振り下ろされる。その瞬間、駿の体は勝手に動いていた。エマを突き飛ばす。そして、男の鎌が駿の肩を裂いた。


「ぐあぁぁぁ!」

「駿!」

「ほう、庇うか。だが、無意味だ。その女は臆病者だ。戦う意思もない。失策だったな」

「何が、失策だって?」


 駿は切られた左肩を抑え、立ち上がる。幸い、腕は繋がっている。激痛をこらえ、男を睨み付ける。


「俺は……、お前を倒すことなんかより、みんなが無傷であることの方がよっぽど大切だ……!だから、たとえ、エマが戦えなくても、無事ならそれで、いいんだ………!」

「ハハハ、笑わせてくれるな。みんなが無傷?無事ならそれでいい?貴様、真性のバカだな」

「………黙れ!あんたに何が分かるのよ!エマの優しさも、駿の気持ちも、なんにも知らないくせに!バカにすんじゃないわよ!」

「やめろ!」


 千夏が短剣を取り出し、構えをとる。能力も使えないのに、この男と戦おうと言うのか。無事に済むはずがない。


「エマが戦わないって言うなら、私がやるわ。そいつを許すわけには、いかないもの」

「ほう、なかなかいい武器を持っているな。だが、どこまで耐えられるかな?」


 人のことは言えないが、そもそも千夏は戦闘経験はほぼ皆無。対して相手はテロリストの一味だ。勝ち目はゼロとは言い切れないが、薄い。千夏は、無事でいられるだろうか。

 駿の不安をよそに、千夏は男の元へ飛びかかった。

《能力紹介》

【名前】 超回復体質

【種別】 秘力

【属性】 無

【系統】 強化

【ランク】 E-~B+

【所有者】 祇方駿(ランクC)

【効果】 所有者の治癒能力を高める、自動発動型の能力。

【備考】 他の強化系能力の影響を若干受ける

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