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第10章


「あー、最悪。」

民兵を大勢倒し、VBCIも爆発させた翌日早朝にフィスカはとぼとぼと外を歩いていた。あの後、ソーマの家にロッカやイリスまで泊まる事になり朝食が足りなくなったのだ。同年代の女の子と会話が弾み、眠ったのは午前4時ごろ。現在は午前8時でクレアに起こされたのだ。

「…大体何が好きかちゃんと言ってよまったく…

適当に任せるとクレアに言われ、フィスカは困り果てた様子でコンビニに入ろうとするが、立ち止まる。

「あれ?」

アイスクリーム入り冷蔵庫に入れるはずの仕切りが外に出ているのだ。フィスカは首をかしげながら内部に入ると店員が携帯を持って写真を撮っている。冷蔵庫には別の店員が入っているようだ。

「こいつら、最低。」

剣を抜くと、フィスカは刃のない部分で写真を撮っている店員を殴りつけ気絶させる。冷蔵庫に入っていたもう1人の店員が起き上がったところに蹴りをいれ、彼も気絶させる。

「あんたらのせいで多くの人が迷惑するんだよね。つっても殺すのもあれだから・・・」

さすがにコンビニ内部で殺人事件が起こればイメージダウンにもつながりかねない。フィスカは少し考えると事務室に入る。机を探り、ビニールテープを持ってくるとそれで店員2人をきっちりと縛り付ける。

「あとは…」

荷物運搬用の台車にフィスカは2人を載せると、今度は冷蔵庫裏の部屋に入る。そこには冷凍庫があり、ダンボールがたくさんおかれている。フィスカは大き目のダンボールを部屋に持ってくると、そこに店員を放り込み、上からガムテープをする。

「ぐっばい。」

ダンボールの上に他の荷物を置くと、今度は店内のアイス用冷蔵庫の中身を必死に整えて整理し始める。幸いなことに客は来なかったので何とか取り繕うことが出来た。これで誰が来ても…アイスを買って、不自然な溶け方をしてまた固まったことに気づく人がいない限りこの一件はわかることはない。店員は運がよければ生還するが、生きていても何が起こったか、そして何をしたかは詳しく話すことはない。

「…はぁ、何やってるんだろ私。」

整理し終えてフィスカはため息をつく。本来ならやる必要のないことではある。

「…まぁいいか。」

それだけいうとフィスカは外に出る。ここで買い物が出来るわけもないので他の場所へと向かう。腹の虫が鳴いたところでフィスカは立ち止まる。

「私だけいい思いしちゃっていいよね、こうなったら。1人で全部買ってこいなんて無茶する方が悪いし。」

フィスカは適当に料理店を探しているとちょうど良く中華料理店を見つける。「飛車餃子」という名前の大手中華料理店であり、フィスカはそこに入り椅子に座る。

「ここ美味しいのかな。」

首をかしげながらもフィスカは入って椅子に座るとチャーハンと餃子を注文する。しばらく待っていると、突然客の1人が立ち上がり服を脱ごうとし始める。

「…あれって…」

何が起こるのか察知したらしく店員の1人が止めに入るが、男性客はそれを振り払う。フィスカはため息をつくと立ち上がる。

「あーもう。弱すぎるしうっとうしいし…!」

店員任せでは何も出来そうにない。フィスカはとっさに動くと男性客の喉元をつかみ、その状態から床に投げる。男性客はすぐに立ち上がるとフィスカに殴りかかるが、フィスカは鮮やかに回避し男性客に膝蹴りを入れる。苦しげに男性客がうめいたところで、フィスカはあごに痛烈な蹴りを食らわせる。

「…まったく。」

鈍い音と同時に男性客は倒れこむ。店員がフィスカに近づくと、何度も頭を下げる。

「あ、ありがとうございます!お客様にこんなことを…」

「気にしないで。それよりこいつを放り出して美味しい餃子とチャーハン食べたいんだけど…放り出してきていい?」

店員の目もあるうちは殺傷することは難しく、フィスカは複雑そうな表情をしながらたずねる。店員はもちろんです、と答えると仕事に戻っていく。フィスカはいったん男性客を外に連れ出す。そして裏路地まで連れて行くと割れた窓ガラスが捨てられているのを見つける。

「こいつだ。」

フィスカは男性客を寝かせると、ガラスの破片を1個手に取り太ももにぐっと押し込む。動脈に達したところで動きを止める。

「本当ならこいつも殺すところだけどさ・・・運命に任せておくかな。運がよければ誰か助けてくれるでしょ。」

フィスカの表情は浮かないままだった。それでも飛車餃子に戻るとチャーハンと餃子がテーブルに置かれていた。

「へぇ、蒸し餃子なんだ…珍しいな。」

よくよくメニューを見ると、別メニューで焼き餃子が存在した。フィスカは早速箸でつかんで口に入れる。表情は次第に笑みへと変わり、箸がどんどん進んでいく。


「…お腹すいたわね…」

「あぁ…」

イリスとクレアはため息をついてフィスカの帰りを待つ。ロッカも空腹なためかかなりテンションが下がっている。

「まだ、来ないの…?フィスカ…」

「あぁ…」

ロッカもため息をつく。するとイリスがクレアに質問をぶつける。

「リシュアって人、何者なの?」

「あいつか…」

クレアは少し考え込んでから話を続ける。

「私も良くわからん。ただシェルディアに協力する女性だ。どこか貴族とか高貴な家柄に生まれた女性のようには見えた。従者数名と、研究員の妹がいるというのが確実な情報だ。剣術の腕前は凄く、他にも多数の武器を扱える。私の友人も刺客だが、その恋人が彼女に剣術を学んだといっていたな…」

「確実な情報?」

ロッカが首を傾げると、クレアは軽く笑って話を続ける。

「ここからは噂の領域でしかない。まったく歳をとっていないとか何千年も前から生きているとか、記憶を読み取ってしまうとか料理で人を殺せるとか、そんな噂話程度しかわからん。もっともこんな噂、嘘に決まっているだろうがな。」

「そ、そうだよね…最後の話はありえそうだけど、他はね…」

ロッカも苦笑してしまう。イリスもつられて笑ってしまう。

「面白い話ね…それともう1つ疑問があるのよ。勝てそう?」

クレアはそれを聞き、表情を沈ませる。今のところ、打開策は何1つなくどうしたらいいかもわからないのだ。

「リネージュにか?」

「そうよ。私たちまで巻き込んでおいて、勝てないなんて言う筈ないよね?」

「…ああ。」

表情を沈ませながらクレアは答える。

「…本当に?」

「必ず連中をしとめてこの騒動を終わらせる。どうにかして、な。」

イリスはまだ納得していないのか複雑な表情をするが、ロッカがクレアの手を取る。

「信じて、いい?」

「必ずやる。時間がかかっても必ず…な。お前達も日常に戻り私達はもとの世界に戻る。約束だ。」

クレアの言葉にロッカは笑みをこぼすが、イリスは複雑そうな表情を崩そうとしない、

「信用できるの?」

「しなければ、リネージュ兵に追い回されるだけだ。連中が降伏を許してくれるかどうか。お前もその手で兵員を倒したからな。」

 その言葉を聞き、イリスは自分の手を見つめてしまう。そして目を覆ってしまう。それをみて、クレアは申し訳なさそうに声をかける。

「…すまないな。だが…戻れないと言ったのはそういうことだ。戦争で兵員が死ぬのは当然かもしれない。だが、お前たちに殺されて軍としてのプライドが傷ついたのも事実だ。命が助かったとしても、何をされるかはわからん。」

「…」

 ロッカはため息をついてしまう。クレアは複雑そうな表情をしているとソーマが部屋から出てくる。

「おはよう…フィスカはまだか…?」

「残念ながらな。」

「そっか…そういえば聞きたかったことがあるんだけどな。クレアとかフィスカとか、刺客ってぴっちりしたスーツって着用しないのか?」

 その言葉を聞き、クレアは顔を真っ赤にしてしまう。ロッカは目を細めてソーマを見る。

「それは、セクハラ…」

「な、なんか悪いな…」

 ソーマは申し訳なさそうに頭を下げると、クレアは首を振る。

「いや、いい…ただ、刺客は民衆に紛れるのが基本だ。そんな目立つスーツを着ていくことはそうそうない。防弾性にアドバンテージもないしな。潜入専門の奴はダクトとか狭いところに隠れる際動きやすいってことで着ていたが…」

「クレアも持ってる?」

 ロッカが首をかしげると、クレアは3人の視線に気づき後ずさりしてしまう。

「お前ら何を期待しているんだ!?い、一応持っているが…」

「着てみて?折角だから。」

 イリスにまで言われ、クレアはため息をつく。

「少し待っていろ…」

そういうとクレアは転移装置を稼動させ、その中に入っていく。しばらくするとラバースーツに身をまとったクレアが出てくる。黒いラバースーツを着用しており、ひざ宛と靴とホルスター以外の部分に体のラインがくっきりと浮き出ている。

「お、お前たちがイメージしてる刺客ってこういうイメージなんだろう?」

「そうね、確かに暗殺者っぽい。」

 イリスが納得するが、クレアは首を振る。

「まったく…創作物は衣装で人を判断することも多いから作者の趣味でこういうのを入れるんだろう。はた迷惑な話だ。」

「案外似合ってると思うけどな。クレアってスタイルいいし。」

 ソーマに言われ、クレアは顔を背けてしまう。ロッカはため息をつくといきなり呼び鈴の音が響く。

「誰?」

 ロッカが覗き穴から外の様子を伺うが、すぐに物陰に隠れてしまう。

「どうした?」

「り、リネージュ兵がいるっ!」

 クレアはすぐにP250を座卓下から取り出すと構えて扉に近づく。そして覗き穴から相手の姿を確認する。リネージュ軍の都市迷彩とファマス突撃銃を持っているため、リネージュ兵と言うことは間違いない。彼がチャイムを押しているのだ。

「…誰だ。」

扉越しにクレアが声をかけると、リネージュ兵が答える。

「撃つつもりはないし敵でもない。中に入れてくれ。」

「…」

 クレアはそっと扉の鍵を外すとリネージュ兵は中に入ってくる。すかさずクレアは片腕でリネージュ兵の首を絞めつつ銃を突きつける。

「名前は。それと何故ここに来た。」

「フィリップ…第7師団第1連隊副官。階級は大尉だ。」

 クレアはファマス突撃銃とホルスターに収められているグロック17拳銃を没収し、フィリップを座らせる。

「何故単身でここに来た。」

「亡命だ。リネージュに帰りたくてここまで逃げてきた…転移装置を使わせて欲しい。」

クレアはP250の照準を向けたままフィリップをにらみつける。

「転移装置のことを誰に聞いた。それと何故この場所を…?」

「以前シェルミナから弾薬を仕入れただろう?奴の立ち寄った場所を片っ端から当たってここにたどり着いた。」

 クレアはため息をつく。すると、ロッカがフィリップに恐る恐る話しかける。

「あの…どうして、亡命を…?」

「本国政府と師団長に訴えなければいけないことがある。」

 クレアは話を聞き、首をかしげる。

「…何を訴えるつもりだ?」

「まずは家族達を不当に監禁していることだ。いくら艦艇のシステムが発達してようと動かすにはクルーが必要だ。元々この世界にいるつもりはまったくない。まして日本はシェルディアに似すぎている。そのせいでイラついている兵士も多いのだ。」

 クレアは納得するが、ソーマはわけがわからないのか首をかしげる。

「シェルディアと似ているって?」

「我々の世界とこの世界は名前も何もかも違うが、文化や風習、言語と言う面ではとても良く似ている。そして兵器もな。シェルディアはこの日本であり、我々リネージュはフランスという欧州の国家がそっくりらしい。」

「関係はまったく逆なのにな…」

 ソーマは苦笑してしまう。フランスは日本の技術や文化をやけに褒め称えることが多いのだが、リネージュとシェルディアはどうやら敵対関係にあるようだ。

「それだけで帰るつもりなのか?イラついているという理由だけで。」

「この間、ミラージュの話を盗聴した結果おぞましいことがわかった。司令部はこの世界で得た資産をリネージュに全て持ち帰るつもりだ、とな。」

 イリスとソーマは顔を見合わせるが、ロッカは何かわかったのか返事をする。

「たくさんの資産が一度に流入したら、経済が混乱する…」

「その通りだ。最後の理由は少佐から聞かされたことだが…撃沈したアメリカの空母から核弾頭を回収するらしい。」

 その言葉に全員が驚くほかなかった。リネージュ軍はこれまで米海軍の戦力をほぼ壊滅させている。空母も2隻撃沈したようだが、そのうちの1隻は浅い海で撃沈したようだ。

「ちょっと待てよ、そんなもの回収させたら…!」

「おぞましい結果になることは想像に難くない。俺もよくはわからないが、あの弾頭は爆発と同時に強力な毒物を撒き散らす…そう、提督から説明を受けた。」

 フィリップの言い方にイリスは首をかしげる。まるで核兵器と言うものを理解していないような口ぶりだ。

「ちょっと待って…貴方の世界に核兵器ってないの?」

「そんなものは…」

 フィリップが複雑な表情をしながら答える。クレアはすぐにリシュアに連絡を入れる。

「核兵器…と聞いたがどういうことだ?」

『原子炉と同じ原理で爆発する爆弾のことですね。おおむねフィリップさんの言う通りですが…ずっと昔、今貴方のいる世界の「ハーグ協定」に相応する条約で禁止された兵器です。国土が狭いから、これ以上核兵器で生存圏を狭めてはいけないということで。』

 クレアは納得すると、わかりやすくソーマやクレアに核兵器と言うものが存在しないことを伝える。

「そういうわけか…」

「あぁ。だが…そんな民間人を虐殺するために使うような兵器を何故今も持っているんだ?」

 クレアの問いに、誰も答えられなかった。しばらくしてイリスが答える。

「それは…相手が使ったら自分も使うぞ、という理由で持ってるのよ。」

「基地攻撃能力とミサイル防衛能力が発展したこの世界でもか?それに、その理由だと民間人にその爆弾を打ち込むことが前提になっているだろう。都市に向かってそんな兵器をぶち込む奴がいるか?」

 再びイリスは黙ってしまうが、代わりにソーマが答える。

「やらかした奴らがいるんだよ。その民間人に対しての爆撃をやっちまった奴が。アメリカだ…今もやっている。」

「なるほどな。そんな連中なら報復もしたくなるな…あの国がそこまでひどいとは思わなかった。野蛮人も同然だ。」

 クレアの指摘を受け、ロッカがびっくりしたのか首を振る。

「い、今世界でもっとも大きい国家なのに…?経済とか技術も…」

「そんなことは関係ない。民間人を殺す前提で戦いをしていることが間違いだ。どれだけ努力しても民間人への犠牲は防げない。それが戦争だ。だが最初から殺す目的で爆弾を投下したりミサイルを撃ち込むのは人として間違っている。そんな計画を立てること自体もな。」

 クレアの言葉に誰もが黙るほかなかった。そんな危うい考えを…例え自分からやらないにしても大国の首脳や将軍が持っていることを実感したのだ。沈黙を切り裂くようにフィリップが口を開く。

「だが、そこのお嬢さんの話が事実ならどうやってその武装を防ぐ?」

「ミサイルを迎撃するミサイル、および基地攻撃能力強化と情報収集の正確さだ。」

「それは確実ではないだろう?」

「…確実なことがあるなら言ってみろ。お前も軍人ならわかるはずだ。作戦はいくらかの不確定要素が必ず絡む。もう一つ、相手の立場になって考えればわかるが、莫大な予算を…そして保管する費用も莫大な兵器をわざわざ防空ミサイルやレーダーのあるところに打ち込もうと思うか?ましてどこに対空ミサイルがあるかわからない敵国に。」

 フィリップは少し考え、静かにうなずく。現代ともなれば対空ミサイルの移動も可能なので、把握するのは難しいだろう。

「偵察衛星でそういうのは事前に確認するんじゃないのか?」

「今の対空ミサイルは移動式が多い。それに偵察衛星が戦争中も生き残れるわけがないだろう。対衛星ミサイルなど珍しくも何ともない。」

 そうだよな、とソーマもうなずく。するとフィリップが首をかしげる。

「そもそもだが、どうしていきなり敵国を焼き払うって考えになるんだ?敵国を占領しなければうまみがないだろう?」

「お前たちがいえる義理か。前の戦争のときシェルディアに何百もの爆撃機を送り込んで街を爆撃しただろう。」

 クレアが鋭い視線を向けると、フィリップは首を振る。しかし言葉はつまり気味で申し訳なさそうにしている。

「軍需工場付近しか狙ってないぞ…そう聞かされている。そんなことをするような連中がいるとは…」

「いたんだ。そして軍需工場以外の目標を爆撃した奴らを突き止めた。」

「突き止めて殺したのか!?」

 フィリップが立ち上がるとクレアにつかみかかる。クレアは銃を撃つつもりもないのか左手でフィリップを抑える。ロッカがそれを見て間に入る。

「そ、そういうことやめよう?ね…?」

「そうよ、軍人としてダメな事をやった人のために怒るの?」

 イリスにも言われ、フィリップはしぶしぶ引き下がる。

「…そうだな。目的を忘れるところだったが転移装置を使わせて欲しい。」

「残念だがここにはない…他の場所に移している。条件があるがな。」

 フィリップの表情がこわばるが、クレアはその変化に気づかないふりをしながら話を続ける。

「お前はどこの所属だった?」

「あぁ…「フランソワ・ダルラン」にいた。だがそれがどうした?」

「どうやってここまで来た?」

 何か納得したのかフィリップは表情を緩め、すぐに答える。

「いくら無人化の進んだ艦艇でも艦隊に所属しているクルー全員の食事をまかなうのは大変だ。それにここ最近は金回りもいいから日本やアメリカから食料を買い付けている。その取引をする輸送船がいるんだよ。艦名は教えられんけどな。」

「かまわんさ。」

 クレアはうなずくと早速ヘッドセットのスイッチを入れる。

『どうした、最近音沙汰なかったな。』

 欠伸交じりにリューゲルが答えると、クレアは真剣な声で返す。

「最近入港した輸送船を調べて欲しい。多分だがPMCを乗せてる奴だ。」

『了解だ、すぐ調べる…いよいよ本番だな。』

「そうだ。艦内に強襲を仕掛ける…その後は?」

『段取りが付いたら連絡する。』

 そういうとリューゲルは無線をきる。するとフィリップがクレアに話しかける。

「艦に乗り込むんだったら…ソレンヌ少佐とその部下には手を出さないでくれないか?帰還させるのに賛成しているんだ。そうすれば…あんた達の望みどおり、この世界から撤収させられるぞ?」

「私はクライアントの意向など知らん。殺せといえば殺すし、邪魔をするなら容赦はしない。」

 その言葉を聞き、フィリップはため息をつく。

「相手の意図を知っておかないと裏切られるぞ?気をつけたほうがいい。」

「言われなくてもわかっているが…」

 無線越しの相手を判別するのは難しく、クレアは浮かない表情をする。そして押入れをあけると武器を取り出す。

「以前使った武器でいいな?ロッカは…これでいいか。」

 クレアはロッカにAK12突撃銃を渡す。AKシリーズの最新型で機関部を大幅に改良し多くのアクセサリーをつけられるようにしたタイプで5.45mm仕様の60発入りマガジンを装着している。

 ロッカは4倍スコープつきのAK12突撃銃を受け取るとスリングを肩にかける。全員が防弾ベストを着用し、戦闘準備を整えている。

「行くぞ。」

 真っ先にクレアが出て、ソーマも続くが首をかしげる。

「転移装置、家にあったんじゃなかったのか?」

「私の家に通じているし設定も変えられん。リシュア達が使っている予備を使うほうがいいと思ってな。」

 そう答えるとクレアは1階の駐車場に到着し青いSUVに乗り込む。

「…普通こういう作戦のとき、黒いのを使わない?」

 イリスが首をかしげるとクレアは苦笑しながら答える。

「お前がそう思うなら、選んだかいがあるものだ。こんな車で軍事作戦をやろうと思う奴がいるか?」

 イリスも納得すると笑みをこぼし真ん中の座席に乗り込む。その隣にロッカが乗り助手席にはフィリップが座り、ソーマは後部座席に乗り込む。クレアは左右を確認するとSUVを発進させる。


「よし、これだけ買えば十分でしょ。」

 フィスカは両手にコンビニのレジ袋を持ち、中にたくさんのお弁当をいれて岐路に付いた最中だった。表情は自然と緩み、警戒心も解いている。鼻歌はさすがに歌わないが、女子高生か女子大生に見えなくもない。もっとも、ポーチに偽装したPP28のホルスターおよび鞘を持ち歩く学生はいない。

「こっちから行ってみようかな。」

 普段、フィスカは道路に面した歩道を歩くことが多い。いざとなった場合の逃げ場所が多く、最悪車を盾にもできるからだ。しかし気分がよく、敵襲もないと判断したのかフィスカは小路へと入っていく。

 しばらく歩いていくと交差点に出る。フィスカが何気なく左右を見渡すが、左を向いた途端すばやく前進し、ブロック塀に飛びあがりそこから屋根へと飛び移る。屋根は緩く傾斜しているため移動しやすい。フィスカはリネージュ兵から身を隠せるような傾斜の位置に身を伏せる。荷物は屋根の上においておく他なかった。

「何だってまた…!」

 リネージュ兵の小隊…5名の兵士が歩いてきたのだ。しかも帰るべきアパートの一室に向かっている。フィスカは屋根の上で身を伏せるが、足音が早まったのを聞き分ける。

「…ばれてる?」

 大抵の兵士は屋根の上で身を伏せていれば通り過ぎてくれる。上を見る人は少なく、視界に入らなければまず発見されることは少ない。しかしこのリネージュ兵達はフィスカに気づいたらしい。

「…先手必勝かな。」

 フィスカは小さくつぶやきつつをPP28を抜き、初弾が入っていることを確認する。そして匍匐して音を立てないように反対側の傾斜まで行こうとする。頭を屋根の上からわずかに出して反対側を確認しようとした途端、リネージュ兵がファマス突撃銃を向ける。大きなスコープを上に搭載したタイプだ。

「ちょっ…!」

 すばやくフィスカは身を伏せると、頭上を5.56mm弾が掠めていく。銃声が響き、フィスカはPP28を構える。表情はこわばっている。

「フェリン兵…嘘でしょ、何だってあんな奴が…」

 フィスカが言ったフェリン兵とは統合情報システムFELINを搭載したファマス突撃銃を所持した兵士であり、リネージュ兵では精鋭部隊に当たる。FELINの性能は未知数だが銃そのものはファマス突撃銃であり、外見上はファマス突撃銃の上に大きなスコープを搭載し、引き金の前にスイッチを配置しているに過ぎない。

 フィスカはすぐに反転するとPP28短機関銃を構える。フェリン兵が視界に移ると同時に正面にめがけ発砲。回避するまもなくフェリン兵は倒れこむ。

「あと4人、かな…」

 冷や汗を流しながらフィスカは地面に滑り降りる。原因はわからないがフェリン兵は確実にフィスカの位置を特定してきているのだ。相手が弱いか、あるいは精鋭でも体勢が整わないうちに各個撃破するなら簡単だが連携が取れた精鋭では真っ向勝負と言うわけにも行かない。

 フィスカがブロック塀の裏に着地すると、その時を狙っていたかのようにフェリン兵はブロック塀越しに射撃してくる。幸いにも鉄筋にあたり致命傷は免れたが頬とわき腹を銃弾が掠め血を流す。

「っ!」

 すばやくフィスカはブロック塀から飛びのくとあお向けに倒れこみながらPP28の引き金を引く。両手のPP28短機関銃を同時に発射したためブロック塀がすさまじい速度で吹き飛び、奥にいたフェリン兵の胴体を貫通する。

 冷や汗を流しながらフィスカは後ろに転がって立ち上がる。フェリン兵は確実に位置を把握して射撃してくるため隠れることは出来ない。フィスカは屋根の上にあがりその上を走っていく。

「逃すな!」

 隊長の指示を受けフェリン兵も2人屋根の上に上がっていく。屋根の上にいるフィスカを追跡するには屋根に上がる必要があると判断したようだが、大きなミスだった。開けた場所であれば、相手の位置を把握できるというアドバンテージは薄い。

「きたきた…!」

 屋根に上がったのを確認すると、フィスカは真っ向から突撃する。視界が開け、相手の位置を正確に視認できればほぼ互角だ。ファマス突撃銃の銃弾を切り裂きながらフィスカは接近し、フェリン兵の喉下を切り裂こうと剣を振るう。

 間一髪でフェリン兵は身をそらして回避するが、フィスカはそのまま剣を前に押し出しフェリン兵を刺し貫く。もう1人のフェリン兵が屋根にのぼりきるとファマス突撃銃を連射するが、フィスカは剣で突き刺したフェリン兵を盾にして銃弾を防ぐ。

「おっ。」

 その間にファマス突撃銃が盾にしたフェリン兵の手から零れ落ちる。フィスカは片手のPP28をホルスターにおさめそれを拾うとフェリン兵の肩にのせてスコープを覗く。白黒で背景が黒く、物質や兵士の輪郭が青白く映っている画像がスコープに映し出される。

 マグネティックビューワーと呼ばれる最新型のシステムで武器が発する磁界を探知し物質を透過して敵の姿を確認できる代物だ。またフェリン兵の装備するヘルメットにはバイザーが付いており、バイザーにはスコープの画像が映し出されるため壁に隠れながら一方的に射撃することも可能だ。

「便利じゃん、これ…もらっちゃおうかな。」

そういいながらフィスカはファマス突撃銃を連射する。フェリン兵の発射した銃弾は彼の同僚にあたり貫通しなかったが、フィスカの発射した銃弾は脚を貫通しフェリン兵は屋根から転げ落ちる。

 PP28のグリップに備え付けられた剣をフィスカはフェリン兵から引き抜き、地を払うとホルスターに収めファマス突撃銃を構える。包丁を持った民間人などがスコープに映し出されるが、銃を構えて移動している人物を発見する。

「こいつが最後の1人か…」

 にやり、と笑みをこぼしフィスカはフェリン兵の真上を通過する。思わずフェリン兵は屋根の上に銃を向け射撃するがフィスカはすばやくフェリン兵横の地面に着地、PP28を引き抜くと剣でわき腹を切り裂く。フェリン兵は血を流しながら倒れこんでしまう。

「まったく、こんな連中どっから沸いてきたんだろ…」

 戦利品の割りにあわない戦いにフィスカはため息をつく。とりあえず全滅させたが幸運だっただけで、ひょっとしたら腕か脚がやられていたかもしれない相手だ。

 屋根に上り、荷物を両手に持ちファマス突撃銃をスリングにかけてフィスカはアパートまで帰宅する。フィスカは扉を開けるが、誰一人迎える者はなかった。

「えー…」

 その場にフィスカは座り込み、ため息をつく。座卓の上にヘッドセットがおかれているのでフィスカがそれをつけるとクレアに通信を入れる。


『ねぇ、クレア達どこ行ってるの?』

 通信が入り、クレアは運転しながら無線で応答する。

「用事が出来た。すぐに埠頭の方に来てくれ。例の緊急脱出に使う場所だ。」

『おっけー。』

 クレアがフィスカとヘッドセットで会話しているが、後ろからイリスが話しかける。

「運転中に通信なんてダメよ!」

「細かいことを言うな。携帯よりは安全だ。」

 イリスの言葉を無視し、クレアは平然と通信を続ける。

「帰ってくるのが遅いぞ。もう出発した後だ。」

『そうだけどさ、フェリン兵と戦ってたら遅くなって…』

「何!?」

 クレアの表情が険しくなる。フィスカは少し明るい口調で話を続ける。

『あいつら冗談抜きに強いからさ…とりあえず最近そのあたりうろついてるから気をつけて。スコープ覗いたら壁透けて人が見えるんだよ?』

「厄介なスコープだな…」

『そういうわけだから気をつけてよ?』

 わかった、と険しい声で返事をしてクレアは通信をきる。

「どうしたんだ?そんな恐い顔をして。」

 ソーマが首をかしげると、クレアは真剣な表情で答える。

「いいか、常に敵の位置に気を配れ。どんな些細な変化も見逃すな…強敵を投入してきたらしい。」

「強敵?」

「FAMAS-FELINを装備した兵士だ。壁越しにでもこちらを見つけてくるから気をつけろ。」

 真剣な表情のクレアを前に、ソーマはかくかくとうなずく。隣同士のロッカとイリスは顔を見合わせて相談し始める。

「厄介な相手よね…」

「うん、どうやって見つければいいのかな…」

 ロッカは首を捻って考えるがまったくといっていいほどいい案が浮かばないのかため息をついてしまう。するとイリスが何か思いついたのかヘッドセットの周波数を合わせ始める。

「リシュア、いるんでしょ?」

『ここにいます。それでどうしましたか?』

「FELIN装備の兵士について対策とかないの?」

 リシュアは少し間をおくと、落ち着いた声で返事をする。

『私も出て転移ポイント付近の安全を確保します。すぐに港へと来てください。武器などもありますから。』

「えぇ…クレア、急げる?」

 不安げにイリスがたずねると、クレアはすぐにうなずく。

「そうだな。ヘッドセットをつけておけ。連中は警察署のシステムもハッキングできることをすっかり忘れていた…」

「あ、この前襲撃された警察署だっけ…じゃあやばいんじゃないの?防犯カメラからこっちの動きを観測されたら…」

 ロッカの言葉にクレアはうなずく。そしてアクセルを踏み込んで橋へと向かう。陸橋であり埠頭へはそこを通っていくのが一番の近道だ。するとフィリップがバックミラーを覗き表情を険しくする。

「ついさっきから追跡してくる車両がいるぞ。黒いSUVだ。」

「…ここで銃撃は出来ん。適当なところで止めて追い払おう。」

 クレアはスピードを緩め、そのままSUVに追跡させる。フィリップは不安げにクレアを見つめる。

「大丈夫か?防弾ベストを着せていると言っても民間人3名だぞ?」

「あいつらはフルオートで撃つ癖を直せば十分通用する腕前だ。接近戦は私がやる。お前もできるか?リネージュ兵は同僚だろう?」

「連中は同僚じゃない。フェリン兵は司令部の管轄だからな…俺にとっても敵だ。遠慮せずに撃てる。」

 フィリップはファマス突撃銃に銃剣を取り付け、じっと待機する。陸橋を降りてクレアは手近な倉庫の影にSUVを止める。

「お前たちはフィリップの援護をしろ。私は上から狙う。」

「上?倉庫に入るのか?」

 ソーマが首をかしげると、クレアはバレットM82狙撃銃を背負いながら倉庫の壁を登り始める。

「…嘘だろ。」

「これくらいどうということもない。私が銃撃したら角から出て一斉に射撃しろ。」

 軽々と倉庫の屋根までクレアが上がると、黒いSUVも倉庫手前に到着する。周囲が安全だと思ったのか黒いSUVに乗っていた兵士達はファマス突撃銃を片手に扉を開けようとする。そこでクレアがバレットM82を両手に持ち、かがんで射撃する。

「敵襲だ!」

 リネージュ兵が叫び、あわてて扉を開けるがフィリップとソーマが出てきてリネージュ兵めがけ射撃する。遅れてロッカとイリスも出てくると銃を構え連射する。黒いSUVが弾痕まみれになり、大慌てでリネージュ兵は黒いSUVを発進させて戻っていく。

「やった…!」

『いや、喜ぶのは早い。私が倉庫の上から先導するから、ついてこい。ここからは徒歩で行く。』

 喜ぶロッカをクレアは制止し、屋根の上を歩いていく。ロッカはAK12突撃銃のマガジンを交換しながらフィリップについていく。

「いい兵士だな。」

 フィリップはソーマ達をみて喜んでいる様子だったが、クレアは首を振る。

『この世界の住民を巻き込みたくはなかった。人を撃たせたくもなかった…本当はな。』

「そうは言ってもな、この世界の連中が戦わないのがおかしいんだろう?」

『ここは我々の世界とは違う。それぞれが武器を持っているわけでもないし…一生で人を殺す確率など1割にも満たない世界だ。』

「ぬるい連中のルールに付き合うことないだろう。あんた、それでも刺客か?」

 フィリップに言いたい放題いわれ、クレアは屋根の上からフィリップを見下ろす。

『何が言いたい、フィリップ。』

「戦いもせず、偉い連中や俺達のような軍勢程度に流される人生の何に意味がある?戦うことを選んだ連中から銃を取り上げることもないだろう。」

『だが、人を…』

「やらなければやられる、それだけのことだ。お前だってそれは知っているはずだろう?」

 クレアは頭を抱え、無言で先導していく。するとソーマが左右を警戒しながらフィリップに話しかける。

「何を話してたんだ?クレアと。」

「こっちの世間話だ…しかしいい動きをする。どこで学んだ?」

「あぁ、サバゲーで何度かやって…俺のところはマガジンに実銃と同じだけの弾しか入れないんだ。それに1発当たったら終わりというルールだから緊張感もあった。」

 短くフィリップはうなずくと、後ろを警戒しながら話をしているイリスとロッカをちらりと見てから答える。

「フェリン兵が来たら守ってやれ。途中で襲撃されることもあるからな。」

「あぁ…2人とも絶対に守る。」

「…だがあまり気を張って無茶なことはするな…いいな。」

 フィリップの言葉にソーマは真剣な表情でうなずきつつ、角を確認しながら進んでいく。イリスとロッカが随伴して周囲を警戒するとクレアが連絡を入れてくる。

『フェリン兵だ。北から接近中、補足されている。』

「わかった、応戦する。」

 応答するとソーマはすぐに角から様子を伺う。フェリン兵を確認すると、ハンドサインを送る。イリスとロッカがうなずき、ロッカはAK12突撃銃を構え壁に密着する。手を広げ、前に倒すハンドサインは見慣れないものでありフィリップは首をかしげる・

「一体今のは何だ?」

「銃撃の合図。5秒後に撃てってことだ…行くぞ!」

 ロッカとソーマがフェリン兵めがけ発砲するが、フェリン兵は倉庫についたドアを開けてその裏に隠れる。後ろから他のフェリン兵が続くとファマス突撃銃を発砲してくる。

「側面に気をつけるとしよう。」

 フィリップはファマス突撃銃を構え側面を警戒する。イリスもAA12自動散弾銃を構え周囲を警戒すると、フェリン兵が先ほど来た道から回り込んで向かってくる。

「後ろよ、フィリップ!」

「あぁ!」

 イリスは真っ先にAA12自動散弾銃を連射。スラッグ弾がボディアーマーを貫通しフェリン兵1人を倒す。フィリップはセレクターを(3)にあわせトリガーを連続で引く。3発ずつ銃弾が連射され、フェリン兵1人が5.56mm弾を脚に受けて倒れこむ。

「この程度…って、何あれ!?」

「盾兵か…!」

 分厚く成人男性の胸元まである金属製の盾を構えた兵士が前進してくる。イリスとフィリップは盾兵めがけ発砲するが分厚い盾は銃弾をたやすくはじいていく。その間に他のフェリン兵が倒れた兵士を引きずって後退する。

「いい連携だな…ちっ。手榴弾でも持ってくるんだった。」

「もう1人来るわよ!」

 同じ盾を構えた兵士がもう1人、手にサーベルを持って突撃してくる。すぐにフィリップは銃剣を装着し接近戦に備える。イリスは盾兵の足元を狙って発砲するが、足元まで隠しているシールドにはじかれ脚は狙えない。

「やっぱり硬いな…」

 フィリップが息を呑んだ途端、対物ライフルの轟音が響き盾に穴があく。盾兵の胴体が引き裂かれ、そのまま崩れ落ちる。クレアがM82対物狙撃銃で盾を貫通させたのだ。

『イリスは援護しろ。フィリップは手榴弾を回収してくれ。私も支援する。』

「りょ、了解!」

クレアはイリス達がいる地点の上に陣取り、PP19短機関銃を連射する。フィリップはその間に敵兵の死体から手榴弾を回収し所定の位置に戻る。

「どうにかなりそう!?」

『リシュア達も近くで応戦しているから大丈夫だ。それより包囲されかねないからイリスの背後方向から撤退し隣の埠頭にある赤い屋根の倉庫まで行け。私がカバーする。』

 クレアは倉庫の上から銃撃を続ける。その間にイリスとフィリップがソーマとロッカに合図をして撤収する。ソーマとロッカもフィリップたちに随伴し、クレアは4人が目的の倉庫に向かうのを確認する。距離は結構離れている上にフェリン兵も次々にSUVやVBCI装甲車から降りてくる。

『正面を進むとP9と鉢合わせだ、左に行け!』

「了解!」

 クレアが指示を出し、ソーマはその通りに進んでいく。最後尾をロッカが固め、敵兵の姿を見るとAK12突撃銃を連射して牽制する。フェリン兵は距離を置いてファマス突撃銃を発射するが、ロッカもAK12で応戦し追い返す。

「クレア、包囲されてないか!?」

『そうだな…』

 クレアが声を落し、ソーマも表情を曇らせてしまう。フィリップもため息をつきつつ先頭を進んでいく。

「こんなところで死にたくないぞ、俺は。家族が家で待って…」

言い終わらないうちに、フィリップはいきなり爆風をまともに受けて吹き飛ばされる。ソーマとイリスも後ろに吹き飛ばされ、すぐにクレアが倉庫の上から飛び降りて駆けつける。

「無事か!?」

「な、なんとかな…」

 ソーマは何とか起き上がるが、フィリップは血まみれで倒れこんでいる。イリスも怪我をしているのかなかなか起き上がろうとしない。クレアはすぐに角から敵を発見する。APILAS対戦車ロケット砲を持ったフェリン兵が再装填をしているのを発見し、クレアはPP19でそのフェリン兵の頭を射抜く。

「フィリップ、大丈夫か!?」

 ソーマがフィリップを揺さぶるが、まったくと言っていいほどフィリップは反応しない。イリスが喉元に手を当て、首を振る。

「行くぞ。私達のほうが危うい。」

 PP19をリロードしながらクレアが手招きをする。ロッカはフィリップの無残な姿を見て、涙を流すがこくり、とうなずく。

「行かないと、ね…」

「そうだ…家族にはよく戦ったと伝えておく。」

 クレアはフィリップから手榴弾を回収し、PP19を構えて進んでいく。状況は確実にまずくなっている。本来の目的であるフィリップを脱出させることは出来ず、リシュア達ともども倉庫群に追い詰められている。しかも大半がフェリン兵であり、フィスカの報告どおりであればやり過ごすことは出来ない。

「殲滅するにしても、な…」

 回収できたのは手榴弾程度。さらにまずいことに弾薬の面も心配と言える。ソーマはとにかくロッカのAK12は5.45mm仕様のため補給が出来ず、イリスもAA12のため補給するのは難しい。クレアは渋い表情をしながら倉庫を見つめる。

「…手詰まりだ。」

 クレアはため息をついて周囲を見つめる。近接戦闘用のショートソードすらもっていないので対応策も限られてくる。しかし倉庫群から出ればVBCIに狙い撃ちにされる可能性も高く、うかつに出るわけにはいかない。

「リシュア、救援に来れそうか?」

 疲れ果てた声でクレアがたずねるが、銃声や爆発音が聞こえるのみで応答がない。

「救援はないようだ…参ったな。」

「フィスカとか来ないの?」

 イリスがAA12のドラムマガジンを交換しながらたずねる。それを聞き、クレアは表情を緩める。

「そうだな…フィスカ、聞こえるか?」

『聞こえる。今どこ?』

「今どこにいる?救援が必要だ…すぐに来てくれ。北埠頭の倉庫群にいるが弾薬が切れそうだ。剣も忘れてきた。」

 無線機越しにため息が聞こえたが、明るい口調でフィスカが答える。

『すぐ来るから安心してよ。そっちに行くから。』

「頼むぞ。」

 クレアは通信を切るとすぐに移動を開始するが、角を曲がるといきなりフェリン兵に遭遇してしまう。

「ちっ!」

PP19短機関銃を連射しクレアはフェリン兵を1人倒す。しかし、銃声を聞いてフェリン兵は同僚を救い、クレア達を倒すために群がってくる。

「こっち!」

 手近な倉庫の扉をロッカが開き、クレアに手招きをする。ソーマとイリスが入ったのを確認し、PP19を連射しながらクレアは倉庫に入ると鍵を閉める。

「…何もないよりはましか。」

 銃弾を防いでくれそうな金属製のコンテナが置かれていることを確認すると、クレアはキャットウォークに上って裏口を射線にいれてバレットM82対物狙撃銃を構える。

「倉庫の扉正面を狙い、敵影を見たら撃ちまくれ。これも使え。」

 クレアはイリスに手榴弾を投げ渡すと、扉を開けたフェリン兵を片っ端からバレットM82狙撃銃で貫いていく。すると倉庫正面の大きな扉も開き、倉庫内部に光が差し込む。外には海が見え、フェリン兵が扉の影に隠れて様子を伺っている。

「まだ撃つなよ…」

コンテナの裏に隠れ、引き金を引こうとするイリスをソーマが止める。そしてフェリン兵が入り込んできたとき、イリスの肩をソーマは軽く叩く。それを合図に3人は一斉にフェリン兵めがけ射撃。応戦する間もなくフェリン兵は倒れこむ。同時に、猛烈な火線が飛び交い倉庫内を銃弾が跳ね回り銃声が響く。

しかし残弾はそれほど多くなく、真っ先にロッカが弾切れを起こしてしまう。

「弾切れ…!」

「拳銃で応戦しろ!」

 無謀なことをクレアは言うが、そういうほかなかった。バレットM82狙撃銃で入ってくるフェリン兵を狙い撃ちにしなければいけなかったからだ。

 やむなくロッカはP226拳銃を発砲するが、相手の銃弾を恐れてしまい体を隠しながらしか発砲しない。フェリン兵と3人が不毛な銃撃戦をしている間、クレアもバレットM82対物狙撃銃の弾を切らせてしまう。

「やむをえないな…誰か援護してくれ!」

 キャットウォークから飛び降りるとクレアはコンテナを押しはじめる。すぐにソーマが89式小銃を連射し、注意をクレアからそらす。その間にクレアはコンテナを裏口まで押し切り、進入経路を封鎖する。しかしその代償は大きかった。

「こっちも弾切れだ!」

「…フィスカはまだか!?」

 ソーマも89式小銃が弾切れを起こしたためPMM拳銃で応戦する。弾幕が薄くなり、倉庫内部にもフェリン兵が入り始める。クレアはPP19短機関銃を連射し、イリスもAA12自動散弾銃を連射し続ける。するとクレアの右腕に銃弾が突き刺さる。

「くっ!」

 痛みに耐えかねてクレアは腕を引っ込めるが、PP19を落してしまう。。イリスは銃弾を撃ちつくしたのかAA12自動散弾銃を放り投げる。

「クレア、大丈夫!?」

 ロッカがクレアに駆け寄り、腕の怪我を気遣う。クレアは首を振ると、左手でP250拳銃を構え発砲する。フェリン兵は射撃が衰えたのを察したのか倉庫内部への突入を開始する。盾兵の後ろにフェリン兵が続き、猛烈な射撃を浴びせてくる。4人とも拳銃では歯が立たず、遮蔽物の裏に隠れるほかなかった。

「どうする!?」

 ソーマが身を伏せながらたずねると、イリスが手榴弾のピンを抜いてあてずっぽうで投げる。

「グレネードだ!」

 フェリン兵や盾兵が散会すると同時に手榴弾が爆発する。クレアは倉庫から脱出しようとするフェリン兵めがけ発砲、1人の胴体に命中させる。しかしクレアは続く敵を見て目を見開く。APILAS対戦車ロケット砲を担いだ兵士が2名、倉庫前に到着したのだ。

「伏せろ!」

 クレアは3人を抱えてとっさに身をかがめさせる。続いて爆発音が響いたが、肝心の爆風はなくコンテナも吹き飛んでこない。クレアが目を開けると、外で連続して爆発が起こっている。

「な、何が起こってるのよ。外で…」

 コンテナの隙間からイリスが外を覗くと、UH60軍用ヘリコプターのキャビンからグレネード砲弾が発射され次々にフェリン兵をなぎ払っていく。

『お待たせ。生きてる?』

「フィスカ…まぁなんとか。」

 ソーマがため息交じりに答える。フィスカはマンビルXM18グレネードランチャーをヘリ内部で構え次々に発射していく。

『この料金は高くつくわよ、クレア。』

「シェルミナか…悪いな。わざわざ軍用のヘリまで用意してもらって。」

『まぁ、貴方達もいいクライアントだからサービスは提供するわよ。これくらいはしないと。』

 クレアは安心したのか、コンテナを背に座り込む。フィスカはXM18グレネードランチャーが弾切れを起こすとそれをキャビン内部のケースに収め変わりにウルティマックス100軽機関銃を構えて連射する。フェリン兵は形勢不利と判断したのか一斉に退散していく。

「助かったわ…もう今度こそだめかと思ったもの…」

『休んでる暇ないよ。さっさとご飯食べて輸送船に行こう?』

 UH60が着陸するとフィスカは4人を手招きする。そこでようやく4人は朝食を抜いていたことに気づく。

「……一気に空腹がきた……」

「そうだね…」

ロッカとイリスはその場に座り込み、ソーマはそれを見てため息をつく。

「…わかった。弁当持ってくるから。」

「頼むぞ、ソーマ……」

 ため息をつくと、クレアは座り込んで右腕の様子を見る。血は出ているが骨は貫通していないらしく銃弾は貫通したようだ。

「…フィスカ、応急処置用の道具を持ってきてくれ。腕をやられた。」

「わかった。ちょっと待ってて…」

 フィスカは応急キットをポーチから取り出すとクレアに近づき、早速治療を始める。ソーマも朝食を持ってきたため、少しだが休憩を取ることが出来た。


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