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Another World ─もう一つの世界─  作者: なつくさ
Chapter.1 もうひとつの世界へ
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Episode 9.実力

 駿が大怪我を負ったあの事件から、六日の日々が経過した。もう腕も動かせるようになり、駿は完全復活を果たした。だが、しばらく動いていないせいで、体が鈍っているか心配になる。

 今は、病院で検査を終え、ゲルナス家に帰る途中だ。イシュと千夏が隣で歩いている。


「なあ、イシュ。頼みたいことがあるんだけど、いいか?」

「それは聞いてからの判断かな。まあ、言ってみなよ」

「イシュ。俺と手合わせしてくれないか?」


 しばらく流れる、心地の悪い沈黙。それを破ったのは千夏だった。


「なに、考えてるの?呆れた、いくらなんでも治りたての体で………」

「明日には、判別試験がある。そのときは、どうせ体を動かすんだろうし、ちょっと体を慣らしとかないと。それに、実践練習も必要だからな」

「一理あるね。よし、相手をするよ」

「ちょっと、イシュ!………はぁ、もういいわ。勝手にして」


 千夏が大きなため息をつく。駿は胸を撫で下ろす。なんとなくだが、千夏は無理にでも止めてくると思ったが、案外あっさりと折れてくれた。


「そうだ。たしか、光の騎士団本部に、決闘用リングがあったはず………。それを使おう」

「決闘用リング?」

「あ、決闘用リングって言うのは、何て言うかな………、スポーツ決闘というか………。とにかく、決闘の時に、怪我とかしないようにするための道具だよ。すごく簡単に言えば」

「駿にもわかるように言うと、決闘をゲームで言うライフ制に出来るのよ。今じゃ、リング制の決闘が主流ね」


 千夏が得意気に解説する。たしかに、分かりやすい。駿は元々ゲーム好きなので、すごく助かる。残念なことに、この世界ではゲーム機が開発されていないようである。

 千夏がそんなことを知っているとは思わなかった。案外、この世界に慣れてきたのかもしれない。最初はとても不安そうだったのに、今はもとの世界にいた頃とそんなに変わらないほどだ。


「………何?ニヤニヤしながらこっち見ないで。不気味だから」

「えっ?ニヤニヤしてたか?それはすまないな」


 どうも無意識のうちに頬が緩んでいたらしい。しかし、不気味とは心外だ。

 話ながら歩いていると、やや大きな建物が見える。煉瓦造りの二階建てだ。イシュは扉を三回ノックしてから、一秒間を置いて、二回ノックする。そして、最後に素早く三回ノックした。

 扉が開く。三人をジャンナが出迎えた。


「お帰りなさい、イシュ。それから、いらっしゃい。駿君、千夏」

「ただいま。お姉ちゃん」

「「おじゃまします」」


 三人は、リビングらしき部屋に案内される。そして、座るように促される。駿は手近にあった、ソファーに腰かけた。


「どうせ来たなら、ゆっくりしていって」

「そういえば、他の人はいらっしゃらないんですか?」

「まあ、レオパトラと、キメデスはいるわ。アレクとポレオンさんは出掛けたけど………」


 知らない名前が二つあった。たしか、レオパトラと言うのは、この前のとき、留守番を代行している最中、居眠りをしていた髪の長い女性だ。

 キメデスと、ポレオンという名前は知らない。この二つのうち片方は、金髪の青年の名前だ。


「レオパトラは昼寝中だし、キメデスは日曜大工。私、ちょうど、一人で寂しかったところなのよ。あなたたちが来てくれて嬉しいわ」

「実はね、お姉ちゃん。決闘用リングと、地下の訓練場を使いたいんだけど………いいかな?」

「ええ。でも、駿君はイシュに勝てるのかしら?」

「分かりませんよ。そんなの。でも、勝ち負けなんて拘りません。とりあえず、今の自分がどれ程のものか、知りたいんです」

「なるほどね。わかった、あなたたちの決闘、見届けるわ。ついてきて」


 三人はジャンナの後ろをついていく。やや長い螺旋階段を降りた先には、広い空間が広がっていた。一応、壁越しに休憩所のようなものもあった。

 ジャンナはその裏側へ行くと、変なランプのついたリングを持ってくる。駿とイシュはそれを受け取り、左手首に装着する。


「まず、ランプ同士をくっつけて」

「えっと、こうか?」


 駿はイシュが差し出した腕に装着されたリングのランプに、自分の着けたもののランプを重ね合わせる。すると、ランプは緑色に光りだした。


「これで、ランプが赤くなった方の敗けさ。ちなみに、ちゃんと音もなるから、ちゃんとわかるはずだよ」

「なるほどね。じゃあ、早速始めようぜ」


 二人はある程度距離をとる。駿は今更、刀をゲルナス家に置いてきてしまっていることに気がつく。駿は拳を構えた。


「あれ?刀は使わないの?」

「ああ。あいにく、忘れちゃったんだ」

「じゃあ、ボクも素手で相手するよ」


 イシュも構えをとる。しかも、見たことのない構えだ。それっぽくは見えるが、隙だらけだ。


「3、2、1……」

「Ready………Fight!」


 ジャンナの合図で、試合が開始される。イシュの様子を観察する。イシュはこちらを見つめたまま、動かない。

 先制権はこちらにあるらしい。だったら、それに甘えてこちらから攻めるまでだ。

 駿は瞼を閉じる。そして、意識を集中する。あのときの力が巡る感覚。それが全身を駆け抜けた。

 千夏の仮説が正しければ、この技らしきものは、全身に電気を巡らせ、身体能力を強化するものだ。名付けるなら………


「『電流式強化術』!いくぞ、イシュ!」


 目を見開き、地面を蹴る。前に使ったときよりも、速度が上がっている。すぐに距離を詰め、イシュの目の前へ駆けた。そして、体勢を低く落とし、正拳を繰り出した。

 しかし、確実に当てられたその拳は、イシュの腹の前で止まった。


「ん、どうしたの?攻撃しないの?」

「いや、なんというか、女の子を殴るってのはちょっと………」

「なに言ってるのさ!勝負しようって言ったのはキミじゃないか!」

「そんなこと言われてもなぁ………」


 駿が少しよそ見して、頭を掻いている間に、鳩尾に鋭い蹴りが襲いかかった。駿は思わず腹を押さえ、膝をつく。


「隙だらけだよ。キミはなんか武術をやってたんじゃないかい?せっかくいい動きだったのに、台無しじゃないか」

「うっ………」

「甘いよ。甘過ぎる。これじゃあ──」

「──何も守れないよ」


 駿はその言葉で自分を縛っていた枷が外れたような気がした。そして、立ち上がる。


「うるせぇ………!余計なお世話だっつーの!」


 駿は勢いをつけ、飛び膝蹴りをする。イシュはそれをギリギリかわした。その際、少しだけバランスを崩していた。

 駿は、それを見逃さなかった。着地してすぐに体勢を立て直す。そして、イシュが完全に立つ前に足払いをする。彼女は、バランスを崩し、転んだ。

 隙が生まれた。その隙を逃す手はない。駿はイシュ目掛けて、拳を振り下ろす。


「なぁんだ、ちゃんと戦えるじゃん。少し、驚いたよ」


 駿の拳は、イシュの小さな手でしっかりと止められていた。そして、イシュが腕をつかみ、体を丸め、転がる勢いを利用して、駿を投げた。

 駿は地面に強く叩きつけられる。思わず呻き声が出る。その隙に、イシュは高く飛び上がっていた。そして、腕をこちらへ向けた。


「いくよ!『水砲(ハイドロ・ショット)』!」


 水の塊がイシュの手から凄まじい早さで放出された。駿は急いで跳び、回避した。

 自分がそれまでいた場所を見て、ぎょっとした。なんと、その部分が抉れていたのだ。つまり、あの技はとんでもない破壊力を持っているということだ。やはり、伊達に警団員をやっている訳じゃない。


「思ったより、やるな………」

「そっちこそ!」


 駿は地面に降り立ったイシュ目掛けて、飛び上がり、回し蹴りを放つ。渾身の一撃だった。

 しかし、虚しく脚は空を切り、イシュは駿の後ろに回り込んだ。


「しまっ………!」

「食らえッ!」


 『水砲』が駿の背中へ至近距離で撃ち込まれる。駿は衝撃で吹き飛ばされ、前のめりに倒れる。急いで立ち上がろうとするが、その顔の前にはイシュの手が、止めの一撃を繰り出すために、構えられていた。


「チェックメイト。だね」

「そいつはどうかな?」

「『水砲』!」


 駿はその瞬間に一気に体内を巡る電力を脚に集中させる。自然とイメージは脳裏に浮かんだ。そして、思ったよりはるかに、上手く適応した。

 駿は勢い良く飛び上がる。イシュが放った『水砲』は、駿がいた地面を深く抉るだけだった。

 しかし、このままでは絶好の獲物だ。何とかしなくてはならない。どうすればいい。駿は思考を巡らす。それさえも、いつもよりスピードアップしていた。『電流式強化術』は思考速度も早めるようだ。

 《水は電気を通す》駿は常識であるそれをようやく思い出した。放電ができれば、勝機はあるかもしれない。

 駿は落下しながら腕をイシュへ向け、構える。そして、すべての電気を腕へと集める。腕は青く輝き始めた。


「なんか、でかいのが来そうだね。なら、ボクも全力で行かせてもらうよ!」

「頼む、出てくれ!」

「覚悟は、いいね?これがボクの全力だ!『超水流破(メイルシュトロム)』!」

「いっけぇぇぇぇぇ!!」


 イシュの向けた腕から凄まじい速度の水流が放たれる。『水砲』とは桁違いのとてつもない量の水が渦を巻き、駿を襲う。駿は、その水流目掛けて、電撃を放った………はずだった。

 電撃は出るには出たが、ちょっと「バチッ」となる程度だ。ほんの少し、光って、それは消えた。


「のわぁぁぁぁ!」


 駿は渦に巻き込まれ、高速回転する。ダメだ、こんなに回されては酔ってしまう。そんな下らないことを考えている内に、駿は壁に叩きつけられていた。

 腕のリングから、大きな音が鳴った。ランプを見ると、赤く光っていた。そう、駿の敗けだ。

 駿はリングを外し、壁にもたれる。勝てるはずがなかった。同い年とはいえ、警団の一団員と、やって来たばかりの駆け出し能力者では、実力が違いすぎた。

 千夏が真っ先に駆け寄ってくる。


「大丈夫?」

「まあな。このリング、本物だよ。怪我の一つもない!」

「全く………、心配して損したわ」

「悪かったな」


 駿は立ち上がる。イシュもこちらへ向かってくる。そして、手を差し出した。


「思ったより、いい戦いができたよ。ありがとう」

「……はは、参ったよ。お前、強いな」

「それはどうも」


 二人は握手を交わした。その様子を見てから、ジャンナが拍手をした。千夏も、それに合わせてか、拍手をした。


「二人とも、良くやってたわ。ところで、駿君。あなた、放電が出来ないみたいね」

「えっ、なんでそれを?」

「構えを見れば分かるわ。最後、イシュに腕を向けて、そこに意識を集中してたんでしょ?」

「はい」

「一つ、原因に心当たりがあります。恐らく、ランクの低さからして、出力が足りないだけかと」


 千夏が落ち着いた様子で言った。確かに、出なかった訳じゃない。出たことは出たのだ。それなら、単純に出力が足りなくて、届くほどのものでは無かったということだろう。


「なるほどね。駿君の持つ、雷属性は前例が少なすぎて良くわからないのよ」

「雷属性は希少なんですか?」

「属性は、火、氷、風、地、光、混沌、水、雷、念動、無の十種類あるんだけど、雷属性を持つのは、知ってる限りじゃ、あキミを含めて二人しかいないんだ」

「マジで?」

「うん」


 駿は驚きを隠せなかった。たしか、この国で最強の能力者は雷属性と聞いている。つまり、イシュの知っている範囲では、その人と駿の二人だけということになる。つまり、能力の使い方などを教えてもらうことなど不可能に近い。結局は独学しかない。ということになる。

 駿がそう考えていると、奥の方にあった扉から、レオパトラが出てくる。


「ジャンナさん、一通り終わりましたよ」

「ちょうどよかった!駿君の能力を解析してほしいんだけど、やってくれる?」

「わかった。やってみましょう。少しお待ちください」


 レオパトラは扉の奥へ一旦戻り、ノートパソコンのようなものを持ってくる。それは、元いた世界のパソコンとは少し違っているように見えた。


「駿君、能力を解析します。とりあえず、技を使ってみてください」


 駿は言われた通り、『電流式強化術』を発動する。レオパトラはパソコンの画面を見て唸る。何かおかしな点でもあったのだろうか。


「あなたが能力を発動する際、こちらの『送電回路』を使っているのですが、これが、意外と奥にあるみたいで。恐らく、よほど協力な電撃でなければ、ろくに放出できないでしょう」

「うーん、なるほどね。ちなみに、駿君のステータスとか、解析できたりしない?」

「はい。できますよ」


 レオパトラはパソコン的なものから、アンテナを引っ張りだし、駿の方へ向ける。しばらくして、結果が出たらしく、ジャンナがその画面を見て、不思議そうな表情をした。

 駿もその画面を覗く。


《ステータス》

総合ランク C-

筋力;C 耐久;B- 敏捷;B- 技巧;C+ 対応応素量;D

属性;雷 混沌

能力;??? D  属性 雷 系統 流動

   超回復体質 C 属性 無 系統 強化


 正直、高いのか低いのか良くわからない上に、『対応応素量』などという謎の項目がある。イシュが察したのか、説明してくれる。


「ボクたちは、空気中に含まれる『応素』って言うのを使って能力を発動するんだ。つまり、対応応素量っていうのは、応素をどれだけ扱えるかってこと」

「つまり、能力の強さってことか?」

「まあ、直接比例はしないけど、ある程度関係はしてるかもね」

「なるほど」


 駿は相槌を打ちながら、パソコンの画面をもう一度見る。やはり、イシュよりははるかにランクが低いな。駿は実力の差を再確認した。

《ステータスについて》

総合ランク;基礎能力、超能力を合わせた総合的な評価

属性;火、氷、風、地、水、光、混沌、雷、念動が存在する。また、なにも持たない場合は 無 と表される

筋力;力の強さ

耐久;耐久力の高さ

敏捷;素早さ、機動性

技巧;応用力など

対応応素量;使える応素の量。応素は能力を使う際、必要になるもの


基礎能力、超能力ランク、総合ランクは E-~S で判定される

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