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第1章

この小説は現在ジャンルが不明のため、どういったジャンルか教えていただけると幸いです。

ミリタリーですがややファンタジー気味の要素も入ってたりします。

~Stinger in the Real World~

第1章


「標的確認。」

ホットパンツと白いセーターの上にガウンを羽織った“彼女”は公園の公衆トイレ入り口から標的を確認する。標的の年齢は10代から20代の若者4人組、いずれもホームレスと思われる中年の男性に暴行を加えている。

「…あいつら、あとちょっとの命なのにね。」

にやり、と「彼女」は笑みをこぼしながら空を見上げる。「彼女」の世界とは違い空は紺色に瞬き星も見えない。だがやることは変わらないのだ。

足音を消しながら走りこみ、両腰につけたポーチのファスナーを降ろすとそこから剣を抜く。その剣は逆手もちの双剣で片刃なのだが、柄には銃身と水平にマガジンがついたサブマシンガンがついている。PP28短機関銃であり、9mmパラベラム弾を使用する”彼女”の武器だ。

「へぇ、焼くんだ…」

4人組のうち1人はガソリンをホームレスにかけている。本気でやるつもりだろうとフィスカは駆け寄ると素早くライターを手にした1人の手首を一瞬で切断する。

男が絶叫すべく口を開くが、叫ばせるまもなく”彼女”は相手の首を剣で切り、ひじを切断した頭に軽く当てる。呆然とした表情の頭は暗闇へと転がっていく。

「う、うわあぁぁぁ!」

むごい殺され方をして4人組の1人が逃げていくが、”彼女”は背後を向ける人物に後ろから剣を突き刺す。動脈を切断し、血を吹き上げながら倒れこむ。

「て、てめぇ…!」

「お、ちょっとはやりそうな人…」

ナイフを取り出すと、強気な男が後ろから「彼女」を突き刺そうとする。しかし見もせずに「彼女」はナイフを持つ相手の腕を突き刺す。

「な…に……?」

「なんだぁ、こんな程度で誰か殺そうってんだ…甘いよ。」

一瞬だけ冷徹な声で”彼女”はいいはなつと、剣を引き抜き振り向きつつ反対の手に持った剣で相手の心臓を一突きにすると同時に喉も切断する。

何も喋れないまま、口をぱくぱくと動かして相手は倒れていく。最後の1人は逃げようとするが”彼女”は一瞬で追いつくと肩に剣を突き刺す。

「な、なんなんだよてめぇ…!」

「あの人を殺そうとしたから殺しただけなんだけどね。命の重さを知らない人は命で報いなよ。」

「ふ、ふざけんなっ!あんな奴1人焼いたところで何…」

言い切る前に”彼女”は相手の後頭部に剣を突き刺し、口から刃を貫通させる。相手は倒れこみ、そのまま動かなくなる。

「…罪深き魂なれど、冥府へ至れば同じ。魂に安らぎあれ…」

祈りの言葉を唱えながら剣を引き抜くと、ホームレスの男性は顔面蒼白で「彼女」を見つめている。”彼女”は笑みをこぼしてホームレスの男性に近づく。

「安心しなよ。警察に言って今日のことは忘れて。」

「な、何故こんなことを…!?」

警察に言えといきなり言われ、ホームレスの男性は理解できないでいるが”彼女”は笑みをこぼして応える。

「そうしないとあんたが疑われるじゃんか。じゃあ、ね。願わくばあんたが…人を傷つけないようにね。じゃないとこうなるから。」

そのまま”彼女”は4人組から奪った携帯をホームレスの男性の前において立ち去っていく。


『続いてのニュースです。高校生4人が公園で惨殺されているのが見つかりました。犯人はいずれも不明です。被害者はいずれも鋭利な刃物で致命傷を負わされた様子です。被害者は…』

「恐いな…」

そっけない家具が置かれた2部屋のアパートに彼、ソーマが住んでいる。テレビを見ながら夕飯を食べているが、そんなときに殺人事件を見てびっくりする。

今の時代に鋭利な刃物で惨殺などそんなに無い上、連続殺人事件がこの町で起こっていると聞けばさすがに恐い。

『なお、犯人は高校生の不良グループであり、いずれも過去に暴行等で教師から注意を受けていた人物と思われます。続いてのニュースです、バージン諸島がテロリストの襲撃を受け…』

そこまでソーマがニュースを見ていると、激しく扉をノックする音が聞えてくる。何だとおもいソーマが扉を開けると、傷を負った女性が扉から入ってくる。

「お前は・・・」

「な、何だ!?」

女性はソーマを見て、当てが外れたかのような表情をする。青い長袖のシャツに黒いズボンといったいでたちだがところどころ破れており、血も流れ出ている。ロングヘアーで顔立ちは大人っぽい。

「…お前は何者だ。ヴィンスの奴はどこに行った。」

「あ、あの俺ヴィンスって奴は…」

女性はソーマを見て、驚いた表情を見せる。

「…連中め…っ!」

女性は傷にさわったのかそのままよろめいて倒れこんでしまう。すぐにソーマは携帯を取ろうとするが女性はそれを止める。

「ど、どうしてだよ!?」

「理由があって病院は行けない。救急車は呼ぶな。それとお前は何者だ。」

女性がじっとソーマをにらみつける。ソーマはあわてて携帯をおくと女性に答える。

相馬そうま ひとしだ…この近くの石碇せきてい大学に通ってる…ってそれより、あんたは!?」

「クレア・レンフィールド。シェルディア出身、職業は刺客だ。ソーマ…か。」

「あ、あぁ。」

クレアは周囲を見て状況を判断する。ヴィンスという人物が住んでいた形跡は一切無く、まるっきりソーマの生活臭しかしない。

「お前はいつからここに住んでいる。」

鋭い口調でクレアがたずねてきたため、ソーマは少し声を震わせながら応える。

「い、1ヶ月前…安い物件ってことでこっちにうつったんだ。格安で前のマンションがうるさい隣人が居て、それでこっちに…」

「…1ヶ月前か。」

なるほど、とクレアは納得する。この調子だと、おそらくヴィンスは居なくなったのだろうと判断するとすぐに話を持ちかける。

「…ここに居させてもらえないか。連れも1人いるが、2人だ。物置でも構わん。」

「ど、どうしてそうなるんだ!?」

ソーマはびっくりして首を振る。得体の知れない人物を家に置いておくのはさすがに難しいようだ。顔を見て綺麗だとは思ったがそれ以上に自分から刺客と名乗った人物が危険としかいえない。

「この場所でなければいけない。いろいろと事情がある…頼む、家賃は肩代わりする。それにお前に迷惑をかけるつもりは無い。」

「いや…」

ソーマがもう一度何か言おうとしたが、クレアは懇願するような目でソーマを見つめる。

「頼む…本当に頼む!事情があって、この場所じゃないといけないんだ…」

「……」

じっとソーマはクレアを見つめ、少しの間考え込んでからうなずく。

「わかったけど…厄介ごとはごめんだからな?それとどうしてか事情も聞かせてくれないか?じゃなかったら受け入れない。」

「解った…何から話せばいい?」

「出身をシェルディアといったよな?どういうことなんだ?そんな国とか街、聞いたことないぞ?」

ふむ、とクレアはうなずくと少し話を整理してから話し始める。

「パラレルワールド、と言えばいいか。」

「パラレルワールドって、平行世界って奴か?」

「あぁ。そのうちの1つから来た。いくつか平行に時系列を進む別世界がたくさんある…理解できるか?」

「あ、あぁ。SFみたいだが…」

複雑な表情をしながらソーマは納得する。SFの小説や漫画なども読んでいるのでそういうことは理解出来るようだ。

「その世界にある、国家の1つでこの世界の日本に近い国家が…シェルディアだ。言語や文化は殆ど同じと言ってもいい。」

「じゃああんたもそこの出身か?」

「そういうことにしておいてくれ。」

こくり、とクレアがうなずくとソーマは疑問に思いながら次の疑問をぶつける。

「じゃあなんでこの世界に来たんだ?異世界があると仮定して…」

「リネージュ共和国の強硬派がこの世界に逃げ込んだ。隣国にあり、この世界のフランスに近い国家だが…シェルディアとは仲が悪い。」

うーん、とソーマが首を傾げるが信用できないなと首を振る。

「異世界から来た時点で突拍子も無いのに外国人っぽいあんたが流暢な日本語を話せる上に服装とかもそんなに違わないよな…どっかの不法入国者じゃないのか?」

「違うな。証拠は今やってるニュースだ。」

ニュース?そう聞いてソーマはニュースを見ると先ほどのバージン諸島襲撃のニュースが報道されている。

『バージン諸島がテロリストの襲撃を受けたとの情報が入りました。犯人は不明ですが非常に大規模な勢力であり島民の話によると犯人はヘリで突入、銃を乱射し警備員を次々に殺傷していったとのことです。なおアメリカ政府は…』

「これが?」

ソーマが首を傾げるが、クレアは軽く「そうだ」と答える。

「米英が共同管理している島であるバージン諸島には大量の資金や有価証券が隠されていることは知ってるだろう?」

「え?いや…そういう話は詳しくないんだ。」

ソーマは首を振ると、仕方ないなとため息をつきクレアは多少はしょりながらも答える。

「有力者はやけに税金を払いたくないらしいから、所得税等の税金がかからない場所にある銀行にお金等を預けているんだ。これをタックスヘイブンと言うんだが…リネージュ軍はこいつを襲撃した。」

「有力者って…え?」

「大企業や資産家、どっかの天然資源頼みの国家に君臨する独裁者などいろんなやつがこの島を利用している。連中がこの金を丸ごと奪ったんだ。後は物理的な方法によって記録を全て消した。」

「それって…いくらぐらいだ?」

恐る恐るソーマが訊ねると、クレアはこともなげに答える。

「1兆円は超えるかもしれないな。あるいはもっとかもしれない。」

「冗談だろ、そんなに…」

「そいつをリネージュ軍残党は手に入れて、日本と言う国を選んで連中はこの国を奪おうとしている。自衛隊は強力で警察も厳しいが、民間の武力が無いに等しいからな。金さえあれば支配も出来るだろう。」

呆然とソーマは立ち尽くすが、クレアは淡々と話を続ける。

「だから私達が送り込まれた。リネージュ軍残党の暗躍をとめるためにな。」

「本当なのか?その話…」

「残念ながらな。連中を正攻法で止めるには軍隊でも用いなければ不可能だ。それも一流の軍隊が…な。各国の警察所属特殊部隊程度なら軽く蹴散らせる。だから私だ。指揮官を狙撃すれば指揮系統を失った軍隊は撤収するしかない。」

むぅ、とソーマは難しい話を聞いて複雑な表情をする。確かに解らなくも無いし一応の筋は通っているが、どうしてだと首をかしげる。

「本当に大丈夫だよな?俺…そんなやばい計画を止める人に手助けするんだから・・・」

「身の安全は保障する。何があってもな…命を懸けてでも助ける。」

「あ、あぁ。」

ソーマはうなずく。決してクレアは悪い人物では無さそうだが刺客と言う時点で不安に思ってしまう。

「…それより怪我、傷薬か何かないか…?包帯でいい。」

「こ、これでよかったら…」

ソーマが救急箱を持ってくる。クレアはじっと表示を見て、何の薬かを確認すると上着を脱ぎ、上半身下着姿で傷に薬を塗り始める。傷口は切り傷が多く、銃弾が掠めたようなかすり傷もある。

「…凄い怪我したな…」

「リネージュ軍の刺客と一戦交えた後だ。無傷で済む訳が無い。」

クレアはため息をつきながら包帯を巻き終える。ソーマはさすがに見るのも失礼だろう、と言うことで窓の方を向いていると誰かが窓を叩く。

「おーい、あけてよクレアー!」

「お、おいあれって…」

ソーマがびっくりして外を見ると、クレアよりは年下の、白いガウンにホットパンツ姿の女性が窓を叩いている。クレアは目でソーマに合図をする。

「…え?」

「窓を開けろということだ。アレが2人目だ。」

あぁ、とうなずくとソーマが窓のロックを外して窓を開ける。するともう1人の女性は窓から入ってくる。白く、丈の長いコートを着用している。

「フィスカ、外はどうだった?」

「問題ないよ。リネージュ軍兵員はこの辺に居なかったし。」

フィスカは笑みをこぼして答える。クレアはそうかとうなずくとソーマを見つめる。

「私の相棒だ。いろいろと厄介だが役に立つ。」

「フィスカ・ラインバード。どーかよろしく。」

フィスカは笑みをこぼしながらソーマに自己紹介をする。ソーマもうなずくと、ふとあることに気づく。

「部屋、どうすればいい?このままはさすがに…」

「この部屋で毛布でも取り寄せて眠る。お前はいつもどおりの生活でいいだろう。」

クレアはリビングに寝るらしく、フィスカもいいよ、と笑みをこぼす。しかしソーマはまだ不安なようだ。

「で、でもそれだと着替えとかは…」

「心配するな・・・それより少し寝るぞ。」

クレアはそのままリビングにあるソファーの下で横になる。さりげなくクッションを枕代わりにしている。

「心配ないって。私達プロの刺客だよ?一般人相手にやすやすと隙なんか見せるわけないじゃんか。」

「…そうだといいんだけどな。」

自信満々のフィスカに対し、ソーマはため息をつく。女性とはいえ、刺客2名がいる生活がどうなるか想像もできなかったのだ。

「ところで、刺客って何してるんだ?暗殺者とかそういうのだよな…?」

「ん、まぁ基本的にそれであってる。けど私達の世界での刺客っていうのはこっちの世界でいうスパイとか、諜報員とかそういうのをフリーランスでやってる連中の総称。要人暗殺の任務といっても何度も起こらないから暗殺のために養われた能力を生かしていろんなことやってるの。」

へぇ、とソーマはうなずく。だとするとあんまり恐くないのかもしれない、と思っていると腹の音を鳴らしてしまう。クレアとフィスカが入ってきて時間がたつのを忘れていたが、午後6時を過ぎており夕飯も食べ終えていない。

「…何か買ってくるか?」

「私も行かせてよ。この世界のお店ってどうなってるか興味あるから。」

わかった、とソーマはうなずくとフィスカも一緒にコンビニへと出かける。アパートの二階から外に出ると二車線歩道なしの道路と民家が立ち並ぶ風景が見える。これといって大きな建物は見当たらない、閑静な住宅街と言う言葉がよく似合う町だ。

「…よく上れたよなぁ…俺の部屋まで。」

ソーマはベランダの下に何も無いことを確認してため息をつく。するとフィスカはなんでもないよ、と笑みをこぼす。

「これくらい簡単。あの建物なら外壁伝うだけでいけるよ?」

フィスカがいったのは目の前にある町工場だ。ソーマは本当か?と首をかしげる。

「それ、本気で出来たらどっかのゲームみたいじゃないか…腕輪に仕込み刃つけてたりしてないか?」

「んー、そういう連中も居るけどね。私はやってないよ。」

「居るのかよ…」

「まぁ、こっそりやるならそれでいいんだけど…私は主にドンパチ担当。正面の護衛をやっつけてクレアに道を開くってお仕事が殆ど。」

まるで文化祭の出し物を語るような軽い口調でフィスカが答えるが、ソーマは複雑そうな表情で聞き入っている。目の前に居るのは17歳程度、自分より年下の女性だ。それが戦闘のことを気楽に話すと違和感を感じてしまう。

「なぁ…何で、俺の部屋に来たんだ?あんたも、クレアも…」

「この場所が一番転移装置を稼動させやすいから。このマンションが、丁度うちと同じ場所にあるからいろいろ融通が効くの。武器弾薬を持ち込んだりするのにね。」

「お、おいそれって…大丈夫なのか?本当に。」

不安げな表情でソーマが訊ねるが、フィスカは大丈夫だよ、と余裕を見せる。

「向こうの世界にいけるだけだし、万一警察が来ても私達はそこに隠れればいいんだからね。リネージュの連中は軍艦や戦車、ヘリまで送り込んでるみたいだし。」

「本当かよ、それ…」

「えぇ。今は位置が不明だけど揚陸艦とか含めた1個艦隊を送り込んできてるみたい。この前も米海軍がやられたとニュースでやってたし。」

フィスカも暗い表情を浮かべながら答える。赤信号の横断歩道に差し掛かり、反対側に目的のコンビニが見えてフィスカはふーん、とそれほど興味無さそうに見る。

「どうしたんだ?興味無さそうに。」

「いや、あんまり変わんないな…って。店の名前違うけど、カラーリングとか似てるし。」

そうなのか、とソーマはうなずく。そして大体だが向こうの世界もある程度はわかってきた。おそらくフィスカやクレアが暗躍するような世界で、こちらの世界より数段物騒だということは大体察せた。しかし文化や言語などは、非常によく似ているのだろう。

信号が青に変わり、そのまま2人はコンビニに入る。とたんにフィスカの目の色が変わるとお菓子コーナーに走っていく。

「お…っ!どれも見たこと無いものばっかり…!」

「あんまりはしゃぐなよ…目立つだろ?しかも外国人っぽいから…」

ごめんね、とフィスカはソーマに謝るが目の輝きを抑えずにお菓子を物色していく。

「あんまり余裕無いんだぞ?それにお金持ってるのか?」

「あるよ。だから気にしないで?」

そうなのか、とソーマはうなずくとフィスカは籠を持って来てお菓子を入れていく。安いものがほとんどだ。ソーマはコンビニで安いおにぎりを買っている。

フィスカが支払いをしようと言うとき、いきなり黒ずくめの男が入ってくる。ナイフを最初から持っているようだ。

「金を出せ!今すぐだ!」

強盗が入ってくるのをフィスカは横目でちらりと見る。他の客が悲鳴を上げたりして隠れているが強盗は刃物を振り回し追い払おうとする。

ソーマは呆然としているが、フィスカはおでんのお玉をさっと取る。

「あ、あのお客様?」

「まぁちょっと待ってて。」

店員がフィスカのやろうとしていることを見て首を振るが、フィスカは笑みをこぼしたままおでんのつゆをお玉にすくうとそのまま強盗にかける。

「ぶわっ!?」

「ナイフじゃダメでしょ。ショットガンの1本でも無いと襲えないよ?」

一瞬強盗がひるむとフィスカは強盗の首筋を掴み、カウンターに叩きつける。そして後頭部に膝蹴りをして強盗を気絶させる。

店員がおびえているのを見て、フィスカはお玉をカウンターに置くとかごをカウンターの上に置く。

「これ、全部でいくらだっけ?必要ならおでんの代金も払うけど。」


「……」

クレアは退屈そうに眠っていると無線機に連絡が入る。何だと思ってクレアは無線機に応答する。

『潜入に成功したようだな。こちらから転移装置の接続を確認した。』

「リューゲル…少し寝かせろ。刺客とやり合って眠いんだ。」

旧日本軍の軍人のような口調で話しかけてくるリューゲルにクレアはうんざりしたような表情をしながらけだるい声で答える。

『任務はわかっているな。この世界にいるリネージュ軍の無力化だ。日本政府からもお前たちは派手にやっていいと指示を受けている。』

「解っている。フィスカも無事に潜入した。予定と違ってヴィンスが居なかったがどうした。奴のいた痕跡が消されかけていたぞ…」

『そうか…こちらの動きを読んで先に手を打ったらしいな。ヴィンスはおそらく死んだだろう。リネージュ残党がそこまで痕跡を消しにかかったとなると…な。』

そうか、とクレアは答えると確認のためにリューゲルに問い合わせる。

「無線でサポートするリシュアはどうなっている。それと日本政府はどこまで許容するつもりだ。フィスカの性癖も、私達の行為も。」

『良く解らんな。連中に問い合わせたら「ある程度の法規的行動を容認する」と返してきた。都合が悪くなれば捕まえるつもりだろう。慎重に動けよ。それとリシュアだが…明日から参加する。』

「了解だ…時差が無いと楽でいいな。」

『あぁ。ではゆっくり休んでくれ。指令は後日出す。』

そこで無線が途切れ、クレアは無線の周波数をフィスカに合わせるが、フィスカは無線機を置き忘れていったらしい。

「…奴も察してくれればいいが。」

ため息をつくと、クレアはまた瞳を閉じて眠りに付く。



「…ナイフとか恐くないのか?」

「当たり前じゃんか…あんなんでびくびくしてるあんた達の神経を疑っちゃうよ。」

とりあえず警察を呼んでそそくさとコンビニを立ち去り、2人は家路に着く。フィスカはため息をつくが、ソーマは首を振る。

「普通、刃物とか出されたら恐いだろ?」

「全然。剣とかショットガンだったらびっくりしたし拳銃でも厄介だな、とは思うけど果物ナイフ程度じゃね。武器もてない法律はわかるけど、モップとか消火器で応戦したっていいんだよ。ああいうの。」

フィスカは平然と答えると、ソーマは恐る恐る訊ねる。

「…シェルディアのコンビニって、まさか店員がカウンター下に拳銃隠したりしてないよな?」

「うん。ないね。」

ほっとソーマは一息つこうとしたが、次の言葉で目が飛び出るほど驚いてしまう。

「お金に余裕があるしセミオートショットガンとかサブマシンガン、突撃銃くらいは隠してるね。」

「冗談だろ!?」

「本当だよ。1マガジン分の弾薬しか支給されて無いけど。一昔前、フラッシュモブ犯罪ってのがはやったんだ。ああいう連中を制圧するために導入したの。それまでは普通に拳銃だったんだけどね。」

ソーマは呆然としてしまうが、フラッシュモブ犯罪については聞いたことがある。何十人もネットの書き込みで集まり集団で強盗を行うものだ。人海戦術で警備員や店員を圧倒し、警察が来る前にぱっと隠れるのだ。

フィスカやクレアの世界ならそういう連中だと容赦なく射殺されるんだろうな、と思うとやっぱりぞっとしてしまう。

「私もそいつらを殺さずに引っ張り出す依頼受けて大変だったよ…まぁ犠牲者出しちゃったけど…あいつらショットガンとか全員持ってるから手加減効かないしやーな連中だったし。」

「恐いな…」

何十人もショットガンやら拳銃やら、フィスカの話だと突撃銃やサブマシンガンも民間人がもてるのでそれを持った連中をイメージすると恐くなったようだ。そしてフィスカを見て、やっぱり刺客だと思って恐る恐る訊ねる。

「なぁ、俺を殺したりしないよな?いくらなんでも…」

「家貸してくれてる恩もあるしね。あんたはいい人だから絶対守るし、絶対に刃は向けない…追い出すって言ったら話は別だけど、ね。」

ほっとソーマは安心する。まぁ自分に関係の無いところで依頼をこなすだけなら可愛い2人の女性が同居することになるわけだから安心してしまう。

周囲は暗くなり、帰り道も人通りが少なくなっている。そんなところに2人組みの学生と思われる人物が歩いてくるとソーマとフィスカに近づいてくる。

「なぁ、金貸してくんねぇかな…?」

「おいおい、冗談…」

ソーマが何なんだ、と思っていると2人組みはほぼ同時にナイフを出す。するとフィスカは声を低くしながら答える。

「冗談で済む前にしまいなよ。怪我ですまなくなるから。」

「何言っちゃってんのこのねーちゃん。あのさぁ、状況わかって…」

軽い口調で学生が話しかけるが、一瞬でフィスカはガウンの下に隠していたポーチからPP28短機関銃を引き抜く。そして言葉が終わる前に学生の首を剣で切り裂く。

「お、おいフィスカ…!?」

「な、何なんだよおめぇ!」

もう1人の学生はナイフで突きかかってくるが、さっとフィスカは剣でナイフを受け流す。体勢を崩し、よろめいた学生の後ろからフィスカは剣を突き刺す。背中から心臓を一突きにして絶命させ、フィスカは剣を収める・

フィスカの表情を見て、ソーマは呆然としてしまう。先ほどの低い声とは打って変わり、フィスカの表情は喜びに満ちていたのだ。

「ふー、終了。さぁ帰ろう?」

「ちょ、ちょっと待てよ…なんだってさっきの強盗は捕まえたのに…」

目の前で鮮やか、かつ一瞬で終わった殺人にソーマは呆然とするしかない。しかしフィスカは軽い調子で答える。

「さっきの強盗は声や口調から判断して食うに困った無職の人だからね。とても必死だったし…それに店員や買い物客も居るし、お店で買い物もしたかったし。それに比べてこいつらはクズ同然。遊び半分でナイフ振り回して金分捕ってさ。」

「だ、だからって殺すこと…」

「…幸せを潰された代償は命でも償えないんだよ。それに、こういう奴等はいずれ社会にとっても害悪になる。こういうのを放置すれば何十人と悲劇を巻き起こし、自殺者も生み出す。だったら消えてもらったほうがいい。法が許さないなら私がやっちゃうだけ。」

ソーマは携帯電話を取り出すが、黙ってしまう。確かにフィスカにも理論はあるが、犯罪を犯している人物を放置するかどうかは別問題でもある。

ただし相手が相手、自分からお金をむしりとろうとした連中だけに同情も出来なかった。首を振ると、そのまま携帯をしまう。

「帰ろう?さっさと。もし警察に尋ねられたら犯人に後ろから脅されて「言ったら殺す」と言えばいいし。」

「…あぁ。」

本気でされそうで怖いという思いもあったのか、ソーマはフィスカを連れてアパートに戻る。時計は7時を示している。クレアは退屈そうにテレビを見ながらリビングに寝転がっている。

「お帰り…遅かったな。2人とも。」

「あ、あぁ。ただいま。」

お帰りと言うのは両親がいたころ以来だなとソーマは思って戸惑ってしまう。フィスカは明るい様子で「ただいま」と告げ、早速トイレに行く。

その間に、ソーマはクレアに話を切り出す。

「な、なぁ…クレア。フィスカのこと…」

「…ここでもやったのか。」

やっぱり知ってたのか、とソーマは確信するとクレアに詰め寄る。

「どうしてとめないんだ、あいつ…!危ないだろ!」

「倒すべき相手を見極めている。特に危険と言うことも無いだろう。私だっていじめで自殺に追い込んだ学生を暗殺することはあるが?」

平然とクレアが答えるが、ソーマは無理やりクレアの顔を向けさせる。

「人を平然と殺してたんだぞ、フィスカは!?」

「殺した相手は悪人に限っている。どうしようもない相手くらい居るだろう。」

「だからって!」

刺客とは言え人殺しに躊躇しないフィスカもそれを黙認するクレアにもソーマは腹が立って仕方なかったのか、声を荒げてしまう。クレアはわかった、とうなずいたのか真剣な表情をする。

「…奴ももともと被害者側の存在だったんだ。」

「え?」

「小学校に居た頃にいじめが原因でナイフを取り、いじめた生徒を惨殺。それから刺客に拾われて育てられたんだ。今でこそ敵味方の判別は出来てるが、出会ったときはもっと酷かった。」

「…やめさせないのか。」

厳しい表情でソーマはクレアを見るが、クレアは首を振る。

「無理にとめようとすると私にまで剣を向けるほどだ。それに決して巻き添えは出していない。安心しろ、警察には絶対察知されることは無い。」

「そうじゃなくて…」

「…不良とかああいう可愛いクラスのものじゃない。人を死に追い込んだり人生を狂わせていく奴がいる…お前もそういう奴をどう思う。死に追い込むことは殺すことより酷いとは思わないのか。」

クレアにそこまで言われ、ソーマは黙ってしまう。言い返せる言葉が何一つ見つからなかったのだ。

「…酷な話だったな。お前には。今すぐ追い出して警察にいうか?」

「…考えさせてくれ。ただ…リネージュとか悪い連中と関係ない奴が1人でも死んだら即刻追い出すからな。」

それだけ言うと、ソーマは黙ってコンビニから買って来た弁当を食べる。フィスカとクレアも平然とコンビニ弁当を食べているがおいしいのかかなりの勢いで食べていく。

「うまいぞ…もっと無いか?」

「無いってば…そりゃあ2個くらい食べたい気持ちも解るけどさ。」

フィスカも自然と表情がほころんでしまう。そんな様子をみてソーマが声をかける。

「なぁ、ここじゃこういうのが普通なんだが・・・」

「そうか、なら飽きなくていいな。食糧事情がよっぽどいいらしい。」

「…」

そんなに悪いのか、とソーマは驚きながら2人をそっと見ている。こうしている分には普通の女子2名と言った印象だ。帰路でフィスカが見せた刺客の表情とは程遠く、それゆえに通報することすらためらってしまう。フィスカとクレアはソファーに座り、早速バラエティ番組を見始める。

「…もう寝るから、寝る前に電気とガスちゃんと消してくれよ?」

「はーい。」

夕方からいろいろなことがあって疲れたのかソーマはため息をつくとそのまま自室のベッドに転がり込む。フィスカやクレアと言った同居人をどうするか、もし同居するにしてもうまくやっていけるだろうかとベッドの中で考えずにはいられなかった。


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